軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの秘策3

「高負荷修練、なんだか言葉的にあまり良い予感がしませんね……」

ラムルが苦笑しながらたじろぐも、僕は「そんなことないよ」と頭を振った。

「名前は仰々しいけど修練内容は普段とそんなに変わりないんだ。ただし、フェイの力を借りて牢宮【ダンジョン】に漂う魔力密度を濃くして体に負荷を掛けて行うけどね」

「魔力密度……? リッド様、すいません。学がねぇんで、教えてもらってもいいですか」

首を傾げつつ手を挙げて発したのはオヴェリアだ。

「また貴女は……。第二騎士団の座学で習っているはずでしょう」

「あ、あれ。そうでしたっけ……?」

ティンクがやれやれとため息を吐いた。

周囲の皆も苦笑しながら呆れ顔を浮かべている。

「そうだね。確認の意味も込めて説明しようか」

僕はそう言って『魔力密度』について語り始めた。

魔力密度とは、言葉どおりの意味でその空間に漂う『魔力』のことを指している。

通常、空間に漂っている魔力は一定らしく、負荷を感じることはない。

でも、魔法使用時や術者が意図的に魔力を周囲に解き放った場合は変わってくる。

周囲の魔力密度が濃くなった場合、魔力の重みが体の動きに様々な影響を与えると言われ、術者が殺気などを込めれば相手の足が竦み、身動きを一時的に封じることも可能だ。

言葉にすると大袈裟に聞こえるけど、僕や質問してきたオヴェリアだって何度も使ったことがあるし、相手に使われて影響を肌で感じたこともある。

というのも、この世界でよくある『魔圧』のことだからだ。

魔力密度が通常の場合は魔圧は『一』で何も感じない。

威圧で自らの魔力に殺気を込めて周囲に発すれば、魔圧にも変化が起きて対峙した相手の動きに影響を与える、というわけだ。

これに対抗する方法は『魔圧の影響に負けぬよう身体強化を発動する』あるいは『体に駆け巡る魔力量を一時的に上げる』などがある。

「……という感じかな。カーティス、何か間違っている点はあるかな」

「いえ、間違いございません。とてもわかりやすい説明でございましたぞ」

この場で一番知識があるカーティスに視線を向けると、彼はにこりと頷いた。

「なるほど。あ、つまり……」

オヴェリアはハッとしてこちらに振り向いた。

「高負荷修練っていうのは魔圧をあえて高めた環境で修練するってことですか?」

「うん、その通りだよ」

「はは、そりゃ面白そうだ」

彼女が笑みを溢すなか、僕は「まぁ……」と話頭を転じた。

「あれこれ説明したけど、体験してくれるのが一番わかりやすいかな」

僕はそう言いつつ、ファラに振り向いた。

「結構な衝撃がくるだろうから、ファラは予め身体強化を発動してて」

「いえ、私も変化に興味がございますので、このままで大丈夫です」

「そ、そう? でも、無理しちゃダメだよ」

「はい。ありがとうございます」

ファラは満面の笑みを浮かべて頷いた。

彼女の側に控えているアスナは苦笑し、ジェシカは小さなため息を吐いている。

ファラは意外と頑なところがあって、この笑顔を見せた時は梃子でも動かない。

二人もそれがわかっているからの表情だろうなぁ。

僕は苦笑しながらファラの隣に並び立ち、頭上に浮かぶフェイを見上げた。

「魔圧をちょっとだけ強めてくれる?」

「わかった。じゃあ、いくよ」

彼がそう言って指を鳴らした瞬間、ずしんと衝撃が体に走った。

まるで、全身に重しを乗せられたような感覚に陥るが、当然そんな重しはない。

「ぐ……⁉」

「う……⁉」

「こ、これは……⁉」

第二騎士団の子達から呻き声が漏れ聞こえてきた。

戦闘中は身体強化を発動していることが多いし、そもそも構えている。

今は会話をしながらで気が抜けている状況だから、わずかな魔圧の変化を感じやすいはずだ。

「ファラ、大丈夫?」

「大丈夫です。最初は少し驚きましたけど、これぐらいの負荷でしたら問題なさそうです」

「よかった。でも、本当に無理はしないでね」

「はい、ご心配してくださりありがとうございます」

第二騎士団の子達の中には片膝を突いている子もいるというのに、ファラは本当に余裕があるように見受けられる。

やっぱり、僕の妻は只者ではないみたいだ。

「皆、身体強化を発動して。かなり楽になるはずだよ」

「わ、わかりました」

僕の声かけに従い、皆は次々に身体強化を発動していく。

周囲に魔波が吹き荒れ、足下の草花が激しく揺らめいた。

「どうだい。まだ魔圧の影響はあるだろうけど、大分体が動きやすくなったんじゃないかな」

「……本当だ」

「リッド様の言うとおり、大分楽になりましたね」

「へへ、あたしは身体強化なくても平気だったぜ」

身体強化を発動して発したトルーバの言葉にシェリルが続き、オヴェリアが不敵に笑っている。

他の子達も大体同じような反応だ。

「高負荷修練は常にこの魔圧による負荷の中、身体強化を発動し続けて行うんだ。負荷のない状態で行うよりも、効率的で高い効果が期待できるんだよ」

「へぇ、お兄ちゃ……じゃなかった。リッド様は面白いことを思いつくんだね」

アリアが楽しそうに話し出すも、彼女は途中で「あれ、でも……」と首を傾げた。

「魔圧の負荷に慣れちゃったら効果が薄まっちゃうんじゃないのかな」

「そうだね。だから段階的に魔圧を上げていくのさ。負荷のない平常時を一魔圧だとすれば、今は二魔圧。慣れてきたら三魔圧、四魔圧という具合に引き上げていく予定なんだ」

「おっもしろーい。じゃあ、あれだね。慣れたら平常時は早く動けるようになるかな」

「うん。それこそが『高負荷修練』の目的だからね」

楽しそうにはしゃぐ彼女の言葉通り、高負荷環境に慣れた時、僕達の力は平常時で凄まじい力を発揮できるだろう。

「フェイ、一度魔圧を元に戻してくれるかな」

「はいよ~」

頭上から彼の軽い声が聞こえ、次いで体にのしかかるようにあった負荷が消えた。

魔圧が通常の状態に戻ったのだ。

僕は「ふぅ……」と深呼吸をし、第二騎士団の皆を見渡した。

「訓練の説明は以上で終わりだね。そして、君達に聞いてもらいたいことがあるんだ」

僕がそう告げると、皆は顔を見合わせた。

「今回の訓練は、トルーバの指摘があったように時間という絶対に取り戻せないものを消費することになる。改めて参加するかどうか、皆の意思を確認したいんだ。どうだろう」

ファラ達、カーティス、カペラ、ティンクは訓練の内容を了承した上でここにいる。

でも、第二騎士団の皆はそうじゃない。

牢宮【ダンジョン】の秘密を地上で共有するのは、まだ時期尚早だと判断したからだ。

「ここで聞いたことを絶対に誰にも話さないことが条件になるけど、今ならまだ辞退できる。もし参加をしたくないというのなら、その気持ちは尊重するよ」

周囲にしんとした静寂が訪れるが、間もなく「ふふ、はは、あはは」とオヴェリアが噴き出した。

「リッド様、いまさら何を言ってるんですか。あたし達はリッド様に命を救われ、預けた身上なんですぜ。少なからず、私は辞退なんてしませんね。むしろ、今よりももっと強くなれる最高の好機でしょうよ」

「僕もオヴェリアと同じ意見ですね」

彼女の言葉に反応したのはトルーバだ。

「立場が違えば、時間の価値も違うものです。リッド様の一年はとても貴重だと思えばこそ、先程は地上での訓練を申し上げました。しかし、リッド様の中で決意されているのであれば僕、いえ、私達は付き従うのみです」

「私も身命を賭してお仕えするのみ。辞退などあり得ません」

トルーバの言葉に続き、シェリルが畏まって一礼する。

三人が発したのを皮切りに、この場にいる皆がこくりと頷いてくれた。

その姿に胸の奥がじんと熱くなった。

「皆、ありがとう。それからもう一つ、この修練に参加してくれる皆に伝えておくことがあるんだ」

僕はそう言って一呼吸置き、この場にいる皆の顔をゆっくりと見渡した。

「……この修練が終わった後、君達はバルディア家直属の第二騎士団から外れてもらう」

「え……⁉」

皆が驚愕した様子で唖然となるも、僕は安心させるべくにこりと微笑んだ。

「そして僕、リッド・バルディア直属の独立遊撃部隊に異動となる。部隊名はまだ決まってないけど、これまで以上に忙しくなるかもしれないから覚悟しておいてね。もう辞退はできないよ」

「え、えぇえええええ⁉」

目を見開いて驚愕した皆の声が牢宮内に木霊した。