軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

リッドの秘策2

「さぁ、ここがリッド所望の修練場さ」

フェイが腕を組み、どうだと言わんばかりに鼻息荒くドヤ顔を浮かべた。

バルディア領の山岳地帯から牢宮内【ダンジョン】に移動した僕達。

目の前にはお願いした通りの青々とした草原、緑溢れる木々が並び立つ林、綺麗な花が咲き乱れる畔、澄んだ水が漂う大きな湖、遠目には山脈すらもある。

心地よい風も流れ、草の掠れる心地よい音が香りを運んできた。

僕は一度来たことがあるし、今更驚きはしない。

初めて訪れた皆は、息を飲んで唖然としながら目に飛び込んでくる景色を眺めているようだ。

「……長生きはするものですな。これほど大規模な牢宮、今まで見たことも聞いたこともありませぬ」

「え、そうなの?」

側にいたカーティスの漏らした声に首を傾げて聞き返したところ、彼はこくりと頷いた。

「牢宮と言っても、ここまで外の世界を再現したところはほとんどありません」

「そうですね。私も冒険者時代、様々な牢宮を出入りしました。しかし、こんな広くて開放感溢れる階層なんてお目にかかった記憶がございません」

ティンクが補足するように相槌を打つと、「同感です」とカペラが続いた。

「草原、林、湖、遠くに見える山脈。どれも牢宮で見かける地形ではありますが、それはあくまで一階層につき一種ぐらいのもの。ですが、ここは一階層で全て揃っています。そう見られる光景ではないでしょう」

「当たり前だろ」

皆の疑問に答えるようにフェイが空で高らかに発した。

「ここは僕、フェイ・バルディアが管理しているんだ。そんじょそこらの魔力が少ない牢宮と比べないでほしいね」

「あはは、ということみたいです」

彼の言葉に皆が驚きを隠せないまま唸っているなか、僕は苦笑しながら皆を見渡した。

初めて迷い込んだ時から大規模な牢宮なんだろうとは思ってはいたけどね。

カーティス、ティンク、カペラの反応から察するに想像以上みたい。

「……あの、リッド様。目の前に広がる光景も素晴らしいですが、このお屋敷も生み出されたものなのでしょうか?」

ファラはおずおずと切り出し、僕達の背後にそびえ立つ大きな屋敷を見上げた。

僕達が住むバルディア邸とよく似た造り……というか、まんま模した屋敷だ。

「うん。これもフェイにお願いして建ててもらったんだ。修練を効率良くするには、良い寝床は必須だからね」

あえて厳しい環境で野営をして心身を鍛えて研ぎ澄ます方法もある。

だけど、今はまだその時じゃない。

「そ、そうなんですね。フェイ様には驚かされてばっかりです」

ファラが目を瞬きながら相槌を打つと、その仕草に釣られるように彼女の側にいたアスナが「なんと……」と目を丸くし、ジェシカが「驚愕の事実ですね」と感嘆の声を漏らした。

皆揃いも揃って驚いているみたい。

でも、本題はこれからなんだけどな。

僕は咳払いをして「さて……」と切り出した。

「じゃあ、これから行う特別修練について説明するね」

「説明、でございますか?」

カーティスが首を捻り、皆はそれぞれに顔を見合わせた。

「まず、皆に謝るね。バルディアの外れにある山脈地帯にわざわざ来たのは、この修練場の存在を周囲に知られないようにするための偽装なんだ。本当はやろうと思えば、バルディア邸からでも直接ここに来られるんだよ」

「え、えぇ⁉」

「長時間の移動をさせてごめんね」

目を見開いて驚く皆に向け、僕は頭を下げた。

ここの牢宮とフェイは繋がっている。

やろうと思えば何時でも、何処でもこの場所に移動は可能だ。

ただ、さすがにこの場にいる皆が一斉にバルディア領から居なくなれば目立つし、下手をすればちょっとした騒ぎになりかねない。

「リッド様。じゃあ何だってこんなところまで大荷物担いで遠路はるばる来たっていうんだよ⁉ バルディアとここが繋がるんならこの荷物、全部無駄じゃないか」

青筋を走らせたオヴェリアが大声を上げ、背負っていた荷物を投げるように地面に置き、どかっという重い音が響きわたる。

「無駄ではないよ。その荷物の中身はこれからの訓練に全て使うものだからね」

そう言って、僕はこれから行う訓練について語り出した。

話す内容は絶対に他言無用であることを念押しした上で、だ。

第二騎士団の皆は何を今更、と言わんばかりにある者は首を傾げ、肩を竦め、近くに居る子と顔を見合わせている。

ファラ達、カーティス、ティンク、カペラには既に説明済みだ。

この件があったからこそ、ファラは一緒に行くと聞かなかったし、父上が最後まで訓練承諾を渋っていた原因でもある。

僕は目の前に立つ屋敷から牢宮の景色をぐるりと見回し、改めて皆を見据えた。

「ここはとても良い場所だよ。でも、地上と流れている時間が違うんだ」

「……は?」

ファラ達を除く皆の目が点となってしまった。

まぁ、急に言われたらそうなるよね。

僕はあえて意に介さず、話を続けた。

「言葉通りの意味だから難しく考えないで。この牢宮では地上よりも時間がゆっくり流れているんだ」

「そう、リッドの言うとおりさ」

フェイが補足するように意気揚々と自慢げに発した。

「牢宮内の時間の流れも自由自在なんだ。そして、ここでの一年は地上で約一ヶ月。リッドにお願いされて、そう調整したんだ」

「な……⁉」

皆からどよめきが沸き起こった。

『ここでの一年は地上で約一か月』

時間の流れを利用した修練場。

これこそが獣王戦に向けた僕の秘策だった。

牢宮に迷い込み、地上とこの場所で時間の流れに違いがあることに気付いた時から、この計画は思いついていた。

フェイの協力を得られるか、彼の性格を見極める必要はあったけどね。

僕はざわめく皆を見渡した。

「つまり、獣王戦に向けてこれから一年。僕達はここで過ごし、自分達を鍛えあげるわけだ」

「た、確かに一年あれば相当鍛えることは可能でしょう」

畏まった口調で疑問を呈したのは狼人族のシェリルだ。

「ですが、リッド様であれば地上の一ヶ月でも獣王戦に向けた鍛錬は十分なのではありませんか」

「そうですよ。ここで一年、地上で一ヶ月と一見聞こえはいいですが、時間は不可逆です。取り返しの付かない有限な時間を消費することが賢い選択とは思えません」

彼女の言葉に続いて理知的な口調を発したのは牛人族のトルーバだ。

「……二人の指摘も尤もだよ。だけど、これは獣王戦を考えてのことだけじゃない」

僕はそう切り出し、ズベーラ外遊を通して得体の知れない悪意が蠢いていることを感じ取っていることを告げた。

その悪意の矛先がいつバルディアに向いてくるのかわからない。

皆には話せないけど、狐人族領で見つけた『古代マーテル語で書かれた歴史書』を発見した件もある。

万が一世間に漏れれば、トーガと政治的な駆け引き、衝突もあり得るだろう。

大陸の情勢が刻一刻と変わりつつある現状、急いで力を得ておくことに越したことはない。

「……というわけなんだ。それに、ここでしかできない修練もあってね」

「ここでしか出来ない修練……?」

兎人族の男の子、ラムルが首を捻った。

皆も釣られるように首を傾げている。

「そう。フェイの持つ、いや、牢宮に溜め込まれた莫大な魔力を使った高負荷修練さ」

僕はそう言ってにやりと笑いかけた。