作品タイトル不明
催し、バルディアで再び
どうしてこんなことになってしまったんだろうか。
目の前に広がる光景に、僕は心の中で呟いた。
今、僕がいるのは屋敷の中にある来賓室の一室なんだけど、この部屋の造りは帝国様式じゃない。
レナルーテからの来賓を迎えるため用意された和式の大部屋だ。
床に敷き詰められた畳からはい草の香りが鼻をくすぐるし、室内に上がる際には靴を脱がなければならない。
ファラの要望に加え、バルディアにレナルーテの来賓が訪れる機会が増えることを見越して用意された部屋なんだけど、いまこの場にはデイビッド、ベルゼリア、デーヴィド、キールという錚々たる顔ぶれが集まっている。
「ほう、これがレナルーテ様式の部屋か。独特な香りに加え、内装に使われている色も全然違うな」
靴を脱いで上がったデイビッドが室内を見渡していると、「僕も最初に見た時は驚いたよ、デイビッド兄さん」とキールが相槌を打った。
「本で知識は得ていたけど、こうして目の当たりにするとまた全然違いますよね。バルディアでは毎日、驚きの連続ですよ」
「はは、それは羨ましいな」
「ぼ、僕も羨ましいです」
「デイビッド殿下とベルゼに僕も同意だな。今も新しい物づくりが進んでいると言うし、バルディアは大陸の最先端を走ってるって実感させられたよ」
デイビッド、キールに続いてベルゼ、デーヴィドも部屋に上がって楽しそうに談笑に加わった。
楽しそうに話す皆の姿を見ていると、皇族や貴族の家柄とは言え彼らもまだ子供なんだと、そう思わされる。
でも、それはそれとして、いま注目すべきは皆が持っている大きな鞄だろう。
「ねぇ、話しているところ悪いんだけどさ」
最後方にいた僕が切り出すと、皆がきょとんとしてこちらに振り返った。
「今なら別室の用意がまだ間に合うよ。本当に皆でこの部屋に泊まるの?」
実は今日、皆揃ってこの来賓室に布団を敷いて一晩過ごすことになっている。
切っ掛けはヴァレリにヨハンの人物像を問われた際、彼が『華と恋』の影響を受けて『パジャマパーティー』を僕達と行ったことを伝えたことだ。
僕は『華と恋』の計画について、ヴァレリから何も聞かされていない。
だから、ちょっとした嫌みのつもりでヨハンやアモンと一緒に同じ部屋で一晩雑談しながら過ごしたことを伝えたんだけどね。
『なるほど、それは面白いな。折角、皆が集まっているんだ。私達もやろうではないか。パジャマパーティーとやらをな』
『え……?』
まさに鶴の一声だった。
談笑している面々で最も高い地位にいるデイビッドの提案に加え、『面白いですね、やりましょう』とその場にいる皆が即賛同してしまったのだ。
この場にいないファラやヴァレリを初めとする女の子達も、レナルーテ様式の別室で『パジャマパーティー』を行うことになっている。
今頃、僕同様にファラが部屋を案内しているはずだ。
「何を言ってるんだ、リッド。皆でそう決めたじゃないか。それとも……」
デイビッドは僕の前にやってきて、にこりと目を細めた。
「ヨハン王子やアモン殿と同じ部屋で過ごせても、私達とは過ごせないというつもりかな」
「そ、そんな。僕達は友人じゃなかったんですか……」
「リッド、少し残念だよ」
「あらら、リッド義兄さん。今のは失言だったかもしれませんよ」
圧を発するデイビッドの背後に、しゅんとするベルゼ、口を尖らすデーヴィド、楽しそうに笑みを溢すキールの顔が見えた。
心なしか、キール以外は怒っているような雰囲気すらある。
「い、いや、決してそういう意味じゃ……」
皆の圧に顔を引きつらせて後ずさりするも、背中が部屋の壁にくっついてしまい逃げ場がなくなってしまう。
すると、デイビッドが『どん』と僕の顔の横に手をついて壁に押しつけた。
「では、どういう意味なのだ。リッド」
「いやいや、皆で一緒だと少し窮屈かなって。あは、あはは……」
「それも一興だろう。なぁ、皆?」
デイビッドが呼びかけると、息を合わせたように皆揃って頷いた。
「はい、こうやって皆で過ごすの、とても楽しいです」
「僕もベルゼと一緒で楽しいよ。同世代で同じ部屋で過ごすなんて滅多にないからね」
「だそうですよ、リッド義兄さん」
ベルゼ、デーヴィド、キール。
三人とも笑顔だけど、ちょっと怖い。
「わかった、わかったよ。ごめん、もう聞かないからさ。それよりも、そろそろ準備して会場にいかないと遅れちゃうよ」
僕は懐から懐中時計を取り出し、蓋を開いて文字盤を見せた。
今日はこの後、夕食を兼ねた立食式の懇親会が開かれる。
陛下達をはじめ、バルディアにやってきた貴族の子息令嬢達全員が参加する予定だ。
会場で振る舞われる料理は、僕が前世の記憶から引っ張ってきた料理を再現したものが中心となっている。
まだバルディアでしか食べられないものも多い。
「そうだったな。荷物も置いたことだし、皆で行くとするか」
「じゃあ、案内するよ。部屋の鍵は二つあるけど、僕とデイビッドで持ってていいかな?」
「はい、大丈夫です」
「あぁ、構わないよ」
「お二人にお任せします」
僕が問い掛けると、ベルゼ、デーヴィド、キールはこくりと頷いた。
「決まりだね。もし早く部屋に戻りたいときはすぐに言ってね。鍵を渡すから」
「そうだな。私に気を遣わず、気軽に言ってくれ」
こうして、僕達は部屋を出て懇親会が行われる会場に歩き出した。