軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

バルディアでの懇親会

「ここにいる皆は帝国の未来を背負う者ばかりだ。大陸で最先端をいくバルディアの発展をその目にしかと焼き付け、自領に活かしてもらいたい。では、帝国の発展と安寧を願い乾杯」

夕食を兼ねて開かれた立食式の懇親会。

アーウィン陛下による開催の言葉が発せられると、会場の彼方此方から乾杯に応じる声が響いてきた。

主催者側である僕達バルディア家の面々、デーヴィドを始めとした友人達、そしてエルティア義母様、デイビッドをはじめとしたアーウィン陛下とマチルダ陛下の側に控えている状況だ。

なお、エルティア義母様は普段通りレナルーテ様式のドレスを着ている。

母上とマチルダ陛下が帝国式のドレスも提案したらしいけど、『側室とはいえ、この場ではレナルーテの代表として見られましょう。有り難い申し出ですが辞退させていただきたく存じます』と断られたらしい。

エルティア義母様の帝国式のドレス姿、ちょっと見てみたかったけどね。

この場にいるのは帝国全土から集まった貴族の子息令嬢ばかりだけど、彼らの親はここにいない。

代わりにメイドや護衛騎士が側についている。

バルディア領で行われる皇族が参加する懇親会となれば、帝国全土の貴族達が集うことは想像に難くない。

闇歴史の書の存在を隠しつつ、領内の混乱を防ぐことも兼ねて『今回、バルディア領訪問の同行を許すのは子息令嬢のみ』という御触れを予め陛下から発信してもらった。

個人的には、帝国の未来を担う子息令嬢達に固定観念なく、曇り無い目でバルディアを見てもらいたかった点もある。

子供は親の背中を通して世界を見て、常識を知っていくものだ。

ただ、前世の記憶を持つ僕にとって帝国の常識となっている身分社会は、人の可能性を狭めているように思えてならない。

貴族や平民問わず良い人もいれば悪い人もいるし、才能もあれば得手不得手もある。

帝国もといバルディアが更なる発展を遂げるためには、身分社会の見直しと改革も必要だ。

今日はそのための密かな第一歩になるだろう。

何故なら彼らがバルディア騎士団を率いたメルとキールに案内された場所で働いていたのは、平民出身がほとんどだからだ。

彼らの働きぶりを見れば、人の生まれ、種族、身分差なんて人の才能に関係ないということを肌身に感じてもらえたと思う。

でも、帝国で長年続く皇族の権威を否定するつもりは、今のところない。

国の頂点に立ち、国民を想い、国をまとめ、国を導いていくなんてこと、それこそ誰でもできることじゃないからだ。

幸いなことに、アーウィン陛下も次期皇帝と目されているデイビッドも危険思考や利己的な独裁者じゃないからね。

万が一そうなった時には、バルディアを守るために立ち上がればいいだけだ。

もちろん、そのためにも力を付けていく必要があるけどね。

「リッド様、難しい顔をされていますがどうかされましたか」

僕が会場の皆をじっと見つめていたことが気になったらしく、ファラが小首を傾げた。

彼女の普段着はレナルーテ様式だけど、今日は懇親会に合わせて帝国様式のドレスを身に着けている。

このドレスは母上がファラのために選んだ逸品で、気品のある淡い紫色がよく似合っているんだよね。

似合いすぎて、いつもより彼女が可愛く思えてしまうのは秘密だ。

「いやね、バルディアがここにいる皆の刺激になればなって、そう思っていたんだ」

「それでしたらご心配に及びませんよ」

彼女はにこりと微笑み、会場にいる皆を見渡した。

「皆様、とてもよい表情をしております。きっと、バルディアの発展を目の当たりにして驚き、好奇心を擽られたのでしょう」

「姫姉様の言うとおりだよ、兄様」

会話に入ってきたのはメルだ。

「どういうこと?」

「私とキールの二人で領内を案内した時、皆揃いも揃って目を輝かせていたもの。きっと、領地に戻ったら嬉しそうに周囲に話すと思う。私だってそうするもの」

「そうだね。私達の説明を皆前のめりで聞いていたし、刺激になっていることは間違いないよ」

「そっか。それなら良かった」

僕がほっと胸をなでおろしていると、「リッド」とデイビッドに呼ばれる。

振り返れば、彼はヴァレリと並んで立っていた。

「どうしたの?」

「どうしたの、ではない。懇親会なのだぞ。皆でここで固まっているわけにもいくまい」

デイビッドが呆れ顔を浮かべると、ヴァレリがやれやれと首を横に振った。

「皆、私達と少しでも話そうと息巻いているのよ。両親からも強く言われているでしょうし、無下にするわけにもいかないわ。バルディアだと立地的に馴染みないかもしれないけど。それに……」

彼女は含みのある言い方をすると、僕とファラを見てにやりと目を細めた。

「帝都で囁かれるリッド・バルディアの愛妻家。それを夫婦揃って見せつける絶好の機会じゃない」

「そ、それは……」

指摘に決まりが悪くなって、僕は顔に火照りを感じながらたじろいだ。

帝都で僕が愛妻家と囁かれている理由。

それは、貴族の縁談を断る際、ファラとの惚気を令嬢に返信したからだ。

当然恥ずかしくはあったけど、相手の立場を傷つけずに面子も保てる唯一の断り方だった。

結果、帝国内外で僕は愛妻家という噂が立ち、ズベーラでファラの木彫像を制作依頼したことも相まって、今では通り名みたいになっている。

「リッド様、一緒に参りましょう」

服の袖がぐいっと引っ張られて見やれば、ファラが何やらやる気に満ちた目をしていた。

「う、うん。わかった」

「あらあら、ファラの方が理解しているのね」

僕が頷くと、ヴァレリがくすりと笑った。

「理解してる……?」

「そう。この場でリッドとファラが仲睦まじい様子を見せつければ、貴族達はいよいよリッドに縁談は無駄だと思うでしょう」

彼女はちらりと横目で会場を見渡した。

「悪い虫を追い払ったところで、発生源をどうにかしなければ同じ事の繰り返しですからね」

「まぁ、ヴァレリの言うとおりだな」

デイビッドが苦笑しながら相槌を打った。

「私も婚約間もない当時は社交界の場に出る度、一部の者が寄ってきたものだ。ヴァレリと出るようになってからは激減したぞ」

「な、なるほど……」

ファラと一緒に子息令嬢達に挨拶して回ることで、噂が事実であることが改めて証明される。

子息令嬢達も領地に戻ったらその様子を周囲に話すことだろうし、瞬く間に貴族達の間にも伝わっていくはずだ。

「さて、リッド義兄さん。僕とメルディは先に挨拶回りをしてきます」

「え……?」

キールの言葉に呆気に取られるも、メルは少しため息を吐いてキールの隣に並び立った。

「……じゃあ、兄様。貴族の勤めを果たしてきますね」

「う、うん」

キールとメルは会場の人混みの中に進み始めると、「さて、マチルダ。我々もいこうか」とアーウィン陛下が切り出した。

「そうですね。彩り鮮やかな料理も気になりますし、参りましょう」

二人が歩き出すと、父上が咳払いをしてドレス姿で車椅子に腰掛けている母上の後ろに立った。

「ナナリー、私達も行こうか」

「はい、わかりました。あ、でも……」

母上はにこりと頷くと、エルティア義母様に視線を向けた。

「エルティア、よければ一緒に参りましょう。私達は親戚ですし、この機会に紹介したい者もおりますから」

「ご配慮、有り難く存じます。では、ナナリーの言葉に甘えさせていただきましょう」

エルティア義母様が会釈すると、父上は「では、参りましょう」と母上が乗った車椅子を押し始めた。

「あ、すこし待ってください」

母上は制止すると、こちらに振り返ってにこりと笑った。

「リッド、ファラは貴方の妻です。しっかりとエスコートするのですよ」

「はい、もちろんです」

僕が微笑み返すと、母上の隣に立っていたエルティア義母様がファラをちらりと見やった。

「貴女はバルディア家に嫁いだレナルーテの元王女という立場です。一挙一動に祖国とバルディアの品位が見られることでしょう。揚げ足取りを目論む心狭き者も、時にはいるはず。心してください」

「……承知しております、御母様」

ファラが畏まって頭を少し下げるなか、「大丈夫ですよ、エルティア」と母上が気さくに発した。