軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

皆の興味

「……という感じかな。ズベーラでは武の実力が何よりも重要視されるから、ヨハンは毎日修行に励んでいたよ」

「弱肉強食の文化が根強いとは聞いていたが、まさかそこまでとはな」

「……帝国と違いすぎてびっくり。私、ズベーラに生まれなくてよかった。きっと、すぐに淘汰されてる」

皆に話せる範囲でヨハンの日常をそのまま伝えたところ、デイビッドは驚いた様子で唸り、アディは目を瞬いた。

他の皆も大体似たような反応を示している。

帝国は貴族と平民という身分社会ではあるけど、事務的能力が高い人物は武術が使えなくても優遇されることが多い。

一方、ズベーラでは事務的能力が高くても武術が使えなければ、認められずに冷遇されやすい。

セクメトス、ルヴァを始めとした部族長達はその認識を改めているみたいだけど、豪族達の意識改革までは進んでいなかった。

バルディアとの取引を通じて、そのあたりも少しずつ変わっていくかもしれないけどね。

「文化の違いも気になるけど、ヨハン王子がどれほどの実力者なのか。個人的には、とても興味があるね。手を合わせたんだろう? リッドの感想を聞かせてくれよ」

口火を切ったのはデーヴィドだ。

彼は身を乗り出し、食い気味に尋ねてきた。

デーヴィドは冷静で理知的な印象が強いけど、バルディア家と同じ国境を守る辺境伯家の次男だ。

僕同様、父親から武を叩き込まれているから、武にはやっぱり興味があるみたい。

「ヨハン王子の持つ武術の才能。私も興味がある、ぜひ聞かせてくれ」

「ぼ、僕も気になります」

デイビッドとベルゼまで身を乗り出してきた。

「わかった。でも、あくまで僕の主観だよ。デーヴィド、皆もそれでもいいかな」

「あぁ、構わないよ」

彼と皆が頷くと、僕はヨハンとの手合わせを手振り身振りで伝えていった。

第一に身体能力だけで見れば、人族が獣人族に勝てる可能性は低い。

獣人族は生まれ持った高い身体能力に加え、身体強化と獣化まで使いこなせる。

正面から立ち向かえば、人族が圧倒的に不利だ。

ヨハンは、そうした特徴を持つ獣人族の中でも突出した才能を持つ天才肌。

武術だけで勝てる相手じゃない。腕力、俊敏さ、才能【センス】、視力、聴力、嗅覚に至るまでヨハンの身体能力は僕をすでに凌駕している……それが立ち合った率直な印象だった。

「へぇ、獣人族が持つ身体能力の高さは伝え聞いていたけど。まさかヨハン王子がそこまで天才とは知らなかったよ」

「そうだね。帝国を広しと言えども、ヨハンに身体能力で勝てる同年代はいないと思う。僕を含めて、ね」

「そ、そうか。ヨハン王子は、リッドがそこまで言い切る実力者なのか」

何やらデーヴィドが決まりが悪そうに頬を掻くと、皆揃いも揃って難しい顔を浮かべて黙り込んでしまう。

軽い口調で伝えてたつもりなのに、室内が暗くて重い雰囲気になってしまったのは何故だろうか。

「それはつまり、リッド様ではヨハン様に勝てない、ということでしょうか?」

マローネが疑問を呈して小首を傾げるも、僕はにこりと笑った。

「身体能力だけなら、ね。でも、僕には『これ』があるからさ」

僕が掌の上で小さな火球を生み出してみせると、皆が目を見開き、「おぉ……」と感嘆の声を漏らした。

「身体能力で負けている部分は、この魔法で補うのさ」

「なるほど。しかし、魔法を使えるのはヨハン殿も同様なのではないか?」

「デイビッド殿下の言うとおりだよ。リッドの魔法が得意なのは知ってるけど、それだけで補えるの?」

今度はデイビッドとベルゼが首を捻ったけど、僕は「心配にはおよばないさ」と笑顔で答えた。

「ヨハンの持つ身体能力と才能は驚異的だけど、魔法を加味した総合力では僕のほうに分があるからね。それに……」

胸を張って答えると、僕は少し間を置いて隣に座っているファラに視線を向けた。

「さっき陛下達へ、必ず獣王戦の場でヨハンに勝って、その勝利を妻に捧げるって伝えてきたからね」

「あ、あう……」

彼女は気恥ずかしそうに顔を赤らめて俯いてしまうと、「リッドお兄様、それ本当ですか?」とシトリーが目を丸めていた。

「うん。だから絶対に負けられないんだ」

「すごいです。国中の豪族、要人が集まる獣王戦の場に立つだけでも凄いのに、その勝利を妻に捧げるなんて聞いたことがありません。きっと、ズベーラを通じて大陸全土にリッドお兄様がファラ姉様を愛してることが伝わることでしょう」

「え……?」

言われてハッとした。

よくよく考えてみれば、獣王戦に集まるのは各部族の部族長や豪族達だけじゃない。

ズベーラに拠点を置いている各国の要人達も参列するはずだ。

そこで僕が勝利を妻に捧げれば、国内外で僕が愛妻家という噂の真実味が増すことは想像に難くない。

いや、全然、それはそれで良いんだけどね。

改めて言われると、ちょっと気恥ずかしい。

「あ、あはは。まぁ、それも望むところだよ」

照れ隠しで頬を掻くと、ティスが笑顔で身を乗り出した。

「さすがリッド兄様です。私にお手伝いができることがあれば、何なりと言って下さい」

「ありがとう、ティス。頼もしいよ」

お礼を言ったその時、「はぁ、やれやれです」とため息が聞こえてくる。

見やれば、ヴァレリが肩を竦めていた。

「ズベーラやヨハン様の話をしていたはずなのに、結局リッドとファラの惚気になるのですね。仲睦まじいのは結構ですが、見せつけられる側の身にもなってほしいものです」

「う……」

「あう……」

鋭い視線に射貫かれ、僕とファラは顔を赤らめたまま言葉を失ってしまう。

すると、皆が「ふふ」と一斉に噴き出した。

「そう言ってやるな、ヴァレリ」

笑みを溢しつつデイビッドが話頭を転じた。

「父上から聞いた話だが、ライナー辺境伯も話しているとよく家族の惚気話になるそうだぞ。これはもう、バルディア家のお家芸ということだ」

え、そうなの?

父上と陛下のやり取りを僕は聞いたことがないけど、デイビッドは聞いたことがあるみたいだ。

今度、どんな話をしているのか、聞いてみても良いかもしれない。

呆気に取れていると、ヴァレリが再びため息を吐いた。

「まぁ、二人が幸せそうで何よりですけれど。それよりも、リッドに尋ねたいことがあります」

「え、う、うん。どうしたの?」

「ヨハン・ベスティアが武術の才能に溢れた人物であることは理解しました。次は彼の性格や趣味趣向を中心に聞かせてくれないかしら」

ヴァレリがそう言うと、デイビッドが眉をぴくりとさせた。

あと、笑っているのに何故か目が怖い。

「ヴァレリ。どうしてヨハン王子のことがそんなに気になるのかな」

「あら、殿下は気になりませんか。他国の、それも私達と同年代の王子がどんな性格で趣味趣向の持ち主なのか。いずれ顔を合わせる機会もあるでしょうから、知っておくことに越したことはないかと」

彼女はそれっぽく答えたけど、ヴァレリは前世の記憶を持っている。

『ときレラ』の登場人物だったヨハンのことが気になっているんだろう。

「まぁ、それはそうだが……」

釈然としていないデイビッドを横目に、僕は「そうだなぁ……」と思い出すように言った。

「一言で言うなら天真爛漫な男の子かな。性格は考えるよりも直感で動く感じだけど、彼は本質を見抜く勘が鋭いんだ。侮ったら、手痛いしっぺ返しがあるだろうから気を付けてね」

「へぇ、そうなのね。それで、趣味趣向はどうなのかしら」

ヴァレリが興味津々に尋ねてきたその時、僕の脳裏に『とある本』の存在が浮かんできた。

「えっとね。最近、ヨハンが影響を受けていた本があってね」

「影響を受けた本? 何かしら」

「帝都で流行っている『華と恋』という本でね。僕達と親交を深めようと、彼の提案で『パジャマパーティー』まで行ったぐらいさ」

「え……?」

わざとらしく僕が肩を竦めると、ヴァレリの目が点になった。

『華と恋』の発刊について、まだ彼女から明確な説明は受けていない。

今回のバルディア訪問で話すつもりだったのかもしれないけど、あえてこちらから言い出した。

『もう知っているよ。でも、せめて一言ぐらいは声をかけてほしかったな』という、圧と共に。

彼女が「あぁ、それは……」と目を泳がせていると、デイビッドが「ふむ」と相槌を打った。

「ぱじゃまぱーてぃー。リッド、それはどういった催しだったんだ」

「それはね……」

決まりが悪そうなヴァレリを横目に、僕はパジャマパーティーのことを丁寧に説明していった。