軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

闇歴史と帝国の対面

ズベーラから持ち帰った『闇歴史の本』は鍵の付いた箱に入れられ、サンドラ達が研究を行っている施設の最奥に厳重な管理下で安置されている。

当然、箱の内容を知る者は僕、父上、サンドラのみだ。

この施設は、普段からバルディアに仕える選りすぐりの騎士達が交代制で二四時間見張っている。

過去にこことは違うけど、工房で旧グランドーク家の襲撃もあったから特に目を光らせている施設だ。

レナルーテの元暗部カペラの助言も得て、鼠一匹通れないであろう警備が敷かれている。

それでも忍び込もうとした輩は多々いたけど、例に漏れず全員捕らえられ、父上の裁量に厳しく罰せられた。

今現在では、さすがに忍び込もうとする輩はいない。

数ヶ月に一度、カペラと第二騎士団所属特務機関の子達による警備訓練で彼らが忍び込むことはあるけどね。

ちなみにその訓練の模様は、まるで不可能と思われる任務を可能にするようなスパイ映画の如く『そんなことまでするの⁉』というものだった。

少なからず、カペラと同等の実力者かつ協力者がいなければこの施設に忍び込むことは不可能と言って良い。

あとは、盗むことだけを生き甲斐にしているような三代続く怪盗なんて存在がこの世界にいないことを祈っておくことぐらいだろうか。

施設内への入館は、僕や父上であっても『顔パス』で通ることは余程の緊急時以外では許されていない。

必ず事前申請後に施設で受付をし、入館簿に名前を記載して化術による変装や成りすましの確認が行われる。

問題ないと判断されると入館証を首から下げ、ようやく足を踏み入れることができるのだ。

申し訳なかったけど、案内をしてきた両陛下にもこの手続きはお願いした。

入館記録にだけは、あえて名前を記載していないけどね。

アーウィン陛下の身体チェックは僕と父上が行い、マチルダ陛下は屋敷から同行してくれたサンドラが行った。

二人の性格上、ないとは思うけど『不敬とか言われたらどうしよう』なんてことも思ったけど、陛下達は確認作業にとても協力的……というかのりのりだった。

「帝国の最先端をいく研究施設だ。これぐらい厳重な警備が敷かれて然るべきだな」

「そうですね。他国には瓜二つの姿になれる魔法もあると聞き及んでおります。私達であっても確認作業は当然でしょう」

二人は確認作業中、そう言って普段されることのないであろう身体検査を楽しんでいるみたいだった。

入所手続きが終わると、サンドラが施設内の説明をしながら僕達を先導する。

当然、サンドラの言動は僕の知るものと全く違う。

丁寧かつ畏まった口調かつわかりやすい砕けた説明で、聡明さに満ち溢れたものだった。

相変わらず、彼女は猫かぶりが上手というか、何というか。

僕は半ば呆れていたけど、彼女の案内に陛下達は目を輝かせていた。

帝都で見ることはないであろう様々な施設があるからね。

童心に返ったかのように興味津々になるのは当たり前かもしれない。

そういえば、前世でも工場見学の場では大人だって興味あることには身を乗り出していたもんなぁ。

施設の研究員達は陛下達を目の当たりにして直立不動や咳き込んで、色んな反応を示していたけど、揃いも揃って感動している様子だった。

バルディアの研究員達は平民出身や家を継げない貴族の次男や三男、結婚が嫌で家を飛び出して絶縁状況の女性もいる。

彼らは優秀だけど、残念ながら日の目を浴びる機会に恵まれなかった人達が多い。

僕、父上、サンドラが中心となって大陸中のそうした人物を集めたのがこの施設で働く大半の研究員だ。

そのような経緯もあってか、帝国の頂点に立つ陛下達と間近で出会えたことに感極まっているのかもしれない。

闇歴史の本が置かれた部屋の前に辿り着くと、サンドラが懐から鍵を取り出した。

でも、扉には数字版はあっても鍵穴は見当たらない。

彼女は扉に設置された数字版の前に立つと、手早く数字を押していった。

十桁ほど押されたぐらいに『カチャ』と金属の音が聞こえ数字版が浮き、サンドラが数字版に手をやると鍵穴がお目見えする。

「……ほう、これはまた手の込んだ鍵だ」

「本当ですね。帝城の宝物庫にも設置してほしいぐらいです」

「ありがとうございます。こちらは当家に仕えるドワーフのエレンとアレックスが作った逸品でございます。ご用命とあらば設置は可能ですが、少々費用がかかりますことは予めご承知ください」

陛下達が感嘆すると、僕はすぐさま営業スマイルを浮かべて宣伝を兼ねて扉を売り込んだ。

この『からくり扉』は開発工房に属するエレン達と狐人族の子達が頭を捻りに捻って設計、完成させたものである。

多分、今の世において大陸どころか世界最高レベルの鍵だろう。

「『少々費用がかかる』、か。まぁ、よかろう。今度、私宛に見積もりを送ってくれ」

「畏まりました、陛下」

僕がにこりと微笑むと、サンドラが咳払いをして扉を開けた。

「お二人にお見せするものは、この部屋の中にございます」

「わかった。すぐに見せてくれ」

陛下が返事をすると、サンドラはこくりと頷いて部屋に足を踏み入れる。

皆が部屋の中に入るのを見届けると、最後に入った僕が扉を丁寧に閉めた。

本の入った箱にも同じ鍵が用いられていたけど、彼女は懐から別の鍵を取り出して扉同様に手早く解錠する。

「ライナー様、このままお見せしてよろしいでしょうか」

「あぁ、構わない」

父上が頷くと、サンドラは蓋を開けて中身を陛下達に見せた。

「こちらがリッド様がズベーラより持ち帰った古代マーテル語で書かれた書物でございます。女神となった聖女ミスティナ・マーテルの人物像に迫るものかと思われますが、記載内容はまだ解読中でございます。最初の頁【ページ】にのみ、故人グレアス・グランドーク氏の解読による筆跡がございました」

「……うむ、見させてもらうぞ」

「はい。では、こちらの手袋をご使用ください。古い本故、人の手汗や油分だけでも傷みが増してしまいますので」

陛下達は手袋を受け取って身に着けると、サンドラの解説を受けながら表紙をめくった。

そして間もなく、二人は顔を曇らせて眉間に皺を寄せる。

「これは……」

「まぁ、大変な本ですねぇ……」

アーウィン陛下とマチルダ陛下の反応は僕と父上同様、とんでもない代物を見つけてしまったというものに他ならない。

問題は帝国の頂点に立つ二人が、これを読んで何を考え、どのような行動を起こすかだ。

陛下達が本を読み進めていく様子を、僕は息を呑んで見つめていた。

どれぐらいの時間が経ったのか、アーウィン陛下が「なるほど、な」と発して本を丁寧に閉じた。

静寂に包まれた部屋に『パタン』という小さな音が響く。

「さて、リッド。まずは君の意見を聞きたい。この本、君ならどう扱うべきだと思う」

陛下の一言で、たちまち部屋の空気がピンと張り詰めた。