軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

宣言

アーウィン、マチルダ両陛下、エルティア義母様が決まりの悪い顔で視線を泳がせ、室内にしんとした空気が流れる。

母上はここぞとばかりに、にこっと満面の笑みを浮かべて視線の矛先を変えた。

「ライナー、貴方もそう思いますよね」

「う、うむ。そうだな」

父上は急に振られて少しびくりとするも、咳払いをして耳目を集めた。

「陛下とエルティア殿が、獣王戦の行方を危惧されていることは十分に理解いたしました。しかし、妻のナナリーが申し上げたことも事実です。従って……」

母上とはまた違った迫力のある重い声が響き、部屋の空気がぴんと張り詰める。

父上は少しの間を置き、おもむろに言葉を続けた。

「バルディア家は獣王戦を国の未来を担う『有事』に相当するものとして動きましょう。家名を掛けて勝利を帝国に捧げる所存。どうかこの件は我らにお任せください」

父上の口から出た『家名を掛ける』とは、貴族にとって身命を賭すと同義だ。

『有事』という言葉も出たけど、そもそも僕達バルディアは獣王戦を『有事に相当する』という認識で動いていた。

あえて陛下達の前で発言したことを考えれば、父上が発した言葉の意味が少し違って聞こえてくる。

『アーウィン、マチルダ、エルティア殿。獣王戦を勝敗が気になるのは理解できるが、これまでの発言はナナリーの言うとおり礼を欠いている、急ぎすぎだ。今後、バルディア家は獣王戦を国の有事として扱うから口出し無用で頼む。万が一にでも負けることがあれば、家を取り潰しでも構わない』

とまぁ、こんな感じだろうか。

頭の中で貴族解釈による翻訳を終えたその時、『家を取り潰しでも構わない、だって⁉』と、僕は愕然として目を丸くしてしまう。

なんてことだ、獣王戦がいよいよバルディア家存続にまで影響を与えはじめたのだ。

以前からバルディアの未来に大きな影響を及ぼすことは想定していたけど、現実を直視するのと想像範疇では重みが違う。

「……有事相当、家名を掛けるか。了解した。それだけの覚悟で挑んでくれるというのであれば、この件はもう何も言うまい」

アーウィン陛下は椅子の肘掛けで頬杖をついてそう告げると、「マチルダ」と続けた。

「ライナーにここまで言わせたのだ。異論はあるまい」

「そうですね。ですが、陛下」

マチルダ陛下はそう言うと、口元をにやりとさせて僕を見やった。

「最後に獣王戦の舞台に立つ当事者であるリッド。彼の意気込みを聞いておきたいかと存じます」

「恐れながら、私もリッド殿のお言葉を伺いたく存じます」

エルティア義母様はそう言って会釈すると、横目でちらりと僕とファラに視線を向けてくる。

その時、背中がぞくりとして鋭い刃物で胸を貫かれたような感覚に陥った。

『リッド殿、レナルーテで私に仰ったお言葉。嘘偽りはありませんね』

何故か、脳裏にエルティア義母様の声が響く。

そうかと、僕は察した。

ファラを実は大切に想っているエルティア義母様の不器用な心配というか、愛情表現であることを。

「よかろう。どうだ、リッド・バルディア。聞かせてくれぬか、貴殿の意気込みを」

アーウィン陛下が相槌を打ってこちらを見やると、僕は「承知しました」と畏まって一礼し、その場にゆっくり立ち上がる。

父上、母上、ファラの顔を見てから両陛下とエルティア義母様を真っ直ぐに見据えた。

「私、リッド・バルディアも父の言葉同様、家名を賭けて挑む所存です。そして……」

僕は皆の注目を引きつつ、隣に座るファラを横目でちらりと見てから再び正面を向いた。

「ファラ・バルディアをレナルーテに帰郷させるつもりはありません。必ず勝利を……妻に捧げます」

「え……?」

エルティア義母様の手前、国ではなくあえて『妻』と告げた。エルティア義母様が僕に求めていた答えはこれだろうからね。

ファラはきょとんとしてしまうが、アーウィン陛下は「ほう……」と楽しそうに口元を緩めた。