軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五階層へ

「ガァアアアアア⁉」

「よし、皆で残った最後の頭に攻撃するんだ」

僕、イビ、マルバスの同時攻撃で二つの頭と尻尾を一斉に切断すると、炎合体獣【レッドキマイラ】の咆吼が轟き、衝撃波となって火山口の真上に浮いた舞台が大きく揺れた。

フェイ曰く奉仕を冠する四階層。

次の階層に進むため倒すべき門番こと炎合体獣。

こいつもまた、今までの階層同様に一筋縄でいかない相手だった。

正面にある三つの狼頭はそれぞれに火、水、雷属性の息吹を吐き、尻尾の先端にある怪鳥の嘴からは風属性の息吹を吐いてくる。

巨体に似合わず機敏で舞台上を跋扈し、前足の鋭い爪で襲いかかってくるのだ。

隙を突いてこちら攻撃を仕掛けると、背中の翼を羽ばたき空へと逃げ、息吹を吐いて体勢を立て直す動きまでやってくる。

業を煮やして僕達が三方向に陣取って攻撃を加えていくと、炎合体獣は咆吼による衝撃波で僕達を吹き飛ばし、火山口から溶岩を呼び寄せて体に纏った灼熱状態ともいうべき姿となった。

溶岩を纏った状態では魔力付与をしていても武器に損傷が出てしまうし、僕達も触れてしまえばただでは済まない。

実質的に物理攻撃を無効化して暴れ回るという戦士泣かせの荒技を披露した。

おまけに僕達にとっては大きい舞台でも、炎合体獣と戦うには手狭だ。

逃げ回るにしても、舞台から落ちれば火山口で泡吹く溶岩に飲まれて即死という状況のため、今までよりも危険度は比べものにならなかった。

それでも僕達は攻撃を繰り返して翼、尻尾、頭と部位破壊に成功。

灼熱状態は僕の水槍と氷槍を組み合わせることで、対処できたことも大きい。

でも、喜べたのもほんの束の間、部位を破壊された炎合体獣は残った一つの狼頭で咆吼による衝撃波を放ち、僕達を遠ざけると火山口から再び溶岩を呼び寄せる。

灼熱状態になるつもりか。

そう思って身構えていると、僕達が破壊した部位を溶岩が覆って完全再生を果たしたのだ。

驚愕して目を見開くも、残っていた狼頭の額に翡翠の丸玉が現れる。

どうやら、何の制限もなしに完全再生はできないらしい。

こいつは部位破壊後に弱点が現れて倒せる門番だと察し、イビとマルバスで正面の狼頭を二つ切り落とし、僕が尻尾の怪鳥頭と嘴を切り落とすという作戦を共有した。

そして今まさに、四階層門番との戦いは終局の時を迎えている。

衝撃波が止むと、次いで突風が舞台上に吹き荒れる。

炎合体獣が背中の翼をはためかせ、空へ逃げて体勢を立て直そうとしているのだ。

でも、この動きも作戦に織り込み済み。

空に広がる灰雲が雷鳴を響かせたその時、炎合体獣の上空から一筋の稲光が落ちていく。

「手間掛けさせやがって、このくそ駄犬が。轟雷脚【ごうらいきゃく】」

狼頭の一つを切り落とした彼女は、勢いそのままに飛翔して上空で待機していたのだ。

「ウガァ……⁉ ガァアアアアア⁉」

イビの足技が背中に直撃した炎合体獣は『くの字』に折れ曲がって舞台に墜落、叩きつけられる。

舞台が激しく揺れるも、その前に僕とマルバスは残っていた狼頭に向かって跳躍していた。

僕は牢宮内で拾得した長剣に魔力付与を行い、切っ先を突き出す。

マルバスは持参した薙刀に火を纏わせ、振りかぶる。

最後の狼頭には『翡翠の丸玉』が露わになっていた。上空で全身を再生させるために露出させたのだろう。

案の定、読み通りだ。

「これで、止めだ。魔突翔・雨水【まとつしょう・うすい】」

「終わりだ、狐火一刀【きつねびいっとう】」

僕とマルバスが同時に技を繰り出すと、硝子と鉄が打ち合ったような甲高い音が波紋のように響きわたる。でも、僕とマルバスは目を見開いた。

「こいつ、紙一重で魔障壁を発動したのか……⁉」

「おのれ、死に損ないが。小賢しい真似をする」

「ヌガァアアアア!」

『我を舐めるな、人と獣人如きが。フェイ様に与えられたこの力、見せかけや酔狂ではないぞ』

咆吼に炎合体獣の感情が乗っていたらしく、僕の脳裏に言葉となって響いてくる。

その時、バキッと嫌な音が僕の手元から鳴った。

見やれば拾得した剣が魔力付与と魔障壁の衝突に耐えきれなかったらしく、剣身全体に罅が入っている。

このままじゃ、魔障壁を突破できずに再生を許してしまう。

そうなれば僕達は更なる消耗を強いられる。

炎合体獣も何やら知恵があるようだし、警戒されて持久戦に持ち込まれたらやっかいだ。

何とか、何とかしないと……!

「悪役主人公【ダークヒーロー】、ぶっつけ本番の合わせ技だ。合わせてみせろ」

背後の上空から勝ち気な声が響きわたる。

横目で視線を向け、イビの意図を把握した僕はこくりと頷いた。

「わかった。やってみせる」

「上等だ。いくぜ」

遥か上空で蹴りの体勢を取ると、イビはこちらに向かって雷を全身に纏い、猛烈な勢いで急降下してきた。

僕は剣が威力を維持しつつ、砕けないように魔力付与を絶妙に調整する。

彼女が間近に迫った瞬間、剣から手を離して身を退いた。

「追打の『杭打ち』だぜぇええええ」

イビが勝ち気な声を発しながら剣の柄頭を蹴って押し込んだ瞬間、硝子が割れたような音が轟いた。

炎合体獣の展開した魔障壁が割れ、砕け散ったのだ。

僕が魔力付与していた剣も砕けて霧散したけど、イビの轟雷脚とマルバスの一刀が、狼頭の額に露わになった翡翠の丸玉に直撃する。

「ガァアアアアア⁉」

断末魔の叫びを炎合体獣が上げたその時、翡翠の丸玉に罅が入り、間もなく砕け散った。

「今度こそ、終わりだぜ。犬っころ」

「全く、無駄に消耗をさせられたぞ」

イビがにやりと口元を緩め、マルバスが眼鏡の山をくいっと上げる。

炎合体獣は力なく倒れ、体が魔力の煌めきとなって霧散していく。

程なく、光が集まって狐人族の冒険者らしい姿の青年が現れ、その場に力なく倒れた。

「……⁉ ルイ、ルイではないか」

青年の姿を見るなり、マルバスが慌てて駆け寄って抱き起こした。

「う……」

呻き声を上げると、青年はゆっくりと目を開いていく。

彼はマルバスの顔を見て驚いた様子を見せるも、すぐに頭を下げた。

「マ、マルバス様。お手を煩わせたようで……申し訳、ありません」

「言うな。お前達は代わりの効かない優秀な部下だ。それよりも、他の皆はどうした。フローベル、ジャン、ジーンも一緒に取り込まれたのか」

「は、はい。七階層までは四人で到達できたのですが、そこの門番が……んぐ⁉」

「な、なんだ……⁉」

彼が何かを告げようとしたその時、黒い渦と黒い手が忽然と現れて、ルイの口を塞いでしまう。

情報漏洩【ネタバレ】を防ぐためだろう。

逆に言えば、それだけ重要な情報ということだ。

「そう簡単にはいかせないよ」

僕は瞬時に火槍をいくつも放って黒い渦と手にぶつけるも、全く効いていない。

「駄目か。それなら……」

黒い渦と手から感じるのは闇属性の魔力だ。

なら、光や雷属性の魔法を当てれば何かしら反応があるかもしれない。

マルバスとイビに見せるのは少しためらわれるけど、最優先はここを切り抜けることだ。

「やめろ、木偶。無駄に魔力を消費するな」

「え、でも……」

マルバスに制止され、僕は呆気に取られてしまう。

「牢宮の魔力は膨大だ。この場で何をしたところで、今は救えん」

彼は冷淡にそう告げると、黒い手に掴まれて渦に沈んでいくルイを見やった。

「案ずるな。必ずお前達は助けだす。それまで心を強く持て」

ルイはこくりと頷くと、口を塞がれたまま渦の中に沈んでいった。

彼が消えると、忽然と次の階層に進むための扉が現れる。

マルバスはルイが沈んでいった場所を、忌々しそうに睨み付けていた。

「……ご武運を。ルイだっけ、彼は沈みながら君にそう言っていた気がするよ」

優しく声を掛けると、マルバスは鼻を鳴らした。

「奴なら言いそうだ。しかし、私と部下達は木偶と有象無象による『家族ごっこ』のような関係性ではない。余計な気遣いは不要だ。前も言ったが、貴様の言葉は虫唾が走る」

「あ、あのねぇ。僕だって何度も言ってるけど、言い方。言い方をもっと気を付けようよ」

カチンとしつつも平静を装って目を細めるが、彼は「知ったことか」とそっぽを向いてしまう。

マルバス、本当につっけんどんだな。

がっくりして深いため息を吐いていると、「おい」とイビから強ばった声で呼びかけられた。

「あんまり悠長に過ごしている時間はないみたいだぜ。魔物共が階段を昇ってきてやがる。休息を取らせるつもりはないらしいぜ」

「……本当だ。急いで扉の先に進んだ方がよさそうだね」

言われて下を見やれば、火山口は無数の魔物達に囲まれ、次々と階段を駆け上がってきている。

僕達は軽く身の回りを確認すると、扉を潜って次の階層に進むのであった。

「……ここが義憤の第五階層、か」

「……みたいだな。あたしはこんな風景を見るのは初めてだぜ」

「地上、それもズベーラでは、ここまで『積もる場所』はあまりないだろうな」

僕は唖然としながら周囲を見渡し、イビは飛び上がって遠目を見つめ、マルバスは地面に積もった『それ』を触って本物か確認している。

急に強い風が吹き荒れ、活火山で掻いた汗が急激に冷やされていく。

僕は足下から上半身にかけてぞわっとした寒気に襲われ、身震いした。

「は、くしゅん。あぁ、寒い。活火山の次にこれは、嫌がらせにも程があるでしょ」

「確かにな。これはちょっと寒すぎだぜ」

僕のくしゃみに反応して、イビが舞い降りて苦笑しながら頷いた。

五階層、僕達が放り出されたのは雪嶺の麓らしき場所。

空は雲一つ無い青空だけど、辺り一面は全て真っ白な厚い雪で覆われ、広大な銀世界が広がっていた。

足下なんて、くるぶしまで雪に沈んでいる。

場所によっては、もっと沈んでしまうだろう。

「寒い、だと。木偶と鳥頭は鍛え方が足りんな」

マルバスがやれやれと肩を竦めると、イビは目付きを細めてジトッと睨んだ。

「てめぇは厚手の長袖長ズボンじゃねぇかよ。耐寒仕様でないにしても、薄着のあたしと一緒にするんじゃねぇ⁉」

「いやいや。イビだって片足は出してるけど、ほぼ長袖長ズボンでまだましでしょ。僕は膝上まで出てるんだよ。汗も冷めて、さっきから凍えそうなんだけど⁉」

寒すぎて、いつもよりも感情が強く出てしまった。

これ、今までの階層で攻略が一番大変かもしれない。

僕は寒さに震えながら、心の中で『フェイめ。次合ったら、水槍と氷槍を組み合わせて凍らせてやる』と呪詛を吐き捨てた。