軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四階層の門番

「……改めて言うけど、僕は牢宮【ダンジョン】は初めてなんだけどさ。どこもこんな感じなの?」

「いや、この規模の牢宮は滅多にないぜ」

「そうだな。こんな階層を生み出す牢宮は私も初めてだ」

イビとマルバスの答えに「そうだよね……」と僕が相槌を打ったその時、足下の大地が地響きと共に軽く揺れ、どこからともなく風が吹いてくる。

ただ、気持ちの良いそよ風などではなく、肌がちりちり焼けるような感覚と焦げ臭さを伴う熱波だった。

僕達が今いる場所は活火山の麓らしく、足下は焦げたように黒い土と岩肌が剥き出しになっている。

地熱もあるらしく、足下からは熱が伝わってくるようだ。

火山の頂上らしきところに目をやれば白い煙が延々と立ち上がり、溶岩が真っ赤な煌めきとなって吹き出ているのが遠目でもはっきりわかる。

空は灰雲に覆われ、ゴロゴロと絶え間なく雷鳴が響きわたっているような状況だ。

でも、何よりも目を引くのは僕達のすぐ近くを流れている溶岩の川である。

さっきの熱波は、間違いなくこの溶岩が原因だろう。

花畑、草原、荒れ果てた大地ときて、今度は活火山か。

まさに幻想世界、牢宮というに相応しいけど、今は感動できるような状態じゃない。

「この場合、やっぱり目指すべきは火山の頂上かな」

僕が切り出すと、イビがこくりと頷いた。

「だろうな。クソ蝶の考えそうなこったぜ」

「何にしても進むしかなかろう。だが……」

マルバスは魔物を倒して得た短剣を取り出すと、溶岩の川に放り投げた。

短剣は溶岩に刺さるも、すぐに炎が噴き出して溶けるように溶岩の川に沈んでしまう。

「どうやら、溶岩は見せかけだけではないようだ。木偶、今度は三階層の時のように足下をすくわれるなよ」

彼はこちらをじろり睨み、眼鏡の山をくいっと上げた。

マルバスの言い方にはムッとしたけど、僕が三階層で流砂に足を取られたことは事実だ。

ここはマルバスなりの心配だと考えて、受け流すべきだろう。

一応、前世を含めれば僕の方が年上だからね。

「……わかった、気を付けるよ」

にこりと微笑み返すも、イビが「くっくく……」と噴き出した。

「がきんちょ、眉間に青筋が走っているぜ」

「えぇ、そんなことあるわけないじゃないか」

「まぁ、いいけどよ」

彼女が肩を竦めておどけたその時、進むべき方向から遠吠えが聞こえてきた。

ハッとして武器を構えると、狼の大群がこちらに向かってくる。

でも、見るからにただの狼じゃない。

小さくても獅子、大きくて熊ぐらいの大きさを持ち、四つ足の爪先と鋭い牙からは赤い魔力が炎のように揺らめいている。

空を漂う灰雲の隙間からも翼の羽が炎のように揺らめく大きな鳥の群れが現れ、鋭い嘴とかぎ爪を光らせながらこちらを飛んできているようだ。

さしずめ、炎狼【レッドウルフ】に炎鳥【レッドバード】といったところだろうか。

「早速お出ましだな。ぼんぼん眼鏡、がきんちょ。しっかり着いてこいよ」

「鳥頭。貴様こそ尻込みすれば、その尻を蹴飛ばすぞ」

「いいぜ。やれるもんならやってみろ」

槍を構えたイビが八重歯を見せて炎狼の群れに駆け出すと、すかさずマルバスが薙刀を構えてその後を追っていく。

「もう、二人とも素直じゃないんだから」

僕はため息を吐くと、水槍弐式を大量に生成して解き放った。

水槍はイビとマルバスの横を通り過ぎ、炎狼と炎鳥の群れに直撃する。

「ガァアアアアア⁉」

「ギャアアアアア⁉」

見た目どおり、炎狼と炎鳥達は水が苦手か弱点だったようだ。

水槍を受けた炎狼は驚いた様子で足が止まり、勢いがなくなった。

炎鳥に至っては、翼で揺らめいていた炎が消えて墜落し、地上でのたうち回っている。

「二人とも、怯んだ今が好機だよ」

「さすが悪役主人公。殿【しんがり】でも見せ場作ってくれんじゃねぇか」

「礼は言わんぞ、木偶。これは協力関係を組んだ以上、当たり前の連携なのだからな」

「わかってるよ。礼なんか良いから、さっさと倒して」

大きな声で答えると、二人は炎狼達を次々と薙ぎ払って道を切り開いていった。

麓から中腹に差し掛かると、真っ黒だった溶岩の川が赤い光を放ち始め、熱波の勢いが大幅に増した。

襲いかかってくる敵は相変わらず、炎狼と炎鳥だ。僕達は汗だくとなりつつも敵を返り討ちにしながら進んでいくが、頂上に続く道の勾配がきつくなって体力を地味に奪われる。

中腹から頂上付近に辿り着くと、火山口から溢れ出る溶岩が真っ赤で凄まじい熱気を放っていた。

また、火山口の真上には今回の舞台が浮いており、これ見よがしに火山口近くには階段が設置されている。

落ちれば溶岩で即死、ということだろう。

前世のゲーム、アニメ、漫画、映画などでよく見かける光景だ。

でも、あれはフィクションだから楽しめるし、ワクワクするんだよ。

今回も舞台に上がる前に一旦息を整えたかったけど、炎狼と炎鳥が無限に湧いて襲ってくる状況からそうも言ってられない。

僕達は覚悟を決めて階段を駆け上がり、舞台に上がった。

「はぁはぁ……くそ、あちぃ。テメェらが居なかったら、服を全部脱いでるところだぜ」

イビが額の汗を拭いながら悪態を突くと、マルバスが彼女の体を上から下に視線を滑らせてから鼻を鳴らした。

「貴様の貧相な体を見たところで、誰もどうも思わん。脱ぎたければ脱げ」

「あぁ⁉ んだと、ぼんぼん眼鏡。もう一回言ってみろ」

「服を脱ぎたいと言ったから、脱ぎたければ脱げと言ったまでだ。誰もどうも思わん」

「てめぇ、その身ぐるみ剥いでやろうか」

「やれるものならやってみろ」

二人が視線で火花を散らすと、僕は慌てて二人の間に入った。

「マルバス、喧嘩を売るような言い方はやめなって。舞台に上がった以上、いつ門番が襲ってくるかわからないんだよ」

「……ふん」

彼は決まりが悪くなったのか、そっぽを向いてしまう。

僕はすかさず「それにイビもだよ」と振り向いた。

「女の子が男性の前で、服を脱ぎたいなんて軽々しく口にしたらだめでしょ」

「下らねぇ。あたしが服を脱いだところで、誰も気にしねぇだろ」

「駄目。少なからず、僕は気にするよ。イビはとっても綺麗だからね」

「は……?」

彼女がきょとんとすると、僕はにこりと微笑んだ。

「イビ、君は間違いなく美人さんだよ。それもとびっきりのね。だから、人前で軽々しく服を脱ぐなんて言わないこと。それに自分を大切にしないと、どんどん自分のことが嫌いになっちゃうよ」

「な、なな……⁉」

珍しく彼女が顔を赤らめてたじろいだ。

牢宮に迷い込んでから、イビの動きをずっと見ていて一つ気付いたことがある。

彼女は死を恐れていないというか、自ら進んで命を捨てにいくような戦い方をしていることだ。

最初は気のせいかと思ったけど、何度もそういう場面があった。

動きを見ていると、アスナやオヴェリアのような戦闘狂というわけでもないらしい。

意図的か、そうでなくても無意識に自らを危険と隣合わせの状況に持って行っているような気がする。

「ほう、木偶はイビを美人だと認識するのか」

急にマルバスが僕を見て不敵に笑った。

「な、なんだよ。藪から棒に……」

「いやいや、面白いことを聞いたと思ってな。地上に戻ったら、木偶が牢宮で鳥人族の暴れ鳥と仲良くやっていたと、バルディア家のファラ宛に手紙を送ってやろう」

「な……⁉ なんで急にそんなことを言い出すんだよ。大体、今はそんなこと言っている場合じゃないだろ」

著しく誤解を招くような手紙だ。

僕がカッとなって言い返したその時、舞台が急に大きく揺れ出した。

振り落とされないよう急いでしゃがみ込んでいると、火山口から溶岩が噴き出して舞台上で一箇所に集まり形を成していく。

やがて、集まった溶岩は三つの狼頭、四つ足で立つ狼の胴体に炎が揺らめく翼を生やし、尻尾の先に炎鳥の頭と鋭い嘴を持った巨大な魔物へと姿を変えた。

「ウガァアアアアア」

三つの頭がそれぞれに咆吼を轟かせ、合計六つの目が僕達三人を睨み付けてくる。

これが四階層の門番か。

とりあえず、見た目から炎合体獣【レッドキマイラ】と命名するかな。

落ちれば即死の溶岩が真下の火山口で泡吹く舞台上、揺れが収まってくる中で僕はゆっくりとその場に立ち上がった。