軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第五階層、攻略開始

「揃いも揃って軟弱者め」

汗が冷えて体温が一気に奪われて僕とイビが手を擦ったり、その場で足踏みしている姿を見たマルバスが鼻を鳴らした。

「ふざけんな。じゃあ、てめぇの着ている上着を寄越しやがれ」

「そうだよ、マルバス。ここは女の子と幼い子供に服を譲って、男らしさを示すべきでしょう」

白い息を吐きながら僕達が口を尖らせて捲し立てると、彼はすっとそっぽを向いた。

「馬鹿め、身体強化を発動して強制的に体を活性化させればいくらかましになるはずだ。そんなことにも気づけないとは、寒さで思考まで固まったか」

「そんなことは言われなくても分かっているよ。だけど、そういう問題でもでしょ⁉」

僕は怒号で返すと、止むなく身体強化・烈火を発動する。

周囲に積もっていた雪が魔波で舞い上がり、日の光で煌めいて消えていった。

身体強化とは、体に魔力を巡らせて術者の身体機能を劇的に向上させる魔法だ。

マルバスの言うとおり、結果として体を活性化させてもいるので体温も上がる。

ただし、常に魔力を使い続けることになるから、牢宮攻略を目指す現状の寒さ対策としては適さない。

それでも僕が発動したのは、寒さに耐えきれず止むなく、だ。

「しゃあねぇ。あたしも今はやるしかねぇか」

イビも身体強化を発動したらしく、軽い魔波が起きて周囲の雪が舞い散った。

僕の烈火は火の属性素質を用いることで、身体強化の効果を高めていて、発動すると体全体に赤い魔力が炎のように揺らめくようになる。

でも、彼女には体からには揺らめく魔力が見られない。

「ん……? どうした、がきんちょ。何かあたしの顔についてるか?」

イビはこちらの視線に気付いたのか、首を傾げた。

「いや、僕と違って通常の身体強化だなと思ってね」

「あぁ、そういうことか」

彼女は合点がいった様子で頷くと、背中の羽を広げて自身を軽く包んだ。

「いざとなれば、あたしはこういうこともできるからな。とりあえず、身体強化で十分だぜ」

「ず、ずるい……⁉」

じゃあ、結局のところ寒さ対策が何もできないのは僕だけじゃないか。

愕然としたその時、雪が積もった木々が連なった林の中から敵意と視線を感じてハッとする。

即座に魔障壁を張ると、複数の矢が飛んできて甲高い音が銀世界に響きわたる。

「……こっちの隙を突いてきたつもりかな。でも、残念。気配察知には自信があるんだ。出て来なよ、君達」

僕は目付きを鋭くし、大きめの声で呼びかけた。

側にいたイビとマルバスは武器を構え、すでに臨戦態勢になっている。

林の中にいるのは人の気配じゃないけど、本能のままに襲ってくる魔物達でもない。

一体、何者だろう。

もしかして、牢宮が取り込んだ冒険者を操って襲わせてきた、とかだろうか。

そうなると、倒し方を考えないといけないから厄介だな。

身構えていると、あちらこちらからざくっと雪を踏みしめる音が聞こえ、木々の影から剣、槍、弓を持った人影が大量に現れた。

「な……⁉」

彼等の姿を目の当たりにした僕は、大きく目を見開いた。

雪のように真っ白な髪を持つ頭部から小さな角が二本生え、鋭利に尖った耳。

黒い結膜の中に白い瞳という目を持ち、肌は空のように青く、顔付きは意外にも整っている。

体格は僕と同じぐらいの者から、二メートル超えの大柄で筋肉隆々の者達まで様々だ。

でも、彼等には共通していることが一つある。

僕達を獲物として見ているらしく、邪悪に染まった表情でにやにやと目付きと口元を緩めていることだ。

整った顔付きが台無しと言っていい。

むしろ、整っているせいで邪悪さが倍増しているようにも見受けられる。

「……あれは、おそらく青小鬼【アイスゴブリン】だな。以前、他の牢宮で出現報告があった容姿そのままだ」

マルバスが彼等を睨みながら眼鏡の山をくいっと上げた。

「青小鬼、か。小鬼【ゴブリン】って聞くと、強そうな印象はないけど。あいつらは違うみたいだね」

こちらに向けてくる邪悪で自信に満ちた視線、舌なめずりしながら親指で首を切る仕草を初めとした挑発の数々。

でも、それを裏打ちするかのように、青小鬼達から感じる魔力量は結構なものだ。

今までの階層で出会った魔物達では、彼等の相手にもならないのではなかろうか。

「青小鬼は武器を操る高い知能に加えて、残虐残忍。牢宮に迷い込んだ冒険者を獲物として狩るのを楽しむらしい。徒党を組んで襲ってくることから、見かけたら即逃げるのが冒険者の鉄則だそうだ。余程の実力者でなければ太刀打ちできない、とな」

マルバスが続けると、イビが「へぇ……」と相槌を打ちながら口角を上げ、八重歯を見せてにやりと笑った。

「だがよ、今はその報告よりも重要な『物』が目の前にあるぜ」

「奇遇だね、イビ。僕も『重要な物』に目を取られていたんだよ」

彼女に答えると、烈火の出力を上げた。

僕を中心に魔力が熱を持った魔波となって吹き荒れる。

周囲の雪は舞い散り、雫となって光に反射して小さな虹を生み出して幻想的な景色を生み出した。

でも、邪悪で自信に満ち、挑発を繰り返していた青小鬼達はたじろぎ、竦み、怯え、血の気が引いているようだ。

「どうした、君達。さっきみたいに笑いなよ。こうやってさ」

にこりと微笑み掛けるも、彼等の表情は強ばったままだ。

だけど、逃げることは許さない。

何故なら、彼等は揃いも揃ってふかふかで温かそうな毛で作られた防寒着を着込んでいるからだ。

この状況下で防寒着を身に着けた魔物が登場してくる理由なんて決まっている。

ゲームでよくある『先に進みたければ現地調達をしろ』というやつだ。

牢宮攻略している間に拾得品【ドロップアイテム】で気付いたことがある。

この牢宮だけかもしれないけど『魔物が持っている武具を奪って倒した場合、それをそのまま拾得できる』ということだ。

つまり、青小鬼達の身ぐるみを剥いでから倒せば、彼等が着込んでいる防寒具を手に入れることができるということに他ならない。

どうやらイビとマルバスもその事実には気付いているらしく、何やら目付きがぎらついている。

まぁ、僕も二人のことをとやかく言えないけど。

「正面の青小鬼は私が倒す。邪魔をするなよ」

「好きにしろって。あたしはあっちの細身をやらせてもらうぜ」

「じゃあ、僕は、首切り動作をしてくれた小柄な青小鬼かな」

それぞれに獲物を見定めると、イビがにやりと不敵に笑った。

「言っておくけどよ、こういうのって早い者勝ちだからな」

「当然だな」

「わかってる。でも、大きさ次第で交換は有りだね」

僕とマルバスが頷くと、イビが空へと舞い上がった。

青小鬼はびくりとして矢や魔法を射るも、イビは全て避けながら突っ込んでいく。

「てめぇら、身包み剥いだらぁあああああ」

「キ、キシャアアアア」

イビの動きと怒号に青小鬼達は恐れを成して一部が背を向けた。

「逃がすわけないでしょ」

僕が指を鳴らすと、辺りの雪が高く反り立つ氷壁となって逃げ道を完全に潰した。

青小鬼達が驚き、悲鳴のような叫び声を上げる。

「申し訳ないけど、僕は皆と家族のところに早く帰らないといけなくてね。こっちもなりふり構っていられないんだ」

笑顔で告げると、青小鬼達から絶望と憎悪に染まった視線を向けられる。

何だか、ゲームの悪者になったような気分だけど、不思議と悪い気はしない。

あれかな、やっぱり僕が悪役モブだからかな。

「テメェら、悪役主人公【ダークヒーロー】にばっか気を取られてんじゃねぇよ」

イビの勝ち気な声が響きわたると、青小鬼達が彼女の振るう槍で薙ぎ払われた。

加減しているらしく致命傷には至っていないようだ。

重傷であることは間違いないだろうけどね。

「ギャアアアアア⁉」

別方向から青小鬼の悲鳴が轟く。

マルバスが狙っていた青小鬼の服を剥ぎ取り、止めを刺したのだ。

青小鬼はがくりと力なくうつ伏せに倒れると、そのまま魔力となって煌めき霧散した。

「……やはり、剥ぎ取ってから止めを刺せば確実に得られるようだな。それに、人型と言っても門番のように冒険者を媒体にしているわけでもないようだ。木偶、良かったな。お人好しで甘ちゃんの貴様でも、気兼ねなく倒せるぞ」

彼なりに僕を気遣ってくれたらしい。

「ご丁寧な確認ありがとう、マルバスお兄ちゃん」

「なに……?」

僕がにこりと微笑み掛けると、彼はきょとんとした。

でも、すぐにぞわっと髪の毛を逆立たせ、「貴様、ふざけるな」と凄まじい火力の狐火をこちらに放つ。

あまりの殺意に僕はぞっとし、「ちょ、ちょっと待っ……⁉」と慌てて飛び退いた。

振り返って自分が居た場所を見やれば、雪が全て消えて地面が黒く焼き焦げて煙が立っている。

門番戦でもここまでの高火力は出していない。

絶対、僕を殺す気で撃っている。

「マルバス、軽い冗談でしょ。受け流してよ⁉」

「冗談で済むものか。また同じ事を言えば、今度は背中から容赦なく撃ち抜いてやるからな」

彼の怒号が轟くと、イビの大笑いが響きわたる。

「今のはがきんちょがわりぃな。それよりも、早くしねぇとがきんちょだけ服無しだぜ」

「おっと、それはご勘弁願いたいね」

僕はハッとすると、狙っていた青小鬼をにこりと見やった。

「さぁ、待たせたね。どっちが狩人で獲物か、思い知らせてあげるよ」

「グ……⁉ キシャアアアア」

第五階層、雪嶺の麓。

銀世界広がる雪原は、しばし僕達と青小鬼達の衝突によって喧騒が轟くのであった。