軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

エルティアとリッドの会談

視察から迎賓館に戻ってくると、ザックからエルティアが来賓室で面談を希望していると伝えられる。

何の話だろうと思いながら、僕はその足ですぐに来賓室に向かった。

部屋にノックしてから入室すると、そこにはソファーに腰を下ろしたエルティア。

ダークエルフの侍女数名が待っていた。

「エルティア義母様、お待たせして申し訳ありません」

「いえ、急に面談を申し入れたのは私です。リッド様は気になさらないで下さい」

互いに挨拶を交わすと、僕は机を挟んでエルティアの正面のソファーに腰かけた。

すると、彼女の侍女がスッと紅茶を差し出してくれる。

「彼女の淹れた紅茶はとても美味しいですから、ご安心ください」

「ありがとうございます。では、頂きます」

侍女とエルティアが笑みを浮かべる中、僕は紅茶に口を付ける。

外が少し肌寒い程度だったこともあり、あったかい紅茶はとても美味しい。

「ふぅ……とっても美味しいです」

「気に入って頂けて何よりでございました。ですが……」

「……?」

紅茶の感想を聞いたエルティアは、何やらもったいぶるように話を始める。

意図がわからずに、首をかしげていると彼女は射貫くような言葉を続けた。

「少し不用心ですね。もし毒入りだったらどうするおつもりですか」

「毒……ですか」

思わぬ言葉に僕は目を丸くしながら、口を付けた紅茶に視線を向ける。

だけど、すぐに笑みを溢した。

「あはは、エルティア義母様に限ってそれは有り得ないですよ」

僕の言動を見た彼女は、額に手を添えてやれやれと小さく首を横に振り、呆れた様子でため息を吐いた。

「はぁ……何故そう言い切れるのですか。私ではなくても、侍女が入れている可能性もあります。リッド様の優しさは素晴らしいと存じますが、少し不用心だと申しているのです」

エルティアはそう言うと、冷たく射貫くような視線を僕の後ろで控えるカペラに向けた。

「カペラ、貴方も少したるんでいるのではありませんか。ザックが貴方をリッド様の従者に押したのは、こういった対応のことも考えてのことでしょう」

「仰せの通りでございます。返す言葉もございません」

彼女の指摘に、彼はスッと丁寧に一礼している。

何やら空気が張り詰めた感じになってきたので、僕はわざとらしくに咳払いを行う。

そして、以前から気になっていたことをエルティアに問い掛けた。

「と、ところでエルティア義母様とカペラは以前から知り合いだったんですか」

「あら、リッド様はお聞きになっていませんでしたか。私とカペラは元同僚です」

「え……も、元同僚ですか?」

予想外の答えに僕は目をぱちくりさせてしまい、ゆっくりと視線をカペラに向ける。

すると、彼は淡々と話し始めた。

「確かに、エルティア様は私同様にザック様に仕えていた時期があります。しかし、エルティア様はその実力を認められ、エリアス陛下の専属護衛を任されておりました。リバートン家の直系でもありましたので、その立場としては同僚ではなく私の『上司』だったと言うべきでしょう」

「まぁ、カペラ。随分と冷たい言い方をしますね。確かに私はエリアス陛下の専属護衛を任されておりましたが、貴方もザックの右腕として様々な任務にあたっていたでしょう。立場はそう変わらなかったと思いますよ」

エルティアとカペラは懐かしむように親しい雰囲気で話しているが、僕としては驚きの事実を思いがけず知ってしまった感じだ。

エルティアがリバートン家の一員であることは認識していたけど、まさかザックに仕えてエリアス王の専属護衛という立場であったとは思ってもみなかった。

やがて彼女は、鋭い視線を僕に移すと話を続ける。

「少し話題が逸れましたね。ともかく、エリアス陛下の護衛をしていたことのある身としても、リッド様は少々不用心です。貴殿はこれから『守るべきもの』が増えるのですから、その自覚をどうかお持ちください」

「承知しました。少し気が緩んでいたかもしれませんね。御忠言頂きありがとうございます」

確かに相手がエルティア義母様だからということで、警戒心を緩めていたのは事実だ。

それに、彼女なりに心配してくれている気持ちは言葉と感情から伝わってくるしね。

僕は少し畏まった様子で言葉を受け止め、スッと会釈して顔を上げる。

少し安堵したような表情を浮かべたエルティアは、言葉を続けた。

「差し出がましいことを申しましたとは存じますが、どうかお許し下さい」

「いえいえ、エルティア義母様のご指摘は間違いではありませんから気になさらないで下さい。それよりも、今日はどうしてこちらに?」

本題にまだ話が進んでいない状況もあったので問い掛けると、彼女は侍女達に目配せを行う。

彼女の視線に何も言わずに頷いた侍女達は、そのまま部屋を退室する。

人払いをしたいということだろう。

その意図を察した僕も、カペラに目配せを行い退室してもらった。

部屋には僕とエルティアの二人だけとなり、静寂が訪れる。

それから間もなく彼女がおもむろに口を開き、凛とした声を響かせる。

「これから帝国で過ごすことになるあの子は、様々な困難が襲うことでしょう。しかし、私はもう見守ることしかできません。だからどうか、あの子のことを宜しくお願い致します」

「エルティア義母様……」

こちらを真っすぐに見据える彼女の瞳には、厳しくも優しい光が宿っている。

僕はその想いに答えるようにエルティアの瞳を見つめた。

「勿論です、エルティア義母様。ファラは僕の妻であり、すでにバルディア家の一員です。もし、彼女に困難が訪れれば必ず僕が守り、支え、打破してみせます。それ故、どうかご安心ください」

「リッド様、ありがとうございます。そのお言葉、信じます」

彼女はそう言うと、ニコリと優しく微笑んだ。

その笑みはとても綺麗で、ファラが時折見せる笑顔によく似ていた。

思わず呆気に取られて見とれていると、彼女はスッと立ち上がる。

「では、リッド様。お忙しいところ、申し訳ありませんでした。私はこれにて失礼致します」

「え、は、はい。承知しました」

エルティアは僕の返事を聞くと、いつもの冷たい印象を受ける表情に戻る。

そして、そのまま来賓室を後にした。

彼女が部屋を出ていくと、入れ替わりにカペラが戻って来る。

その時、エルティアが微笑んだ表情を思い出して、彼に尋ねてみた。

「カペラ、エルティア義母様って、専属護衛の任務をしていた時はどんな感じの人だったの」

「エルティア様ですか? そうですね……今と同じく凛として気高く、気品のある方でしたよ。ですが、当時は今より良く笑っておいででした。普段の凛とした雰囲気とは違う、優しい微笑みに心を射貫かれた者は数しれないと聞いております。エリアス陛下との婚姻が決まるまで、縁談の話も途切れることがなかったと聞き及んでおりますね」

思った以上の情報が出てきたことで、僕は思わず「へぇー……」と呟いた。

だけど彼の言う通り、彼女は普段において凛と気高い雰囲気を纏っているから、あの微笑みの破壊力は凄いと思う。

エリアス王も、あの微笑みに魅入られたのかもしれないなぁ。

その時、ふとある考えがよぎった僕は、悪戯っぽく笑みを浮かべた。

「それにしても、カペラ詳しいね。もしかして、昔はカペラも心を射貫かれたとか?」

「ふむ……かもしれませんね。妻には内緒でお願いします」

「え……」

冗談で言ったつもりが、彼は少し思い出すように思案すると真面目な様子で呟いた。

予想外の反応に、僕はまるで鳩が豆鉄砲を食ったように面食らってしまう。

しかし、そんな僕の表情を見たカペラは、真面目な顔を崩して笑みを溢した。

「ふふ、リッド様。冗談ですから、本気になさらないで下さい。私とエルティア様は、昔同じ組織で任務に勤めていた……ただそれだけでございます」

「そ、そうなんだね。あはは、ごめんね変なこと聞いちゃって」

僕は頷きながら、誤魔化すように苦笑する。

そして、この話題に触れることは止めた。

エルティアとの会談が終わった後、僕は父上に視察の報告を行った。

その際、バーンズ公爵は僕が視察している間に、帝都に向けてレナルーテを出立したことを聞かされる。

ファラとの神前式と披露宴に加え、建設中の研究所の視察などレナルーテですべきことはほぼ終わった。

いよいよ、ファラを連れてバルディア領に向けて出発する日が間近となったのである。