軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

新屋敷

「はぁ……ありがたいことだけど、書類の量が増えてないかな」

「ふふ、第二騎士団の活躍の賜物でございます」

「ディアナさんの仰る通り、良い傾向だと存じます」

書類仕事をしながら僕がため息を吐くと、手伝ってくれていたディアナとカペラが微笑みながら答えてくれた。

僕は今、宿舎の執務室で事務仕事をしているけれど、次から次にやってくる書類の量が多すぎて困り顔を浮かべている。

一応、カペラと鼠人族の子達である程度、事前確認をした上でも、この山のような量だ。

カペラ達の助力がないとゾッとする量だと思う。

バルディア領とレナルーテとの会談が無事に終わると、バルディア第二騎士団はより忙しくなっていた。

木炭車で会談を行った国境地点まで移動。

そして、道をレナルーテの首都まで整備する事業を受注したからだ。

第二騎士団は、領内の道を整備する分隊、レナルーテの道を整備する分隊に分かれており、同時進行で作業している。

併せて、クリス率いるクリスティ商会によって木炭車の燃料。木炭補給所の整備も順調だ。

バルディア第二騎士団は、領内とレナルーテで目覚ましい活躍を上げており、領内における領民達からの依頼も多い。

その結果が、今僕の前にある書類の山というわけだ。

まぁ、愚痴を言っていてもしょうがない。

僕は目の前の書類をどんどん片付けていく。

やがて、書類の山が消えてようやく終わったという時に、ディアナがスッと一枚の書類を僕に向け差し出した。

何の書類かな?

思わず怪訝な面持ちを浮かべて受け取った僕は書類の内容を確認する。

そして、ハッとしてディアナに視線を向けた。

「ディアナ……これ、本当?」

「はい、間違いございません。新しいお屋敷が間もなく完成するとのことで、リッド様に是非ご覧頂きたいということです」

ディアナは僕の視線にニコリと微笑んだ。

そう、彼女が僕に差し出した書類の中には、ファラを迎えるにあたって建設していた新屋敷が完成間近。

一度、確認に来てほしいという内容のものだったのだ。

ファラをやっと迎えることができると思うと、僕は胸が高鳴り、思わず顔が綻ぶ。

僕の妻となる『ファラ・レナルーテ』はレナルーテ王国の王族に連なるお姫様だ。

マグノリア帝国とレナルーテ王国が同盟を締結する際に交わされた密約。

それにより、彼女は生まれてすぐにマグノリア帝国の皇族もしくは順ずる貴族の元に『人質』として嫁ぐことが決められた。

国同士の繋がりによって運命に翻弄された彼女は、様々な思惑が絡み合った結果、奇しくも断罪の運命に立ち向かっている僕と婚姻することになったというわけだ。

しかし、ファラと僕が婚姻する情報は前世の記憶には無い。

だけど、僕は彼女を……ファラを妻として迎えられることをとても嬉しく思っている。

勿論、彼女に魅了されている事も大きいけど、ファラとの婚姻が決まってからバルディア領とレナルーテはより一層友好的になっている。

その結果、交易の取引量は以前より大幅に増えているのだ。

まぁ、クリスティ商会の活躍も大きいとは思うけどね。

先日行われた会談で締結が約束された『特別辺境自由貿易協定』についても、バルディアとレナルーテの物流が大きくなっている現状が当然判断材料の一つになっている。

結果的ではあるけれど、僕とファラの婚姻は様々なところに福を招いてくれていると思う。

さすが、母上お気に入りの『招福のファラ』だ。

彼女の『招福』の由来は、感情に応じて耳が動いてしまうダークエルフが珍しいことに起因している。

実は、耳が動くダークエルフは珍しい為、幸運を呼び込むとしてレナルーテにおいては『招福の象徴』として喜ばれるそうだ。

そして、僕の妻となる『ファラ・レナルーテ』は感情に応じて耳が動く『招福の象徴』とされるダークエルフに当てはまる。

何故か、本人は秘密にしているみたいだから、気付いてはいるけど僕は知らないふりをしているんだけどね。

レナルーテにいるファラに、思いを馳せた僕は表情を引き締めた。

「よし、さっさと終わらせて新屋敷を見に行こう」

やる気に満ちた僕は、仕事をさっさと終わらせようと張り切るのであった。

「改めて見ると、やっぱり大きいね」

事務仕事を終わらせ、新屋敷の前に移動した僕が感嘆の声を漏らすと傍にいたディアナが笑みを浮かべる。

「はい。ファラ様は王族故に、迎える為にはある程度の大きさは必要かと存じます」

「リッド様とファラ様の両名が過ごしやすいよう、レナルーテとマグノリアの文化を組み合わせている部分も多くございます。お屋敷が想定より大きくなったのは、その点もあると存じます」

彼女の言葉に、カペラは補足するように説明を付け加える。

確かに彼の言う通り、新屋敷は想像していたものよりかなりでかいのだ。

それというのも、ファラを迎える新屋敷は僕が今過ごしている本屋敷より敷地も広いし、建物自体も大きい。

ここまで大きくなったのはいくつかの要因がある。

一番の原因は僕がファラや彼女の専属護衛であるアスナ、他にも屋敷の皆の様々な意見を取り入れたからだ。

ファラからは、レナルーテの文化的な部屋に加え温泉。

アスナからは、何故か屋内訓練場という名の『道場』である。

訓練場に関しては、どちらにせよ用意するつもりだったから『道場』も建設を要望することは問題ないだろうと、ダメ元で申請をしたら通ってしまった。

その為、屋敷の敷地内には屋外訓練場と屋内訓練場(道場)が併設している。

そして、屋敷の皆から特に要望の大きかったのが、敷地内にあるメイド達が寝泊まりできる『メイド宿舎兼保育所』だ。

これはこの世界に於いて、中々な建物だと思う。

何せ、独身かつ新屋敷で働くメイドであれば誰でも住むことが出来る上に、食堂と温泉も完備。

既婚者かつ子供がいて働きたい人は、宿舎の中に『保育所』があるので利用すれば新屋敷の仕事を辞めずに済むというものだ。

施設はバルディア騎士団に所属する騎士の子供達も利用は可能にしている。

書類作業を進めて行く上で、すでに子供を保育所に預けることは可能だろうか? という問い合わせは来ているので関心は高いらしい。

新屋敷とメイド宿舎にある温泉に関しては以前、魔物のクッキーが掘り当てた源泉を引っ張ってきている。

折角だからドワーフのエレンに要望して、温泉をより楽しめるように『ある施設』も合わせて設計してもらう。

彼女に概要を説明した際には「……石と木炭ストーブでそんなことをしてどうするんですか」と懐疑的だった。

だけど、父上あたりとか喜ぶと思うんだよね。

エレンは首を傾げながらも、新屋敷を設計、建設している人達と協力して『その施設』を完成させたと聞いているから楽しみの一つでもある。

新屋敷を外から眺めて、感慨に耽っているとディアナから声を掛けられた。

「リッド様。そろそろ、お屋敷の中に入ってはいかがでしょうか」

「あ、そうだね。じゃあ、中に入ろうか」

僕は、彼女の問い掛けに頷くと新屋敷を視察していく。

新屋敷はともかく様々な要望を詰めていたから、色々と凄かった。

建物は三階建て、屋上や地下室もある。

広さ、豪華さも申し分ないと思う。

部屋数も多く、和室、洋室は勿論あるし、メイド室や執事用の執務室など働く人の為の部屋も完備。

庭の一部は、縁側と合わせて日本庭園風になっており、ファラが要望していた『桜』までちゃんと用意されている。

ちなみに、日本庭園風の部分はレナルーテの文化なのだ。

そして、最後に視察したのは僕とファラが過ごす部屋だった。

お互いの部屋は隣同士になっていて、部屋の一番奥には互いの部屋を行き来できる『ドア』が用意されている。

それぞれの部屋で鍵をかけておくことも可能らしい。

緊急時などに備えての作りだそうだ。

新屋敷をあちこち見ていると、時間はあっという間に過ぎてしまった。

しかし、その分しっかり見ることは出来たと思う。

僕は新屋敷の中にある執務室にて、一息つきながら呟いた。

「この新屋敷なら、ファラを迎えるのに格式的にも問題ないね」

「はい。マグノリアとレナルーテ、双方の文化をうまく取り入れております。もし、エリアス陛下を始めとしたレナルーテの要人を招いたとしても、全く問題ありません」

問いかけに答えてくれたのはカペラだ。

彼は、畏まった面持ちでペコリと敬礼する。

レナルーテ出身のカペラが言うのであれば、問題はないだろう。

いよいよ、ファラを迎える準備も整ったというわけだ。

その時、レナルーテでファラに別れ際に言った言葉を思い出した僕は、はにかみながら呟いた。

「さてと……やっとファラを迎えに行けるね」

こうして僕達の視察も終わり、新屋敷はいよいよ完成間近となるのであった。