軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

四方山話・とある施設のお試し

「リッド。何故、私が此処に呼ばれたのだ」

「あはは……今更ですね、父上。えっと、父上にも新しく開発した施設を体験して頂いて感想を聞かせて欲しいと思いまして……」

呆れた表情を浮かべ首を横に振っている父上に、僕は苦笑いをしながら答えた。

今、僕達はファラを迎える新しい屋敷の温泉に来ている。

ちなみに、僕も父上も前は隠しているけどお互いに裸だ。

ふと、呆れ顔をしている父上の体つきを見ると、体は細いけど筋肉がしっかりと付いている。

無駄な筋肉が無い、引き締められた体という感じだ。

「うん……どうした、リッド」

「あ、いえ。父上の体つきが立派だな、と思いまして……」

僕の答えが意外だったのか、父上は「そうか」と呟きながらも満更ではない雰囲気を醸し出している。

その時、僕達の後ろから豪快な声が掛かった。

「ライナー様、リッド様。本日は新しい施設の体験ということで伺いましたが、何をするのですかな」

「あ、ダイナス団長。来てくれてありがとう」

振り返ると、そこには全身が筋肉で覆われた豪快でタフガイな騎士団長。

その名もダイナスが生まれたままの姿で立っていた。

すると、彼の後ろからクロス、ルーベンス、ネルス、アレックスもやって来る。

彼らの中から代表するようにクロスが僕に話しかけてきた。

「リッド様。本日は、私共までお呼び頂きありがとうございます。しかし、この面々で何をするのでしょうか」

「ふふ、それはもうすぐわかるよ。アレックスは知っているけどね」

僕がクロスに答えると同時に、皆の視線がアレックスに集まる。

アレックスも、裸ではあるがさすがに前は隠している。

彼は照れ笑いを浮かべながら答えた。

「あはは……さすがに、騎士の皆さんがいるところに俺は場違いだと思うんですけどね。でも、仕組みは姉さんからも聞いていますし、俺も設計には加わったので今日はご一緒する次第です」

「なるほど。アレックスが来たのはわかった。しかし、リッド。何故、ダイナス達まで呼んでいるのだ」

アレックスの言葉に反応した父上は、彼に答えながら僕に視線を向ける。

僕は、父上と此処にいる皆に向かって微笑んだ。

「それは……父上と騎士の皆が好きそうな施設だと思ったからです。まぁ、とりあえずやってみましょう。アレックス、お願いできるかな」

「わかりました。俺も裸なので、もう一人の助手がすでに施設の準備をしてくれています。早速行きましょう」

首を傾げる父上と、楽しそうな笑みを浮かべるダイナス団長とクロス達。

そんな、彼らを先導するようにアレックスと僕は目的地の施設に移動する。

ちなみに、新しく開発した施設……それは『サウナ』だ。

サウナを開発した理由は、いつも父上に迷惑をかけている自覚がある中、前世の記憶で何か父上に良いものはないかな? と考えを巡らせた時、ふと思い出したのが『サウナ』だったからだ。

幸いにもストーブの熱源確保は木炭で持続的に可能だし、サウナストーンになる『石』はクリスティ商会を通じて手に入れることができた。

後は、仕組みをエレンに説明することで施設は案外簡単に建造することが出来たというわけだ。

施設の構造としては、木炭によるストーブで部屋とサウナストーンを熱する。

そして、熱せられたサウナストーンに『水』をかけ温度と湿度を上げるというやり方だ。

施設の外には、当然『水風呂』も用意されている。

今回の水風呂には、僕が氷の属性魔法で作った氷を入れて温度調整もしているので、かなり前世の記憶に近い『サウナ体験』が出来るのではないだろうか。

やがて、施設の前に辿り着くとそこには、防塵ゴーグルが目印である狐人族のトナージが待っていた。

彼は僕達に気付くと、スッと姿勢を正してペコリと会釈する。

「ライナー様、リッド様、騎士団の皆様、お待ちしておりました。こちらが、新しい施設の『サウナ』でございます。どうぞ、お寛ぎください」

「ふむ……『サウナ』か。初めて聞くがどのような施設なのだ」

父上は、トナージの言葉に頷きながら僕に視線を向けた。

僕は咳払いを行い『サウナ』についての説明を行う。

わざわざ暑い部屋で汗をかき、水風呂に入って、外気浴を楽しむ。

それにより、日頃の疲れが取れるという僕の説明に、この場にいる皆は懐疑的な表情を見せている。

しかし、百聞は一見に如かず。

ともかく体験して欲しいと、トナージを除いた皆で施設の中に入った。

「はぁ……暑いな」

「はい。それがサウナですからね。あと、この『石』に水をかけてより施設内を熱くするんです」

父上の呟きに答えながら、僕は説明を続ける。

そして、僕が水を柄杓でサウナストーンに掛けると、水の蒸発する音と同時に蒸気が部屋の中に漂い、施設内の気温がグッと上がった。

父上達は、施設内がより暑くなったことに怪訝な表情を浮かべる。

しかし少し時間が経ち、良い感じに各々で汗が出始めると、皆の表情が変わっていく。

やがて、父上が呟いた。

「ふむ……思ったより良いな」

「ええ、これは体の芯から温まる感じがします。温泉に浸かるのとは、また違いますな」

答えたのは、父上の隣に座っていたダイナスだ。

二人共、良い感じに汗を掻いている。

しかし、子供の僕にはそろそろ限界だ。

この場にいる皆を僕は見渡した。

「僕はもう限界なので、施設を出て水に浸かりますね。大人の皆さんはもう少し楽しんで下さいね」

その後、僕は一人で施設を出て『水風呂』に浸かろうとした。

しかし、子供の僕には知覚過敏かと言いたくなるほど冷たさを感じてしまい、桶にいれた水で体を流すのが精一杯である。

止む無く、体の汗を流すに留めて、外気浴を楽しむための椅子に腰かけた。

「ふぅ……子供の僕にはまだサウナは少し早かったかもなぁ」

独り言を呟きながら外気浴で体を休めていると、施設内からクロス、ルーベンス、ネルス、アレックスの四名が出てきて、すぐ横にある『水風呂』に次々に浸かっていく。

同時に彼らは、思い思いにうなるような声を出している。

やがて、体が冷えて落ち着いたのか僕がいる椅子のところにやってきた。

近くで見ると、彼らの表情は皆気持ちよさそうである。

とりあえずは成功かな? と思い、僕は笑みを浮かべて問い掛けた。

「ふふ、初めての『サウナ』はどうだった」

「いやはや、最初はどうかと思いましたが、これは良いですね」

「はい、私もクロス副団長と同意見です。よくこんな発想を生まれましたね」

僕の問い掛けに答えてくれたのはクロスとルーベンスだ。

すると、彼らに続くようにアレックスとネルスも感想を口にする。

「俺も、姉さんに聞いた時は何事かと思いましたけど、入ってみるもんですね。温泉とサウナのセットは素晴らしいと思います」

「私も同意見です。しかし、この施設は女性にも受けそうですね」

「一応、女性の温泉にも用意はしているんだけどね。まずは男性陣の意見を聞こうと思ってさ」

僕はネルスの言葉に答えながら、女性側の温泉施設がある方向に視線を向けた。

もっとも、壁があるので男湯からは当然見えないんだけどね。

ふとその時、父上とダイナスの二人がまだ出てこないことに気付いた僕は、クロスに向かって問い掛けた。

「父上とダイナス団長は? 長時間のサウナはあまり良くないんだけど……」

「そうなのですか? それでしたら、声を掛けてきますね。ライナー様とダイナス団長は、お互いに負けず嫌いですから」

クロスは僕の言葉に苦笑すると、サウナに向かう。

彼がサウナのドアを開けて声を掛けると、ダイナス団長と父上が悠然と出てきてそのまま『水風呂』に二人して浸かったようだ。

同時に、二人の清々しい感じの声が辺りに響く。

やがて、ご満悦な表情を浮かべた父上が、僕の元にやってきた。

「ふふ。父上、『サウナ』はお気に召しましたか?」

「うむ……これは思った以上に良いな。リッド、本屋敷にもすぐに建設するぞ」

父上の言葉に僕は驚きつつも、笑みを浮かべた。

「あはは、承知しました。では、すぐに手配しますね」

こうして、新しい屋敷に建設した『サウナ』は大好評に終わる。

程なくして『サウナ』を体験したルーベンス達の話を聞いたディアナを筆頭にした女性陣からも、ぜひ『サウナ』を体験したいという意見が出たのは言うまでもない。

その後、ディアナ、エレン、クリス、ダナエを含むメイドの皆にも『サウナ』を体験してもらい、概ね大好評に終ったのだ。

その中でも、クリスが興奮気味に感動していたのがとても印象的だった。

「温泉は源泉が要りますが、『サウナ』は石、水、木炭があれば建設できる……これは新しい商売の予感を感じます。リッド様、この施設も売っていきましょう‼」

「う、うん。わかった」

クリスの勢いに押され、僕は『サウナ』という施設の販売も手掛けるようになるのであった。

その後、クリスティ商会とサフロン商会を通じて、バルディア領発祥として『サウナ』なるものが世に広がっていくことになるのだけど、それはまた別のお話……。