軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

屋敷にて・ライナーに報告とダナエの意外な才能

「母上……ありがとうございました」

僕は、すすり泣いていたけど落ち着いてきたので、母上の胸の中から抜け出して会釈する。

しかし、母上に甘えていた事の気恥ずかしさから、顔は耳まで真っ赤になっていた。

そんな僕を見て、母上はどこか嬉しそうに微笑んでいる。

「ふふ、いいんですよ。どんなに強がっても、貴方はまだ子供なんです。いつでも、私達に弱音を吐いてよいのですから、抱え込む必要はありません。良いですね?」

僕はニコリと微笑んで答える。

「はい、その時はまたご相談致します」

母上の胸の中で気持ちを吐露したら、僕の中にあった不安は不思議と消えていた。

母上の言う通り、僕に出来ることは、前を見て胸を張り進むことだけだ。

ならば、獣人の子供達を導き、母上を救い、必ずバルディア領を守れるようになってみせる。

決意を新たにしたその時、部屋のドアがノックされガルンの声が響く。

「リッド様、ライナー様がお呼びでございます」

「わかった。すぐに行くよ」

僕は、少し大きめの声でドア越しにガルンに答えると、母上に振り返る。

「母上、では行ってきます」

「はい、いってらっしゃい。それと……父上にも貴方の気持ちを素直に話しなさい。貴方は、少し抱え込み過ぎるところがありますからね」

母上は少し心配そうな面持ちで言葉を紡ぐが、最後はニコリと微笑んだ。

僕は母上の目を真っすぐ見据えて笑みを浮かべる。

「はい、そうしてみます。あ、それから、いずれ獣人の子供達もご紹介いたします。本当に面白い子が多いので、母上も気に入ってくれると思います」

「ふふ、わかりました。その時を楽しみにしていますね」

僕は返事に一礼すると部屋を出る。

そして、部屋の外で待っていたガルンとディアナと共に父上がいる執務室に向かうのであった。

「父上、よろしいでしょうか?」

「うむ、入れ」

僕は丁寧に執務室のドアを開けて部屋の中に入る。

ガルンやディアナも一緒だ。

父上は机に座り事務作業をしていたようだが、僕達が入室すると作業の手を止めた。

そして、僕を一瞥してから、ガルンに視線を向ける。

「ガルン、紅茶を頼む。リッド、お前はどうする?」

「はい、僕も頂きます」

「承知致しました。では、ご準備して参ります」

ガルンは一礼すると執務室を後にした。

父上はガルンが部屋から出て行くと、机から立ち上がり、いつものソファーに座るように僕達に声を掛ける。

僕は頷くと、父上と机を挟んで対面上のソファーに腰を降ろした。

父上は厳格な面持ちで、今は父親ではなく『領主』という感じが強い。

「受け入れ作業は、順調に進んだとダイナスから聞いている。だが、確認の意味でお前の口からも話を聞きたい。報告してもらおう」

「畏まりました。では……」

その後、馬車での荷受けから大会議室までに起きた出来事を順番に話していく。

鳥人族の『強化血統』や兎人族や猫人族達の『悪態』など包み隠さず、『鉢巻戦』についても伝えると、父上は眉間に皺を寄せる。

「ダイナスからの報告とも大差はないな。しかし、『鉢巻戦』とやらをする必要は本当にあるのか? 立場をわからせる為に、わざわざお前が出るまでもないだろう」

「父上、お言葉を返すようですが、僕が出ることに意味があるのです」

「ほう。ならば、どういう意味があるのか……説明してもらおうか」

父上は眉間の皺を緩めて、鋭い眼光を光らせる。

その様子から、僕は明らかに試されていると感じた。

負けるものかと、父上の鋭い眼光を真っ向から見据えて言葉を紡ぐ。

「獣人の子供達も、自分達が恵まれていることにはすでに気付いているでしょう。ですが、それでも『獣人』であることの『誇り』が彼らの中には必ずあります。僕が、その誇りを満足させるに値する存在であること示した時、彼らは本当の意味でバルディアに仕えてくれると存じます」

「……彼らの誇りはそんなに大切なものか?」

「父上もわかっておられるのでしょう? 自身の誇りを汚す相手に、誰が心を許しましょう。人は皆、己の誇りを重んじる相手に畏敬の念を抱くものと存じます。その為に、あえて私は彼らの土俵で挑戦を受け、その思いに応えるつもりです。無論、負けるつもりはありません」

言い終えると、父上は黙ったまま僕を鋭い眼光で射貫いてくる。

僕はその眼光に怯まず、力強く見つめ返す。

そして、少し静寂が訪れたのち突如、ガルンの声が部屋に響いた。

「ライナー様、リッド様、紅茶をご用意致しました」

「うむ……」

「ありがとう、ガルン」

紅茶の入ったティーカップが、僕と父上の前に置かれていく。

父上は、ゆっくりと目の前に置かれた紅茶に手を伸ばし一口飲むと、鋭い眼光を光らせ、重い声を部屋に響かせた。

「そこまで言うのであれば、よかろう。ならばお前は、バルディアの名を継ぐ者として毅然と迎え撃て。『鉢巻戦』が彼らの挑戦というのであれば、容赦はするな。それから……負けることは許されんぞ」

「……はい、承知しました」

あまりの威圧感に僕は気圧されそうになるが、丁寧に頷き答えた。

父上は、僕の言葉を聞き終えると、表情を緩める。

そして、呆れた面持ちでため息を吐いた。

「全く、ダイナスからは聞いていたが、『鉢巻戦』とは相変わらず型破りなこと考える。他に、報告はあるのか?」

「あ、はい、あります。実は、狼人族の子供に母上と同じ『魔力枯渇症』を患った子がいました」

『魔力枯渇症を患った子供』と聞いた途端、父上の顔が今までで一番と言えるほど険しくなった。

「それで……どうしたのだ」

「当然、母上と同じ治療を施すよう指示を出しました。勿論、それだけではなく『治験』にも積極的に協力してもらうつもりです。母上には、すでに了承も頂いておりますのでご安心下さい」

「……」

僕はあえてニコリと微笑みながら伝えたが、父上は聞き終えると眉間の皺を片手で揉みながら天を仰ぐ。

少しの間を置いて父上は僕に鋭い視線を向けた。

「リッド……お前の気持ちはわからんでもない。だが、薬の原料となる薬草の問題は解決しておらん。お前がそれは一番知っているだろう? 治験への協力を必須にしたとしても、判断としては適切とはいえん。結果的にナナリーとその子供、共倒れになる可能性もあるのだぞ」

「わかっています。ですが、目の前にある命を救うことに理由は必要ありません。それに、狐人族が思った以上の人数で来てくれたことで、早期に解決できる道筋もみえたと存じます。あと、獣人の子を助けないという判断をしたことを母上が知れば……思い悩み悲しむと考えました」

父上は聞き終えると眉間に皺を寄せ、思案顔で俯き首を横に振ってから僕を見据えた。

「ふぅ……早期に解決できる道筋がみえた、と言ったな。ならばそれを、最優先で進めろ」

「承知しました」

僕は頷きながら答えるが、父上は厳格で険しい表情を浮かべたまま言葉を続ける。

「リッド、お前は『バルディアを継ぐ者』だ。いずれ、『命の天秤』を扱う時が来るだろう。その時に、今回のような判断はできん。お前は賢い、この言葉の意味はわかるな」

『命の天秤』それは、様々な状況に置いて、人の命と結果のどちらかを選ばないといけない状況のことだろう。

バルディア領は辺境であり、隣国と国境の領地だ。

将来において、隣国のどこかと戦争にならないとは言えない。

こちらにその気が無くても突然武器を持ち、襲ってくる相手が現れることもある。

その時、僕達は国と家族を守るために戦うだろう。

それが貴族としての責務でもある。

「はい。その時は……決断致します。ですが、それでも可能な限りの事はしたいと思います」

「わかった……今は、これ以上言わん。だが、今回の件は『救うという決断』をした以上は半端なことは許さんぞ」

父上から鋭く釘を刺された僕は、力強く視線で答え静かに頷くのであった。

その後、父上に細かい報告とガルンの淹れてくれた紅茶を飲み終えた僕は、ソファーからゆっくり立ち上がった。

「父上、報告は以上になりますので、今日はこれにて失礼致します」

「うむ……リッド、そのなんだ……」

父上は少し決まり悪そうにで、僕に視線を向けている。

意図がよくわからず、僕がきょとんとしていると父上は言葉を続けた。

「あー……困った事があれば、相談しろ。それだけだ」

「は、はい、父上。ご心配おかけして申し訳ありません。ありがとうございます」

僕はその場でペコリと一礼をして、顔を上げると父上は咳払いしながら表情を隠すよう紅茶を口にしていた。

さっきの決まりの悪い顔は照れか、恥ずかしさから来るものだったのだろう。

そんな父上の様子に僕は微笑しながら執務室を後にした。

「リッド様、よろしいでしょうか?」

執務室を出ると、追いかけるように声を掛けられて僕は振り返った。

「あれ、ガルンどうしたの?」

「メルディ様に、リッド様のお部屋に行くようお伝えして問題ないでしょうか?」

そうだ、メルが僕と話したいと言っていたんだっけ。

恐らく、獣人の子供達のことが気になっているのだろう。

メルも獣人の子供達には興味津々で、受け入れ作業に立ち会いたいといっていた。

さすがに、僕も父上もそれを了承することはできず、メルはそっぽ向いて膨れていたのだ。

「そうだったね。うん、大丈夫だよ」

「承知しました、メルディ様もお喜びになると思います」

僕が頷いて答えると、彼は嬉しそうにニコリと微笑んだ。

すると、僕達のやりとりを見ていたディアナが咳払いをする。

「それでしたら、私がメルディ様を呼んで参ります。ガルン様は、ライナー様の補助があると思いますので……」

「わかった。じゃあその時、メルに遅くなってごめんとも伝えておいてもらえるかな」

「承知しました」

彼女の提案に僕が頷き答えると、ディアナは一礼してその場を後にする。

ガルンは僕に一礼すると、そのまま執務室に戻っていく。

僕は、皆と別れると、一人思案顔を浮かべ『ある事』を考えながら自室に戻る。

そして、部屋にある鏡の前に立つと、色んな表情を浮かべて呟いた。

「うーん、やっぱり、もう少し怖い感じを出せた方がいいと思うんだよね……」

僕は、良く皆に『可愛い顔で素敵です』と言われる。

勿論、言われないより言われるほうが嬉しい。

それに、母上に似ているという意味でもあるみたいだから、悪い気は全くしないんだけどね。

だけど、ディアナから『誰にでも優しくて素敵だけど、相手を勘違いさせることもある』と指摘を受けた。

それに、猫人族のミアから初対面で『女みたいな顔』とも言われている。

ならば今度行う鉢巻戦の時だけでも『畏怖される僕』を演じたほうが良いかもしれない、と思ったわけだ。

鏡を見ながら色んな顔をしていくうちに、ある事に気付く。

「うーん、少し怖い顔をすると、目力は父上に似ている気がするんだよね。この顔で、後は怖い雰囲気を纏えばいけるかな?」

その時、僕の中にある閃きが生まれた。

前世の記憶にある色んなアニメ、映画、ゲームなどに出てくる『悪役』を模倣すれば良いのではないか? きっと、メモリーにお願いすれば映像を含めて色々と勉強できるはずだ。

思い立った僕は早速、彼を呼び出す。

「メモリー……メモリー、聞こえる?」

「聞こえているよ。それから、君が考えている事はわかっているけど……そこまで、気にしなくてもいいんじゃない?」

彼の声には少し呆れたような感情が宿っているようだ。

とはいえ、『鉢巻戦』において父上からも、『毅然と迎え撃ち、容赦はするな』と言われている。

ならば、その態度を僕も周りに見せる必要があると思う。

やると決めたら徹底するべきだ。

「ありがとう。でも、『鉢巻戦』においては獣人の子供達と父上に『毅然とした態度』見せる必要があると思うんだよね」

「うーん。リッドの言う『毅然とした態度』と、皆が思っているそれはちょっと違う気がするけどねぇ。ま、面白そうだし手伝うよ。じゃあ、君の前世の記憶にある色んな作品から悪役を調べてみるね」

「悪いけど、よろしくね」

メモリーとの会話が終わると僕は、再度鏡の前でにらめっこを始める。

そして、記憶にある悪役のセリフを呟いてみた。

「……僕の魔力量は五三万です」

「なにいってるの? にいさま」

「うわぁあああああああああああああああああ⁉」

突然の声に、僕は思わず大声を出しながら鏡の前から飛び退いた。

声のした方向に振り返ると、そこにはきょとんとした顔を浮かべているメルに加えて、彼女の近くにはクッキーとビスケットもいる。

それと……何かを必死に堪えているダナエとディアナが立っていた。

「び、びっくりした……メル、部屋を入る前にはノックをしなきゃダメでしょ⁉」

「えぇ⁉ したけど、へんじがないからふたりにもかくにんしてはいったんだよ?」

メルに言われて、ディアナ達に視線を向けると二人と二匹は示し合わしたように首を縦に振っている。

さっきの様子を見られたのだろうか? 僕は、恐る恐るメルに尋ねた。

「あの……ちなみにさっきの言葉聞いてたの?」

「うん。にいさま、『まりょくりょうごじゅうさんまんです』ってなんのこと?」

「……⁉」

僕が、恥ずかしさで耳まで真っ赤になるほど顔を赤らめた事は言うまでもない。

その後、僕はメルとディアナ、ダナエに先程までしていたことについて、恥ずかしながら説明をすることになった。

メルは、目を輝かせて「おもしろそう‼ にいさま、わたしもてつだうね‼」とノリノリだ。

ダナエは、相変わらず必死に何かを耐えているみたい。

クッキーとビスケットは欠伸をしながら、その場で寝転んでいる。

ディアナは僕の説明を聞き、何やら呆れ顔を浮かべていた。

「はぁ……お伝えしたかった意味が違いますが……まぁ、良いでしょう」

「ん、ディアナ……何か言った?」

彼女が何か小声で呟いたようだが、うまく聞き取れない。

何を言ったのだろうか?

気になったので尋ねてみたところ、彼女は小さく首を横に振った後、ニコリと微笑んだ。

「いえ、何でもございません。ですが、今後の事を考えても、獣人の子供達に畏怖の念を抱かせるようなお姿をリッド様が示すのはありかもしれません」

「あ、やっぱり、ディアナもそう思う? 普段だと洒落にならないから『鉢巻戦』の時だけなら、僕も皆も笑い話で済むと思うんだよね」

ディアナの目には、何やら怪しい光が灯っているような気もしないでもないけど……。

その時、メルが僕達に向かって尋ねた。

「ねぇねぇ、にいさま、いふのねんって……なぁに?」

「え? えっとね、畏怖の念っていうのは『おそれおののく』ってことなんだけど、わかりやすく言えば、怒って怖い顔をした父上には皆が恐ろしくて震える……みたいな感じかな」

「……ブハッ⁉」

説明が何かのツボに入ったのか、何かを堪えていたダナエが噴き出した。

そして、ディアナも僕に背中を見せて肩を小刻みに震わせている。

僕も例えが正しいとは思わないけど……君達、失礼じゃないかな? と思ったその時、メルがパァっと明るい表情を浮かべた。

「つまり、にいさまがちちうえのように、こわいかおをみんなにみせておこればいいってこと?」

「う、うん。そんな感じかな。でも、本当に怒るわけじゃないよ? 絵本を読んだりするときみたいに『演技』する感じかな」

メルは僕の話を聞くと、可愛らしく思案顔を浮かべながら俯いて何かを考え始める。

そして、何やら閃いたようでパッと顔を上げた。

「えんぎなら、ダナエがすっごいじょうずだよ‼ えほんでわるいひとがでてきたとき、すっごくこわいもん」

「え、そうなの?」

思わぬメルの一言で、僕達の視線がダナエに集まる。

彼女は突然の指名に驚きの表情を浮かべて、顔の前で手をバタバタしている。

「と、とんでもないです‼ えーと、弟妹達と良くごっこ遊びをしていたので、その延長で……」

「へぇ、ダナエには弟妹がいるんだね。でも、折角だからダナエの演技を見せてもらっても良いかな?」

「えぇええええ⁉」

ダナエは驚愕して悲鳴のような声を上げる。

しかし、僕達の目に宿る興味には勝てないと悟ったのか、観念したように俯くと「一回だけですよ……」と呟き演技を披露してくれることになった。

僕は、早速ダナエに演技して欲しいイメージとセリフを伝える。

「えぇ、なんですかそれ、意味不明ですよ……」

「いいから、いいから、お願い」

「はぁ……もう、本当に一回だけですよ?」

僕の説明を聞いたダナエは、深呼吸をして集中する。

そして、人を見下すような冷たく高圧的な悪人顔を浮かべ、鋭い眼光を光らせながら吐き捨てるように呟いた。

「ふん……魔力量たったの五……ゴミめ……」

思っていた以上に役に入ったダナエの姿に、僕は思わず感嘆の声を漏らした。

「おぉ、うまい‼ ダナエ、凄く上手だよ‼」

「確かに……言っている事は意味不明ですが、演技としては素晴らしいと思います」

「ね、ね、ダナエじょうずでしょ⁉」

僕達は、ダナエの新しい側面に感激して、拍手喝采を彼女に送る。

ダナエも満更ではないようで照れながら、嬉しそうな表情を浮かべていた。

「そ、そんなに褒められるほどのことでは……」

「ね、ダナエ。また別の演技をお願いしても良い?」

「え、またですか⁉ ま、まぁ、別にいいですけど……」

その後、僕達はしばらくダナエの一人芝居、名目『悪役劇場』を堪能する。

そして、『鉢巻戦』に向けて、僕がダナエによる悪役演技指導を受けることが決まったのであった。