作品タイトル不明
番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その55
一時間で落とすつもりだったが、開始五分ほどでイカ頭は泣きを入れ始めている。
予想以上に根性がないことに驚いたが、笑いで苦痛を味わうのは初めてなのだろう。
「あーはっはっはっ! ひゃー、ふっひゃっひゃ! やだ! あーはっはっ、やめれ! もう降参するって、ひっひゃっひゃ!」
「ん? 何を言っているか聞こえないな」
「やだー! ふっひゃっひゃ! しんじゃうからー! あっはっはっはー!」
体の構造が人間と同じようで、くすぐったいと感じる場所が全く同じ。
俺は人体について人よりも詳しいこともあり、くすぐりに強い相手でもくすぐることができる。それも、ほぼ無限に。
「降参って言っているのか? ちゃんと『降参します、従魔にしてください』と言わないと止められないな」
「降参! ひゃーはっはっ! まいった! うー、ひゃっひゃっひゃ! ――たすけてー!」
「従魔になります――はどうした?」
「なる! なるから! あーはっはっは! 従魔になる! ひー、あっひゃっひゃ!」
「じゃあ、それを続けて言ってくれ」
「手を止めてくれないと、うー、あっはっはっはー! 無理だからー! うー、はっはっはー!」
それからさらに五分ほど擽り続けて、ようやく解放した。
イカ頭は笑い疲れてぐったりしており、一切の元気を失っているように見える。
「……はー、はー。ゆ、許さない」
「許さない? もしかしてまだ懲りていないのか?」
「――じょ、冗談だから! 従魔になるからもうやめて!」
反抗的な目を向けていたが、手をワキワキとさせると即座に降参を訴えてきた。
しっかり心を折ることができただろうし、従魔の儀式を行おう。
自ら従魔になると言っているし、形式的な手続きだけで済みそうだな。
「お、お前、従魔の儀式を知っているのか?」
「もちろん。従魔になると言ったんだから、従魔になってもらうぞ」
笛を取り出し、教えてもらったように吹いてみた。
イカ頭は逃げ出す素振りを見せていたものの、笛の音を聞いた瞬間に動きが止まった。
動きを止めたイカ頭の口に丸薬を入れ、さらに笛を吹き続ける。
どこで従魔となるのか分からなかったため、結局五分ほど吹き続けた。
「どうだ? 従魔契約はできたか?」
「まさか従魔の儀式を知っているとは思わなかった。……不服ではあるが、お前の従魔になった」
「そうか。それなら良かった。早速、名前をつけないといけないな」
「名前はいらない。私にはノナゴントリサグースカという名前がある」
「長いし呼びづらい。お前は今日からエンペラだ」
「嫌だ。私はノナゴントリサグースカだ」
「俺のことはジェイドと呼んでくれ」
「私はノナゴントリサグースカだぞ」
自己紹介を続けてくるが、俺は無視して話を進める。
先の戦いでは時空間魔法を使ってこなかったから、本当に時空間魔法を扱えるのか試さないといけない。
「エンペラ、一つ聞きたいが時空間魔法は使えるのか?」
「エンペラではなく、ノナゴントリサグースカだ。ん? 時空間魔法は使えないぞ」
時空間魔法が使えない?
そうなると、ここまでの全ての時間が無駄に終わっただけでなく、エンペラを従魔にした意味もないことになる。
俺が愕然としていると、エンペラは続けて言葉を発した。
「時空間魔法は使えないが、空間魔法なら使えるぞ」
「……ん? それって別ものなのか?」
「時空間魔法は文字通り時空を操作する魔法。私が使えるのは空間魔法であり、全くの別物だ」
そんなことも知らないのかという態度に若干苛立ちを覚えつつ、空間魔法が使えるなら問題ないと安堵する。
残る問題は使い勝手と容量だ。
「空間魔法が使えれば十分だ。物を運んでもらいたいんだが、空間魔法にはどれくらい物を収容できるのか教えてくれ」
「まさか私を従魔にしておいて、鞄代わりに使う気なのか!」
「いいから容量を答えてくれ」
「……ジェイドを十人くらいは運べるだろうな」
俺十人分か。
想像していたより容量は少なかったが、積載量は800キロと考えれば十分だな。
「分かった。これからよろしく頼む」
「私に何をさせるつもりだ? 従わされたが、もし酷いものであれば自死を選ぶからな」
「酷い扱いはしない。週休二日は約束するし、基本的には鞄の代わりになってくれればいい」
「やはり鞄代わりに使う気なのか! ……まぁでも、それだけで済むなら悪くはないか?」
「給料もしっかり出す。長い年月生きるのなら、気分転換くらいに思って手伝え」
首を傾げているエンペラにそう告げ、とりあえず旧聖地を後にすることにした。
エンペラも住処として使いやすかったからこの場所に留まっていたらしく、特に制約があるわけではないとのことだ。
縛られているなら面倒だと思っていたが、旧聖地ドルミノにいなくてはならないというような決まりがなくて良かった。
俺の従魔として王都を拠点にしてもらうとして、まずは気配の消し方から学んでもらわないといけない。
エンペラがいると、それだけで居場所を知らせているようなものだ。
面倒ごとに巻き込まれないように、俺と共に過ごすのであれば気配を消すのはマストだ。