軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その56

旧聖地ドルミノを後にし、そのまま真っすぐヨークウィッチへと帰ってきた。

エンペラは俺のバッグにすっぽりと収まっており、久しぶりのドルミノの外を満喫している様子だ。

「ここが、俺が拠点にしている街だ。面倒くさいことになるから、バッグの中から出てくるなよ」

「言われなくても出るつもりはない。それにしても……すごい数の人間だな」

「そりゃ人間の街だからな」

興味深そうに人を眺めているエンペラをバッグの中に押し込み、入門検査を受けてヨークウィッチの中へと入る。

俺はギルド長であるエイルのお墨付きがあるうえ、ヨークウィッチで一番と言っても過言ではない道具屋を営んでいることもあり、形式的な検査しかされない。

とはいえ、しっかり検査される可能性もあるわけで、エンペラがバレないかヒヤヒヤしていたが、いつもと同じように挨拶だけで中へと通してもらった。

ホッと胸を撫で下ろしつつ、とりあえず『シャ・ノワール』に戻るとしよう。

「ジェイドさん、おかえりなさい! 今回は手ぶらなんですか?」

「ああ。伝えていた通り、営業はしないからな。商品調達もしてきていない」

「そうだったんですか! あっ、そうだ! 売り上げの集計が出ましたよ! 先週が過去一番の売り上げでした!」

エレーネはそう嬉しそうに伝えてきた。

俺も売り上げた手応えはあったが、過去一の売り上げを叩き出すことができたか。

これまでの最高額は、フライレイクファルコンとアルデンギウスを売った週。

おまけでアルデンギウスを狩ることができたため、その週はとんでもない売り上げを叩き出すことができたが、それ以上の売り上げを出せたとは驚き。

「それは良かった。エレーネもよく頑張ってくれたな」

「いえ! スタナさんがサポートしてくれるので、私一人では全然戦力になってないです!」

「いや、スタナの負担は大きく減っているし、エレーネの力が大きい。過去一の売り上げも叩き出せたことだし……エレーネにもボーナスを渡す」

「そんなそんな! ボーナスなんていらないですよ! 無理を言って週四で働かせてもらっていますけど、実質では週二でしか働いていませんから! 追加報酬なんて分不相応です!」

全力で拒否してきたエレーネだが、俺は無理やり金貨を握らせた。

実質的な稼働は週二と言っているが、在庫管理に経理まで担ってもらっているからな。

まぁこの店は在庫がないし、支出はエレーネとスタナへの給料と家賃くらいだから、売り上げの計算だけだが。

「とりあえず受け取っておいてくれ。分不相応だと思うのであれば、これから頑張ってくれたら嬉しい」

「むむむ……。ジェイドさん、ありがとうございます! この好待遇に応えられるように頑張ります!」

両手をグーにし、気合いを入れてくれたエレーネ。

ヴェラとは違い、素直で非常に良い子だ。

「…………おい。もう出てもいいか?」

「え? え!? どこからか声が聞こえます!」

俺とエレーネの会話に割って入ってきたのは、もちろんエンペラ。

バッグの中で大人しくしてくれていたが、もう我慢ができなくなったようだ。

「エレーネ、落ち着いてくれ。この声の主は俺たちの新しい仲間だ。……エンペラ、出てきていいぞ」

俺が許可を出すと、エンペラはバッグからゆっくりと這い出てきた。

頭のイカ足に驚いたエレーネだったが、エンペラの見た目が可愛いからか、早くも警戒心を解いている様子だ。

「この子が仲間なんですか? 一瞬、怖そうだと思いましたが……可愛いですね!」

「おい、人間。近づいてくるな」

「エンペラ、手はあげたら駄目だからな」

イカ足を上にあげて威嚇しているエンペラに忠告する。

口調は未だにぶっきらぼうではあるが、ちゃんと従魔ではあるようで、不服そうな表情ながらもイカ足を下げた。

そして、その瞬間――。

エンペラはエレーネに抱きつかれた。

「うへー、可愛いです! 頭のはヌルヌルかと思っていましたが、モッチモチで気持ちいいですね!」

「おい、抱きつくな! 離せ!」

最初は拒否していたエンペラだったが、言っても無駄だと悟ったようで、エレーネに身を委ねた。

「全くなんなんだ。……ジェイド、抱きつくのを止めるように言え」

「しばらくは諦めてくれ。ということで、エレーネ。これからエンペラとも仲良くしてやってくれ」

「もちろんです! エンペラちゃん、よろしくお願いしますね!」

「よろしくお願いしたいなら、まず離せ」

ぶーぶー文句を言っているエンペラだったが、そこから三十分ほどは抱きつかれたままだった。

俺はその間に荷物の整理をし、そろそろエンペラを助けてあげることにした。

「エレーネ、そろそろ離してやってくれ。従魔登録をしに行かないといけないんだ」

「えー……。もう少しギュッとしていたかったですが、用事があるなら仕方がないですね」

「はぁー、やっと解放された。……ジェイド、丁重に扱うように言ってくれ」

エンペラはやれやれ顔をしているが、抱っこされながら撫でられることに、後半はまんざらでもなさそうにしていた。

それに扱いが雑な方が、これから馴染みやすいだろうし、エレーネにはこれからも変わらず接してもらおう。

俺は心の中でそんなことを考えながら、エンペラの従魔登録をするため、冒険者ギルドへと向かうことにしたのだった。