軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

番外編『ジェイドの道具屋繁盛記』 その54

時空間魔法を扱う凶悪な魔物が、まさかこんな可愛らしい見た目の魔物だとは思っていなかった。

それだけにやりにくさしか感じないが……今はそんなことを言っている余裕はなく、この状況を脱しないといけない。

まずは指先から動かしてみようとするが、全く反応しない。

腕を枕にして寝たときに痺れる感じがあると思うが、あれを数十倍酷くした状態といった感覚だ。

全身がその感覚で、いくら俺でも動けなければ戦いようがない。

近づいてくるイカ頭に若干焦りを感じつつ、こうなったら力技で打開を試みるしかなさそうだ。

俺は火属性魔法を唱え、自分の腹部にぶつけた。

痛みすら感じなかったら大分まずかったが、焼けるような痛みのおかげで徐々に自分の体を認識できるようになってきた。

更に追撃で焼いた箇所に爪で抉り、力技で金縛りを解いた俺は、すぐに腹部に回復薬をかける。

今のは中々危機的な状況だった。

無詠唱魔法を使えていなかったら、一方的に攻撃されていたと思うと怖い。

「金縛りを使えるとは凄いな。魔法の一種か?」

「……催眠魔法だ。解かれるとは思わなかったぞ」

独り言のつもりで呟いたのだが、まさかの返答があった。

頭がイカなだけで、顔は幼い人間っぽいから喋れても不思議ではないが、実際に会話ができるとやはり驚く。

「お前、会話ができるんだな」

「当たり前だろ。いきなり襲ってきて驚くな」

「なら、手っ取り早いかもしれない。なぁ、俺の従魔にならないか?」

「馬鹿が。誰が人間なんかに従うか」

可愛らしい見た目に反してハスキーな声。

口も汚く、内面は全く可愛くない。

「なら、力技で従わせてやる」

「金縛りを解いただけでいい気になるな。ぶち殺して臓物を啜ってやる」

そう言いながら、口が割れるんじゃないかと思うほど笑うと、頭についているイカの足が上へと上がった。

そんなイカの足の一本一本から魔力を放出しており、イカ頭の周囲に小さな氷の礫が浮遊し始める。

催眠魔法という変わった魔法だけでなく、ちゃんとした攻撃魔法も使えるようだ。

ただ、まともな手段で来てくれた方が俺としては戦いやすい。

上にあがったイカの足が振り下ろされたと同時に、無数に飛んでいた氷の礫が俺めがけて飛んできた。

無数に飛んでいるにも関わらず、氷の一つ一つが生きているかのように動いている。

催眠魔法からも分かっていたが、扱う魔法のレベルが段違いに高い。

もしかしたら俺が暗殺者として最後に殺した勇者たちよりも、このイカ頭の方が強いかもしれないな。

変則的な動きで襲い掛かってくる氷の礫を見ながら、俺は短剣を引き抜いた。

拳だけで戦う予定だったが、流石にこの数の氷の礫を避け切るのは不可能。

叩き斬れれば問題なく対処できるため、氷の礫には短剣で対処していく。

変幻自在に飛び回りながら攻撃してくる氷の礫だが、最終的に行き着く先は俺の体。

速度自体は速くないため、いくら変幻自在に動こうが、自分の周囲にだけ集中していれば問題なく対処できる。

イカ頭はこの魔法で俺を倒せると思っていたようで、全ての氷の礫を叩き斬ったことで驚愕の表情を見せた。

「お前、この魔法に対処できるのか? 一体、何者なんだ」

「それはこっちのセリフだ。催眠魔法といい、氷属性魔法といい、只者じゃないだろ」

お互いに相手のことを探る時間があったが、俺もイカ頭も何も答えず無言が続く。

両者ともに答えないということは、これ以上は時間の無駄だということ。

勝者のみが全てを聞く権利を得られるということで、俺は再び拳を構えた。

イカ頭もこれまで以上に目が本気になっており、さらに強力な魔法を放ってきそうな雰囲気がある。

従魔にするのであれば、真正面から受け止めて心をへし折りたいところだが……意味不明な魔法の対処は面倒くさい。

魔法を使わせる前に倒すことに決めた俺は、魔力を溜めているイカ頭に全速力で突っ込んだ。

常に本気は見せるなというのがクロの教えだったため、俺が最初から最高速で攻撃すること自体少ないが、今回ばかりは流石に例外。

足の筋繊維がブチ切れる音が聞こえるほどの力で、全力で踏み込んで一気に間合いを詰める。

対処されていたらまずかったが、流石のイカ頭も俺を目で追えていない。

ちょっと心苦しいが――俺はイカ頭の腹部めがけ、勢いそのままに突きをぶち込んだ。

これまでの攻撃とは違い、本気に近い一撃。

イカ頭の体の仕組みは分からないが、みぞおち付近を殴れば呼吸が止まるのは人間と同じようだ。

吹っ飛び、地面で悶え苦しむイカ頭の下へと向かい、俺は静かに声をかけた。

「降参するか? するなら助けてやるぞ」

「だ、誰が……人間なんかに助けを求めるか」

「なら、仕方がない。――さて、くすぐりは効くのかな?」

まずは縛り上げてから、俺はイカ頭を拷問することにした。

拷問といっても、くすぐり続けるという精神的に辛いもの。

俺は人体について知り尽くしているため、人間の体と構造が同じなら、死にたくなるほど笑わせられる自信がある。

問題はイカ頭にくすぐりが効くかどうかだが、くすぐりが効くのなら一時間も持たずに降参させられるだろう。

さて、イカ頭は俺のくすぐり地獄にどこまで耐えられるだろうか。