軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第224話 出立の日

翌日。

昨日は複雑な感情を抱えていたが、目覚めはスッキリしているし気持ちも完全に切り返ることができている。

ヨークウィッチを離れたくない気持ちは変わりないが、昨日のように落ち込んだ感じではない。

俺が手際よく問題を解決できれば、早くヨークウィッチに戻ってこられるというのも分かりやすいしな。

少しずつ意識を切り替えながら、フィンブルドラゴンの防具を見に着けていく。

角のアクセサリーも腕に巻きつけてから、ダンの店で買った短剣を腰に差して準備は万端。

……いや、昨日スタナから貰ったシルバーリングをまだ身に着けていなかった。

指輪をはめることなんてなかったため、常に身に着けるのはかなりの違和感があるのだが貰ったものだしな。

こうして常に身に着けていれば、いずれ違和感もなくなってくるだろう。

一番気になるところである、このシルバーリングの特殊効果については結局分からず終いだったが、まぁ大した効果ではないだろうしお洒落アイテムとして捉えればいいか。

シルバーリングをはめた拳を数回握り、これで完全に準備は完了。

ホルダーに入っているアイテムは昨日の時点で整理してあるため、後は本当に宿屋をチェックアウトするだけだ。

予想以上に早く準備が終わってしまったため、出発までの時間をソワソワとしながら潰してから、俺は部屋に一礼してから部屋を後にした。

お礼を伝えてから鍵を返し、外に出ると――雲一つないカラッとした晴天。

「出立するには最高の天気だな」

大きく伸びをしながら、気持ちの良い天気に独り言を呟く。

いつもは『シャ・ノワール』に向かう道を、今日は外に続く門を目指して歩みを進めた。

まだ早朝ということもあり人の少ない大通り。

屋根上ではなく下を歩いているのだが、あっという間に街の南にある門が見えてきた。

門の付近にはたくさんの人が見送りに来てくれているようで、見覚えのある人ばかり立っているのが見える。

まずは一番手前にいるエイルとマイケルから声を掛けよう。

「二人も見送りに来てくれたのか」

「ふぁーあ、こんな朝早いとは思ってなかったわ! 起きれるか分からなかったから、寝ずに来たんだぞ! 感謝しろよ!」

「ありがとう。出発前に顔が見れて良かった」

「私個人としても、冒険者ギルドとしてもお世話になったからね。見送りぐらいはさせてもらうよ」

「マイケルもありがとな。エイルの扱いで大変だろうが頑張ってくれ」

「私は慣れていますので大丈夫です。君の方こそ、これから大変だろうが頑張ってくれ」

「ああ。生きて戻ってこれるように頑張らせてもらう」

マイケルと握手と交わし、その流れでエイルにも手を差し伸べたのだが、そっぽを向いて手を握ろうとしない。

「おい、エイルも最後くらい握手してくれ」

「嫌だね! どうしても俺と握手してぇなら、早く戻ってこい! 戻ってきたら考えてやらないこともない!」

「……分かった。戻ってきた時は握手してもらうからな」

舌を出し無邪気に笑ったエイルにそう告げてから、俺は二人と別れて次の人達の下に向かう。

門の近くのいつもの位置にいるのは、テイトとトレバー。

二人も忙しい中、見送りに駆け付けてくれたみたいだ。

「ジェイドさん! 見送りに来ました!」

「わざわざありがとな。二人が見送りに来てくれるとは思ってなかった」

「絶対に来ますよ。私とトレバーの人生を変えてくれた恩人なんですから」

「そうです! 何があっても見送りに来てました!」

「そりゃ嬉しいけど、月一で軽く指導してただけでそこまでの恩を売った記憶はないんだけどな」

「その指導のお陰で僕は強くなれたんです!」

「私は指導以外にも色々と助けてもらいましたから」

拳を握り絞め、力説してくるテイトとトレバー。

この奥で待っているレスリーがニヤニヤしているのも見えるため、あまり大声で恥ずかしいことを言わないでほしいんだけどな。

「分かった分かった。二人の感謝の気持ちは伝わった。ありがとう」

「感謝を伝えるのは僕達の方です! 本当にありがとうございました!」

「ありがとうございました!」

「深く頭を下げるのはやめてくれ。他の人も見てるから」

「でも、言葉だけでは伝わないので! クリスさんがいない間も全力で鍛えますので、絶対に戻ってきてくださいね!」

「私達の成長した姿を必ず見せます」

「……ああ。必ず戻ってくるし、成長した姿を見るのを楽しみにしている」

元気よく宣言した二人の頭を軽く撫でてから、二人と別れてニヤついているレスリー達の下に向かう。

ヴェラ、ニアもおり、馴染み深い面々が見送りに来てくれたみたいだ。

「ジェイド、良い光景を見させてもらったよ! 交友関係について知らなかったが、慕ってくれる人がいたんだな!」

「縁があって仲良くしていただけで、慕っているとかそんなんじゃない」

「いやいや! 完全に尊敬の眼差しを向けていただろ! 会話も聞こえてきたけど、若くて思わずニヤけちまった!」

「そうっすね! ジェイドさんのこと慕っている会話だったっす! 自信持っていいと思うっすよ!」

レスリーは未だにニヤニヤしており、ニアは何故か俺を励ましている。

会話を聞かれたせいで変なやり取りになっているため、ひとまず話を戻すとしよう。

「それよりも、三人も見送りに来てくれてありがとな。これから営業で忙しい時間帯なのに」

「ジェイドが旅発つってんなら、もちろん見送りくらいはするぜ! 店の方はブレントが取り仕切ってやってくれてるから心配ない!」

「そうそう。レスリーよりブレントの方がキッチリやるから大丈夫」

「ヴェラ、それはちげぇだろ! 俺の方が長年勤めているし店長なんだから、俺の方が絶対にキッチリしている!」

「それはない。レスリーは要領悪いし無駄な会話も多い」

「うぉい! 明日、俺の本気を見せてやるからな! 俺の方がキッチリしていたら、ヴェラはちゃんと謝れよ!」

「うん。絶対にあり得ないからいいよ」

見送りの話はぶっ飛び、何故かブレントとどっちが仕事できるかの話に切り替わった。

別れ際だしもっと他に話すべきことがあるはずだが、こう言った何気ない会話がたまらなくいい。

「よし、決まりだな! ジェイドもちゃんと見てくれ――って、明日はもういねぇのか……」

「勝手にすっ呆けて変な空気にするな。ちなみに俺もできないと思ってるから、もし明日ブレントよりも仕事ができていたら、帰ってきた時に俺も謝る」

「ジェイドもそう思ってんのかよ! 少ししんみりしたのが馬鹿らしくなってくるわ!」

「しんみりなんてしなくていいんだよ。俺は絶対に戻ってくるしな」

「やっぱこの空気っすよね! ジェイドさんを笑顔で送り出すっすよ!」

大声で笑ったニアに続いて、俺たちも自然と笑みが零れる。

改めて、『シャ・ノワール』で働けて本当に良かった。

「お土産も買ってくるから期待しておいてくれ。それとレスリー。これ、昨日買ったコーヒーだから飲んでくれ」

「いいのか? なんでコーヒーかは分からねぇけど、ありがたくもらうぞ!」

「ああ。それじゃ、帰ってきた時に『シャ・ノワール』がどう進化しているのか楽しみにしている」

三人にそう告げ、俺は更に門に向かって歩みを進めていった。

一番最後に待っていたのは、昨日お出かけに付き合ってもらったスタナ。

「昨日ぶりですね! ジェイドさんが笑顔で安心しました!」

「昨日はありがとう。笑顔なのは見送りに来てくれたみんなのお陰だな」

「朝早いのにたくさんの人が集まっていますもんね! それだけジェイドさんが好かれていたってことですよ!」

「支えてくれたみんなが優しかっただけだ。スタナも朝早いのに来てくれてありがとう」

「見送りに来るって言いましたし、当たり前じゃないですか! ――あっ、そのシルバーリング身に着けてくれたんですね!」

このタイミングで気づいたようで、俺の指をさして嬉しそうな笑顔を見せたスタナ。

ここまで嬉しそうにしてくれるなら、しっかりと身に着けてきて良かった。

「スタナからのプレゼントだからな。しっかりと身に着けさせてもらってる」

「本当に似合ってます! このシルバーリングを選んで正解でした!」

「ありがとう。お返しのお土産を期待していてくれ」

「はい! 期待して待っていますので、絶対に戻ってきてくださいね!」

「ああ。必ず戻ってくる」

そう約束を交わし、俺はスタナと握手をした。

表情は笑顔だが、目が真っ赤になっていることから涙を堪えているのが分かる。

みんなが明るくそんな気持ちにすらなっていなかったが、スタナのその目を見て俺も若干感情的になるが――笑顔で別れたいし必死に涙を堪える。

「ずっと待っています! 体にはお気をつけて過ごしてください!」

「スタナも体には気をつけてくれ。……それじゃもう出発する」

最後のスタナとも別れ、俺は大きな門を潜ってヨークウィッチの街を後にする。

後ろからみんなの送り出す声が聞こえる中、溢れそうになる涙を必死に堪え、暗殺者ではないただのおっさんの俺を受け入れてくれた大好きな街を発ったのだった。