軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第223話 思い

最高の気分で店を後にした俺達は、そのままの足で街を軽く歩くこととなった。

ちなみに料理にかかった金額は合計で金貨一枚。

高いといえば高いが、あのクオリティの料理で金貨一枚ならば俺は安いと感じてしまったな。

「最後にふさわしい店だった。スタナ、連れて来てくれて本当にありがとう」

「ここまで喜んでくれたのなら、紹介した甲斐がありました! ヨークウィッチに戻ってきた時はまた一緒に行きましょうね!」

「ああ、また連れてきてくれると助かる。一人じゃ絶対に来れない雰囲気の店だからな」

また一つ、ヨークウィッチに戻ってこなくてはいけない理由ができた。

日を追うごとにヨークウィッチを離れたくない理由が増えていくが、こればかりは仕方がないこと。

絶対にクロとの因縁に決着をつけ、何の憂いもない状態で戻ってきたい。

「……ジェイドさん、大丈夫ですか? 凄く怖い顔をしていますよ」

「すまない。この街を離れたくない気持ちが強くなってしまって、ちょっと考え込んでしまった」

「私もジェイドさんが離れるのは悲しいですが、そう思ってくれているのは嬉しいですね。私もこの街は本当に大好きなので」

感慨深そうに街並みを眺めながら、そう呟いたスタナ。

俺の知っている世界は狭いが、この街が王国内でもトップクラスに良いところだというのは他の街に行かずとも分かる。

人も良ければ、施設や店も充実しているからな。

そんな街を離れなくてはいけないのは残念であるが、そんな街に帰る場所があるということは本当に恵まれている。

「俺もこの街は大好きだし特別な場所だ。待っていてくれる人もいるし、絶対に戻ってくると約束する」

「その言葉を聞けて安心しました。ジェイドさんの思い出を作ることができましたかね?」

「ああ、最高の思い出を作ることができた。俺がまだ知らなかったヨークウィッチを紹介してくれてありがとう」

「こちらこそ、付き合ってありがとうございました! 今日一日、本当に楽しかったです!」

お互いに感謝を伝え合い、辿り着いたのは治療師ギルドの前。

流れでスタナの家まで送りたかったところだが、家が分からないため治療師ギルド前まで来てしまった。

台詞と場所が合っていないなんとも言えない微妙な感じだが、ここで別れるしかないよな。

「……それじゃ、俺はもう帰らせてもらう」

「……はい。送って頂きありがとうございました。明日は絶対に見送りに行きますので!」

「ああ、ありがとう」

少し寂しそうな表情を見せたスタナに背を向け、一歩また一歩と離れていく。

明日も見送りに来てくれると言ってくれたが、振り返りたくなるほどにもう少しだけ一緒にいたいという気持ちが強い。

そんな何とも言えない気持ちを押し殺しながら歩いていると――。

「ジェイドさん!」

スタナの俺の名前を呼ぶ声が聞こえたため振り返った。

何か用があったとかではなかったのにも関わらず、俺の名前をつい口走ってしまったのようで顔を真っ赤にして口ごもっている。

「どうした? 何かあったのか?」

「……………い、いえ! やっぱり大丈夫です。戻ってきた時に伝えさせてください!」

「……? よく分からないが、戻ってきた時に聞かせてもらう」

「はい! それではお気をつけて!」

いまいちよく分からないやり取りだったが、スタナは顔が赤いながらも満足そうにしているからいいのか?

俺だけ心に若干のモヤモヤを残しつつ、今度こそ宿屋への帰路についた。

無事に宿屋につき、今日の出来事を噛み締めながら一時間ほどぼけーっとしていた。

正直こんなことをしている暇ではないのだが、今日は色々と思うことが多かったからな。

朝から巡った店や最後に食べた料理もそうだし、スタナとの別れ際の会話。

プレゼントしてもらったシルバーリングを一度指にはめて眺めてから、ここからは気持ちを切り替えて明日の準備を整える。

既に荷物の大半は『シャ・ノワール』に預けているが、部屋に残したものから必要な持ち物の精査を行っていく。

明日の朝一に出発する予定で、ヨークウィッチを出た瞬間から、俺はジェイド・クローンからジュウへと一時的に戻る。

荷物は必要最低限のみ留め、後は給料としてもらったお金をどうするかだな。

本当はレスリーに返そうと考えていたが、帝国のお土産を買うために持っておきたい。

手持ちの金の半分は返して、残りの半分は色々と使わせてもらうとしよう。

ほとんど使っていなかった金銭についてもどうするか決めたし、これで準備はほとんどできた。

後は明日に備えて寝るだけか。

ベッドに倒れ込むように横になり、宿屋の天井を見上げながら色々なことを思い出す。

最初はハチの夢を叶え、あの世で土産話をするために始めたこのセカンドライフ。

今ではハチに申し訳ないほど俺自身が充実しており、この街が好きになり離れたくない気持ちが強くなった。

ハチが立てていた夢も半分くらいは達成できただろうか。

残りの夢も叶えるためにも、帝都への遠征は絶対に行わなくてはいけない。

「ただ…………行きたくないな」

俺は心の底からそう呟いてから――重い瞼を閉じて眠りについたのだった。