軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

閑話 凶報

『ブラッズカルト』のメンバーの一人であるヴァランに、深夜静かに叩き起こされた。

目を開けた俺の前でヴァランは口に人差し指を当て、声を出さないように指示している。

「襲撃者がきました。静かに逃げましょう」

心臓が飛び跳ねるぐらいに驚き、色々と質問を返したいところだが……。

様々な感情をグッと抑え、ゆっくりとヴァランの言葉に頷いて返事した。

ベッドから抜け出た俺は最低限の荷物を手に取り、ヴァランの後を追って部屋にある隠し通路に向かう。

これは何かあった時のために作った逃走用の通路であり、まさか本当に使う時が来るとは思わなかった。

はしごを使って地下へと降りるとヨークウィッチの下水道に繋がっていて、そこにはアバルトを除く『ブラッズカルト』のメンバーが勢揃いしていた。

『都影』の面々も使える人材だけはいるが、人数の比率的に『都影』の構成員が如何に役立たずだらけなのかが分かるな。

下水道に降りてからも声は一言も発さないまま、暗くて臭くて汚い下水道を静かに進み続ける。

しばらく進んだところでようやく闇市を抜けて、安全地帯へと逃げることができた。

ただまだ安心はできないため、先導しているヴァランの後を追って北の富裕層エリアまで下水道を通ってやってきた。

劣悪な環境すぎて襲撃者への苛立ちが募っていくが、今頃ヴァンダムの餌食になっていることは間違いない。

俺の手で殺めることができないのは残念だが、無様に殺された死体に唾を吐きかけてやると強く誓いつつ、ヴァランが登っていったはしごを俺も登っていく。

登った先はすぐに部屋となっており、その部屋には見覚えがあった。

アジトを建設する前まで身を隠させてもらっていた人物の家。

違法ドラッグを餌に飼い慣らしている、この街の権力者の内の一人だ。

「下水道はこの家まで繋がっていたんだな」

「この家を隠れ蓑にしていると分かっていても、簡単には手を出せない場所ですし一番安全です」

「それはそうだな。……ただ、こんなにも早くアジトを襲撃してくるとは思っていないかった。すぐに戻ることができるだろうが、頻繁にやられると厄介だな」

「………………」

返事をしないヴァランに引っかかりつつも、俺はずっと気になっていたことを尋ねることにした。

「そういえばアバルトはどうしたんだ? 侵入者の対応をしているのか?」

「はい、そうです。そして、先ほど侵入者に殺されました」

感情の起伏を一切見せることなく淡々と告げてきたヴァランの報告を受け、に俺は口を大きく開けて呆けてしまう。

アバルトが……殺された?

ヴァンダムほどではないにしろ圧倒的な戦闘能力を有していた。

そして特筆すべきは力ではなく、冷静に立ち回れる知能。

そんなアバルトを殺せる侵入者などこの街に……。

「まさかお前達の仲間のジーンを殺した奴と同一人物か?」

「その推測で合っていると思います。恐らく支部長を殺したのもこの人物でしょう」

「――クソがッ!! 一体どんな奴なんだ! 『都影』に恨みがある奴……いや、『都影』に恨みがある奴に依頼されたのか?」

「目的は分からないですが、私達を凌駕する力を持っていることは明白です。ただ、アバルトもタダで死んだ訳ではありません。記憶水晶で映像として残していると思いますので」

「その映像を早く見せてくれ! ヴァンダムに殺されるだろうが、万が一逃げ延びた場合には――」

俺がそこまで叫んだ瞬間、俺達がこの部屋に入ってきた下水道へと繋がる扉が勢い開いた。

その音を聞いて戦闘体勢を取ったのだが、扉を開けたのは本部からやってきた構成員の一人。

驚かせるな! ――そう、抱えていた怒りの感情をこの構成員にぶつけようとしたのだが、俺が声を発する前にその構成員が言葉を発した。

「ゔぁ、ヴァンダムさんが殺されました……!! レッドさん一体どうしたら!」

「ヴァンダムが殺された? つまらない冗談はやめろ」

「い、いえ……冗談ではなく、事実を申しあ」

俺はホルダーから銃を取り出し、有無も言わせず撃ち殺した。

静かな家に銃声音が響き渡り、その直後くだらない報告をしてきた男は地面に倒れた。

「こんなタイミングで面白くもない冗談を言うな。つい殺しちまったじゃねぇかよ」

「……ケリーさん、その男の言っていたことは本当かと。ヴァンダムさんの気配が消えています」

死んだ男の腹を蹴っていると、静かにそう声をかけてきたのはヴァラン。

俺はヴァランにもキレそうになったが、ようやく事態をゆっくりながら呑みこむことができ始めた。

「…………嘘じゃないだろうな?」

「本当に消えています。襲撃者に殺されたのかと」

「あのヴァンダムがやられたというのか? そんなこと……ありえるのか?」

『都影』の秘密兵器として囲われていたヴァンダム。

素行は最悪ながらも、その圧倒的な戦闘能力を買われてボスに重宝されていた。

そんな人材を無理言って借り、殺させてしまったとなると俺の地位が危な……いや、地位どころか命が危ない。

任務は失敗した上にヴァンダムまで失ったとなれば、想像を絶するような方法で殺さるのは確定事項。

俺のパニック状態に陥り、呼吸もまともに行えない状態。

頭の中は逃走の二文字しか回らず、今すぐにでも王国を離れたい一心だが、『都影』の追手からはどう足掻いても逃げることはできない。

俺に残された道は『ハートショット』の製造を成功させること。

そして、例の襲撃者を捕まえること。

ヴァンダムを仕留めた襲撃者を捕まえることができれば、今の俺の状況をひっくり返せる可能性が残っている。

「…………『ブラッズカルト』の面々に聞きたい。襲撃者を捕らえることを協力してくれるか?」

「もちろんです。ジーンとアバルトの仇を取りたいですし、任務は何も成功できていませんので。ジーン、アバルト。そして『ブラッズカルト』の名誉を取り返すためにも協力させて頂きます」

「――よろしく頼むッ!」

もう本部には頼ることができないため、頼りの綱は『ブラッズカルト』のみ。

『ハートショット』の製造は襲撃者を捕まえてからで、まずは何が何でも俺の計画を全て崩してきた憎き襲撃者を捕まえる。

下水で酷く臭う体なんて一切気にせず、残っている面々で襲撃者を捕まえるための作戦を練りに練ったのだった。