作品タイトル不明
08 王都へ
さて、中ボスムーブ解消について多少方向性が見えてきたところで、いよいよ王都へ向かう日となった。
移動はもちろん馬車、供として騎士20人が護衛につく。正直、中ボスパワー+『 神速(チート) 』の俺に敵はほぼいないが、形を整えるのも貴族としての義務である。
なお公爵の護衛に20人は少ないのだが、彼らはゲーム的に言えば『高レベル』の者たちなので、並の山賊200人くらいは簡単に蹴散らせる。Bランクモンスター程度でも太刀打ちできるだろうが、その場合は俺が出た方が早い。
馬車には俺と、娘のフォルシーナが搭乗する。
フォルシーナの使用人ミアールと俺の使用人も同行するが、彼女らは馬車の後ろの使用人席に座っている。
王都までは馬車で7日。この世界でも7日を一週間と数えるので一週間だ。途中宿場町などに寄りつつの旅である。
家宰のミルダートや将軍ドルトンに見送られての出発となる。
馬車が走り出してすぐ、向かいに座るフォルシーナが話しかけてきた。
「こうしてお父様と馬車に乗って遠くまで行くのは、随分と久しぶりの感じがします」
「そうだな。南の領境への視察に同行させた時以来か。もう5年にもなるな」
「はい。美しい湖があったことをよく覚えております。お父様が、お母様とよくここに来たとおっしゃっていました」
「そのようなことも言ったかもしれんな。王都から帰ったらまた行くか。美しくなったお前を湖の精に見せてやるのもいいかもしれん」
「まあお父様ったら……。でも嬉しいです。ぜひ行きたいと思います」
「うむ。予定しておこう。そういえば、氷属性魔法のほうはどうであった?」
「はい。お父様に言われた通り氷属性魔法を試したところ、たしかに適性があるとのことでした。ただまだ扱うには魔力量が足りないので、これから魔力量の向上に努めたいと思います」
「ふむ……。魔力量を上げるには日々の鍛錬も大切だが、モンスターを倒しその力を取り込むことも重要だ。今後は私とともに『 不帰(かえらず) の森』やダンジョンに入るか。それくらいの魔法は使えるのだろう?」
「モンスターを倒して力を取り込む」というのはもちろんゲーム的な『レベルアップ』の、この世界的な解釈だ。この世界では元の『オレオ』と同じく、モンスターを倒せば倒すほど身体能力が上がる。ただしいわゆる特殊技能的な 異能(スキル) は、日々の鍛錬なくしては身につかない。このあたりはゲームとは違うところだ。
ともかくもその『レベルアップ』を提案したわけだが、当然ながらモンスターを倒す、というよりモンスターと戦うということ自体普通の人間にはハードルが高い。14歳の少女ではなおさらのはずだが、フォルシーナはすごく嬉しそうな顔をして上半身を乗り出すようにしてきた。
「本当ですかお父様。もちろんモンスターを倒せるくらいの魔法は使えます。是非ともご一緒させてください」
「わかった、そのようにしよう。やる気があるのは素晴らしいことだ。さすが我が娘だな」
「はいお父様。私はお父様のお役に立つために努力を惜しみません」
フォルシーナとのコミュニケーションについては、すっかり普通にとれるようになった気がするな。
ただフォルシーナのやる気の裏には、まだ「父に捨てられないようにしたい」みたいなところがあるようだ。断罪ルート回避のためにも、そして正常な親子関係を構築するためにも、そのあたりからきちんと解消する必要がありそうだ。
と初日に心に定めて7日間の旅をしたわけだが、それでもフォルシーナとずっと車内に2人だけというのはなかなかにキツかった。
そもそも話をするのに、共通の話題があまりに少ないのだ。救いがあったとすれば、マークスチュアート自身かなりの読書家で知識が豊富なこと、それと俺が原作ゲーム知識を持っていることで、そのあたりの知識を小出しにしてなんとか 凌(しの) いだ。
そして7日目の昼、俺たちは王都へと到着した。
王都は巨大な城塞都市だ。規模は公爵領の領都の3倍はあるだろうか。もっともマークスチュアートとして37年生きてきた俺はそれなりに見慣れているので、いまさら感じるところもない。
ただフォルシーナは、初めて見る王都の様子にいたく感動しているようだ。
実は王国の法によって、一部貴族の娘はある年齢に達するまで王都に入ることを禁じられていたりする。昔、王子にやたらと娘を会わせたがる貴族が多く、それが多くトラブルの元になったため作られた法らしい。
そのためフォルシーナは今回が初の王都訪問となるわけだが、馬車の窓にかぶりつきで外を眺める様子は、年相応の少女だと感じられてホッとするものがあった。
馬車は城門をくぐり、王都内へと入って行く。建物は石造りが多く、3階建て以上の大きな建物も多い。城塞都市は土地が限られるので建物が上に伸びるのは必然である。相変わらず人通りも馬車通りも多い。雑多な種族の人間たちが行き交い、熱気と喧騒にあふれている。
……と言いたいところだったのだが、
「ふむ、以前来たときに比べて街の雰囲気がいささか暗い気がするな」
どうも人々の姿に、以前来たときに見た明るさが欠けているように思える。通りに出ている屋台の数は明らかに減っていて、俺の気のせいというわけではなさそうだ。
「そうなのですかお父様。とてもきらびやかに見えますが」
「もちろん十分に栄えてはいるが、以前はこれよりも屋台の数も多く、人も多かった。いくつか閉まっている店もあるようだな」
「言われてみれば、閉じた店が目立つような気もしますね。なにかあったのでしょうか」
「恐らく景気が悪くなっているのだろう。そういった経済活動の波というものは避けがたいからな」
「なるほど。お父様の治める土地でもあるのですか?」
「なくはない」
軍備増強の時に増税をしたが、その時はてきめんに街の様子が停滞したのは覚えている。ミルダートの献策もありすぐに持ち直したが、そう考えると、王都のこの様子の背後には増税か、それに類する引き締めなどが行われているのかもしれない。そういえばダークエルフ忍者のアラムンドが物資を安く買い上げていると言っていたな。
そう考えると『経済活動の波』なんて言葉では収まらないのだが、まあ今気にすることではない。
俺たちはそのまま通りを中央区へと向かい、王都の公爵邸へと入った。