作品タイトル不明
12 砦到着
魔族領へ向かう道すがら。
『千剣山脈』に隠された『隠者の試練場』の攻略を終え外に出ると、もう日は傾きかけていた。
岩山を削って作られたような道をさらに少し進むと広場が見えてくる。ゲームにもあったキャンプ地点だ。俺たちは亀の甲羅型魔導具『モバイルフォートレス』を広げて野営をする。
山の陰になって見えないが、魔族の砦も近く、外から丸見えの岩山で野営はあまりに無防備である。だが、逆に敵が来ても分かりやすいし、そもそも『モバイルフォートレス』も名前に『 要塞(フォートレス) 』とある通り多少の攻撃にはビクともしない堅牢なものなので、そこは安心できる。
なお、周囲は岩しかないので水場はない。なので水浴びは『モバイルフォートレス』内のシャワーで済ますことになる。フォルシーナが水の精霊イヴリシアに『水精霊の恵み』を借りてきていて外で水浴びをしたがったのだが、さすがに敵地なので自重するよう説得した。夜はベッドで寝るが、10人分のベッドがあるのはさすがにチートアイテムといえどおかしい気もする。
夜は何事もなく明け、朝食も済ませて、いよいよ3日目の行動開始である。
「では、今日はいよいよ魔族の砦を攻略する。事前情報では、砦には新たに魔族軍四至将についたネファリスという魔族が守っているそうだ。ただ四至将といっても、元は四至将ネクライガの片腕だった者。実力は一段落ちるゆえ我々の敵にはなるまい」
俺が出発前の情報共有を行うと、情報に一家言あるヴァミリオラが反応した。
「その事前情報というのは、貴方の秘書官のラエルザから得たものなのかしら」
「うむ。確度は高い情報だ」
「そうでしょうね。私が貴方に情報で勝てない理由がよくわかったわ。さすがに相手方の重要人物を 手(・) の(・) 内(・) に(・) い(・) れ(・) る(・) というやり方は、私にはできないもの」
ヴァミリオラの言い方は微妙に棘があった。
彼女が俺に対抗意識を持っているのはすでにわかっていることだが、ラエルザに関しては勘違いされているようだ。
「一応言っておくが、ラエルザ……四至将ミルラエルザは魔王の婚約者だ。だからこそ、魔王の座を奪おうとする魔宰相ロゼディクス陣営の情報をこちらに回してくれているのだ。それ以上の意味はないぞ」
「あら、そうなのね。それは御免なさい」
と言って、わずかに表情を緩めるヴァミリオラ。
どうやらやはり俺がラエルザを 落(・) と(・) し(・) て(・) い(・) る(・) とか、そんな誤解があったようだ。
今のやり取りを理解してうなずいているのは聖女オルティアナだけだったが、アミュエリザが姉のヴァミリオラに説明を聞きにいって、それを皆に伝えている。なんか目の前でそういうことをされるとお尻のあたりがムズムズする。
「ああ、んんっ。ちなみにネファリスは死霊を操る死霊術師だ。死霊は実体のないファントムやスペクターといったモンスターのことだが、こちらは聖女オルティアナ、マリアンロッテ嬢の力が頼りとなる。むろんネファリス自身も強力な魔導師だ。実力は劣るといっても侮らぬように」
「はい陛下! この籠手で薙ぎ払って御覧に入れます!」
「お任せください陛下。私は聖属性魔法ですべてのアンデッドを天に還します」
オルティアナが脳筋気味なのが気になるが、彼女の打撃には自然と聖属性が乗るので実体のないアンデッドにも攻撃は効くはずだ。
さて、そんなわけで俺たちは砦に向けて出発した。
ザコと戦うこと数回、1時間も歩かないうちに砦が見えてくる。
高い城壁に囲まれた、石造りの砦であり、今歩いている山道がそのまま砦の門に続いている。
門はしっかりと閉じられていて、周囲には衛兵一人いない。それどころか、城壁の上にも、 物見(ものみ) 櫓(やぐら) にも魔族の姿が見えない。
しかもまだ午前だというのに、砦の周囲だけ妙に暗く陰っているような感じさえ受ける。なんというか、おどろおどろしいというか、禍々しいオーラが砦から放たれているように見える。
マリアンロッテが隣にやってきて、砦をじっと見ながら声をかけてきた。
「陛下、あの砦には 邪(よこしま) なもので溢れている気配があります。中はアンデッドで一杯になっているのではないでしょうか」
「ふむ、それが本当なら気になる所だな。砦には普通の魔族も大勢詰めているはずなのだが」
ゲームでも中ボス・ネファリスが守っていた砦だが、突入するとアンデッドと一般の魔族が交って出現するフィールドであった。
そもそもネファリスが召喚するアンデッドはただのモンスターであって、組織だって砦を守るとかそういう行動ができる存在ではない。砦を維持するには、当然普通の魔族も必要なはずなのだ。
砦に近づくにつれて、嫌な感じが強くなってきて、目の前まで来ると肌を刺すほどの感覚となる。
砦は手前に城壁があり、その向こうに練兵場を兼ねた空間があり、さらに奥に3階建ての石造りの堅牢そうな建物があるという構造である。城壁の左右には物見櫓も立っているが、近くまで来てもやはり誰も上にいない。
今、砦の扉はがっちりと閉じられているが、その向こうには妙な気配が一杯である。どうやら練兵場広場にアンデッドモンスターが大量に発生しているようだ。
そのまま城壁を破ってもよかったが、10メートルほどの高さの城壁の上は通路になっているはずだ。
「私があの城壁の上に『瞬間移動』をして、中の様子を見てこよう」
「お父様、お気をつけて」
フォルシーナの言葉にうなずいて『転移魔法』を発動。城壁の上に『瞬間移動』する。
城壁から見下ろす練兵場は、かなり凄まじいことになっていた。
サッカーコート半分ほどの広さの練兵場に、数百の霊体系アンデッドがうようよと動き回っているのだ。いるのは『ジェノサイドスペクター』『イヴィルゴースト』『ノーブルファントム』という、エメリウノがいた『魔女の館』にも出てきた高ランクモンスターである。見た目は半透明の人型に見えるアンデッドモンスターで、いずれも強力な魔法を使い、街中に10体も出現したら大惨事になるほどのモンスターである。
「ネファリスが俺たちに備えて召喚したということか? しかしこんなに召喚できるほどの魔力はないはずだが……」
と言いながら周囲を見回すが、練兵場に砦の将ネファリスの姿はない。多分ゲーム通り建物の中にいるのだろう。
「とりあえず上から皆で魔法攻撃だな」
と結論付け、俺はいったん下りて状況を皆に説明し、そして再度皆を連れて城壁の上に『瞬間移動』した。
「貴方の前では砦なんてなんの意味もなさないわね」
と呆れているのはヴァミリオラだけで、他の8人は練兵場にひしめく霊体系アンデッドの大群に目を見開いていた。
「まともにやりあうと面倒なアンデッドだが、上から魔法を浴びせかければ一網打尽にできるだろう。向こうの魔法は私が無効化するゆえ、安心して攻撃せよ」
と声をかけると、マリアンロッテが新武器『水晶天使』を掲げるようにして、
「私がまず聖属性魔法『パニッシュメント』を最大で放ちます。皆さんは続いて攻撃をしてください」
と指示を出した。
同じく聖属性魔法が使える聖女オルティアナが、武器に聖属性を付与する『ホーリーエッジ』を準備、魔導師フォルシーナとヴァミリオラもそれぞれ杖を構えた。
マリアンロッテが前に出て、『水晶天使』を振る。
「『パニッシュメント』!」
『パニッシュメント』は、対アンデッド攻撃魔法である。聖なる力によってアンデッドを強制的に昇天させ消滅させる魔法で、聖属性魔法の使い手の基本にして究極である。
ゲームでもアンデッド相手だと終盤まで主力を張れる魔法だが、マリアンロッテが放ったそれはかなり凄まじいものだった。
練兵場の三分の一を覆うほどの光の柱が現れ、その中にいた百を超える霊体系アンデッドは一斉に断末魔の奇声をあげて消滅した。
「すごいわマリアンロッテ!」
オルティアナが褒めると、マリアンロッテは『水晶天使』を両手で握りながら、
「これは陛下からいただいたこの杖の力が大きいんです」
と、少し恥ずかしそうに答えた。
「杖の力もあろうが、マリアンロッテ嬢の元の力あってのことだ」
と俺も褒めておいたが、それによってフォルシーナたちの魔法にも力がこもったようだ。
直後に、
「『フリージングサークル』!」
「『フレイムサークル』!」
と声が上がり、それぞれ冷気の輪と炎の輪が練兵場に出現すると、やはりそれぞれ百近いアンデッドがなにもできずに消滅する。冷気の輪の方が少し大きく威力が高いのは、フォルシーナの持つ『精霊樹の杖』の差だろう。
「フォルシーナ、見事な魔法だ。ローテローザ公の魔力も『緋の麗炎』の名に相応しいな」
俺がそちらも褒めていると、そこで残りのモンスターが魔法を放って来た。
下から迫る炎の槍や真空の刃、床から吹き上がってくる竜巻などを、俺は『ディスペルオール』ですべて無効化する。しかし何度使っても完全なる公式チート魔法である。
再度マリアンロッテたちが魔法を放ち、数匹残ったモンスターをエルフのアルファラが『破邪の弓』の射撃で一掃する。ちなみに『破邪の弓』は、その名の通り非常に強力なアンデッド特効がある。
「よし、下に降りることにしよう」
俺は声をかけ、『転移魔法』で、城壁の上から練兵場へと『瞬間移動』した。