軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

41 荒野に咲く花

その日突然、メルヴィが壊れた。

『う……』

『う?』

『うわああああああああああ~~~っん!!』

「う、うわああっ!?」

【念話】からいきなり聞こえてきた「大声」に、俺は思わず悲鳴を上げてしまった。

「ど、どうしたの、オロチ同志!?」

「な、なんでもない!」

心配そうに言ってくるドンナにそう返すと、俺はあわてて少年部屋を飛び出した。

近くにある階段を上り、以前エレミアに会った大穴下の畑へと向かう。

今日はエレミアは特務班の用事で塒を留守にしているから出くわすおそれはない。

……よく考えたら、【念話】で話せる以上、場所を変える必要はなかったのだが、思わずメルヴィを捕まえて逃げ出してしまった。

その間も、メルヴィのうわあああ……は続いている。

あ、頭が割れそう……。

畑に誰もいないことを確認してから、俺はメルヴィに話しかける。

「ど、どうしたんだよ、メルヴィ!」

「うわあああ~~~ん! こんな土ばっかの場所はもういやあ! お日様を浴びてお花畑に寝そべりたいぃぃ~!!」

ジタバタと暴れるメルヴィを離してやる。

「お、落ち着けって」

「だいたい、なんなのよ、ここは!?

一面土、土、土で窒息しそうよ!」

「それは……たしかに」

「ぇう、ぐす、だって、もう……一ヶ月半よ!?

途中で何度か 郷(さと) に戻ったけど、それだって少しの間だし……それ以外はず~~~っと地下なんだから!

おかしくもなるわよっ!? 悪いっ!?」

「い、いや、悪くない! 悪くないから、落ち着いて!」

空中で駄々っ子をするメルヴィを見ながら、俺は思った。

――これは、俺のミスだ。

どうしても〈 八咫烏(ヤタガラス) 〉の御使いたちを相手にすることが多くて、メルヴィとはあまり話す時間が取れなかった。

一日中ずっとそばにいてくれるのに、である。

メルヴィもまたマジメだから、俺の事情を汲んで我慢してくれていたんだろう。

セセルかセセラだったら、数時間も経たないうちに「つまんなーい」と言い出していそうなところを、一ヶ月半も、だ。

「ご主人さまのことだってちっとも進められないし! そりゃ、わかってるわよ! あんたがそんなこと言ってられる状況じゃないってことくらい! でも……でも……うわああああ~~~~ん!」

再び号泣するメルヴィに対して、俺は地面に膝をつき、頭を深々と下げた。

――そう、土下座だ。

月明かり射す大穴の底で妖精に土下座する幼児の図は、客観的に見たらちょっとシュールかもしれない。

メルヴィが、ぎょっとした様子で、泣き喚くのをやめた。

「なっ……ちょっ、やめてよ!

わたしがわがまま言ってるのに!」

「でも、メルヴィの言うことはもっともだ。

気づいてやれなくてごめん」

「い、いいのよ! わたしもわけわかんなくなっちゃってごめん……」

しゅんとなって言ってくるメルヴィに、俺は立ち上がって言う。

「――よし。それじゃあ、ちょっと外に出てみよう」

「え、ええ!? どうやってよ!?」

「もちろん、この大穴からだよ」

「でも、この穴には返しがついてるし、何重にも鋼糸が張り巡らされていて、鳴子が仕掛けられてるんでしょ?」

「そこは、ちゃんと考えてあるよ。

いざって時の脱走用にプランだけは立ててあるから。

――メルヴィ、あれを出してよ、こないだ作った……」

「ああ、あれね」

あれあれと熟年夫婦みたいな会話をしてしまったが、メルヴィは次元収納から俺の要望通りの道具を出してくれた。

それは、遺跡製の丈夫でしなやかなワイヤーの先に、これまた遺跡製の大きなフックがついた、いわゆるフックロープだった。

遺跡の設備と 卜(フレイム) による溶接を使って自作しておいた道具のひとつだ。

「そりゃ、それを使えば上れるかもしれないけど、鳴子はどうするのよ?」

「大丈夫」

俺は【サイコキネシス】を使って鳴子を「固定」する。

いつもはものを動かすために使う【サイコキネシス】だが、逆に「動かさない」ために使ったわけだ。

逆転の発想ってやつだな。

俺は、【サイコキネシス】で身体を浮かせながら、フックロープを鋼糸や岩に引っ掛けて引っ張り、その反動で上へ上へと上っていく。

【暗視】【遠目】で鳴子を確認して【サイコキネシス】で固定しながらの移動だから神経を使うが、なんとか数十秒ほどで穴を抜け、地上に出ることができた。

もちろん、空を飛べるメルヴィは俺の後をついてきている。

メルヴィ1人なら、妖精郷にも戻れるし、こうして外にも出られるのだが、俺を気遣ってなるべく一緒にいようとしてくれてたんだよな。

俺はそんなメルヴィの気遣いに気づくこともなく甘えてしまっていた。

「――星だ」

「ほんと、綺麗ねえ」

地下では星を見ることができないのはもちろん、太陽すらまともに見られる機会が少ない。

モグラじゃあるましい、メルヴィじゃなくてもストレスが溜まるってもんだ。

「じゃあ、花を探そうか」

「え、花? い、いいわよ、べつに……」

「よくないって。

せっかくのお姫様のわがままなんだから、叶えてあげないと」

「お、お姫……え?」

「な、なんでもない……」

そこはさらっと流してくれよ。

さて、外には出てみたものの、この辺は荒野だ。

万一にも見つからないよう、【気配察知】と【暗視】【遠目】、覚えたての【隠密術】を使って散策するが、花はおろか、まともな植物を見つけることすら難しい。

タンブルウィードっていうんだったか。

西部劇に出てくるアレが夜風で転がっていく中に、ごくまれに藪のようなものがあるのだが、今は冬に近づいているということもあって、花を見つけることはできなかった。

そうこうするうちに、地平線がうっすら白んできた。

「は、早く戻らないと……バレたら、あんたのこれまでの努力が台無しじゃない!」

「まだ大丈夫だよ」

焦るメルヴィをなだめながら、俺は目を凝らして花を探し続ける。

「――ん? あれは……」

俺は、ちらりと見えたものの正体を確かめるために、1キロくらい先にあった岩山へと近づく。

高さ20メートルくらいの、ミニチュアのエアーズロックみたいな岩山の上を、麓からじっと観察する。

「……どうしたの?」

「ほら、あれ」

「あれって……うーん、わたしには見えないわね」

妖精であるメルヴィは目は普通にいいらしいが、【遠目】のスキルがあるわけじゃないからな。

俺は【サイコキネシス】で体重をなくすと、今晩大活躍のフックロープをぶんぶん回してびゅっと投げ、フックを岩山のへりに引っかけた。

それからアスレチックのロープのぼりよろしく岩山の頂上へとよじ登る。

そこには――

「ふわああ……っ!」

メルヴィが歓声を上げた。

そこにあったのは、やや地味ではあるが、花畑だった。

花を咲かせているのは、群生しているサボテンに似た植物だ。

黄色、ピンク、白、水色……と、気でも利かせたかのように色とりどりの花を咲かせている。

サボテン似の植物のサイズは、手のひら大から俺の背くらい(1メートルちょっとくらい)までと様々だ。

花のサイズは母体の大きさにかかわらず一定で、タンポポとアサガオの間くらいの大きさだろうか。

ぱっと見、黄色が多く、薄緑、白、ピンク、薄紫と続くが、水色は数えるほどしかない。

妖精郷の一面の花畑に比べると、色の鮮やかさや花の密度の面で劣るが、荒野に慣れた目には十分だ。

岩山の上からは、ちょうど、昇ってくる朝日の最初の光がよく見えた。

その朝日の中で、妖精さんが上機嫌に花と花の間を飛び回っては、花の香りを楽しんでいる。

俺は、両手の親指と人差し指でフレームを作って、その光景を枠の中に収めてみる。

うん、いい光景だ。

カメラがないのが残念なくらいだな。

いつまでも見ていたくなるが、あいにくあまり時間がない。

俺は、手のひらサイズのサボテンのそばにしゃがみこむと、腰に挿したナイフで慎重に地面を掘り、根を切らないように掘り出した。

そして、【地精魔法】で周囲の砂を固めて即席の鉢植えを作る。

せっかくだから、【彫刻】を使って、ナイフで鉢植えの周りに簡単な装飾を施していく。

サボテンと花と妖精の浮き彫りだ。

いつの間にか、メルヴィは俺のそばに浮かんで、俺の手元を覗きこんでいた。

「――これ、持ってて」

と言って俺は、鉢植えをメルヴィに差し出した。

俺では隠し場所に困るが、メルヴィなら次元収納にしまっておくことができる。

「え、ええ……?」

「これなら、好きな時に眺められるだろ?」

「あっ……そ、そうね」

メルヴィが鉢植えを【次元魔法】でしまいこむ。

「じゃあ、悪いけど、急いで戻るよ」

俺は岩山の上から【サイコキネシス】で緩降下する。

「う、うん……その、ありがと」

「どういたしまして」

【サイコキネシス】と【跳躍】で跳ねるように荒野を駆けながら返事をする。

「機会があったらまた見に来ようよ」

「そ、そうね」

「場所、覚えておいてよ?

あ、メルヴィは方向音痴だから無理か……」

「し、失礼ね!

ちょっぴり地理には疎いけど、方向音痴じゃないわよ!」

「ちょっぴり?」

「むぅぅ~!」

朝日の中、そんなくだらない話をしながら、俺たちは超特急で塒の大穴まで戻った。

俺は【不易不労】のおかげで疲れることはないはずだけど、今回のことは、俺にとってもいいリフレッシュになったような気がする。

――そうそう、塒に戻ってから、ふと思いついてサボテンを【鑑定】してみた。

栽培のコツとか分かればと思ってな。

そしたら、

《レインボーカクタス:サボテン科に属する多肉植物。砂漠の中で、かつ「属性溜まり」と呼ばれる特殊な地勢にのみ生息する。周囲の魔力を吸収することで育ち、吸収した属性に応じて咲かせる花の色が変化する。花言葉は「不壊の友情」。》

前半分も気になるけど、大事なのは最後の一行だ。

ちょっと出来すぎた話だよな。