作品タイトル不明
追撃戦⑤
私とアデルの間合いは約3メートル。
一般的な徒手格闘戦の間合いとしては離れているが、身体強化や【縮地】などのスキルを使える私達にとっては一瞬で埋められる距離だ。
アデルの踏み込みに合わせて上体を逸らし、抜き手の三連撃を躱し、アデルが呼吸したタイミングで胴を撃ち抜く様に拳を放つ。
だが、アデルは私の拳の軌道を撫でる様にして僅かにずらし、両腕を蛇の様に絡めようとする。
拳を放った腕が伸び切る前に引き戻す。
あのまま腕を伸ばしていたら関節を破壊されていただろう。
アデルの後ろ回し蹴りを屈んで躱す。
戦況は悪い。
神器の効果なのか、アデルは打撃の一つ一つに風の刃を纏っている様だ。
それを防御する為に通常よりも多くの魔力を身体強化に回さなければならない。
そして、この猛スピードでの戦闘で、私の神器【七つの魔導書】を使う隙を潰されている。
私の神器は魔導書を作り出し、使用する性質上、効果を発動するのに数秒の時間が必要となる。
アデルの動きから考えて、それだけの時間が有れば大技を撃ち込まれる可能性が高いのだ。
「【水壁】」
「っ⁉︎」
アデルの掌底に合わせて水の壁を弱めに作り出す。
腕を水に突っ込んだタイミングで即座に水を氷に変えた。
「神器【暴食の魔導し……】」
作り出した隙に神器を出そうとするが、アデルはノーモーションで氷を砕き、間合いを詰めて来た。
今のは初めて見る技だ。南大陸の気功と言われる技だろうか?
「くっ」
【暴食の魔導書】に魔力を込めようとするがアデルの方が速い。
「【風華:絶掌】」
腹部に添えられたアデルの掌から魔力に似た何かが放たれ、私は数メートルの距離を飛ばされる。
「うぅ……ごほっ」
内臓がダメージを受けたのか、胃の腑から込み上げて来た血を吐き捨てる。
「妙な技ね。南大陸の【気功】かしら?」
「そうだよ。魔力を『気』として練り上げて使う技術。こと近接戦闘に於いては魔力による身体強化よりも強力だよ」
集中が乱れたせいか、【暴食の魔導書】は消えている。
もう一度作り出す隙は有るだろうか?
どうやら無手での戦闘はアデルの方が圧倒的に強い様だ。
最後に会った時はまだ小さな少女だったのだけれど、まさかここまで強くなっているとは驚いたわね。
こんな状況なのに、私はアデルの成長が少し嬉しかった。
数秒で良い。
数秒時間を稼ぎ、神器を使う。
私は全力で身体強化の魔法を掛けると無詠唱で魔法を放った。
「【白霧】」