作品タイトル不明
追撃戦⑥
霧を作り身を隠すが、アデルは直ぐに突風で霧を吹き飛ばす。
「【風華:旋風】」
アデルが振り下ろした手刀から放たれた風の刃が私を両断する。
しかし、2つに分かれた私は輪郭を失い霧となって消えた。
驚くアデルの直ぐそばの空間が揺らぎ、私は姿を現す。
「なっ⁉︎」
以前、ヒルデの神器【泡沫の蝶】を見て思い付いた魔法だ。
【白霧】で作った霧の一部を魔力で人型に変えて、【氷人形】の応用で幻影を重ねた【霧人形】の魔法だ。
【氷人形】よりも低コストで動きも滑らかに再現出来る。
更に本物の私は霧を身に纏い周囲の景観を写す事で姿を消していたのだ。
反応が遅れたアデルに魔力を乗せた拳を振り抜いた。
確かな手応え、アデルは腕を上げて受けたが、殴った感覚から骨は折れている筈だ。
「神器【暴食の魔導書】」
僅かな隙を突き魔導書を手にする。
「【竜巻】【火柱】」
2つの魔法がアデルを中心に交わり巨大な火災旋風へと変わる。
ハルドリア王国軍も帝国の追撃部隊も私とアデルが戦い始めてから距離を取っているので巻き込む事はない。
私は自分の魔法に巻き込まれない様に距離を空けると次の魔法を用意する。
そして火災旋風が収まって来た所で追加の魔法を叩き込む。
「【岩槍】【変質:鉄】【天雷豪雨】」
天を突く様に地面から飛び出した岩の槍を、土属性魔法と錬金術を応用した魔法で鉄に変える。
それを避雷針として、本来なら広範囲に無数の雷を降らせる魔法を収束させる。
その威力はブラート王の神器による大技【雷神の鉄槌】に匹敵する。
避雷針にした鉄の槍は瞬時に蒸発し、高熱で地面が硝子化する。
距離を空け、高威力の魔法を連続で叩き込む。
それが私の本来の戦い方だ。
剣や格闘術でも戦えるが、本質的に私は、所謂『魔法使い』タイプなのだ。
『拳士』であるアデルとの接近戦では勝ち目は無い。
更に数発の魔法を浴びせると、強烈な魔力の放出と共に土埃が風で吹き飛ばされる。
「ぐぅ」
重心を落とし、腕を上げて顔を庇う。
風が止むとそこにはアデルが立っていた。
「アレを受けてまだ生きているなんて……流石は ブラート王(バケモノ) の娘ね」
「はは、もう限界が近いよ。ボクも」
そう言いつつアデルは右手の指を揃えて風の刃を纏う。
私はそれに答える様に【暴食の魔導書】を掲げ……魔力を霧散させて魔導書を消した。
「エリー姉様?」
「止めておくわ」
私がアデルに向けていた殺気を止めると、アデルも風の刃を消し、神器を解除した。
「これって引き分けなのかな?」
「私の負けで良いわよ。あれだけ魔法を叩き込んで無事だったんだから、勝ちは貴女にあげるわ。
強くなったわね、アデル」
「ふふ、有り難く貰っておくよ、エリー姉様」
私は踵を返すと遠巻きにこちらを窺っていた追撃部隊に撤退の指示を出す。
アデルも私に背を向けると自軍の方に去って行くのだった。