作品タイトル不明
追撃戦④
「【岩雨】」
手にした【暴食の魔導書】に魔力を込めると、人の頭程もある岩がハルドリア王国軍の頭上に現れた魔法陣から降り注ぐ。
「【風華:神凪】」
岩が兵士の頭を砕く寸前、風が無数の岩を一つ一つ捕らえて粉々に砕いてしまった。
「アデル」
私は正面から少し視線を上げて、空中に留まるアデルと目を合わせた。
「エリー姉様、兵を退いて貰えませんか?
ハルドリア王国軍は既にボクが掌握しました。
速やかに国境まで撤退し、帝国との和平交渉へと移ります」
「貴女にそんな覚悟が有るとは思えないわね」
「……そうですね。先日は無様を見せてしまいました。ですが、ボクが王国の民を守りたいと思っているのは事実です」
「そう……あんな国の民を守る為に命を掛ける気が知れないわ」
「エリー姉様からすればそうでしょうね」
アデルは苦笑いを浮かべた。
次の瞬間、私とアデルの間で激しい火花が散る。
私は瞬時に距離を詰め、【強欲の魔導書】から取り出した細剣を振るう。
フリューゲルはアデルの風魔法で対策されている。
先程からアデルの神器らしき羽織からはランダムに突風が吹き出しており、さながら大嵐の中にいる様だ。
こんな場所でフリューゲルを取り出せば即座に刃は砕け散るだろう。
代わりに取り出した細剣は数打ちの物だが、帝都の一流工房で作られた最高級の逸品なのだが、アデルの手刀と数合打ち合っただけで刃毀れしている。
やはりアデルの神器の能力は風属性魔法の増幅と高速化ね。
良くあるタイプの能力だけど、アデルの練度は高く非常に強力だ。
「ふっ!」
アデルの回し蹴りに剣を合わせて足を斬り落とす様な軌道で振るったのだけれど、逆に刀身を蹴り砕かれてしまう。
細身の刀身が災いしたか。
咄嗟に両手で拳を握り胸の前で揃え、肩を狭めて膝を曲げて重心を落とす。
パンチやキックなどの打撃を中心にしたハルドリア王国式軍隊格闘術の構えだ。
対するアデルは左手を柔らかく前に出し、半身にした自分の身体で左腕を隠す様に構える。
アレは確か、受け流しや関節、投げ技など相手の力を利用する南大陸のレキ帝国で生まれた拳法の構えだ。
「久しぶりに稽古をつけてあげるわ、アデル」
「ボクは既に王です。舐めていると痛い目を見てもらう事になりますよ、エリー姉様」
お互いに獰猛な笑みを向け合い、私とアデルの戦いが始まった。