作品タイトル不明
大戦④
戦端が開かれてから2日、歩兵同士がぶつかり合う地味だが多くの血が流れる戦いが続いていた。
朝からぶつかり合い、夕方頃には軍を引き休む。
フリードが率いている様な軍なら、夜襲を掛けて一気に叩き潰す手を使えば良いのだけれど、ブラート王相手にそんな生温い手は通用しない。
軍議で夜襲を提案する者もいたが、私が反対しオーキスト殿下によって却下された。
野営中に結界の強度を敢えて偏らせる事でわざと隙を見せて、襲撃して来た敵軍を返り討ちにするのはブラート王の常套手段だ。
夜陰に紛れて結界を打ち破り、ハルドリア王国軍の陣地に攻め込んだ瞬間、移動力を捨てた完全武装の重装部隊に包囲される。
更には新たに発動される結界魔法によって逃げる事も出来ない敵軍は押し潰される様に殲滅されると言うわけだ。
今までこの戦法は王国の外には漏れていなかった。
重装歩兵部隊はブラート王が直々に鍛え上げた精鋭であり、ブラート王を裏切る事はない。
そして攻め込んだ敵軍は1人残さず殺される訳なのだから情報が漏れる事がなかったのだ。
私がこの戦法を伝えた所、ユーティア帝国の諸侯達は顔を青くしてドン引きしていた。
もともとただのカウンター戦法だったのを、私が助言してブラッシュアップした結果、現在の一種の罠の様な戦術になったのだから少し複雑な気分だ。
「明日、騎兵を使う事になった」
敵軍を監視する見張りの部隊以外に休息を命じたルーカス様と私は、レクセリン砦の中の一室で簡単な夕食を食べながら明日の戦いの話をしていた。
「敵軍を突破するのは難しいと思いますが?」
「いや、敵軍を切り裂く様な運用はしない。
騎馬の突撃力を使って楔型に布陣するハルドリア軍の端を突き抜けて背後を狙う予定だ」
「そうですか……そうなると、おそらくあの不気味な男達か魔物の軍勢が出る可能性が有りますね」
「なに?」
「ブラート王は各部隊に信頼の厚い上級指揮官を配置しています。その連携を崩すのを嫌って、イレギュラーな動きをする敵には傭兵や消耗前提の部隊を割り当てる事が多いのです」
「なるほど、留意しよう」
その後も、いくつかブラート王が得意とする戦術を解説し、対策を進言しておいた。
部屋に戻った私は、昼間救護の手伝いで疲れ切っていたアリスの寝顔を見た後、報告の書類を確認し、眠りに着こうとした時、ドアがノックされた。
前に4号が潜入して来た事で多少警戒心が湧くが、入室許可を求めるミレイの声で肩の力を抜いた。
正直、今の状態で白兵戦はしたく無かったので安心した。此処にはアリスも居るしね。
左足を少し引き摺りながらドアの前まで行き、ミレイを招き入れた。
「夜分遅くに申し訳ありません。
砦への到着のご報告だけでもと思いまして」
「ありがとう」
「こちらが報告書です」
「後で目を通すわ」
「急ぎの報告は有りませんので、明日時間がある時で大丈夫です。
では、私は隣室で休ませて頂きます」
「ええ、お疲れ様。お休み」
「お休みなさいませ」
少し疲れが見えるミレイは、ルノアとミーシャが眠っている隣室へ続くドアへと姿を消した。
ミレイとバアルは戻って来た。
ユウとリリも昨日の夜に到着しているし、イーグレットもそろそろ帰って来る頃だろう。
「明日は戦況が大きく動くかも知れないわね」