作品タイトル不明
商談の日
ヒルデとの商談当日、私とミレイは商談に向かう用意を整えて宿で軽食を取っていた。
「じゃあ、私とミレイは商談に行くから、皆は好きにしていて良いわよ」
私はルノア達にそう伝えた。
ルノアとミーシャにはアリスと共に過ごして貰う事にした。
多少心配は有るが、ルノアとミーシャも13歳だ。まだ成人はしていないが、子供でもない。
この年齢なら、一般的な社会では冒険者として魔物を討伐したり、見習いとして仕事をしている年齢であり、貴族なら婚約し始める年齢だ。
過保護にするよりも自立心を養ってやるべきだろう。
「今日は正門前広場に行くんだっけ?」
「はい、正門前広場に大道芸人が来ているそうなので行ってみます」
「その後は自由市を少し見て戻るつもりです」
「そう、夕方までには帰るのよ。
アリスはルノアとミーシャの言う事を聞いて良い子にしているのよ」
「うん」
元気に出かけて行く3人を見送り、私もミレイと共にヒルデの屋敷へ向かう。
ちなみに昨夜もフラフラで帰って来たティーダだが、早朝には鼻歌を歌いながら出掛けていった。
ヒルデ・カラードの屋敷はアリス達が向かった正門前広場があるちょうど反対側、裏門がある辺りにある。
その辺りは代官の屋敷や会議場、役場、など、街の運営の施設や公共施設などが有るエリアだ。
ヒルデの屋敷は広く、帝都の貴族屋敷と比べても立派な建物だった。
従者の控えの間に案内されるミレイと別れ、応接室へ通された私を迎えたのは、薄いナイトドレスに透ける様なストールを肩にかけた魔族の女性だった。
魔族の証で有る角が側頭部から頭を沿うように額まで伸びており、まるでティアラの様だ。
「ようこそ、お久しぶりね。エリー会長」
「お久しぶりです、カラード議員」
「あら、そんなに畏まらないで良いですのよ」
「ふふ、ではヒルデさんとお呼びしても?」
「勿論、私もエリーさんと呼ばせて頂くわ」
ヒルデは元娼婦と言う経歴だが、その瞳には深い知性と、商売人としての油断ならない鋭い情熱が宿っていた。
ヒルデと握手を交わして座った私は、用意していたチョコレートを勧める。
「へぇ、これが帝都で流行しているお菓子なのね?」
「ええ、ケーキやクッキーなど色々と応用出来ますわ」
菓子や紅茶の話題で場が温まった所で今回の目的であるアクアシルクを取り出した。
「今回お邪魔させて頂いたのはこのアクアシルクの商談が目的なのです」
「これは……本物のアクアシルク。
製法が確立したと言う噂は本当だったのね」
「はい、本格的な生産はまだですが、ある程度の量は確保出来ました。
一部の高位貴族や有力者にお声を掛けさせて頂いておりますわ」
「なるほど、これは久々に大きな取引となりそうね」
ヒルデとは直接ではないが、商会として既に化粧品関係で何度も取引をしている。
その為、ある程度の駆け引きは有っても、そう争う事なく穏やかに取引の話は纏まった。
契約書を交わし、一先ず交渉を終えた私とヒルデはお互いの健闘を讃える様に談笑しながらチョコレート菓子を摘んでいた。
「ふふ、どうかしらエリーさん。良かったら今晩、夕食でも?」
「嬉しいお誘いですが、義娘や弟子も居ますので」
「なら皆さんご一緒ならどう?」
「そう言う事なら喜んで」
ヒルデからの誘いを受けた私が、一度お暇する為に腰を上げた時だ。
廊下から何やら騒がしい声が聞こえて来た。
ヒルデと視線を合わせ、2人同時に扉に視線を向ける。
すると扉が勢いよく開かれ、メイドや執事に止められるのを振り切りミレイが応接室へ飛び込んで来た。
「ミレイ⁉︎」
「エリー様、大変です!アリスとルノアが!」