作品タイトル不明
休息の日②
ヒルデとの商談は3日後、明後日は準備があるとして、明日は時間が取れる。
翌日の昼過ぎに宿を出た私は、昨日のメンバーにミレイを加えた全員で市場を冷やかして歩いた。
ケレバンの街は娯楽の集まるその特性上、多くの嗜好品が販売されている。
輸入品の小物を取り扱っている商店でミレイが見ているのは東の砂漠の先に有る国で作られた茶器だ。
帝国や王国の白くスマートな茶器とは違い、彼の国の茶器は丸くずんぐりとしたフォルムで花や小鳥が精緻に描かれ、鮮やかな色で彩色されていた。
普段はあまり表情を表に出さないミレイが薄く微笑みを浮かべている。
ミレイの趣味は茶器や珈琲カップのコレクションだ。
勿論、貴族が集める様な大仰なコレクションでは無いが、気に入った茶器などを市場などで見掛けると細々と買い集めていた。
それらのコレクションは王国を出て帝国に亡命する際には持ち出す事は叶わなかったのは申し訳なく思う。
最近では私達も金銭的に余裕が出来て、ミレイにもその働きに見合うだけの給金を渡しているのだが、ミレイは相変わらず茶器や珈琲カップを買い集めるくらいにしか使ってはいなかった。
悩んでいた様だが、ミレイは砂漠の国の茶器を購入する事にしたらしい。
いつも通りの表情に見えるが、長い付き合いである私には彼女が上機嫌である事が分かる。
そして北大陸からの輸入品である小物細工を見ていた3人を呼び、少し早めの夕食を食べる事にする。
店は宿の主人のおすすめのレストランだ。
「あの〜エリー様、やはり私は……」
「良いのよ、気にせず入りなさい」
レストランの立派な建物に気遅れしたのか、ミーシャが遠慮しようとするが、私は気にせずミーシャの手を引いて入店する。
最近は減っているが、偶にミーシャは奴隷の身分だから、と遠慮しようとする事があった。
やはり近い内に奴隷身分から解放するべきかしら?
帝国法が定める奴隷身分からの解放に関する法では、奴隷の解放にはいくつかの条件がある。
最も簡単なのは金銭での解放だ。
私はミーシャに渡しているお小遣いとは別に、彼女の働きに応じた額を貯めている。
その金額が解放に必要な金額に達したら、奴隷身分から解放するつもりだ。
私がお金を出して解放しても良いのだが、ミーシャはそれでは納得しないだろう。
獣人族は全体的にプライドが高い気風がある。過度な施しはミーシャを傷付ける事になるかも知れない。
今度、セドリックにでも相談してみようかしら?
その日はレストランで夕食を楽しんだ後、早めに宿へと戻った私は、部屋でアリスやルノアに魔力操作を教え、ミーシャはミレイに従者としての仕事を教わりながらゆっくりと過ごした。
その夜、アリス達が寝付いた後、深夜にはまだ少し早い時間に、宿の食堂でミレイとワインを飲んでいると、宿の入り口からユラユラと揺れる人影が現れた。
「あっるれ〜エリーしゃんとミレイしゃんじゃないッスかぁ〜。珍しいッスね〜、こんな夜おしょくに〜」
ご機嫌に酔ったティーダである。
「もう、ベロベロじゃない」
「いくら治安がいい街とは言え、女性が泥酔して外を歩くのは危険ですよ。最近は良くない噂も有りますし」
ミレイが言うのは今日、外で聞いた噂だ。
なんでも最近、怪しい人物を見たと言う話があるのだ。
まぁ、こんな街だから怪しい人の1人や2人いてもおかしくは無いか。
私とミレイは呆れながらティーダを支える。
「だ〜いじょ〜ぶッスよ〜、ティーダちゃん、強いッスから…………うっぷ」
「ちょっ!吐くなら外で吐きなさい!」
「エリー様、外に運びましょう」
「そっとよ、そっと」
「うぅ……うっぷ」