軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

疾走の日

「落ち着いて、ミレイ。何が有ったの?」

ミレイの肩を押さえて落ち着ける様にして尋ねる。

荒い息を整える様に深く呼吸したミレイは手短に状況を報告する。

「アリスとルノアが何者かに拐われました。

犯人と交戦したミーシャは重傷です」

「な⁉︎」

私は飛び出しそうになる脚を気力で押さえ付けミレイに問う。

「ミーシャは何処に?」

「この屋敷の一室を借りて手当を受けています。こちらです」

駆け出すミレイを追う様に私も走り出す。

その背後でヒルデもこちらに付いて来ていた。

「ミーシャ!」

その部屋に飛び込む様に入ると、ソファに寝かされたミーシャを治癒魔導士らしき初老の男性が治療していた。

「ローレンス、その子の容体は?」

ヒルデが初老の治癒魔導士に尋ねる。

「良く有りませんな。切り傷に骨折も多数、右眼は潰れ、内臓も傷付いています。私の魔法では治療は難しい」

ミーシャは身体中にナイフで斬りつけられた様に傷が走り全身を血に染めている。

頬や腕、胴などが内出血で赤黒く変色しており、顔にも右目を断ち切る様に大きな裂傷があり、大量に出血している。

「これは……」

ヒルデがその惨状を見て言葉を飲み込む。

どう見ても致命傷で、持って後数時間。

直ぐにでも上級治癒魔法が使える治癒魔導士に治療されなければ確実に死ぬ傷だ。

「退いて!」

私は初老の治癒魔導士を押し退ける様にミーシャに駆け寄る。

「神器【 暴食の魔導書(グリモア・ベルゼブブ) 】」

直ぐに神器を発動したわたしはミーシャを治療する。

「【 上級治癒(エクスヒール) 】」

ヒルデと初老の治癒魔導士が驚き息を呑むが、今はそれどころではない。

「う……エ、エリー様……」

「ミーシャ!まだ起きちゃダメよ。

傷は塞がっているけど失った血は魔法では戻らないわ」

「エリー様……アリス様とルノア様が……」

「ええ、聞いたわ。良く知らせてくれたわね」

「私……守れなくて……」

ミーシャは何かを握った右手を差し出してくる。

先日買ったリボンだ。

「大丈夫よ、アリスとルノアの事は私に任せて休みなさい」

私が頭を撫でるとミーシャは一雫だけ涙を余して気を失った。

私は眠ったミーシャの手に握られていたリボンを抜き取る。

金糸の様な髪が数本絡まっている。

アリスのリボンだ。

アリスは、ルノアやミーシャとお揃いのリボンが嬉しいらしく、リボンを買ってからずっと身に着けていた。

髪に癖が付くと言っても聞かず、寝る時も着けたままにしていた程だ。

「ミレイ、ミーシャをお願い」

「畏まりました」

ミーシャの事をミレイに任せ、ミレイがミーシャから聞いた情報を受け取った私は、直ぐ様踵を返す。

「エリーさん」

「ヒルデさん、申し訳ないけど食事はまたの機会に」

「待って!私も行くわ」

「……しかし……」

「この街で私の客人が被害を受けたのよ。このまま黙っている訳には行かないわ」

ヒルデの瞳には明らかに怒りの色が浮かんでいる。

「良いわ、なら急ぎましょう」

屋敷の玄関に向かいながらヒルデは使用人達に矢継ぎ早に指示を出す。

「街の全ての門を封鎖して」

「はい」

「住人には外出禁止令を出して、怪しい奴には身元の確認を。抵抗するなら捕縛を許可するわ」

「畏まりました」

「ヒルデ様、馬車の用意が出来ました」

「ありがとう。エリーさん、馬車に……」

「必要無いわ」

「え?」

「走った方が早いから」

私は玄関を出ると同時に身体強化を発動させる。

私の魔力であれば、短時間なら馬より速く駆ける事が出来る。

「エリーさん!」

ヒルデの声を置き去りに、私は石畳を踏み砕き駆けた。

ヒルデが指示した緊急配備の為の兵士達が住人達に退避を促しているが、まだ多くの人々が通りに屯している。

その間をすり抜ける様にミーシャが襲われた正門前広場へ向かう。

周囲の景色が高速で背後に流れるなか、不意に横から声が掛かる。

「エリーさん、落ち着いて」

「ヒルデさん……」

横目で見ると、ナイトドレス姿のヒルデが私の直ぐ横を追従していた。

ヒルデは私と同等かそれ以上の身体強化魔法を使っていた。

彼女の種族である魔族は魔力、身体能力共に人族を上回り、かつては魔王に率いられ世界を支配するべく人族やエルフ、ドワーフ、獣人などの人種と争っていた種族だ。

今では他の種族とも友好的な関係を築いているが、一部の国や地域では未だに忌み嫌われる。

その魔族として見てもヒルデの魔力は高い。

全力で強化している私の身体能力に問題無く追いついて来ている事からもそれは明らかだ。

「エリーさん、正門前広場へ行くなら中央区を通り抜ける方が速い。こっちよ」

そう言って先導するヒルデの後を追い、夕日が照らす街中を駆け抜けて行った。