軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

見覚えのある土下座

シモンと共に駆けつけたエルンストを廊下で迎える。合流し、私たちはシモンの先導で足早に歩き続ける。

ひとまず応接間に通した、と説明を受けながら駆けるように廊下を進んだ。エルンストが自ら応接間の扉を開く。

「姉上!!」

勢いよく明け放たれた扉の先で、ソファーに腰掛ける人はいない。だって、シルフィア様は床に伏せて頭を下げているんだもの。

「すまない……」

「その体勢でほだされるとでもお思いか!! 見るのは二度目なんですよ!!!」

「しかし、私にはこうして頭を――」

「いいから座って説明しなさい!!!!」

エルンストの大喝が部屋に轟く。床に頭を擦り付けていたシルフィア様は、「はい……」と小さくこたえて立ち上がり、大柄な体を縮こめてしょんぼりとソファーに腰掛けた。あの……私は……初見でびっくりしていますよ……

「それで、今度は何を仕出かしたのです」

シルフィア様の向かいにどっかりと腰を据え、エルンストはシルフィア様を睨みつけた。口を挟める雰囲気ではない。私もそっとエルンストの隣に腰掛ける。

「あ、あのな、そちらの女性はもしや」

「説明が先です」

しどろもどろなシルフィア様の言葉をエルンストは容赦なく斬って捨てる。エルンストの眼力に圧され、シルフィア様は目を泳がせながら口を割った。

「……その……アルベルティナの、関係上……一応……の父親に、アルベルティナの存在がバレてしまった……」

それは、ここまで取り乱すほどのことなのだろうか。――まさか、アルベルティナが実の両親の元に……! 血の気が引く。縋るように送った視線の先で、エルンストは『心底続きを促したくない』と言いたげな顔つきで苦々しい声を絞り出す。

「…………誰です」

「その……バルタザール・エメリヒ・フォン・クラウゼヴィッツ……という男だ」

「うぇっうえ」

不安以上に衝撃が勝ちすぎて、驚きが口を衝いて出た。隣でエルンストが大きく息を吸い込む。

「あなたはどうして!! そう規格外をやらかさなければ気がすまないのです!!!!」

エルンストが大声で叫ぶ。バルタザール・エメリヒ・フォン・クラウゼヴィッツ……その御名は私も存じ上げている。だって――隣国クラウゼート王国の王となった御方なのだから。

クラウゼート王国の動乱。その経緯はカルラ様のサロンで聞き及んでいる。王城の最奥、どこよりも厳重に守られているはずの王の居室。そこで国王が殺害されたことから全ては始まった。

当然国を挙げての捜査が行われたが、手がかりはなし。王位を空にしておくわけにいかず、王太子が王位に就くこととなる。

戴冠式の最中、王太子が王冠をいただこうとした正にその瞬間、王太子妃が震える声で告発を行なった。「王を弑したのはわたくしの夫です。弑逆者がいと尊き王冠を授かるなんて、わたくしはもう、黙って見過ごすことができません……!」と。第二王子は衝撃を受けながらも「兄上であれば犯行が可能だ」と、そして王妃は涙ながらに「思い返せば息子は夫と政策が合わずに言い争っていた」と証言する。そして、王太子妃が示した通り王太子の私室を捜索すれば確かな物証が。王太子は一転、王殺しの大罪人として処刑される――はずだった。その男の名が、バルタザール・エメリヒ・フォン・クラウゼヴィッツ。

「 バ(・) ズ(・) とは付き合いが長いんだよ……私は様々な山や森に拠点を築き各地を転々としていたんだが、その内のひとつがバズの保養所でな。初めてあいつと出くわしたときは不味いなと思ったんだ。いかにも身分が高そうだろ? この森は諦めようと思ったが、しかしあいつは私を面白がって『好きに住むといい』と笑ったんだ。後日正式な許可証までくれたんだぞ。狩りも仕放題だ。これは便利だと好んで足を運ぶようになり、避暑にやってくるあいつと何度も顔を合わせた。――そんな記憶があったからだろう。無実の罪で追い立てられたバズは、その森に逃げ落ちたんだ」

空白を埋めるように、シルフィア様が語り始める。

「……あいつ全身傷だらけで私の拠点に転がってたんだよ。死に直結するほどの深い傷はなかったが、放っておけば衰弱死しただろうな。そしてそれ以上に、生きる気力を失いかけていた。何せ妻と実弟と実母が結託して父王殺しの罪をなすりつけ、殺しにかかってきたんだからな」

恐ろしさに口元を手で覆う。おおよその顛末は聞いていたけれど、なんてひどいことかと改めて思う。父が家族に殺され、家族に、その罪を被せられるなんて。しかも告発をした王太子妃は、その後すぐに第二王子と再婚しているのだ。シルフィア様は深々と息を吐いて語り続けた。

「城内でバズの味方をする人間のほとんどが、バズを逃がすために殺された。『彼らの犠牲を無駄にするわけにはいかないとここまで逃げ延びたが、皆を失ってここから先、どうせよと言うのだ』って泣いてさあ……『もう生きていたくない』って言うから腹が立つわかわいそうだわで……」

口ごもり、「一宿一飯以上の恩もあったし……」や「見捨てるのも寝覚めが悪いし……それで勢いそういう コ(・) ト(・) が……」とシルフィア様がごにょごにょ呟く。シルフィア様の物言いに、深刻さから一転して妙に力が抜けた。隣でエルンストが深い深い息を吐く。

「聞き及んでいますよ姉上。第二王子が王位に就いて以後腐敗が蔓延し、生き延びた無実の第一王子を御旗に軍部がクーデターを起こした。『正義はここにあり』と先頭で剣を掲げ、見事王城に 蔓延(はびこ) る悪を撃ち倒した王子の隣には、戦女神が寄り添っていた、と。――まさかそんな訳があるまいと思っていましたが、まさか、ねえ?」

エルンストは「姉上?」と凄みのある笑みを浮かべる。シルフィア様は目をそらし、口を尖らせた。

「……戦女神なんて大げさなんだよ。私が得意なのはせいぜい狩りと潜入とゲリラ戦くらいのものだぞ……」

あ……っちゃあ〜〜……! 破天荒さに磨きがかかっている……!! たまらず片手で額を押さえる。エルンストの「これ以上聞きたくないが聞かなければ更に事態が悪化するせいで聞かざるを得ない!! クソがッ!!」という心からの叫びが部屋にこだました。