軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

ある冒険者から見た光景 第三者Side

俺の名前は、杉山隆。

公立大学に通ってはいたが、新潟の実家からの仕送りなんてものは殆どなかった。

そのために、金を稼ぐためにしがないパン工場で、大学生時代からアルバイトで働いていた。

生活費と大学費用でアルバイトを多く入れる必要があったことで、大学3年で、すでに6回卒業単位を逃していた。

何とか大学を卒業する事が出来たが、その頃にはITバブルは崩壊し、就職の機会を逸した結果、しがないパン工場に就職する事になった。

一日14時間労働、アルバイトの時も夜勤からの残業は当たり前だったが、手当付きで月収30万円程度で、働くことを余儀無くされた。

「はぁー、俺さ、このまま結婚も出来ずにあと15年で退職して何もないのに死ぬまで年金で暮らすことになるのかな……」

パン屋の休憩室で、俺と一緒に就職した同僚にコーヒーを飲みながら考えていた事を吐露する。

聞いていたのは、金山光という同じ年齢のパン配達をする同期。

「仕方ないだろ。氷河期世代は、国から捨てられた世代なんだよ。がんばれば何とかなるとか口にしているようなやつの9割は運に恵まれた連中さ」

俺とは違うメーカーのコーヒー缶をテーブルに叩きつけるようにしておいた疲れ切った表情をした金山が溜息をつく。

「あー、結婚したかったなー」

「このパン工場の仕事ノルマは地獄だからな。朝4時出社の午後6時退勤とかやべーよ」

金山が同意してくる。

「昼間は、本社のお偉いさんの社員が出社しているからな」

そんな俺と金山の話に割って入ってきたのはクールデリカの班長をしている紅林悟だった。

「紅林の方は出荷が終わったのか?」

「ああ、なんとかな。だけど、来年からは俺の仕事は無さそうだ」

紅林の失意混じった声に、俺と金山は視線を向けた。

「おいおい、紅林は49歳だろ? 退職まで、まだまだだろ?」

「何言ってんだよ。商品の仕分けなんて、機械が導入されたって、どんなに技術が進んだとしても、最後は人手だよ。来年からは、外国人実習生制度を導入してマンパワーを補うからロートルは必要ないんだってよ」

そう紅林が語ると休憩所はシーンと静まり返る。

理由は明白だった。

休憩所で休憩している連中は、全員がロートルの社員だけだったからだ。

時間的には、アルバイトと社員の休憩時間が分けられていたからであったが。

「じゃあ、俺達、クビになったらどうなるんだよ! 大手って言ってもパン屋での商品仕分けとトラックでの輸送とライン工くらいだぞ! 職歴で潰しがきかねーよ!」

金山も俺も、あと4年でクビを切られるかも知れない。

いや、外国人実習制度という奴隷制度を使えば国からも支援金が企業に入るから日本人を雇うよりも遥かにメリットは高い。

そうなれば、来年には、ここにいる全員がクビにされる可能性だってありうる。

せっかく、一生懸命勉強してFラン大学なんて存在していない時代に、必死に競争率の高い高校と大学を卒業したというのに、この仕打ち。

酷すぎる!

「なん……だよ……、俺達が何をしたって言うんだよ……。20年間給料も上がらずに頑張って会社を! 社会を支えてきたって言うのに!」

俺は思わず缶コーヒーをテーブルに叩きつけた。

中身がプルタップ口から飛び跳ねてテーブルの上を汚したが誰も咎めることはない。

「なあ、杉山」

「何だよ、紅林」

「俺さ調べたんだが……、神々のダンジョンで一発当てないか?」

「神々のダンジョン? あれか? 一つの県に一つしか存在していないっていう」

「ああ」

「無理だろ。スタートダッシュ組みが軒並みスキルを手に入れたって話だし……」

「いや、杉山。じつはダンジョンがリニューアルされた。そして、ダンジョン内に足を踏み入れるだけで、スキルを手に入れることができるって話だ」

「は? 誰でもか?」

「ああ。間違いない」

「何で分かるんだよ」

「先日、有給を何とかとって養老渓谷のダンジョンに行ってきたんだが、1階に辿り着いた時に、スキル【鑑定I】【アイテムボックスI】【剣士I】を取得することができたんだ」

「マジ……かよ……。紅林」

「ああ。見てくれ」

俺の目の前で紅林がポケットから取り出しタバコを目の前に見せてくると、そのタバコは唐突に消失した。

「――は?」

「さらには――」

紅林は、休憩室に置かれているテーブルやソファーですら消してから出現させた。

「これがスキル【アイテムボックスI】の力だ」

「まじかよ……。ってことは! ここにいる全員がスキルを手に入れることが出来るってことか?」

「ああ」

頷く紅林。

そしていつの間にか仲間内だけで話していた話に興味があったのか、休憩室で休憩をとっていた氷河期世代の全員がいつの間にか俺たちを囲んでいた。

そして紅林に質問をする。

そんな様子を見ながら俺は日本ダンジョン冒険者協会のホームページを見る。

冒険者掲示板を調べると、冒険者の平均月収は、スキル【アイテムボックスI】が使えるだけで80万円を超える。

上には上があることは分かるが、最低でも50万円は稼げるらしい。

「――な、なあ……」

「どうした杉山」

「俺達、会社を辞めて冒険者にならないか? 総支給30万で手取りが22万ちょいの、新人よりも給料が安い会社に――、会社を支えてきた俺達に牙を剥いてくる会社に恩義なんてないよな……」

俺の言葉に、金山や紅林が同意するように頷く。

「おーい! なんなんだ? この空気は?」

「何でテーブルの位置がバラバラなんだ? 工場長に見つかったら怒られるぞ?」

営業職であり同期の遠藤と田村が休憩室に入ってくると疲れた表情のまま話しかけてきた。

そんな二人に冒険者になることと、稼ぎを説明し一緒に来ないか? と、アッサリと承諾を得られた。

それから、俺達5人は冒険者として活動することになった。

最初は1階層から10階層をウロウロとしていたが、農作物をJAと繋がっている冒険者協会に買い取ってもらうだけで、一日で5万円を余裕で超える額を稼ぐことが出来た。

それが10日も続くとさらに稼ぎたくなる。

5人で、武器と防具を見繕って地下11階層に潜るとゾンビが出てきたが20年間もパン工場で鍛えられて鼻が麻痺して匂いが良く分からなくなっている俺達にはあまり意味はなかった。

ゾンビを剣鉈とスキル【剣士I】の併用で倒していく。

ゾンビから出た魔鉱石の属性は土。

それは、運が良ければ鉱物資源への錬成が出来る代物。

一発逆転が選べるもので、俺達は運が良くて1キロの金を得ることが出来た。

金の相場は近年では跳ね上がっていて2000万円近くで売れた。

そう、パン工場を退職してわずか2週間近くで2000万円近くを5人で稼いでいたのだ。

「なあ、俺思ったんだけどさ……」

千葉駅前のカニ専門店で戦勝祝いを上げていた時に紅林が口を開いた。

「俺達って地下15階層以下は、攻略できてないよな?」

「まぁ、地下15階層以下は日本狼が出てくるからな」

俺は紅林に言葉を返す。

「なあ、杉山」

「何だ?」

「パン工場で未だに働いている氷河期世代のやつらがいるだろ? あいつらを仲間にして、15階層の安全エリアまでのツアーガイドとかしたら儲かると俺は思うんだよな」

「たしかに……」

地下11階層以下から地下15階層までの稼ぎは土属性の魔鉱石ギャンブルに勝つ必要がある。

低級土属性魔鉱石の価格は1個5000円前後。

そこから金鉱石に変わる可能性は実際に低い。

俺達は運が良かったから稼げた。

それなら、安定した金を稼げるような新しい商売を作る必要がある。

それにツアーガイドなら、狩場での雰囲気やモンスターに関しての感覚を養うという意味で、これからも当分は需要が見込める。

「やってみるか!」

「ああ!」

「何の話してたんだ?」

「これからの商売の話だよ」

「へー」

金山、田村、遠藤が、酔っぱらった状態で話しかけてきたが、俺達がダンジョンツアーガイドの話をすると、目の色を変えて「氷河期世代を馬鹿にしている企業に復讐してやろうぜ!」と言い出した。

結局、それから2日掛かって、俺達が退職済みの大手パン工場から氷河期世代を根こそぎ奪うことが出来た。

人数は全員で、俺達を含めて20人。

それに伴って冒険者クラン【自由なる意志】を設立した。

「思ったよりも早く人数を集めることが出来たな」

そう口にしたのは紅林。

「ああ。とりあえずは、最初のツアーを成功させないとな! 明日は、何人だったけか?」

俺は紅林に確認する。

「全部で80人だな。11階層から15階層までだと、本来は3日のコースだが、5日ってことにしてある。無理なく進めないとな。それよりも最近は、地下12階層の寺の安全地帯にモンスタートレインしたまま地下11階層に上がる連中が多いらしいから注意が必要みたいだぞ?」

頷きつつ、俺は「なら、寺から出る前に準備をしたほうがいいかも知れないな」と言葉を返すと「だな」と紅林は頷いた。

そして、ツアーガイド初日、安全地帯である寺で参加者人数の確認をしていたところで、寺の外から次々と何かが爆発するような音が聞こえてきた。

慌てて寺の門から外を眺めていると、そこには男女ペアの冒険者の姿が見えた。

その内の片方――、男が頭上に手を上げて卸すと数百体ものゾンビを高位の冒険者のみが扱うことが出来る攻撃魔法で一掃していた。

「な……」

あまりにも凄まじい光景に俺は足の震えが止まらなかった。

そして1000体近くのゾンビがモンスタートレインされていたという事実に恐怖した。

普段は10体ほどしか出てこないゾンビが、1000体近く。

どれだけの冒険者がゾンビを放置していったのか。

怒りよりも恐怖がそこにはあった。

もし、俺達が先に寺を出ていたら恐怖に駆られたツアーガイド者たちの暴走により、とんでもないことになっていたことは明白だったからだ。

俺が――、否! 俺達が見ている中で、1000体近いゾンビは殲滅させられ全てのゾンビが塵となって崩れてダンジョンに吸収された。

「ばかな……」

思わず、その言葉が口から零れる。

理由は簡単だ。

モンスターが即時に崩れてダンジョンに吸収されたという事は、魔鉱石がモンスターの体内から消えたことを意味するからだ。

そして、スキル【アイテムボックスI】は、手に触ったものしかアイテムボックスには入れることが出来ない。

それが出来るということは……、目の前の男の冒険者の【アイテムボックス】のレベルはIではないということ。

もはや、そこから導き出せる答えは一つしかない

「あれは……、最前線で戦っている最上級の高位冒険者だ……」

そう口にしていた。

攻撃魔法が扱えることから間違いない。