軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

庭を描く願いと許可

何気なく窓の外に視線を向けた。

真剣な話し合いをしていたので無意識に目を休めたくなったのかもしれない。

華やかながら調和の取れている庭がクラウディアの目に映る。

屋敷のどこから見ても綺麗な庭が見えるようにと工夫されているのだろう。

素直に綺麗だな、と思いつつむくむくと描きたい欲が湧き起こってくる。

室内へと視線を戻す。

話し合いも一先ず済んだ今は気安い雰囲気が漂っている。

今ならいけるかもしれない。

クラウディアは思いきって頼んでみた。

「あの、不躾なお願いなのは承知していますが、お庭を描かせていただけませんか?」

「急にどうしたの?」

ヴィヴィアンに訊かれたので彼女のほうに身体を向けて言う。

「この間、うちの庭の絵を描いていた時にモーガン家の庭のことを思い出したの。いろいろな薔薇が美しかった、と。描いてみたくなっちゃったのよ」

「あら、庭ならいくらでも描いてもらっていいわよ」

侯爵夫人があっさりと許可を出す。

「ありがとうございます」

「何なら明日でもいいわよ。わたくしの用事もないから付き合えるわ」

「それがいいわね。今は薔薇が見頃だもの。もちろんクラウディアさんの都合が合えば、だけど」

クラウディアも用事はない。

「それでしたら是非、明日また伺わせてください」

「ええ。待っているわ。朝からいらっしゃいな」

それは、クラウディアとしては願ったり叶ったりだがいいのだろうか?

「ええ、それがいいわね。時間帯によって庭の様相も変わるもの。クラウディアさん、遠慮せずに朝から来て構わないわ」

「ありがとうございます。ではお言葉に甘えて朝から来させていただきます」

「昼食も用意させましょう」

ここで遠慮するのは却って失礼になる。

「ありがとうございます」

クラウディアは頭を下げた。

「さすがに明日は出勤だ」

アーネストは残念そうだ。

仕事に行くのが残念だというアーネストなどかなり貴重ではないだろうか。

「お兄様、明日雨にするのは止めてくださいませ」

アーネストがきょとんとする。

「何を言っているんだ、ヴィヴィアン。私に天気を操る能力はないよ」

ヴィヴィアンは溜め息をつく。

「そういうことではありませんわ」

「ん?」

不思議そうにアーネストは首を傾げている。

クラウディアは余計なことは言うまいと口を閉じておく。

侯爵夫人は楽しそうに 微笑(わら) っている。

「わからないなら結構ですわ」

「そうかい?」

「ええ」

わかったとアーネストは頷く。

まったく気にならないようだ。

クラウディアは余計な波風を立てないように何も言わない。

アーネストの視線がクラウディアに向く。

「クラウディア嬢、描けたら見せてくれないかい?」

「あ、はい、構いません」

描けたらスケッチブックを預けてもいいし、後日見せてもいい。

「ありがとう。楽しみにしているよ」

「はい」

クラウディアはただ楽しく描くだけだ。

「クラウディア、代わりにというわけではないけれど、今度ラグリー家の庭を描いた絵を見せてくれないかしら?」

「あら、わたくしも見たいわ」

「私も」

それなら明日持ってきてもいいかもしれない。

クラウディアが「明日持ってきますね」と言おうとした時、

「お嬢様」

そっとキティがスケッチブックを差し出した。

受け取って開いてみる。

それは先日クラウディアがラグリー家の庭のスケッチをしたものだった。

「キティ、貴女これを持ってきていたのね」

「勝手なことをして申し訳ありません。必要になるかと思いましたので」

「いえ、いいのよ。ありがとう、キティ」

「クラウディア、それは?」

「うちの庭をスケッチしたスケッチブックよ」

「見せてもらえるかしら?」

「はい」

手を差し出されたので、侯爵夫人にそのまま手渡す。

アーネストがわざわざ移動して侯爵夫人の斜め後ろに立つ。

侯爵夫人がスケッチブックをめくる。

黒一色のものもあるが、色鉛筆や水彩絵具で着色したものもある。

他人に見せるつもりはなかったからかなり自由に描いてある。

「ラグリー家の庭も見事なものね」

「ありがとうございます」

後でトマスたちに伝えよう。喜ぶだろう。

クラウディアとしても誇らしい。

侯爵夫人がぺらりとページを捲る。

「あら、ミランダさんね」

「はい。母が庭で読書をしていたので」

こっそりと本を読んでいる母もスケッチしてあった。

後で仕上げて父にあげようと思っている。

絶対に喜ぶはずだ。

母には事後承諾になるだろうが問題はない。

「やはり絵になる方ね」

「ありがとうございます」

「クラウディア嬢は人物画も描くんだね」

「興味があれば何でも描きますよ」

人物画だと協力してもらわないとならないからあまり描かないだけだ。

「そうなんだね。いつか私のことも描いてくれないか?」

「時間がかかりますよ?」

仕事中毒のアーネストにそれだけの時間を取らせることができるのだろうか?

自然体の姿なら大丈夫かもしれないが。

例えば資料なり本なりを読んでいる姿、とかならいけるかもしれない。

さすがに書類だとまずい。

「私だってじっとしていることくらいできるよ?」

「いえ、それほど時間を取れるのか、と」

アーネストは晴れやかに 微笑(わら) う。

「大丈夫だよ。今はほら残業も休日出勤も禁止された身だし」

「それでもお忙しいのではありませんか?」

後継として侯爵家での仕事もあるはずだ。

「絵を描いてもらうくらいの時間は捻出できるよ」

そこまで言うのなら本当に時間を捻出するだろう。

「わかりました。それではいずれ描かせてください」

アーネストが嬉しそうに微笑む。

「うん、ありがとう。楽しみにしているよ」

「はい」

いつになるかはわからないがその時は全力で取り組もうと決めた。

すでに侯爵夫人はスケッチブックを見ることに戻っている。

「よかったですね、お兄様」

「ああ」

アーネストは本当に嬉しそうだ。

それが、少しだけ意外だった。