軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

三周年記念SS 兄と妹とお菓子と

ロバートは所用で出掛けていた。

用事自体はすぐに済んだ。

時間があったので少し通りを見て歩くことにした。

何かあれば土産に買っていこうと思ったのだ。

さて何がいいかと、通りを歩きながら考える。

贈り物ではなくあくまでも土産だからちょっとしたものがいいだろう。

小物かお菓子か。

そんなことを考えながら歩いていると一軒の店が目に留まった。

老舗の菓子屋だ。

沢山の種類の菓子が箱や瓶、缶などに入れて売られている店だ。

懐かしい。

この店の菓子を昔、領地にいる妹たちに買って持っていったことがあった。

その時の二人の笑顔がふと甦った。

ふらりと店に入る。

「いらっしゃいませ」

「少し見せてもらいたい」

「どうぞごゆっくりお選びくださいませ。ご用があればなんなりと」

「ああ」

ゆっくりと店内を見て回る。

従者のユーグだけがついてきて、護衛は外で待機だ。

何がいいだろうか?

あの時は領地にいる妹たちへの土産だったから日持ちのするものにした。

今は二人とも王都にいる。

日持ちは気にしなくていい。

そうすると、何でもいいことになる。

存外難しくなった。

何がいいだろう?

考えながら歩いていると、ふと瓶に入った飴が目についた。

これは、昔、シルヴィアにやったものだな。

手に取る。

ふと思い出す。

この飴を受け取ったシルヴィアはまるで宝石のようだと目をきらきらとさせていた。

あの頃のシルヴィアはきらきらしたものは何でも宝石のようだと言っていて、その無邪気な様子を微笑ましく思ったものだ。

その飴をシルヴィアは大事に大事に食べていた、と聞いた。

自然と微笑んでいた。

シルヴィアにはこれにしよう。

クラウディアは何がいいか?

他の者たちへの土産は?

また店内を巡る。

使用人用にといくつかクッキーの箱詰めをユーグに持たせた。

……ユーグ用にも別に何か買おう。

個人的にロバートについてくれているのだ。それくらいは必要だ。

外で待っている護衛たちにもだ。

クラウディアやシルヴィアもそうしている。

さりげなく彼らの好きそうなものも手に取る。

両親の分も決まり、あとはクラウディアのものだけだ。

「クラウディアは、案外難しいな」

一人ごちる。

クラウディアはあれでいて食べることが好きだ。

どんなものを渡しても喜ぶだろうが、どうせなら好みのものを渡したい。

ふと奥の一角に積んである缶が目に止まった。

見覚えがある。

ふらりとそちらに向かった。

「金平糖か」

もともとは外国のお菓子だ。

それが三十年程前にこの国に入ってきて一時流行になった。

今では一般的なお菓子となっている。

子供はもとより大人にも好きな者は多い。

缶いっぱいに金平糖が詰めてあるようだ。

この金平糖はクラウディアに買っていったものだ。

『お星様を拾い集めたみたいです』

クラウディアは目をきらきらさせてそう言っていた。

勿体なくて食べれないと言っていたが、いろいろな方法で楽しんで食べたと聞いた。

クラウディアにはこれにするか。

一つ手に取る。

その後も店内を歩き回り、いくつか足した。

必要分あるか確認して会計をした。

妹の分だけは手に持ち、両親や使用人の分はユーグに持たせて店を後にした。

*

護衛に菓子を渡し、ユーグに使用人の分を配り、両親の分は部屋に置いておくように告げ、ユーグ分の菓子も渡してから一人階段を上る。

三階まで上るとちょうどシルヴィアと行き合った。

「お兄様、お帰りなさいませ」

「ただいま。ちょうどよかった。土産がある」

「お土産ですか?」

「ああ。出掛けるのか?」

「ええ、少々、用事が。ですがまだ少し時間に余裕がありますので」

「そうか。では渡すだけにしよう」

ロバートは持っていたうちの瓶のほうをシルヴィアに渡した。

「ありがとうございます」

渡したものを見てシルヴィアの顔が綻ぶ。

「まあ、懐かしいですわ。昔お兄様にいただいた飴ですわね」

「覚えていたのか」

「はい、もちろんですわ。とても美味しかったので、少しずつ大事に食べていました」

「そうか。気に入ったのだったらよかった」

シルヴィアが大切に食べていたとは聞いていたが、本人の口から聞くとよりいっそう嬉しいものだ。

「お兄様からいただいたあの飴の瓶はまだ使っていますわ」

「そうなのか?」

もうとっくに処分していると思っていた。

「はい。今でも飴を入れていますわ」

それは意外だった。

使っていると聞いて思い浮かんだのはちょっとした小物を入れているのだろうということだった。

まさかまた飴を入れているとは思わなかった。

「食べ終わったら厨房で洗ってくれますの。戻ってきましたらそこに新たな飴を入れるのですわ。最近ではセルジュがその頃に飴を贈ってくれるんですの」

「そうか」

ロバートの唇が綻んだ。

思いがけない贈り物をもらった気分だ。

シルヴィアはちらりとロバートの持つ缶を見て告げる。

「お姉様ならお部屋にいらっしゃると思いますよ」

「……そうか」

シルヴィアは微笑むだけだ。

まあどのみちクラウディアにも土産を渡すのだから居場所がわかっているのは有り難い。

「シルヴィア、ありがとう。助かる」

「いえ。お姉様も喜ばれるでしょう」

「だといいが」

ふふっとシルヴィアが 微笑(わら) う。

それにロバートは少し居心地悪く感じた。

そんなロバートの機微に気づいたのだろう。シルヴィアが軽く瓶が掲げて告げる。

「お兄様、ありがとうございます。大切に食べさせていただきますね」

「ああ」

「それではそろそろ失礼します」

「引き留めて悪かった」

「いえ」

シルヴィアは瓶を持ったまま立ち去っていく。

ロバートはクラウディアの部屋に向かった。

クラウディアの部屋の扉を叩く。

中から誰何の声が聞こえ返すと、少しして扉が開いた。

扉を開けたキティが中に招き入れてくれる。

「お帰りなさい、お兄様。何かありましたか?」

刺繍をしていたクラウディアが布と針をテーブルの上に置いて立ち上がる。

「邪魔したか?」

「いえ、大丈夫ですわ」

「よかった。出先で土産を買ってきた」

「まあ、ありがとうございます。お兄様、どうぞ」

クラウディアにソファを勧められる。

土産を渡すだけだからと断ろうとしたが、再度勧められて腰を下ろす。

クラウディアは向かいのソファに座り直した。

「これが土産だ」

クラウディアに土産の金平糖の詰まった缶を差し出せば少し身を乗り出して受け取る。

「ありがとうございます。開けてみても?」

「ああ、構わない」

クラウディアは丁寧にリボンをほどき、蓋を開けた。

その目がきらきらと輝き出す。

「まるで星を集めたようですね」

クラウディアの言葉は前回渡した時と同じものだった。

「お前は変わらないな」

クラウディアはきょとんとした。

いやと緩く首を振る。

子供の時と同じ反応だと言えばさすがのクラウディアも気分を害するかもしれない。

クラウディアが一つ摘まんで口に入れる。

その顔が綻んだ。

「美味しいです。お兄様、ありがとうございます」

「いや」

クラウディアがすっと缶を差し出してきた。

「お兄様も一緒にいただきませんか?」

「……そうだな」

「キティ、お茶をお願い」

「かしこまりました」

キティが一礼して部屋を出ていく。

「お兄様、先にお一つどうぞ」

「ああ。ありがとう」

一粒摘まんで口に入れた。

甘い。

こういうところも昔から変わらない。

自分が美味しいと思ったものは皆で分かち合おうとする。

「うまいな」

「ですよね!」

クラウディアが嬉しそうに 微笑(わら) う。

クラウディアもシルヴィアも昔と変わらない。

その優しい心をきちんと持ったまま成長した。

どれだけ大きくなっても変わらない、ロバートの大切な妹たちだ。