軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第986話 彼女は竜との関りを姉と考える

第986話 彼女は竜との関りを姉と考える

魔導船と違い、馬は夜休まなければならない。休息が必要だ。

「これ、美味しいね」

「塩味が効いている」

「素朴な味ですけどね!!」

ベーコンの塩味が効いた野菜具沢山スープに目玉焼きが付いている。それに、ニースを出る際にまとめて受け取っていた焼き立てのパンを彼女の魔法袋から取り出して皆に配っているものを口にする。

「最近、時間遅延の効果が高まるっているのでしょう?」

「ええ。三四日で一日経過相当みたいね」

「じゃあ、この遠征の間くらいは、カチカチパンでなくすみそうです」

スープを一口すすり、赤毛娘が相槌を打つ。魔導船での移動も、時間遅延効果の高まりで、食材を保存するのに役に立った。

「いいなー 三倍日持ちするってー」

「そうね。ワインが酢に変わる時間がかなりかかるということですもの」

秋に作るワインも塾生が終わり、飲み頃なのは翌春くらいまでで、そのあとは保存状態がよほど良くないと酸っぱくなり味が劣化する。なので、熱い時期は水で割って飲む「酸っぱい健康飲料」的な飲み物となるのが本来だ。

彼女の魔法袋に入っていれば、温度も上がらず1年が三四か月相当になるので、通年で飲み頃のワインが飲めるということだ。飲兵衛垂涎の魔法袋である。

「ワインがないなら、蒸留酒を飲めばいいじゃない」

「値段がねぇ。それに、酒精が強いから、そのまま飲むと酔っ払いにはいいけれど飲み物としては駄目なんだよね」

生水代わりにワインやエールを飲む地域がある。水資源の乏しい帝国や内海沿いの乾燥した地域では少なくない。王国の場合、水に恵まれていることを考えると、ワインは必需品ではなく嗜好品。なので、美味しいか不味いかは問われるところなのだ。

飲みきれないワインを底値で買いあさり、蒸留して一儲けしているニース商会からすれば、劣化しにくい魔法袋はとても魅力ある魔導具と言える。

「姉さんも、魔法袋育てればいいのではないかしら」

「むぅー そうだ、ジャンくんに英才教育を施して、彼の魔法袋の拡張能力を磨いてもらおう!!」

「随分と未来の話ね」

魔力量に合わせて能力が変わる魔法袋は、意外と手に入る。何故なら、魔力量の多い者には高位貴族が多く、彼らはさほど魔法袋を必要としていない。そういうものは、下々に委ねているからだ。反対に、必要とする者は魔力量が恵まれず、決まった収納能力のある魔法袋で、自身の魔力量で収容が維持できるものに需要がある。

所有する魔力量により収容能力が変動するような魔法袋は、「欠陥品」のような扱いであり、幼いころの彼女が入手できる程度の値段であったのだ。

「妹ちゃんの魔法袋くらい育てば、ジャン引っ越しセンターとか始められそうだね」

「少なくとも、伯爵嫡子がするような仕事ではなさそうなのだけれど」

どうやら、馬車が別で移動中彼女と絡めなかった姉は、この時間になるべく会話をしようと試みているようだ。暫く遠征続きであった彼女にとっても姉との会話を避ける理由もないので話をしている。

「竜とはどのように話をつけるつもりなのか、今の段階で腹案は定まっているのでしょうね」

気になっていたことを彼女は口にする。あくまでも、学院に戻る途中のついでに姉に付き合う程度の心づもりでしかない彼女なのだが、領主として先住の精霊や竜種のような地域に影響を与える存在にどう接するか、姉の胸の内を確かめておかねばと今更考えたのだ。

「ガルっちと妹ちゃんみたいな感じでいいかと思ってるんだよ」

「あれは、ブレリア様のお力もあるのよね」

泉の女神こと大精霊ブレリア。ガルギエムはその許諾の元、あの地に後から住み着いた竜であり、大家ブレリアと、店子同士のガルギエムとリリアルの関係であったので、「共存」という選択が容易にできたと考えてよい。

「そっか。大精霊がいての共存ね。それは難しそうだね」

ノーブル領に大精霊がいないとも限らないが、今の時点で姉はその存在を知らない。わざわざ探したわけではないのだが、峻険な山の多い大山脈西端のノーブル領に、ワスティンの森のような泉があるとも思えない。あったとしても、そこに人と共存していた過去のある精霊・大精霊がいると考えにくい。そもそも、人がほとんど住んでいないのが大山脈なのだから。

「力試しで調伏」

「生か死か、どちらか選ばせて、生きたいのなら従えってか」

赤目銀髪の言葉に青目蒼髪が重ねる。

「加護や祝福は無理そうか」

「そうね。殴られて服従させられた結果、祝福とはならないでしょう?」

カトリナと伯姪もそう口にする。とはいえ、悪さをする存在を事前に把握し、今回は顔合わせと様子見だけであったとしても、まずは実際に「竜」と対峙してみることはあってよいだろう。

「まずは対話ね」

「縄張り争いには実力行使しかないだろうがな」

貴族が武力を維持するのも、結局は武力行使による自己実現を可能とするためでしかない。非力な貴族、国は周囲からいいように圧力をかけられ、その在を削られていく。力なき正義は存在しない。勝った方が正義であるのだから力を蓄え、示すのは当然と言える。

「ガルギエムとの協調関係を提示して、同じように棲み分けしたいと提案するのはどうかしら」

「あれ、確か湖で魚の養殖をするので、お裾分けするからって話でしたよね」

「食い物で釣ったはず」

ガルギエ湖で養殖するという話で確かに協力関係を結んだのだ。

「養殖は無理だね」

川魚の養殖はメイン川などで行われているが、中流域に養殖池を作り川から水を引き込んで育てている。学院裏にある実験用の養殖池もそのような作りをしている。ノーブルより上流域は流れも急で、魚を養殖するような場所ではない。南都より下流の辺りではメイン川同様、魚の養殖、鯉などが育てられており、食卓に上るのだ。

「まずはお・は・な・しかな」

「拳で語り合う」

「メイスで説得!!」

結局、話したのち力づくということになりそうなのであった。

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野営では魔導船同様、荷馬車でハンモック就寝生活。陸の上でもあまり変わらないのであった。

翌日、南都に到着し宿で一泊と思っていたが、総督府の宿泊施設を是非使ってもらいたいとの連絡があり、姉が二つ返事で了承。今回の遠征?は姉の依頼なので、姉が判断した。

姉曰く「お父さんに対する心象をよくするための胡麻すりだろうね」とのこと。既に、総督としての内示が出ているルテシア子爵家に対する忖度・配慮ということなのだろう。貴族の人間関係で、こういった貸し借りはとても大事なのであった。

実際は、南都に現れたタラスクス討伐に協力して騎士となったものの多い「リリアル」に対する感謝の気持ちで招いたのだと聞いた。

他人の金で食べる豪華な食事はとてもおいしい。

翌日、昼過ぎにはノーブルに到着。こちらも、代官が次期領主の来訪ということで、城館の客間を提供してくれている。初日の野営以外は、貴族の旅行らしい様相を呈している。華都に向かった時の連続晩餐会とは異なり、身内だけの食事にしてもらっているのは、姉が産後ということで、余計な会談を望んでいないということもある。

どうやら、姉は出産で落ちた体力・気力が気になっているようで「本気のわたしを見せないと駄目だよね」と公的な面談は一年間断っているのだうだ。彼女から見れば大して変わっていたいと思うのだが、出産疲れが顔と体に出ているのは、姉の矜持が許さないらしい。

「この辺も手直ししないとね」

「今まで代官差配だったのだから、来客も最低限でしょうからそれほど手は入っていないものね」

「先に言っておくけどよぉ」

歩人は、改修工事と察して、お断りしようと話を切り出すが、そうはいかない。

「あんたは、ここじゃなくって、領都の外周工事よ。安心しなさい」

「防壁の補強は重要」

「川の合流点の水害対策とかだろ?」

「街道や街中の石畳も改修必要だと思いますよ!!セバスさんの、いいとこ見てみたい!!」

背中から撃たれたあぁ!!(通算何度目だ)とばかりに、リリアル生から集中砲火を浴び無事沈黙。

「適切な価格交渉で応じるのも吝かでないわ。姉さん」

「領主になるのは二三年先でしょ? その間に、リリアル伯爵領内の土木工事はあらかた片付けておいてもらえれば、後はこっちで引き取るよ☆」

人身売買は違法行為だが、歩人は人には含まれていないようだ。

「名誉騎士くらいには叙任してあげるよ」

「ま、まじで」

「ちょっぴり年金も出そうかな?」

「頑張ります、頑張らせてください!」

伯爵になれば、騎士を自身で叙任できるようになる。とはいえ、騎士は戦力であり、武力行使できなければ叙任する意味がない。『名誉騎士』の場合、何らかの論功行賞で騎士となった上、従軍義務のない名誉号ではあるが、公の場で「騎士」として扱われる立場となる。

名誉市民の騎士版と言えばいいだろうか。恩給がちょっと出るのは、完全支給の騎士には従軍義務が生じるのと差をつけるためである。

「これで、オイラ、歩人村に帰って村長になれるぜぇ」

やらかして村に居づらくなり飛び出してきた歩人にとっては、外の世界で成功したという証はなにより欲しいもの。竜討伐などに参加する機会もなく、参加したとしても功を上げられるとも思えないので、この機会は逃したくないと考えている歩人である。

「村に帰れるならよかったじゃない?」

「ばーいセバス」

「さよなら加齢臭!!」

「ひでぇ……」

いや、まだまだ先の話ですよ皆さん。二三年後で、さらに改修工事が終わって名誉騎士号を得てからですから。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

翌日、ノーブルを馬車で出るが行けるのは途中の村まで。そこから半日ほど歩かねばならない。竜と邂逅できたとしても、その日は野営か村で一泊することになるだろう。

とはいえ、魔装馬車は収納されており、野営地は土魔術で簡単に作れるので、魔導船で寝るのと大きな差はない。あくまで魔導船レベルだが。

村荷馬車を止め、村の住人から竜の潜むとされる場所を確認すると、大山脈の尾根に続く谷のうち、堰止湖となっている場所が二か所あり、そこに「黒竜」「白竜」と呼ばれる存在がいると伝わっているのだという。

少なくとも、今住んでいる村人の中には見た人間はおらず、祖父の祖父の代でも「言い伝え」以上のものではないのだとか。

「記録によると、聖征の時代の末に川が氾濫してノーブルが水没したんだけど、それが竜の悪さの知られている最後らしいね」

「単なる洪水では無いのね」

「堰止湖を破壊して、鉄砲水?土石流を発生させたんだって」

「それは、自然災害ではないのか」

カトリナがまともなことを発言している。背後でカミラ驚いた眼をしている。いや、カトリナは知能ではなく性格に難があるだけだから。冒険者ギルドに良くいる脳筋人なだけだから。

「ま、いる場所の心当たりは二か所だから二手に分かれようと思うんだよね」

「ふむ。時間もないしな」

「人数が多いと、竜も警戒するでしょうから悪くないわね」

姉チームはニース&サボア組。妹チームはリリアル勢。少々人数に偏りがあるが気になるところ。

「リリアルから誰か貰えるかな?」

魔力持ちは姉とカトリナがいるので問題ないが、斥候役がいないことが気になる。カミラが魔力走査をそれなりに使いこなせるようだが、必ずしも魔力走査だけで竜が見つけられるわけではない。見つからない、見かけないということは魔力を隠す能力を有していると考えてよいからだ。

「斥候が足らないわね」

「ここはセバスさんに行ってもらいましょう」

「涙を呑んでセバスを出す」

「……思ってねぇだろお前ら」

実際、歩人は遠征に同行したとしても冒険者組と組んで活動する機会はほとんどなかった。赤目銀髪か茶目栗毛、あるいは伯姪が斥候役を務めることが多い。今回の戦力では、歩人を姉に託す方が面倒がないと彼女は判断した。

「セバス、お試しで行ってきなさい」

「そ、そっすね。名誉騎士への道の記念すべき第一歩かぁ」

「よろしく頼むね、セバス君。君には大いに期待しているよお姉ちゃんは」

「はいっす!! よろしくおねがいするっす!!」

下町のスリの少年のような口調になる歩人。脱おじさんを目指しているのだろうか。見た目は少年、中身はおじさんだもの―――セバス。

二手に分かれた一行は、村の先でそれぞれ目標の谷へと入っていく。谷を流れる川を遡行するのは、本来ならかなりの難行となる。必ずしも歩行可能な岸辺があるとは限らず、時に崖を這い、時に流れに足を踏み入れ瀬を踏む必要があるのだが……

「足元から涼しい風が立ち上ってきて気持ちがいいです!!」

「気分爽快」

一期生主体のリリアル勢は、二期生サボア組の三人を彼女と赤毛娘が作る足場を踏ませ、各自が魔法壁を川の流れの上に作り歩いていくので大変らくちんなのである。

「いつもこんなのなのだ」

「なのです」

洗濯娘・灰目黒髪こと『セイ』と、皮剥娘・茶目灰髪『ターニャ』がぴょこぴょこと彼女の後ろをついて歩いていく。

一時間ほど遡ると、川の上流に巨大な土の壁が現れた。それは、まるで土魔術で固めた街壁のように見えたのである。