軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第987話 彼女は「白竜」と対峙する

第987話 彼女は「白竜」と対峙する

二手に分かれた姉と彼女。姉は「やっぱカッコいいのは黒竜だよね」と黒竜がいるとされる「黒竜谷」へ。そして、彼女とリリアル生は「白竜谷」へと入っていった。

遡行した先にあったのは、自然の土砂崩れで堰き止められたダム湖ではなく、土魔術で堰き止められたそれ。人間が為したとすれば、歩人以上の土魔術の使い出のように思える。魔物や精霊であれば、大精霊格だろうか。

「先に様子を見てくる」

「お願いするわ」

赤目銀髪を先行させ、残りのメンバーは土壁手前の湖岸で待機することにする。魔力壁による消耗を防ぐためでもある。

「まずは拳で語りあうか」

「拳じゃ無理でしょ。相手竜よ」

「メイスで語ろう」

「なら、俺はグレイブか」

蒼髪ペアと赤毛娘が脳筋会話をしているが、まずは相手と意思疎通ができるかどうかから確認するべきだろうと彼女は思う。

「さて、白い竜が腹の中が黒くなければいいわね」

伯姪の言葉に、それって……と周囲は思わないでもない。帰ったら結婚なみに何かが立つ言い回しではないだろうか。

数分後、赤銀髪が戻ってくる。

「谷の形の湖が出来ている。奥行きは結構ある」

「なら、深さはあの土壁くらいということね」

土壁の高さは30mほど。ダムとしては大きく感じるが、深さ30mの湖というのはさほど深いものではない。

「魔力走査で湖の周辺を探ったけれど、竜らしい存在はいない。魔物もたいしたものはいなかった」

湖の底、あるいは周辺の崖にある洞窟などに潜んで、魔力を抑え込んでいるのかもしれない。

「どうする?」

伯姪が彼女に問いかける。他のリリアル生たちも彼女に視線を向ける。

「二期生はこの地で待機。周辺に異常を感じたのなら、小火球を空に打ち上げて知らせてちょうだい」

「「「わかりました(のだ)」」」

そして、三手に分かれる。左岸を伯姪と蒼髪ペア。右岸を赤目銀髪と赤毛娘。そして、湖の中心辺りを上流に向け彼女が進む。

「魔力走査は水の中を通りにくいから、他の方法を考えるわ」

「他の方法……ね」

彼女には何らかの手段で、湖底あるいは水中に潜む竜を探す方法があるのだろうと伯姪は理解した。

『水の中を探す魔術とか、あったか?』

『魔剣』のボヤキも分からないではない。水の中を探す魔術はない。今回の遠征で、灰目藍髪は既に学院に戻っており、『水魔馬』に頼ることはできない。『蛙』のフローチェも同様で、水精霊の助力は望めないのだ。彼女は水の精霊の加護はない。

『まあ、お手並み拝見といこうか』

「大したことをするわけではないわ」

湖が大きいといってもそれは川の流れや池と比べてのこと。最近いりびたっていた海と比べれば大した大きさではない。

彼女は自身の魔力を一層高めると、詠唱を始める

「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲す偉大なる雷の姿に変えよ……

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

中空に生じた太陽と見まがうほどの雷の塊。それが、フワフワと水面へと落下し、大爆音とともに津波のような水柱を上げる。

『おい!! ダムが決壊するんじゃねぇか』

「大丈夫よ。さっき、強度を上げておいたから問題ないわ」

水柱が収まると、水面にはさまざまな魚や水棲生物が浮かび上がってくる。

『これが目的かよ』

「見えないなら、衝撃を与えて浮かび上がらせればいいのよ」

海ならば、衝撃が拡散してしまい威力が減衰するのも早いが、ここは湖。それもV字型の谷を塞いだ狭い湖である。U字型の深く広い湖よりも『雷』の威力は通りやすく、また、左岸右岸の間で反響し合う衝撃も生じやすい。威力はさらに増す。

「このまま上流まで落としていくのよ」

『容赦ねぇなお前』

いきなり叩き起こされる竜からすればお話合いする余地はなさそうなのだが、それはいいのだろうかと『魔剣』は思うのである。

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

『 超(ultra) 雷(tonitrus) 』」

100mおきに、巨大な雷球を湖面に落とし、自然破壊を行う彼女。どうやら、探索を切り上げ、両岸のリリアル勢は、彼女の行動が落ち着くまで「見」に徹したようである。そもそも、音と衝撃で、探索どころではない。

『お、なんかデカい奴が浮かんできたぞ』

「これが白竜かしらね」

白蛇に小さな羽が生えているような姿で、その大きさは長さ10mほど。少々大きめの木ほどの太さの胴を持っている。直径は1mくらいだろうか。

「先生!! すごい衝撃でした!!」

「報連相は重要」

「ふふ、驚かせたかしら。ごめんなさいね」

近づいてきた赤目銀髪と赤毛娘に抗議されるも、目の前の気絶しているであろう竜から彼女は視線を外さない。

「随分と強引なノックだったわね」

「ノックアウトされてるから丁度良かったんだろうぜ」

「それより、どうしますか? このままここで待機というわけにもいかないですよね」

リリアル生が湖の上で顔を突き合わせているわけにもいくまい。

「丁度あそこなら、この体をうまく乗せられるんじゃない?」

「ロープをかけて牽引」

「ああ、あの羽の付け根に魔装縄をひっかけて、岸まで引きずりますか!!」

幸い、胴に縄を掛けずとも、羽の付け根が水面から出ており、そこに縄を掛けて湖面に浮かべたまま引き摺ればよいだろうと全員が合点がいく。

重たい竜であろうとも、水の浮力でなんとかなる。取り合えず気が付く前に湖岸へ引き寄せようと六人は行動を始めた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

沈まぬように半ば引き上げられた白い蛇に似た竜。まずはコミュニケーションが成り立つかどうかから確認したい。討伐だけなら、この間に終わらせられるのだが。

「こぅー スパっと」

「メイスでスパッとは斬れない」

「フィンの刃じゃ短すぎるか!!

グレイブに視線を向けつつ、赤毛娘は「処す?」と暗に彼女に意識を向けるが、打合せ通り、まずは協力関係を模索するべきだろう。人身御供を要求するなどであれば……力で従わせることになるかもしれない。

「目覚めそう?」

しばらく待っても起きる気配のない白竜に、伯姪が起こした方が良いのではと提案する。

「雷撃は駄目ですよ先生」

「永眠しかねない」

「……もちろん、心得ているわ」

『小雷球』程度なら問題ないと考えていたのは皆には内緒だ。

「風で仰いでみればいいと思うのですが」

「風……」

「風得意なメンバーは……いない」

彼女たちの知る中で風の魔術が得意なのは『灰色乙女』なのだが、この場にいる者に『風』魔術が得意な者はいない。

「土槍でぷすっと刺すのはどう?」

「それなら、オウルパイクでもいいでしょ」

青目蒼髪がオウルパイクでしっぽの辺りをぷすっとしてみることになった。

魔装壁で足場を作り、湖の上へと足を進める。

「よっ」

蛇であれば肛門のあるあたりから湖に沈んでいる。その水際辺りを穂先で軽くつつく。

「もっと、力を入れた方がいいんじゃないですか!!」

「気絶していても竜。手加減無用」

「そ、そうか。よし!!」

そして、ぶすっと刺し貫いた。思いのほか深くさせたのは、おそらく気絶している間は、魔力による身体強化が緩んでいるからだろう。

『ウギャ!!』

鳴き声を上げ、驚いて頭を上げる白竜。

「おはよう、白竜さん」

『……ダレ?』

「私はアリー。この辺りの新しい領主の妹。周りの皆は、冒険者仲間かしらね?」

『……デ、ナニ?』

「ノーブル近郊の山には白竜と黒竜がいると聞いてご挨拶に伺ったのよ」

寝起きでふらふらしている白竜なのだが、会話をしているうちに意識が覚醒してきたようだ。

『何か、大きな音と衝撃があったのよね』

「大きな雷が何度も湖に落ちていたわ」

『そう、きっとそれね。長くここにいるけど、初めての体験だったわ』

彼女は嘘をついているわけではない。落とした雷は、彼女によるものだが。故意だが、ドアノックのようなものだ!!

「あなたが湖に浮かび上がってきたので、皆で岸に引き上げたのよ。溺れ無いとも限らないでしょう?」

『そんなことは……ないと思うけれど、一応礼を言うわ』

鎌首を持ち上げる様に彼女を見下ろす白竜。

「それにしても、この湖を作るのに、随分と大きなダムを作って堰き止めているのね。あなたの魔術、いえ、魔法かしらね」

魔術は一定の法則にのっとり精霊もしくは自身の魔力を用いて行使するものであり、魔法は法則に関係なく魔力で成し遂げる不可思議な現象と言えばよいだろう。理屈抜きで力で状況を変える力といっても良い。

『まあね。最初は洞窟なんかで暮らしていたんだけれど、長生きしているうちに体が大きくなってね。身を潜めるのと、魔力を温存するのに水の中にいられるように、川を堰き止めてこの形にしたのよ。でも、全部止めているわけじゃないのよ。新しく上流から流れてくる分だけ、堰き止めた上から流れ出していくのだから、下にいる人間が困るほどでは無いわよね』

住む場所がないので自身で家を建てた感覚なのだろう。

白竜は彼女と背後にいるリリアル生たちを見まわして、どうやら討伐に来たわけではないと察する。今迄、竜討伐に来た領主や騎士たちであれば百人単位で兵を率いていたからだ。わずか数人で竜討伐を考えるわけがないと、今までの経験からそう判断する。

『下に住む人間が誰であろうと、こちらに干渉しなければ特に悪さをするつもりはないわね』

白竜が『お互い不干渉であれば良き隣人たりえる』と言うと、彼女はもう一体の黒竜について話を向けることにした。

「ねえ、ご近所さんの黒竜とは知り合いかしら」

『……何度か顔を合わせた頃はあるわ。あっちも、私と同じような感じだと思うわ。人間が何人来ようともどうできるわけでもないでしょうけどね』

白竜は頭を左右に振り、「どうということはない」とばかりに振舞う。竜討伐慣れしている彼女たちがおかしいのであり、普通は討伐できないか大損害を覚悟で数を頼みに囲むしかないのだろう。白竜が自信満々なこともわからないではない。

相手の機嫌を損ねるような言い回しをする必要もない。討伐できますよなどとはおくびにも出さず、彼女は黙って同意するように頷く。

『それでも、たまに、大雨が降ったときなんかにわざと堰き止めている堤を壊して下の人間が右往左往するのを見るのは楽しいのよね。人間が慌てる様を見るのって面白いじゃない?』

思っていたより、悪戯好き、いや悪さをするようであると彼女は考える。

「これからもそれは行うつもりなのかしら。街の住民が大勢亡くなったり、街が水浸しになるようなことは遠慮したいのだけれど」

『嫌よ。なんで、私が人間に配慮しなきゃならないのよ。不干渉なんだから、私の趣味嗜好に口を差しはさまないでもらいたいわね』

人の話を聞くが、その内容を尊重するとは言っていない。そんなところだろうが、無表情な顔に対し目には嗜虐の色が浮かんでいる。

「良い関係でありたいと思っているわ」

『そう。なら、堤を壊すのも私の自由ということで、干渉しないでね』

「ふふ」

彼女は意味ありげに笑みを深める。

『何がおかしいの?』

「いえ、先ほど立派な堤なので、私の土魔術でより堅牢に仕上げたのよ。あなたの力であれを破壊できるのなら、お好きにどうぞ」

『なんですってぇ!!』

下流の堤に頭を向けると、そのまま湖面へと上半身を移動させ、水面を這う様に堤に向かっていく。

「あれ、あんなに重かったのに沈まねぇんだな」

「水の精霊なんじゃない?」

「しばいて服従」

「利用価値高めです!!」

討伐ではなく、傷めつけて服従。リリアル生の中ではそう白竜の未来は決定したようであった。