軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第九章 魔導船帰る 第983話 彼女はニースへと帰還する

第983話 彼女はニースへと帰還する

「良い土産ができました!!」

「身代金ガッポリ」

赤毛娘と赤目銀髪が何を言っているかと言えば……

パトラ湾を出て一路ニースへと向かう途上、ガレー船であれば岸伝いに航行するのだが、帆船とガレー船の良いとこどりである魔導船は、一旦南下し、クロス島の北で西進し最短距離でニースを目指すことにしていた。

その途中で、中型のサラセン軍船を発見して行きがけの駄賃とばかりに四隻で包囲し制圧したのだが、その中にサラセン海軍の総司令官であった男とその側近たちが乗っていたのであった。

サラセン兵を皆殺しにする気もなく、そこそこ良い装備の船であったがわざわざ帰航のための期間を延ばすことになる拿捕や曳航も不要であると判断し、サラセン高官御一行様のみを捕虜とし、その高官御一行用の私財などを接収したのち、最低限の水と食料を残してサラセン軍船を解き放つことにした。

ジジマッチョからは「マルス島騎士団に高く売りつけてやるわい」と言われそのまま世話を任せることにする。彼女達もサボア一行もサラセン人との接触の経験はないため、ジジマッチョ経由で聖エゼル海軍の魔導船に収容してもらうことを願い、承諾された。

彼女たちの姿を見た高官一行は『女子供ばかりではないか』といい、『このような船を子供が動かすとは』と大いに驚いていた。魔力の大小に年齢性別はあまり関係がないのだが、魔力持ちが稀少であるサラセン人にとってはその辺りわからないのだから当然かもしれない。

「高く売れるんでしょうか?」

「金貨がザクザク」

「さあね。マルス島騎士団次第だもの」

伯姪も見当つかないわといいつつ、今回の総司令官は泥酔帝のお気に入りの側近の一人であると伝わっており、その辺り、現場のベテラン大海賊(老人)たちの現実路線と、大勝利をもって皇帝に一層気に入られたいと考えていた文官上がりの総司令官(中年)の間の認識のずれが大きかったとか。

大海賊たち現場指揮官はギブリの指揮する南翼の軍船を機動させ中央と南翼で短時間に聖征艦隊中央を制圧し指揮系統と士気を崩壊させ、一気に決着をつける提案を行った。そのくらいしか不慣れな総司令官の制約を外して短期決戦を行い勝利する作戦が考えられなかったからだ。

加えて、機動した南翼ならば上手くいかなかったときに自己判断で逃走できると考えたこともある。実際は、二重包囲に押し込まれて十分逃げられ無かったように思えるのだが。

総司令官の中年男は、中央艦隊の総旗艦に座乗していたが、形勢不利と判断すると足の速い損傷のない中型ガレー船へ移乗し、一旦態勢を整えると宣言したのだが、そのまま怖気図いて逃走したようだ。

沿岸沿いに東に逃げると追撃を受けると思い、一旦南に逃げたのちサラセンが大半を制圧しているキュプロス経由で本国に帰還しようとしたのだが、魔導船の帰路と重なり……というわけである。残念。

「海賊なら縛り首だったのにねー」

「「ねー」」

三期生たちから吊るし海賊のリクエストがあったものの、残念、サラセン高官でしたぁ!! というわけで、吊るされずに済まされているのであった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「おいら、もう限界……」

魔導船を縦横無尽に……とはいいがたいが、それなりに乗りこなしていた歩人。だが、魔力量的に毎日かつかつまで酷使されて疲労困憊のようだ。おじさんは寝ても疲れが取れない年齢なんだよぉ。

「だらしないわねセバス」

伯姪が気合が足らないとばかりに斬って捨てるが……

「セバスはだらしない」

「パンツも一週間は替えないって言ってました!!」

「いってねぇよ!!」

おじさんは加齢臭もあるので、毎日、朝晩かえないといけません!!

「セバスさんの下着だけ、別に洗ってます」

「雑巾と一緒」

「……ひでぇ」

「そう。雑巾が可愛そう」

「そうじゃねぇだろぉ!!」

隙あらばおじさんは虐められるか弱い存在なのである。可哀そうだろ?生きてるんだぜ?

季節は初夏、海は凪いでいるが日差しは強くなりつつある。帰路は順調であり、数日でニースに戻ることができる。四隻の魔導船が菱形に船団を組んで進んでいる。魔熱球を出し、周囲を警戒する訓練……という名のアトラクションも忘れていない。

三期生が操船の訓練ばかりでは飽きるということもあり、魔熱球の操作の訓練も順番で行っている。魔力持ちと魔力無の二人一組での操作。魔石を用いた空気を加熱する工程があるので魔力無だけでは操作が難しい。

魔導具で魔力無でも操作できるようにならないではないが、手間暇とコストを考えると微量の魔力持ちで操作させる方が効率が良い。少なくともリリアルや軍関係者に魔力持ちは事欠かないからだ。

「上は涼しいから楽しみでしょうね」

「魔導船は風待ちがない分、動いている間は涼しいからいいじゃない」

甲板に天幕を張り日陰を作っているので、日差しの強さはさほどでもない。セバスに変わり舵を握る彼女の頭上にも操舵手用の小型の天幕が張られている。

「日差しは強いけれど、暑さはさほど感じないわね」

「そのうち、南から熱風が吹き込んでくるのよ。砂漠を越えてくる砂交じりのがね」

シロッコあるいは『ギブリ』と呼ばれる熱風が初夏から吹いてくる。砂漠で熱せられた空気が南から内海を越え北岸一帯に流れてくるのだ。夏を感じさせると言えば聞こえがいいが、厄介者でもある。

そのままズバリ、南からくる大海賊のあだ名にもなっているくらいにはだ。

「この遠征から帰ったら、もうしばらくはゆっくり領地経営できるのかしら」

「そうね。何年かは落ち着くと思うわ」

「そうだといいんじゃがな」

「……縁起でもない」

ジジマッチョが現れそうまぜっかえす。

「サラセンも数年は遠征できないでしょうお爺様」

「そうさな。艦隊を再建するにも人も金もない。久々の大敗であろうから、泥酔帝も偉大なオヤジの向こうを張ろうなどと暫くは考えまい」

そもそも、美麗帝の西征事業を上回りたいと無茶な計画を建てていたのだ。キュプロス征服、クロス島征服とサラセンの勢力を西へ西へと広げていく。その計画自体は問題ないのだが、総司令官に自分の側近・お気に入りを据えたことに問題があったと思われる。キュプロス遠征もそうだが、島民の人口と同数の遠征軍を送り込んで何がしたいのだろうかということもある。首都を破壊し住民を皆殺しにして……泥酔帝はキュプロス産ワインを好んで飲むのだそうだが、その醸造業者も皆殺しにしてどうするのだろうか。

率直に言えば愚かな皇帝が選んだ愚かな司令官に海都国は助けられ

ていると言っても良い。

「キュプロス……いいえ、マグスタの包囲が解かれ無事に撤退できるといいのだけれど」

東方貿易に関しても、美麗帝の時代、内海東部や南岸の独立したサラセン諸侯はこぞって皇帝の配下になるか遠征で討伐され支配下となっている。それまでは、諸侯を介して東方の物資を購入していた海都国は、サラセン皇帝の領地のどこかと貿易して今までより高価となった貿易商品を仕入れなければならなくなっている。キュプロスに拠点を維持する理由も希薄になりつつある。

とはいえ、キュプロスを放棄すれば次はクロス島が危険にさらされる。何もないマルス島に騎士団を殲滅するためだけに数万の遠征軍を送り込むサラセンからすれば、東内海の中央に位置する数千年の歴史を持つクロス島を領土に加えることは大いに意味がある。皇帝の権威を高めるだけでなく、その配下の総督や政府高官・側近たちの懐も潤うということだ。

「海都国はサラセンと適当なところで和平をするじゃろな」

ジジマッチョは神国や教皇庁と異なり、海都国はどこかでサラセンと和を結び、貿易相手として再び付き合うだろうと口にする。

「神国や教皇庁は強硬に反対するのではありませんか」

「するじゃろな。だが、あの国が生き残るには貿易相手を尊重せにゃならん。王国の人口の十分の一しかない国で、食料からなにから輸入しているのだぞ。国全てが商人といっても良い。、ま、武装商人、大海賊みたいなもんじゃな」

海賊も奪った物品を転売して利益を稼ぎ、それで食糧から奢侈財から購入している。そういう意味では、どこかで妥協できる関係であると言えばいいだろうか。神国や教皇庁は異教徒とそういう関係を築くつもりはない。現実主義と理想主義とでもいえばいいだろうか、戦争が終わるのは現実が見えている者同士の間だけであると言えるだろう。

王国も現実主義ではある。これは、先王の自己実現的外征や建築趣味のおかげで、王家も王国も財政難となった結果だ。借りた金を返し、国をと増すためには現実的でなければならない。理想を追い続ければ、どこかの国のように、税収の半分を占める領地が反乱を起こしたり、何度も破産するうえに、何十年も先の税収迄担保に金を借りる羽目になる。

「外で戦争するよりも、国内でより生産力を高めて税収を上げた方が

良いのでしょうけれど」

「国の成り立ちもあるでな。そもそも、サラセンとの戦いに勝って国を纏め上げた王家が、サラセンと仲良くできるわけがないわな」

神国とは聖征が終わった後も、国土に居座るサラセン諸侯を追い出すため何百年も戦争してきた国なのだ。サラセン人の領地が神国領内からなくなって百年とたっていない。祖父母の代、その親の代辺りまではサラセン人と戦い領地を得ていた騎士・貴族がいたのである。むしろ、それしかないと言っても良い。王国の三倍も騎士の割合が多い国なのだ。

その者たちの子や孫は得られる領地もないので、外に出て戦争する他はない。新大陸やサラセン、ネデルで戦争する理由はその辺りにもある。海都国が戦争しつつサラセン相手に貿易する他ないのと同様に、国の成り立ちにかかわることなのだ。

「リリアル領に戻ったら、リンゴの木を植えるわ」

「そうね。いい考えだわ」

戦争するよりリンゴの木を植えたい。王国は自然豊かな恵まれた国土なのだから。その土地をいつくしみたい彼女なのである。

あとはリリアル領に引きこもりたい。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「ニースよぉ!! 私はぁ帰ってきたぁぁぁぁぁ!!」

「……ねぇ、あなたが帰るべきなのはトレノであり、サボアでしょ?」

「うむ、気分だ!!」

カトリナがニースの軍港でそんなことを叫んでいる。さっさと船から降りてもらいたい。そもそも、カトリナはニースは初めてなのではなかったかと伯姪は胡乱な気持ちになる。カミラは「煩いですよ姫様」とカトリナを蹴り飛ばす勢いで先を急がせる。

サボアの魔導船や聖フローチェ号は「簡易型」なので、補修は魔導外輪を外して通常の木造船と同じ修理をすれば問題ないのだが、『聖ブレリア号』とニースの魔導船は、船体主要区画を魔装で覆ってある完全仕様。専門の造船技術者でなければ修理も改修もできない。

特に、一年近く東内海を縦横無尽に行き来した『聖ブレリア号』は痛みがそれなりに進んでいる。衝角攻撃のせいではありません。そもそも、木造船は何年も持つものではない。

「無事帰ったか」

「はい。ご心配おかけしました」

老土夫が船の様子を見に何人かの魔導船技師をつれて埠頭に現れる。

「船の調子はどうだ」

「すこし、水の抵抗が増えているような気がします」

海水に常時使っていることから、喫水の下の部分は貝や海藻が付着し、抵抗となる。外板の腐食も進むので定期的に海から引き上げ、こそげ落とすなり、木材を交換する必要もある。

「リリアルの魔導船から引き上げるとしよう」

「お願いします」

一番長い期間、作戦行動に出ていた『聖ブレリア号』から補修に入るのは当然だが、ニース軍港を母港とする魔導船は後回しでも問題がない。しばらくサラセン海賊は出てこないであろうから、ニース海軍は開店休業状態になるのだ。

「その前に、ささっと、サボアの魔導船を点検して欲しいわね」

横から伯姪が口を差しはさむ。

「いや、我々は急がんぞ」

「……早々におかえりいただきたいのです、大公妃殿下」

「ぐはっ」

背後でカミラが何度も頷く。カトリナは海賊ごっこができて楽しいのだろうが、その相手をさせられるカミラ……はともかく、聖エゼル修道女騎士団の面目がお疲れなのだ。魔力量の少ない者がおおい聖エゼルからすれば、簡易型とはいえ魔導船を運航し続けるのは大変負担となっている。

カトリナが操舵すれば問題ないのだが、それはそれで様々な問題がある。無駄に速度を上げようとしたり、ローリングさせたり……やりたい放題されるのだから。サボア大公妃であり、騎士団総長を兼ねるカトリナに外面的にも操舵を委ねるのは語弊がある。

げっそりした聖エゼルメンバーが死んだ目で空を見上げている姿からも察してもらいたい。みんなおうちに帰りたいんだよ。

老土夫たちが手分けして四隻の魔導船の損傷状態を確認していく。

「こっちの簡易型二隻は問題ない。とくに、サボアの船は慣らしが終わった程度で、直ぐに出航できる状態であろう」

「……いや、どこか補修が必要であろう?」

「全く問題ない」

「……」

走り出し、今から強引に壊そうとするカトリナを全力で押さえつける聖エゼルメンバーとカミラ。『死なない程度に殴っても構いません!!』などと不穏な声が聞こえてくるが、楽しそうで何より。

「聖フローチェも、船体は元々中古で、引き上げて魔導外輪を据え付ける時に凡その問題は修正してあるのでな。これも、王都迄程度なら問題なく動かせる」

聖フローチェ号で海から川を遡り、南都から少し北辺りまで魔導船で移動。そこから魔導馬車で学院まで戻る予定なのである。三日もあれば帰れる

だろうと彼女は推測する。

「では、数日ニースで休養して……」

彼女は学院生を二分し、二期生三期生たちを先に聖フローチェ号に乗せ学院へ返してあげたいと考えていた。