軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第979話 彼女は『ギブリ』の船に乗り込む

第979話 彼女は『ギブリ』の船に乗り込む

漕ぎ手甲板が二段になっている分、船舷の高さが1mほど高い『ギブリ』の座乗船。『聖フローチェ号』は喫水も浅く船舷も低い多用途船である。質量では到底かなわず、足に振れた小石のように弾き飛ばされてしまうだろう。

だから、彼女は自身で魔力壁を蹴り、単独で『ギブリ』の座乗船の前に移動する。

『斬れんのかよ』

「できるできないではなく、やるのよ」

正面の高い位置から『生石灰』を魔法袋から取り出し、水を撒くようにぶちまける。白い粉が空に広がり、やがて前進してくる大型軍船に向け重さを持った雲あるいは白い霧雨のように降り注ぐ。

それを注視していたサラセン兵の目の中へ入る。あるいは、海水で湿った体に降り注いだ。

『ぎゃあ!!!』

『あ、熱いぞ!!』

『目がぁ!! 目がぁ!!!』

転げ回るサラセン兵、あるいは、誤ってか自分の意志でかはわからないが海へと飛び込むサラセン兵。

その背後から近づいてくる魔導船の外輪に、またもや踏み砕かれ赤い花となり海面に跡を残す。

「次よ」

『魔力ケチるなよ』

『魔剣』が変じた総魔銀製の『バルディッシュ』。その全てに彼女は魔力を注ぎ込み、『魔刃』を形成、刃を伸ばしていく。本来、片手持ちの片刃曲剣ほどの刃の長さが、歪な鎌のように伸びていく。その刃の長さは3mほどにもなる。

『これで、振りきれば、半分くらいは斬れるかもな』

「一度で駄目なら何度でもよ」

中空から飛び降りる様に『ギブリ』船の船首に向け駆け下る。そして

BAZUUUNNN!!

船首から2mほどの位置を『魔刃』で斬り込み、彼女は海面を叩いて

再度中空へと移動する。

「……」

『おう、水も滴るってやつだな』

海に沈んだわけではないが、それでも波を蹴った反動で、いま彼女はずぶ濡れとなっている。

「気分が悪いわね」

『ま、早々に終わらせて着替えるしかねぇだろ』

体に張り付く水を吸って重くなった魔装衣に気が滅入るが、そうは言っていられない。彼女に向かい、散発的に銃弾や矢が放たれるが、目潰しを食らった影響か、はたまた、船首が破損し不規則に船体が揺さぶられているためなのか、当たる要素は皆無に等しい。

『もういっちょ、船首が完全に斬り飛ばせるまでだな』

今一度、巨大な『魔刃』を形成、先ほどの切れ込みと対になるように位置取りをして再び、船首へと斬り込みを仕掛ける。

BAZUUUNNN!!

GIGIIIII……BAKIBAKIBAKI

V字に切れ込みを入れられ、水の抵抗を受けた船首は巨大な破砕音を響かせながら大きな開口部を作ってしまう。水が流れ込み、船足はがっくりと落ちる。

追走してきた『聖フローチェ号』から、次々リリアル勢が甲板へと飛び込み、未だ戦うことのできるサラセン兵と斬り結ぶ……間もなく、叩き切り、海へと投飛ばしていく。

最初に突入したのは蒼髪ペア、そして、伯姪と茶目栗毛。

「待ってた?」

「今から行くところね」

「丁度良い」

彼女の背後には赤目銀髪。

「『聖ブレリア』も援護に来ている」

『ギブリ』船が失速し、『聖フローチェ』号から移乗攻撃を受けているのをみた随伴船が「親分のピンチや!!」とばかりに前進をやめ周囲へと集まってきている。それを背後から追走し、追い抜き、船首あたりに衝角で即を決め、そのまま圧し潰すように転覆させ、甲板上からサラセン兵に散々魔装銃で攻撃をしている『聖ブレリア号』一同。

『聖エゼル海軍』魔導船は、衝角攻撃からの移乗戦闘へと移り、一隻ずつ確実に無力化する戦い方を選んでいるようだ。そして……

『我慢できねぇ大公妃様だな』

「マテを覚えさせないといけないわね」

カミラに後ろから取り押さえられ、移乗攻撃を全身で主張しているカトリナ。移乗するほど戦力ないだろお前の船には。『聖フローチェ号』には、歩人の護衛剣監視役として三期生年長組四人が残っているから問題ない。『聖ヨハネス号』はサラセン軍船に魔装銃と弓銃、あるいは小火球で攻撃を加えているのが見て取れる。

良い子は離れて攻撃しましょう。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

船尾方向から突入したリリアル&ジジマッチョ団。船首が破壊され浸水し始めたため、櫂走は中止となり今は停止していると言っても良い。随伴船が首領船に接舷し増援とならないよう、三期生に指示された歩人が『聖フローチェ号』を操船し、近づかないように牽制している。顎で使われおじさんの悲哀。

その動きをまねて、『聖ヨハネス号』も牽制に回っている。

時間が経てば、『聖ブレリア』ら二隻の正規魔導船の衝角攻撃で随伴するサラセン軍船は始末できるだろう。

とはいえ、『ギムリ』の率いていたサラセン軍船のうち、半数以上の四十隻は中央艦隊に側面から接近することができているようで、前方と右翼から一時的に挟撃されている本隊は苦戦している用に見て取れる。それをフォローするのは禿爺とゼノビア海将のお仕事であり、彼女たち遊撃船団は『ギムリ』とその御供ら二十余隻の足止めと非戦力化を行っただけで十分なお仕事を果たしたと言えるだろう。

「もう帰りたいわね」

「家に帰るまでが戦争」

彼女は破壊された船首方向から赤目銀髪と突入、『魔力壁』を船幅と同じ程度に展開し、船舷の高さで撫で斬りするように前進し始める。

『たった二人か!!』

『殺せ殺せ!!』

サラセン兵が口々に叫びながら、曲剣を抜いて彼女たちに襲い掛かるのだが……

『なんだこれは』

『見えない……壁?』

『魔術だ!!』

『斬って斬れないものはない』

中には魔力持ちもいるようだが、彼女の魔力壁を魔力を纏った刃で斬りつけて初めて効果がある。そのような高価な魔力を纏う装備を下っ端サラセン兵がもっているわけもない。

じりじりと前進する彼女の前に、どんどんと後ろに押し込められていくサラセン兵。中には、マスケット銃を『魔装壁』に向けて放つ者もいるのだが、跳ね返ってかえって味方に当たり大事になる始末。一度でそれも諦めることになってしまう。

『勢いよくぶつかればいんじゃねねの』

「いえ、そうね。海に弾き落とすなら逆V字の方がいいわね」

今展開している魔装の背後に逆V字二枚の『魔力壁』を形成しなおし、最初のそれを消してしまう。

「全力疾走」

「たいして距離もないのだけれど」

全長50m強の船、前部楼と後部楼を備えている。その間を『魔力壁』を以て全力で加速する。

『うをおお!!!!』

『たしけて!!』

DOBONN!!

DOBONN!! DOBONN!!

DOBONN!! DOBONN!! DOBONN!!

残っているのは鎖でつなぎ留められた漕ぎ手奴隷だけとなる。

「下に隠れているサラセン兵を倒してくる」

「お願いするわ」

漕ぎ手の間に隠れているサラセン兵がいるかもしれないと、赤目銀髪は片手曲剣を構え下へと降りていく。後部楼周辺では『ギブリ』の側近や護衛の兵士たちとリリアル勢が戦っている。

彼女も背後から割って入り、はいはいはいとばかりにサラセン兵の首を撥ねていく。

「ここから先のサラセン兵は片付いたわ」

「「「うしろ!! うしろ!!」」」

海に落としたサラセン兵の中で、再び船舷をよじ登り戻ってくるものが幾人もいる。

『やっぱ、止め刺さねぇとな』

「皆、死にたがりなのね。神のもとに送ってあげるまでが義務の様ね」

「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……『 聖(sanctus) |雷《 tonitrus i》 炎(ignis) 』

浄化の炎を纏った雷撃の範囲攻撃。彼女の背後に立つ十数人のサラセン兵が雷撃で感電し、海へと弾き飛ばされるか、あるいは体を硬直させたあと崩れ落ちる。

「念には念を入れましょう」

『雷燕……乱舞』

同時に数重の雷を纏った魔力の刃=雷燕を飛ばし離れた相手を攻撃する魔術。面倒とばかりに二度三度と刃をふるい、サラセン兵に死体蹴りをかましているのである。

「ふぅ、どうやら誰もいなくなったようね」

『漕ぎ手が甲板下にいてよかったよなぁ』

小型のフスタ船なら、左右と中央の回廊の一段下に漕ぎ手が左右に分かれ配置されているので、こんな攻撃をすれば巻き添えにしてしまう。漕ぎ手奴隷は救うべき同胞なのであるから、無差別攻撃なんてできるわけがない。駄目、絶対ダメ!!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

『ギムリ』は三段に仕上げられた船尾楼に立てこもっている。本来は操舵室と船長及び艦隊司令部の居室、後方銃砲座を兼ねた塔である。

「先生、立て籠られました」

「頭上からの不意な銃撃に注意して下さい」

「段取りが悪くて申し訳ないわね」

伯姪が仕留めきれなかったと悔しそうに彼女に詫びる。

「問題ないわ。周りのフスタ船も大概無力化されているのだから、急いでことを仕損じるより押し込めたことを良しとしましょう」

木製の砦ともいえる『船尾楼』に立て籠もっているのは、南翼サラセン艦隊

を指揮していた大首領『ギブリ』とその幕僚・側近と護衛のサラセン戦士。

股肱の海賊衆といったところか。

「まずは、『魔装笛』を叩きこんで……」

「「「爆砕されるんじゃないですか!!」」」

悪竜の堅牢な甲羅は無理であったが、柔らかな腹部を攻撃して仕留めることができる破壊力。木製の砦なら確かに吹き飛ばされるだろう。その場合、砕け散った木片で中の海賊たちは肉片になりかねない。海上の砲撃で大砲の弾が直接命中することより、砕かれた船の部材が飛び散り人の体を傷つける効果の方がよほど恐ろしいのだ。故に、正規の魔導船は内側に魔装布もしくは魔装網を張り巡らせ破砕片が船内に飛び散らないように保護している。『聖フローチェ号』? 当たって砕けろ!!

彼女の提案は即否定された。

「ただの木の壁」

「まあ、魔力を纏った刃なら、簡単に斬れるよな」

「問題は、どう斬るかでしょ?」

「「「うーん」」」

リリアル生が頭をひねる中、茶目栗毛が提案をする。

「反対に考えてはどうでしょう」

「……それは、どういう意味かしら」

茶目栗毛曰く、せっかくひとところに幹部たちが纏まっているのだから、これを『仮牢』として外から封鎖し逃げられないようにするのはどうかというのである。

「人間、二三日は飲まず食わずでも生きていられるものね」

「明暗……名案」

「無力化して捕虜にできたと考えれば問題ないか」

「でも、どうやって塞いでおくのよ」

地上であれば、彼女の得意の『土牢』で覆い、捕らえるのは問題ない。が、ここは海の上。土は手に入らないし、木造の楼閣を外に出られないようにするのは難しいかもしれない。

赤目銀髪が面倒だとばかりに口を開く。

「屋根を斬り飛ばす」

「……それで……」

爆砕しないだけましだが、問題ないと言えるのだろうか。

「中に生石灰を振り撒く」

「「「……」」」

「阿鼻叫喚」

「「「……」」」

「死なない程度にけがを負わせるのであれば問題ない」

そう自信満々に言い切る赤目銀髪。サラセン海軍の幹部を生かしておく必要があるかどうかは彼女にはわからないが、『クルナ=アリ』に匹敵する大首領を生かしてとらえられるのであれば、悪いことではない。

『そんなの、マリーヌにたのめばいいのにー』

彼女の頭上から、そんな声が聞こえてきたのである。