作品タイトル不明
第974話 彼女は『魔鯱』を討伐する
第974話 彼女は『魔鯱』を討伐する
赤目銀髪の放った矢が水面に命中する。回りのリリアル生は「どこ狙ってんの!!」
と叫んだが、その直後、水面が大きく爆ぜた。
BUOONN!!
水柱が立ち、魔物が水面を大きく叩いて中空へと飛び出した。
「成功」
火の魔水晶を練り込んだ魔鉛製の鏃。効果としては魔装銃の火と水の魔石がぶつけ合った時の効果と同じ現象が発生した。
赤目銀髪の魔力を込めた魔鉛で強化した火の魔水晶が海面に振れた途端に爆発したのである。その爆発の衝撃をもろに頭に受けた魔物が驚いて飛び上がった……というところだろうか。
DOONN!!
着水した勢いで大きな水柱が上がる。
『聖フローチェ号』よりは少し小さいが、10mは越えているだろう。その体は恐らく白と黒の部分がある巨体。
「リバイアかしらね」
「恐らく」
そして、こちらにそのまま突っ込んでくるかと思ったのだが。
「ウォリャアア!!」
待ってましたとばかりに、海面に息継ぎに出てきた『魔鯱』の頭を魔力マシマシのとげとげ君で頭をぶちのめしている。
彼女の魔力走査に引っかかっている魔物は四体。二体は前方の『聖ブレリア』を襲い始めており、対策として預けてあった『魔装笛』が放たれ、連続して魔装銃の弾丸が海面を叩いている。
「あっちはなんとかなりそうね」
「飛び道具がある方が有利だわ」
魔装銃兵主体の『聖ブレリア号』だが、いざとなれば魔導騎士(非防水)と水魔馬のセットで拘束して撃ち殺すか、衝角で突き殺す算段がついている。ガルムも……多分、活躍するはず!!
KYUIIIII!!!
KYUAAAA!!!
空気を絞るような鳴き声が前方から聞こえてくる。どうやら、魔装銃で傷を負った『魔鯱』・リバイアが仲間を呼んでいるのだろう。
『聖ブレリア号』には二体が襲い掛かっており、目の前の一体の他、最も大きな魔力を持つ者がサラセン軍船の一隻の横辺りに存在する。それが、こちらに向け高速で移動し始めた。
「助けを呼んだ様ね。セバス、聖ブレリア号に向かって前進。距離を詰めます」
魔導船が動き回れるようにと距離を取っていたが、離れすぎているよりもどちらか迷う程度にお互い支援できる位置まで二隻を近づけることにする。幸い、こちらに向かってきた一体は赤毛娘がぶん殴ったおかげなのか、お腹を上に向け失神しているのか、死んでいるようだ。
そして、黒目黒髪のピンチだとばかりに、赤毛娘はそのまま『聖ブレリア号』に向かって駆け出した!!
「元気」
「そうね」
蒼髪ペアにはグレイブに持ち返るように指示を出す。そして彼女は、オウルパイク……魔銀鍍金製刺突槍に持ち替えた。水中の巨大魔物に長柄とはいえ小さめバルディッシュは会わないと判断する。
「それと、これも使ってちょうだい」
彼女は三期生四人を呼び寄せ、懐かしいものを魔法袋から取り出し渡す。
「あ、フットマンズフレイルですね」
「船縁から水面を叩くなら、この方がいいでしょう」
未だ小柄とはいえ、元は薬師組の防衛装備として用意した魔銀鍍金仕上げの棘付フレイルの長柄装備だ。一期生の初期装備を渡した年齢と今の三期生年長組は同年代に相当する。なので、問題ないだろう。
「これで、あの海豚野郎をぶっ飛ばしてやります!!」
「ぶっとばされたりしてー」
「それはお前だけだよ」
「なんだと!!」
軽口を叩きながら緊張をほぐしていく三期生年長組の四人。
「セバス、操船は任せます。沈むときは、船と運命を一にするように」
「うああぁぁ、嫌だあぁぁぁぁ!!!」
両腕をがっちり操舵輪と魔装縄で縛り付け、彼女は歩人を信じて船を預ける。びたいち信じていないだろその行動。
刺突槍を腰に抱き、彼女は腹を出して浮かんでいる『魔鯱』へと魔力壁の足場を蹴ってその前に立つ。
『どうすんだよ』
「こうするのよ」
触ってみても魔法袋に収納されないのは、いまだ生きている証拠である。
「気絶しているだけみたいね」
そのまま、刺突槍に魔力を纏わせ、頭を二回、心臓のある辺りを何度か突き刺し止めを刺す。
KYUUU……
断末魔の叫びとまではいかないが、まさに息の根を止められたという『声』がした。
KYUAAAA!!!
『聖ブレリア号』に向かっていた群れの主、あるいは魔物の『親』であろうか、その個体が向きを変え、息絶えた魔物のいた場所へと向かってくる。
『でけぇな』
「この船と同じくらいありそうね」
これまで討伐した『竜』よりも大きい魔物である。海豚は3mほど、寒い海ではもっと体を大きくするようだが、内海ではその程度だ。『鯱』ならばその倍ほど。だが、迫ってくる『魔鯱親』は15mはあるだろうか。仕留めた『子魔鯱』の倍はあるだろうか。
『おい』
「わかっているわ」
『聖フローチェ号』は他の魔導船よりも幅広でずんぐりとした船型をしている。速度は出にくいが半面、転覆しにくい。だが、15mもの巨大な生物が下に潜り込んで押し上げれば、容易にひっくり返されるだろう。
「任せて」
『聖フローチェ号』の甲板から斜め上へと駆け上がる赤目銀髪。先ほどと同様、『魔鯱』の鼻面に『火魔鏃』を放つ。
DWWUOONN!!
魔力マシマシにしたのだろうか、先ほどに倍する高さの水柱が立ち上る。巨大な『魔鯱』の進路が僅かにずれ、速度も失速するが、子のように腹を見せて浮かび上がるほどのダメージはないようだ。
「身体強化の度合いが違うみたいね」
『デカければデカいほど魔力もため込んでいるだろうしな』
長生きする生物の中で、亀や蛇のような生物は長生きするほど大きくなる。これが、人間や馬・牛のような生物と異なる。そうした生物は魔物化しやすいのだが、『魔鯱』となった個体もその枠を外れているようだ。確かに、『人喰』となった老いた獅子たちも、巨大な体を持っていた。
これは、おそらく魔物化した際、肉体にため込む魔力の量を増やす為に巨大化する特性を得たのだろう。海にすむ生物ならば、体を大きくしても負担は軽い。鯨はさらに大きい個体も存在するのだから。
「厄介ね」
『とりあえず、船を守れよ。あいつ死ぬぞ』
「それはそれで構わないのだけれど」
『魔剣』は歩人が操舵輪に縛り付けられていることから、転覆した場合、そのまま死ぬ可能性を示唆したのだが、彼女は「別に」と切って捨てた。歩人も死ぬときは死ぬ。命惜しむな名こそ惜しめ!!
☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★
『聖フローチェ号』に近寄らせないように、狙って『火魔鏃』で動きを牽制する赤目銀髪。彼女と蒼髪ペアの三人は、長柄の装備で水面に上がってくる『魔鯱親』を攻撃しようとするのだが、素早く動く相手を追い切れていない。
「もう、鏃がない」
赤目銀髪が最後の一本だと矢を示して彼女たちに告げる。
「最後まで取っておいて」
「わかった」
牽制がなくなったことに気が付けば、『聖フローチェ号』をひっくり返そうとするだろう。
そして、攻撃を避けるため一旦深く潜り、下から突き上げる様に浮かび上がり船を攻撃すると彼女は推測した。
「この場で待機」
「「「おう」」」
彼女は『聖フローチェ号』に戻る。甲板には四人の三期生と伯姪、茶目栗毛、そして操舵輪with歩人である。
「どうしたの」
「この船の下に潜り込まれるわ」
甲板に立つ仲間に向け彼女はこの後起こるであろうことを伝える。
「うえぇぇぇ……」
「そこ、吐かない!!」
死を感じた歩人が嘔吐するが、伯姪が叱咤する。しんじゃうぞー
「セバスの縄をほどいて。それで……」
彼女は『聖フローチェ号』を囮に『魔鯱親』を罠に嵌めることにした。
「うえぇぇ……俺、セバスさんかよ」
「しょうがないだろ」
「じゃ、お前変われよ」
「嫌だよ。セバス臭きっついもん」
「……」
彼女の立てた作戦は以下の通り。『魔鯱親』が『聖フローチェ号』を転覆させるタイミングで、魔法袋に収納してしまう。そこに頭を出すタイミングでだ。
問題は、冒険者組は魔力壁の足場を作り中空に逃げられるが、三期生は魔力の有無にかかわらず、自力でそれを成すことは出来ない。なので、女子二人は彼女と伯姪が、男子二人は茶目栗毛と歩人がそれぞれ一人ずつ受け持ち、持ち上げるということになった。足場に立てるだろうが、そのまま姿勢を維持できないので、しがみつくなり抱き着くなりしなければならないのだ。
そこで先の会話になる。そう、歩人は『セバス臭』がきついのだ。いわゆる「スメハラ」案件に、自分から抱き着かねばならない苦行。暗殺者養成所での心を殺す鍛錬が生きる瞬間。
「いやなら、いいんだぞ」
「まあ、このくらいどうってことないっす。家畜の糞の山の中に隠れる訓練もしたことあるんすよ俺ら」
「……俺ってそんなに臭いのかよぉ……」
「腐った玉ねぎみたいな臭いっす」
「まじかー」
自分の臭いに自分では気が付けない。そういうことなのだ。
「来るわ」
「みんな、いいわね!!」
「良くないけど、我慢するっす!!」
魔力壁の足場に立ち、八人はそれぞれ二人組となり中空へと対比する。
DOBANN!!
突き上げられた『聖フローチェ号』の帆柱の先端に触れ、彼女は魔法袋の中へと魔導船を収納する。
「「「今!!」」」
飛び上がる巨大な『魔鯱』に向け、最後の『火魔鏃』が放たれ、体の中心からわずかに外れ、尾の付け根辺りに命中し爆散する。
二人の長柄持ちは『魔鯱親』の横をすり抜ける様に魔力壁の足場を作り駆け、左右の胴体に刃を差し込み切り裂いた。
GAAA !!!
驚きと痛みで声を発する『魔鯱親』。そのまま空中で頭を下に向け水面へと落下する瞬間、彼女は……
「受け取って」
「任された」
「うえぇぇぇ!!」
赤目銀髪に向け、三期生女子を放り投げると、魔力壁の足場を蹴って刺突槍を構えて水面に向かい頭を下に向けた『魔鯱』に向かって突撃した。
「ごめんなさいね」
魔力を込めた長い杭のような穂先を水面の僅か上の辺りで『魔鯱』の頭、鼻の穴の横辺りに深く突き刺す。
KYUAAAA!!!
DWWUOONN!!
水柱を上げ再び水中へと逃れた『魔鯱親』であったが、しばらく激しく暴れたものの、深く刺さった刺突槍は抜けることなく、やがて力尽きて浮かび上がってきたのである。
「あっちも終わったみたいよ。それと」
「ええ、船を出すわね」
伯姪に声を掛けられ、彼女は魔法袋から『聖フローチェ号』を取り出し、甲板へと降り立つ。それと入れ替わりに、死んだ『魔鯱』を魔法袋へと収納したのであった。