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作品タイトル不明

第967話 彼女はメッサーラに長期滞在する

第967話 彼女はメッサーラに長期滞在する

「メッサーラに、教皇猊下のお墨付きをもらって設立された学校があるそうです!!」

「それって、御神子会って修道会の学校だろ? 俺たちには関係ねぇよ」

「いや、涼しいかなって」

メッサーラに滞在してはや一ヶ月。最初は古帝国時代の遺構やらサラセン文化の影響を受けた生活様式やらを体験したりで時間を潰していたリリアル勢だがそろそろ飽きてきた。そして、夏も近づき暑い!! 熱い!!

「ニースに戻るのも一考に値する」

「確かにね。まあ、去年の神国艦隊の行動よりはマシみたいだけれどね」

今年はジロラモ公が率いているということもあり、神国本土を出た艦隊は歓待を受けつつも東へ順調に向かっているという。とはいえ、ゼノビア艦隊は東進待ちで自国の港で待機中であり、少し前に集結した教皇庁と法国諸邦の艦隊は徐々に気温が上昇する中、メッサーラで待機中となっている。

船乗りはともかく、海兵たちは鍛錬も上陸も不十分な状態で長期にこの地で待機するのはあまり良いことではない。食事も休息も不十分であり、慣れない環境で無為に時間を過ごすことはお財布だけでなく体にも悪い。

リリアルと聖エゼル女子修道会のメンバーはお互いに交流を深めつつ、操船の鍛錬を港近くの海上で繰り返している。特に、『スキュラとカリュブディスの潜む海峡』と呼ばれる海流の激しい場所での操船訓練はスリリングであり、暇を持て余した三隻の魔導船にとって、良い暇つぶし……操船鍛錬の場になっていた。

とはいえ、一か月もとどまっていれば飽きてくるのも事実。

「せっかくだから、御爺様たちとマルス島まで行けばよかったわね」

爺マッチョ団と聖エゼル海軍の一団は、無駄に逗留するのもどうかということもあり、マルス島への物資の搬送ついでに表敬訪問に向かっている。とはいえ、聖騎士団の一つであるマルス島騎士団は修道士と同じ戒律を持っている。女性の多いリリアルや、女子修道騎士団である聖エゼルは遠慮したという面もある。女子禁制の場所の多い場所に出向いても面倒でしかない。

「ジロラモ閣下の出陣準備は既に済んでいるようです」

メッサーラの港で情報収集をしていた茶目栗毛は把握できている状況の説明を始める。どうやら、神国艦隊は内海西部にある神国の港湾都市『バルス』に集結しており、出航待ちの状態なのだという。

ところが、神国王宮から神国を訪問していた親族である帝国の皇子をゼノビアまで送り届ける為に出航に待ったがかかっているという。確かに、主戦力を東進させた後、別途、帝国皇子に十分な護衛をつけて送り出す余力はないのだろう。

「どのくらい、遅れそうなのか聞いている?」

「一月ないし、二月と予想されています」

「……夏が終わるじゃない」

昨年の形だけの聖征艦隊派遣と同じ形になりかねない。夏の終わりに出撃し、サラセン艦隊と会敵するころには秋も半ば過ぎ。海が荒れるのでこの辺りで帰還しようという形になりかねない。

「大公閣下も憤ってられるそうですが……国王陛下の命ですので、出撃

するわけにはいかないようです」

「腐っても王命」

「ちょ、不敬!! 不敬!!」

大丈夫。他所は他所、うちはうち。神国の国王とか関係ありません。むしろ、敵でしかない。

二人の皇子をゼノビアまで送り、そこで帝国傭兵を乗せ、メッサーラに到着するのに二か月以上かかりそうという結論に噂は収束しているという。恐らく妥当なところなのだろう。

「うー 絶対バス爺激おこです!!」

「間違いない」

そんな二人の会話を聞き、『聖ブレリア号』の操舵手を務めて海都国へ同行しなかった黒目黒髪が狼狽える。

「え。そんな怖い人なの」

「あー あの爺さんはヤバいな。ニースの爺ちゃんが可愛く見えるくらいだ」

「でも、悪い爺さんじゃないよ」

「ま、見た目は強面だし、無駄に声がでかいんで、そう見えるってだけだ」

「い、いっしょだよぉ」

蒼髪ペアのフォローも効果なし。だって、人は見た目が十割じゃない?

怖いものは怖いんです。

メッサーラの周辺ははっきり言ってパッサパサの大地である。つまり、リリアル領のように、ちょっと探せば薬草がわさわさ生えているなんてことは全く全然ない。

暇に飽かせてポーションづくりをしたいのだが、薬草自体入手できないので正直困っている。

「魔装糸だけがどんどん増えていきます」

「巻き巻き」

魔装布は有ればあるほど良いのだが、今回の遠征で使う分は十分装備としていきわたっているので、ストック扱いにしかならない。旅先で裁縫するほどリリアル生は家庭的ではないからだ。普通は旅先で自身で服を仕立てたりはしない。

「魔装の頭巾くらいはできそうです」

灰目藍紙が呟く。頭巾といっても、四角い布を頭巾のように頭に巻くだけなので、これは裁縫というレベルではないのだが。

「まあ、胸に帯みたいに巻いたらいいんじゃねぇかな……でございます皆様」

「あ、胸当替わりにか。それある!! セバスおじさん」

「顔を隠すように巻くのもありかな」

「それ、なんだか悪党みたいじゃん」

目の下あたりで顔を隠すように布を巻くのも良いかもしれない。三期生の魔力持ちの子たちは今のところ特別な魔装を身につけさせていないし、二期生の魔装銃兵たちも似たようなものだ。

「じゃ、皆で頑張って魔装糸を紡いで、布を織りましょう!!」

「「「おお!!」」」

観光するにも飽きたリリアル生は、銃兵組中心に、代わる代わる魔装糸を紡ぎ、魔装布を織るのであった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

マルス島へ向かた聖エゼル海軍が戻ってきた。魔導船と帆船の組み合わせであったが、サラセン海賊に襲撃されることもなく、マルス島騎士団のガレー船団と共にメッサーラに入港してきた。

「神国の小僧は、まだ来ないのかアリー」

「ええ。良い口実を得たようで、いまだゼノビアにも到着していないようです」

彼女はジジマッチョに、ジロラモ公が遅参している理由について流れている噂だと断ったうえで伝える。

「そうか。マルス島でもその話は流れていたな。あそこは今や神国の支援で成り立っているでな。教皇猊下の下にある聖騎士団とはいえ、神国に物申すことは出来ないと嘆いておったわ」

教皇から叱責された神国国王は、皇子を送るために艦隊に同乗させるという理由をつけ、上手く引き延ばしを進めているというわけだ。

「これで、顔を合わせれば、バステニア殿が大いに怒るであろうしな。頭が痛いことだ」

先輩風をビュービュー吹かせるバス爺の存在は、ジジマッチョにとっても苦手らしい。強面はいい勝負だが、雰囲気はバス爺の方がより怖い。存在自体が怖いのだ。

「海都国の艦隊も、教皇庁の艦隊もすでに集結している。夏の間に出撃できるかどうか……」

ジジマッチョも神国とゼノビアの艦隊がいつメッサーラに現れるのか。そして、出撃はいつになるのか。考えると胃の痛くなる話であるようだ。

「だがな、アリーよ。これはマルス島で耳にした話だが」

昨年の遠征では、自国艦隊の消耗を嫌った神国とゼノビアだが、今年はその辺り風向きが変わってきているのだという。その理由は、リリアル義勇海軍による海賊討伐とキュプロス救援の実施。そして、サラセン軍攻囲を一時とはいえわずかな戦力で押し返したという情報だという。

「神国の宮廷では『海都国の流したデマだ』とか『王国のでっち上げだ』と騒いでいたようだがな」

既に、東内海を荒らしまわっていた遊撃艦隊の司令官である『クルナ=アリ』をリリアルとサボアの小艦隊が捕縛、艦隊そのものを壊滅させ海賊に奴隷とされていた同胞を救出したという追加の情報で、神国は教皇庁から「お前は何をやっているのだ」と昨年同様叱責されたのだという。

「それでも、慌てて出撃させるのには抵抗があるようでな」

「それで帝国の皇子を送る仕事を与えたと」

「そのようじゃ。まあ、なる早で来るのではないかな」

対等な競争相手である海都国ならともかく、わずかな戦力でキュプロス救援と小規模とはいえ名のある大首領を捕縛、海賊船を討伐した彼女たちの存在は、神国国王のプライドに火をつけたといったところのようだ。俺の方がすっげーんだからな!! と。流石は引きこもり国王である。

ジジマッチョの話を聞き、怒りのバス爺来襲が避けられそうだと周囲の一期生冒険者組が空気を弛緩させる。

「とはいえ、ジロラモ公はともかく、ゼノビアの海将と国王がつけたお目付け役の二人は足を引っ張るであろうな」

ゼノビアの海将とは、華都でも顔を合わせた『ジョー・ドレ・ドリヤ』。ゼノビアを代表する大家の当主であり、年齢は三十前後だが、若くして大伯父の後をつぎゼノビア艦隊司令官を務めて十年。実力名望共に兼ね備えている……といえばいいのだろうが、神国国王に忠実な犬と例えられる。

ゼノビア艦隊は神国の傭兵のような存在であり、傭兵は勝利ではなく利益のために戦っている。勝っても自分たちにそれ以上の損害が出れば大損であり実質敗北となる。

今回の神国国王の命令は積極的に戦えであろうが、それに大人しく従うかどうか。とはいえ、神国王弟が参加し、海都国がその一翼を担うことを考えれば対抗上、同じように並ばねば面子がつぶれる。

傭兵も面子商売。侮られては兵も集まらなくなるし、仕事も安く買い叩かれる。一度くらいは、はっきりした勝利を挙げて自分たちの価値を認めさせた方が、損害が出たとしても高く契約更新してもらえるようになると計算するかもしれない。傭兵は戦争屋であり、計算が立てば損害も許容するのである。

「面子をつぶしてやれば、いいんじゃない?」

「さてな。潰してしまうと却って臍を曲げるやもしれん。そう思わせて誘導する方がよいだろう」

海都国と教皇庁艦隊ではサラセンと五分とはいかない。せいぜい、七掛けといったところだろう。とはいえ、海都国は海に浮かぶ城塞の如き『ガレアス船』を数隻保有しており、大砲の数もサラセンに倍する数を有している。その反面、海兵の数がおぼつかず、白兵戦になれば劣勢となってしまうと予想される。

事前の打ち合わせでは、『ガレアス船』には海都海兵を集中して乗せ、その他の船には帝国傭兵を神国が分派し、海兵戦力不足を補いという話が成り立っている。船は有っても乗せる兵がいない。人口の少ない海都国にとっては、ガレー船の漕ぎ手を集めるので精一杯といったところなのだ。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

夏も盛りを迎える頃。先触れもなく、神国艦隊がメッサーラに入港した。

どうやら、ニースとメッサーラの間を魔導船が幾度も「習熟航海」という名目で遊弋。四隻の魔導船を二隻ずつに分け、模擬海戦を繰り返しつつ、ゼノビア近海で海賊討伐や示威行動を繰り返した結果、ブチ切れたゼノビア海将と一部の神国艦隊の船が暴走しそうになったのを抑える為に急遽予定を前倒しで出航したためだとか。

「私たち悪くないわよね」

「もっちろんです!!」

「訓練するのは当然。むしろ、褒めるべき」

教皇庁からゼノビアへの督促だけでなく、どうやらバス爺がなにやらゼノビアの海将にお手紙を書いたらしい。多分、煽り散らかしたのであろう。

『ジョー・ドレ・ドリヤ』はそれを軽く受け流したようだが、周囲はそう取らなかったようであり、要は面子をつぶされたと判断したようだ。

「バス爺、怒ってたもんなぁ」

「いや、どちらかというと悪人下衆顔でやらかしていたんだと思う」

「「「そだねー」」」

半月ほど前に海都国の先遣艦隊を率いてメッサーラに現れたバス爺は、またもた遅参かと激高。そのままの勢いでゼノビア海将あてにお手紙を書いたらしい。

若くして大伯父の後を継ぎ、ゼノビアの看板を背負ってきた『ジョー・ドレ・ドリヤ』は挑発に乗るような男ではないことは知れていた。だが、海都国との競争に敗れ東内海の拠点を失い、西内海で南岸のサラセン人の国と法国・王国・神国の間の貿易を一手に取り仕切っていたゼノビアが、神国領からサラセン勢力が一掃された後、その難民が南岸諸国の穏健派諸侯を追い落として対神国勢力となり皇帝の麾下に加わったことで、顧客の喪失と海賊被害の激増に悩むことになったゼノビアの船乗りたちは激高した。

「なんだか、やる気にしたみたいね」

「いいと思うわ。なんでも」

もうおうちに帰りたいのだ。昨年の秋からずっと遠征中で、もうすぐ一年になる。学院のベッドだってふかふかではなくなっているかもしれない。ハンモックで寝るのはもういい加減嫌なのだ!!

ジロラモ公の到着と、神国・ゼノビア艦隊の集結。これに、海都国の本隊の到着と、神国の派遣する帝国傭兵の海都国軍船への移乗を終わらせればいよいよサラセンとの決戦に向かうことになる。

「あと三日くらいですかね?」

「早くしてもらいたい」

とげとげ君をスイングしながら赤毛娘が口にすると、赤目銀髪もなるはやでと口にする。

「でも、私たち、最後尾だと思う」

「だな。義勇軍なんてその他大勢枠だからな」

リリアル&聖エゼルはおそらく予備・後備なのは間違いない。数合わせあるいは、無駄に活躍されても困るからということだろうか。既に『クルナ=アリ』討伐という功績をあげているのだから。

すると、教皇庁艦隊から「リリアル提督に軍議に参加されたし」と連絡が来た。全艦隊集結となったので、改めてサラセン艦隊との決戦に向け作戦会議を開くということだろう。

その前に、総司令官、各艦隊司令官の紹介・承認が行われるのだとか。

「ジロラモ公が総司令官……大丈夫かしら」

「素直に担がれるならいいのだけれど。

ジロラモ公は名目上の総司令官、神国国王の名代。それ以上でもそれ以下でもないというのが本人以外の認識だろうが、さて、どうなることやら。