軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第968話 彼女は会議の末席に座る

第968話 彼女は会議の末席に座る

伯姪を伴い彼女が案内されたのは元王宮であった城館の広間。聖征時代に建築された建物であろうか、石造りの重厚な……居住性の悪そうな場所である。因みに、ブレリア領都城塞の執務室も基本は同じ感じである。なお、彼女が本格的に住む前には全面的に内装を整える予定。

そこには、重苦しい空気が充満していた。左右に分かれて海都国艦隊首脳陣と神国・ゼノビアの首脳。正面には教皇庁艦隊司令官のおっさんと、教皇の名代として艦隊に同行する枢機卿。

既に、神国王弟東方公ジロラモに総司令官は内定しているが、ここでは改めて各艦隊の代表がそれを承認することになる。

教皇庁艦隊司令官『マルカ=クラン』、海都国艦隊司令官『バステア・ニエル』神国・ゼノビア艦隊司令官『ジョー・ドレ・ドリヤ』。それぞれがジロラモの総司令官就任を受諾する旨を宣言する。

「改めて、総司令官の命を拝したジロラモだ。神国国王の名代としてサラセンの賊徒どもを必ずや撃滅すると神と教皇猊下に誓おう」

若干、頬を紅潮させながら面立ちの整った貴公子が宣言する。これが、群衆集まるテラスでもあれば、周囲から歓声と黄色い声が聞こえてきたことだろうが、海都国の幹部からは鼻を鳴らすような雰囲気が漂っており、「おせぇんだよ」とバス爺が怒声を上げるないようにだろうか、必死に口を曳き絞っている。

反対に、ゼノビアの海将こと『ジョー・ドレ・ドリヤ』、そして、おそらくは神国国王が目付役に着けたであろう、日焼けした将軍風の禿爺と青白い顔の神経質そうな壮年の男が苦虫を噛み潰したような顔をしている。貴公子ジロラモはそれに気が付いていないようだ。

艦隊運用の方針、どの経路でサラセン艦隊と接敵するのか。

海都国首脳は、キュプロス包囲を早期に打破することを念頭に、メッサーラからそのまま東に進路を取り、クロス島経由でキュプロス・マグスタに進むことを主張する。

「ま、既に義勇軍により、一度敗走させられているサラセン攻囲軍だ。神国の精兵と教皇猊下の神兵、我ら海都国の同胞を助ける意志さえあれば、容易に壊滅させられるであろう。どうだろうか、ジロラモ公」

神国軍も騎兵指揮官として名を成したマルカおじさんも、海戦は素人だが、陸戦ならサラセンの徴募兵は当然のこと、親衛軍にだって遅れは取らないと自負している。攻囲軍の背後へと進出し、マグスタと遠征軍で挟撃することができれば、十万のサラセン軍を文字通りなで斬りにすることができるだろうとバス爺は主張する。因みに、バス爺は陸戦ド素人である。

「気持ちはわかるがな」

「然様。一つよろしいか」

神国側も全否定はしないようだ。口を開いたのはジロラモの軍事顧問と言えるだろうか、禿爺こと『バルバロ・ヤザン』侯爵。代々、聖騎士の家系であり、なおかつ、一族は神国で造船を取り仕切る。先代国王時代から海軍・海外遠征に随行し、いまでは海軍大将・司令官を拝命している古老といえる。

西内海各地の遠征指揮官・艦隊運営・要塞司令官を歴任。神国内で今回の遠征に若い王弟を支えるのに十二分な能力を持つと言える。海都国におけるバス爺に相当する人物だと言えばいいだろうか。

「率直に言って、多数の海兵を乗せたガレー船を補給の心配なく航行させるのに不安がある。海兵とは言え元は帝国傭兵らが中心。戦の前に船酔いや水あたりで半病人になっては勝てる戦いも勝てない。なのでな……」

神国側の主張は、法国の東海岸を北上しそのまま海都国領の港湾都市を海岸伝いに東進してサラセン艦隊との遭遇戦に備えるという比較的安全策といえる作戦を推し進めた。

「それでは時間がかかる」

「いや、それは問題ないのだろう。義勇軍がマグスタに救援物資を運びこみ、あと一年ほどは持ちこたえられる程度に戦力が整えられたと聞いている。焦ってサラセン艦隊との決戦前に戦力を消耗するより、陣立てを整え、サラセン艦隊を迎え撃つのが妥当であろう」

既に、東外海にある海都勢力下の港湾都市は、周辺地域の内陸部をサラセン支配地にされてしまっている。ウィンまでサラセン軍が迫ったのであるから、それ以東の陸地はサラセン勢力下なのは当たり前だ。そこに、多数の聖王同盟艦隊が東に向かうことを発見されれば、サラセン海軍が西進してくるとみて間違いないだろう。

「では、どの辺りで決戦になるとお考えか」

「我らは東外海には詳しくない。それは海都の方々に戦場となる海域を想定してもらいたい」

『マルカ=クラン』の問いにヤザン候はそう答えた。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

総司令官は神国、戦場設定は海都国。妥当な割り振りだろうと彼女は考える。

「ねぇ、どの辺りになるのかしらね」

伯姪が小声て呟く。彼女も海に関してド素人なので、何とも言えないが、御神子教徒の艦隊が海岸沿いに東進すると情報を得たサラセン海軍は、サラセンの帝都や東外海から艦隊を集結させ西に向かってくるのだから、中間点辺りを想定する。

「海都国の拠点のある『ケルキ』の先辺りでしょうね」

『ケルキ』は海都国とクロス島の中間にある港湾都市。聖征時代の末ごろから海都国の拠点港湾都市として整備され、今では完全な城塞となっている。海に突き出した岬の付け根部分を横断するように城塞群で区切り、その外周には独立した堡塁群を配置して容易に城塞に近づけないように改修に改修を重ねている。キュプロスやクロス島を落とされても、ここで食い止めるための巨大な要塞港湾都市と言えばいいだろうか。

『ケルキ』を一先ずの目標として艦隊を移動させ、サラセン艦隊の接近の情報を確認したのち隊列を整え出撃するのが良いのだろう。補給と休息を考えれば、沿岸航行に固執するのは悪いことではない。

バス爺が「さっさと決戦じゃ!!」と気を吐く半面、ヤザン候は「敵は逃げない。万全の態勢で討つ」と反論し、話は平行線となっている。

「アリーよ、お前もなんか言ってやれ!!」

二人の対立におろおろする困り顔の『マルカ=クラン』は役に立たないと、バス爺は寄りにもよって彼女に話を振ってきた。

「私たちは義勇軍。艦隊の幹部の皆様にご意見する立場ではありません」

彼女は内心の迷惑顔を無表情に隠し、話をこっちに振ってくるなと暗にお断りをする。巻き込むな!!

「何を言う。ここのところ、役にも立たない儀仗兵を従えた豪華絢爛な船でのろのろ現れたポンコツどもより、二隻の中型船で、十二隻のサラセン遊撃艦隊を打ち破り、にっくきサラセンの野良犬『クルナ=アリ』を捕えたお主が発言できないで、この場にいる誰が発言できるというのだ。ふはははは!!!」

ポンコツ呼ばわりされ顔色を変えるかと思ったが、ジロラモを始め神国・ゼノビアの首脳部は無表情に話を聞き流している。事実と言えば事実なのでしかたがない。

「慎重であることは悪いことではありません。ゆっくり動くことで、不意の遭遇戦を避けることもできるでしょう。特に、船上生活に慣れない帝国傭兵を乗せ移動するのですから、安全な航路で時間にも余裕を持たせなければ、いざというときに力を発揮できないのではありませんか」

バス爺は、それもそうかと思いつつあるのか口を閉ざしたままだ。

「リリアル侯爵の言、もっともでしょう。海都国の港湾都市沿いに『ケルキ』まで前進し、そのまま沿岸沿いにサラセンの帝都を目指すもよし、途中でサラセン艦隊を撃滅するもよし。その時点で、クロス島なりキュプロスにサラセン艦隊が集結しているのならば、その地を決戦の場とするもよし。メッサーラにとどまっていては何も始まりますまい。今行うべきは、速やかなる出撃。そして、我らが行動に移したことをサラセンの犬どもに知らしめることでしょう」

バス爺の横で淡々と意見を口にする男。海都国がバス爺の抑え役として副司令官に押し込んだ男。『ゴスト・バルバ』。老宰相といった切れ者感あるご老人であるが、海都国の幹部らしく海の男でもある。

「そうだな。我らが立つことこそ肝心肝要。それに、我らは海には不慣れ。海岸沿いをゆっくり移動しながら、兵士を海にならせる必要もある。どうだろう爺」

細かい駆け引きや、意見のすり合わせは面倒だとばかりにジロラモは後見役の禿爺とゼノビアの海将に丸投げしたうようだ。

「はっ、おっしゃる通りですジロラモ公」

「だそうだ。では、陣立てと出航順の打ち合わせは……」

「我らで行います」

「よし、任せた!!」

よし、任せた!! とばかりに笑顔で答えると休憩をはさんで実務者の協議へと移行する。

「もういいぞアリー。儂もバルバに任せて抜ける」

「……はい」

自分だけ抜けると何か言われそうだと考えたのか、バス爺は彼女と伯姪を誘って部屋を出ることにしたようだ。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「ふむ、艦隊会議は終わったのか」

「……これから詳細は詰めるようね。そう時間はかからないでしょう」

「飽きたな。待たされるのは」

「そうじゃな。欲しいのぉ……魔導船……」

「「……」」

会議を中抜けし、彼女はカトリナに状況を説明しに『聖ヨハネス号』を訪れていた。なぜか、バス爺もついてきた。

「魔導船の話は、王宮と海都国で話し合うことになっているのですから、今すぐとはいかないのはお判りでしょう」

「儂、老い先短いんじゃから、今すぐ欲しいんじゃ」

「「……」」

彼女も伯姪もカトリナ主従も「知らんがな」と心の中で答える。駄目なものは駄目。年寄りは本当に聞き分けがない。

「そもそも、バステア殿の魔力では、一時間も動かせぬのではないか」

「儂、魔力も欲しいんじゃぁ」

「「……」」

全然かわいくない、駄々っ子ならぬ駄々爺。駄目爺でもある。

「私たちどうせ、最後尾の出航でしょう」

「まあそうだな。総司令官とその取り巻き艦隊が先発、それに教皇庁艦隊が続き、海都艦隊の後、我らと義勇軍か」

「ザボアは聖王国の王位を持っているんでしょ? 聖征艦隊扱いなら教皇庁艦隊の中に入れられるんじゃないの」

伯姪の指摘もごもっともなのだが、魔導船は魔導船で集中運用した方が効率がいい。船速も合わないだろう。風を探して右往左往しなくとも、メッサーラから最短距離で『ケルキ』に向かっても良いのだ。

「アリーよ。魚をまた分けてもらっても良いか」

「沢山あるようなので、構わないと思います」

「また酒のアテね。暇すぎて子供たちが釣りしているから、いいんだけど」

「アリー、我ら聖エゼル修道女騎士団にも魚料理を寄進してくれまいか」

バス爺だけでなく、カトリナまでが魚を集ってきた。魚料理を寄進とは随分と安い寄進である。

「せっかくだから、私もご相伴にあずかりたいものだね」

何がせっかくなのだと振り向くと、そこには、彼女たち同様会議を抜け出した

貴公子ジロラモが佇んでいた。

「おお、若殿か。さっきはうるさいことを言ってすまなんだな」

「いえ。我らが遅参したのは事実。お叱りはごもっともです」

「国王名代にお叱りなど、恐れ多い」

「「全然思ってないででしょう」」

お道化て返すバス爺に、彼女と伯姪は声を揃えて返すのであった。

内海でとれる魚、小魚を油で揚げて酢漬けにする料理がリリアルのマイブーム。他にも、スズキのような白身の魚を使った、薄切り酢和えも食べる。暇つぶしに釣りをし、釣り上げた魚は三枚おろしにして、老得夫から手に入れた小型の魔法袋(時間停止)に入れてある。素焼きのツボなどに入れて油紙で封をしてある。

「これこれ、旨いんじゃぁ」

「飲み過ぎないことだぞ、海都国の男は、常在戦場なのであろう」

「なに、かえって飲んでもおらねば、この間にも同胞がサラセンに襲われていることが気になって……きがきではおられん」

急にシリアスになるバス爺をみて、ジロラモがやや気まずい顔をする。

「まあ、ジロラモ公も食べてみて下され」

「お爺ちゃんが釣ったわけでも料理したわけでもないけどね!!」

「図々しすぎて清々しいわ」

「儂、褒められてる?」

褒めてない。ジロラモもスズキの酢和えを口にする。

「旨いな」

「じゃろ?」

「釣ったのも料理したのもリリアルのたちだけどね」

「以下同文」

赤毛娘と三期生年少組が釣りあげていることが多い。魔力量が少ない方が魚が食いつきやすいとか。赤毛娘は、餌なしでも針で釣り上げている。いわゆる、ギャング釣りというやつだ。針は当然、魔鉛製仕様。

「確かに旨い。子供のころを思い出す」

「王弟でも、釣りなんてしていたのですか?」

「これ。ジロラモ公は……いろいろあるんじゃよ」

「いえ、本国では有名な話ですから、話していただいて構いませんよ」

ジロラモは、先代神国国王の庶子に当たるが、その母親はネデルの下級貴族の娘。いわゆる侍女を務めていたのだが、神国国王の御手付きになって子を身ごもった。

神国国王は、本妻の子の他に生涯を帝国と内海、神国を行き来しつつ戦場で多くの時間を過ごしたこともあり、庶子・隠し子が沢山いた。貴族の娘が子を産んだ場合、男なら庶子としてしかるべき側近を育て親として宛がい、女の場合は母親ともども相応の資産を与えて身を建てられるようにした。平民との間に生まれた子は認知こそしなかったが、相応に財産を与えたとされている。

ジロラモは最初、ネデルの宮廷で楽師をしていた老夫妻に「孫」として物心つくころまで育てられ、自分は楽師の孫だと思っていたのだという。その後、神国の国王の古い側近である老伯爵に「養子」としてもらわれ、貴族としての教育を少年時代に受け育ったのだそうだ。

「貴族や王弟となってからとる食事は豪華で確かな料理人が作ったおいしいものなのだろうが……こういう、家庭的な料理も……旨い」

魚の切り身を口に運びつつ、バス爺に進められたサボアワインを飲む。今頃、会議室では喧々諤々の話し合いの最中なのだろうが、そんなことは今はどうでもいいとばかりに、夕焼けに空が変わる中酒飲みの与太話に彼女たちは付き合うのであった。