軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第965話 彼女は海賊の大首領を送り届ける

第965話 彼女は海賊の大首領を送り届ける

「やばいわね」

「ええ。思いのほか、サラセンの魔物使いはヤリ手の様ね」

『クルナ=アリ』をはじめ、海賊団の幹部たちへの個別の拷問……尋問の中で聞き出した内容。その中には、聖典にも登場するとされる海の怪物『リバイア』を使役するサラセン海賊の魔物使いがいるのだという。

今のところ『クルナ=アリ』は生きている。側近の幾人かと共に「生け捕り」にされ、現在のところ縛り上げられ『聖ヨハネ号』の船倉に放り込まれている。彼女たちがかわるがわる尋問しているのだが、話をそらすためなのか、サラセンの話題を口にすることがある。

『リバイア』もその一つの話題として出てきたのだ。因みに、聖フローチェの船倉は小さいので、収容できなかったので預けてある。ジジマッチョ団がいる分、聖ヨハネ号の方が海賊たちも大人しくするだろうと推測された。

「リバイアは問題」

「問題かなぁ」

「討伐すると、沈んでしまう」

「あ!! 素材が回収できない!!」

「「「なるほど……」」」

いやいや、討伐しないから。海の中の魔物を討伐しないから!!

『リバイア』は聖典に登場する巨大水棲魔獣とされ鯨がモデルではと言われる。堅いうろこ・恐ろしい歯を持ち、目からは光線・鼻からは炎を放つとされる。一年毎に生まれ変わり、外見は鰐・鯨・あるいは巨大な海蛇ではないかと推測されていたが、ここで登場するのは『鯱』の魔物化した存在である。

本来は数頭の群れを作り、狼のように狩りをする生物なのだが、魔物を食したことで自らも魔物化したと考えられる。鯱が鮫や鯨を襲い喰い殺すことから、魔物化したものはそれ以上の悪食と化していると考えられる。

ガレー船に並んで固定されている漕ぎ手などは、ごそっと食べられる食材が並んでいるとみられるようだ。人の少ない帆船よりも、ガレー船が好物なのはそのせい。

体長12m、重さは15tほど。並みのガレー船ならば容易に転覆させる。(魔物化していない鯱の三倍ほどの大きさ)

これまで討伐した『竜』よりも大きい魔物である。

「サラセン艦隊に同行しているとは限らないし、そもそも、人の群れの真ん中に強力な魔物を連れていくとも思えねぇな」

青目蒼髪の指摘に相棒の赤目蒼髪も頷く。『魔物使い』と『魔物』の関係性にもよるだろうが、『海豚』は犬くらいには賢いと言われるし、その一種であると考えられる『鯱』も主人の言うことを聞くかもしれない。『魔物』となれば更に知能が向上すると考えられるので、主人の能力が高ければ十分従えられるだろう。

とはいえ、メリッサが従える『魔熊』は外見こそ熊の魔物だが、中身はメリッサの弟の精神が宿っている。巨大な『魔熊』も、魔物が従っているのではなく、メリッサを守りたい弟が『魔熊』の姿で従い、その魔熊が率いる魔熊・熊の群れを使役していることになっている。

因みに、メリッサには『魔熊』の群れを開拓村に移住させる件を打診している。労働力が欲しいリリアル領には、使役動物・魔物としてメリッサに従う魔熊の群れをスカウトしているということだ。

彼女が戻るころには、ワスティンの森に『魔熊』の群れが集まっていることだろう。熊は犬以上に鼻が効き、戦闘力も高い。盗賊や不埒な侵入者を警戒する警備兵としても有用な魔物だ。正に「熊の手でも借りたい」リリアル領の運営には悪くないだろう。未だ、未開発の森が広がる領において熊の群れを暫く囲っておくことは難しくないし、他の領地では難しいことだろう。安住の地とするには、悪い選択ではないとメリッサも理解していた。

それと比べると、『魔熊』以上に危険で巨大な、伝説的魔物である『リバイア』をどのように従えているのかは気になるところでもある。

「討伐以前に、サラセン海軍が集結した時にでも暴れてくれればいいと思います!!」

サラセン海軍・海賊が周囲にたくさん集まれば、興奮して暴れるかもしれない。が、魔物使いもその辺り、想定しているだろう。強力な魔術契約あるいは、薬物を用いた強力な暗示を施している可能性もある。『魔鰐』のように本能の強力な動物が魔物化したものを使役する技術があるのだから、彼女の知らない方法があるのだろうと思うことにする。

「鯨を倒すには銛が必要」

「人間相手の槍しかないものね」

「……討伐しないわよ」

「「「えー」」」

鯨を獲るに使うのは『槍』ではなく『銛』。槍より大きな『かえし』があり、投げて用いることが多い。

『水中の魔物を斬るのは難しいんじゃねぇの』

『魔剣』の指摘に彼女は……

「討伐しないわよ」

と、返したのである。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

二隻の魔導船はそれぞれ一隻の帆柱を失ったガレー船を牽引し、ダルマ地方の海都国領港湾都市『ザダ』へと向かっている。

海賊の奴隷とされていた者の中にはこの地方出身の者も少なくない。というのは、海都国本土の人間は商人や航海士・あるいは海軍士官として船に乗るものの、漕ぎ手のような肉体労働に専従するものは多くない。海都を出た船は帆走でダルマ地方の港湾都市へと向かい、その地で漕ぎ手となるこの地の住民を募集し乗船させて、漕ぎ手あるいは海兵として雇用するのである。

この地で海賊の虜囚となった漕ぎ手や海賊幹部を海都国の役人に引き渡し、二隻はそのまま南下を再開し、メッサーラへと向かうことになる。

「先生!! 下船して皆で宿に泊まりましょう!!」

「作り置きの食事には飽きた」

「ま、確かにな。揺れない床でねてぇよな」

「それは、揺れないベッドでしょ?」

そう、宿に泊まって「床」で寝る奴はあまりいない。まずいない。

海都から『ザダ』は海路で300㎞強離れている。魔導船なら日の出から日の入りまでの時間で十分到達できるが、帆走ならその倍ほどかかるだろうか。海都国を出てわずかだが、できる限り体力を温存するに越したことはない。

「どんな街なのか気になるわね」

伯姪も『ザダ』の港には興味があるようだ。サラセン軍の西進に対抗する為に、キュプロスやクロス島だけでなく、この地域の港湾都市も要塞化が進められていると聞いている。主要港湾都市のひとつである『ザダ』がどのように強化されているのか、実際見て体験するのは良いことだろうと彼女も考える。

港湾都市『ザダ』は、海岸線近くに大小の島々がある海峡を通り抜けた奥の海岸線に築かれた歴史ある港。古の帝国が成立する以前から存在する街でもある。

帝国崩壊後は蛮族の襲撃から街を守るため、街壁を強化し長い時間を掛けて築いてきた。内陸部の都市が、軒並み蛮族に襲撃され破壊された結果、司教座も置かれるようになり、力を盛り返した東古帝国の影響下で盛況を取り戻した時代もある。

聖征の時代には海都国の影響下に入り、海賊対策に協力してもらうことになり、やがてその支配下に収まることとなったようだ。

「この島々の間を通るのって……似てるわね」

海都も島や海岸堤防の砂洲などの間に開かれた限られた航路を進んで港へと進むことになる。砂洲こそないが、大小の島々の間を通過する海峡で港のある湾が塞がれている環境は似た印象を与える。

「この中に籠れば、守に易しということなのでしょうね」

軍船の大半は海兵を大量の載せているガレー船だ。ガレー船は喫水が浅く、船舷も低く荒天に弱い。多数の兵士を乗せた船が何日も海上に居続けることは食料・飲料の問題もあって難しい。ガレー船は本来、港から港へ日中移動する必要がある。

包囲されても港の中で逼塞してやり過ごす。ウィンを包囲された帝国もそうやってサラセン軍が疲労や疫病の流行、食料不足で撤退するのを待つ作戦を取ったことがある。

数に優れる敵に正面から勢いでぶつかるのはあまり賢い戦いとは言えないだろう。大沼国はそれで国王以下多数の騎士・貴族がサラセンに倒され国が亡くなった。

「あ、あそこに船を入れるんでしょうか!!」

日も傾く時間、水先案内人が近寄ってくるのに声をかける

「我々はリリアル義勇海軍、サラセンの海賊首領であり、総督代理でもあ『クルナ=アリ』を捕らえ、海賊船に捕らえられていた同胞を救出しました。海賊の引き渡し及び、元漕ぎ手奴隷の同胞の救護をお願いします」

小舟に乗った水先案内人は大いに驚く。そして、水先案内人を乗船させたのち、小舟は先触れとして彼女たちに先行し港へと戻るのであった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

キュプロスの時ほどでは無いが、ここのところ船乗りや船主が頭を痛めていた海賊艦隊の壊滅は、魔導船の登場とともに『ザダ』において大いに話題となり歓迎された。

「ふむ、良いのだろうか」

「大海賊を生け捕りにして引き渡したんだから、歓待しないことの方が問題になるでしょ。カトリナが総督だったら、どうするのよ」

「それは、街を上げて歓待するに決まっている!!」

カトリナは遠慮したいようなことを言っていたが、そうもいかないと自分の立場に置き換えて理解したようだ。

「明日の早朝にはメッサーラに向かうのだから、ほどほどでお願いしたいわね」

「盛大にやるのはサラセン艦隊を撃滅してからになるでしょうね」

「ふははは、その時は、私の秘蔵のワインを提供しようではないか!!」

カトリナは時間停止まではいかないが、時間遅延型の小容量の魔法袋を持っている。正確に言えば、カミラに持たせている。その中には、ギュイエとサボアで作られるワインの中で最上のものが領主に献上され、樽のまま保存されているのだとか。

「ま、いつでもうまいワインが飲めるのは生まれと嫁ぎ先のおかげだとは自負している」

どこぞの姉が商会の取引を通じて各地とニースをつなげるように、カトリナはワインを用いたトップ外交を仕掛けるつもりのようだ。その為のとっておきを常に取り置きしているのだとか。

カトリナにとっては、戦勝祝賀の場も外交の一環ということになるのだろうか。

ワインは時間が経てば徐々に味が劣化する。瓶詰めにし呼吸を減らせば劣化は多少減らせるが、樽のままでは半年も持たない。秋に作ったワインも春先には不味くなり、半ば酢になってしまうのでそのまま飲めたものではない。十分の一の時間経過の魔法袋に入れておけば、通年でよい状態のワインが飲める。

余ったワインを買い付け蒸留酒にするニース商会の企画も、このワインの劣化に対応するための一つの方策であり、高濃度のアルコールなら保存も運ぶことも容易になるからという点がある。安ワインも、蒸留すれば付加価値が高まり、高く売りつけられる……ということじゃないんだからね!!

総督府では、『ザダ』の総督府の幹部一同が大歓迎をしてくれた。既に、『クルナ=アリ』捕縛の報は街に広まりつつあり、このところ息をひそめる様に暮らしていた街の人々にとっては、既にサラセン艦隊に勝利したかのような空気が醸し出されつつあるとのこと。

海賊の出没で船が動かせなくなり、灯が消えたような港の影響もあり、街は半ば死に態であったようだ。それがにわかに活気づいている。

「大公妃殿下、リリアル閣下、皆さんも、我々の窮地を救っていただき領民を代表して感謝いたします」

「確かに受け取りました」

「これも友邦を助けることになるのであれば、我らの誉れでもある。なに、サラセン海賊の大本も、そう間を置かず倒して見せる」

カトリナ、調子に乗るな!! カミラが睨んでいるぞ。そう、大公妃が前線に出張る方がおかしいのだ。お飾りでいてもらわねば困るのだよ。

「しかし、あの魔導船は……すごい魔導具ですな」

「ええ。本国の皆さんにもそう言われております」

「はは、総督、工廠も望んでいるのだがね。どうやら、王家との交渉次第だと言われているよ」

「なるほど」

工廠総監とバス爺も当然同座しているのだが、バス爺は既に泥酔状態である。ジジマッチョが「黙らせるでな」とニース商会謹製の蒸留酒をガンガン飲ませて黙らせている。この状態だと、晩餐の場には出てこれないだろう。それはなにより。

バス爺はこの界隈の船乗りや海都国の役人たちが意見できるような人物ではない。なので、酔いつぶすに限る。

晩餐は「しめやかに」行われ、彼女たちはゆっくりと会話を楽しみながら食事をとり、ぐっすり眠ることができた。

「うう、頭が痛い……何故だ……」

「体がもう受け付けないんだよ、バス爺」

「儂だって、若いころは樽で飲んでもケロッとしておったんじゃ!!」

ワインなら樽で飲めるかもしれないが、蒸留酒でそれをすると多分死にます。

バス爺と工廠総監はここでお別れし、『クルナ=アリ』ら海賊を連れて海都へと向かうことになる。捕らえられていた元漕ぎ手奴隷たちは、この地で療養し、故郷へ戻るか再び船乗りになるかを選ぶことになるようだ。

「あ奴らも、リリアルにもらったポーションでそこそこ身体は癒えている。あとは、食事と運動で体力を回復させて、サラセンとの決戦には強制参加じゃ!!」

報奨金の前払いで、サラセンへの復讐を煽り、不足する漕ぎ手や海兵を補充するということのようだ。バス爺に「やるよな」と詰められて否といえる男はまずいない。故郷に戻る(選べるとは言っていない)である。

「じゃあの」

「では、後ほどお会いしましょう」

「一足先に、メッサーラで待ってるわ。神国の王子様のケツを蹴り上げて欲しいわね」

「わはは!! 任せておけ!!」

バス爺、本当に神国王弟・東方大公ジロラモの尻を蹴り上げちゃダメなんだからね!! 勘違いしないでよね!