軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第964話 彼女は海賊の大首領を捕らえる

第964話 彼女は海賊の大首領を捕らえる

「なかなか追いつかんのぉ」

「わざとよ」

「え、わざとなんですか!!」

バス爺の疑問に伯姪が答えると、赤毛娘が意外そうに驚く。歩人が手を抜いていたわけだけではないようだ。

ガレー船の櫂走が可能な時間はせいぜい三十分。その後は疲労困憊で櫂走できなくなる。それを狙った消耗戦術を強いている。らしい。

因みに、『クルナ=アリ』は先年、西内海南岸のサラセン総督代理(神国の副王に相当)に就任し、身分としてはサラセンの高官に当たるのだそうだ。

「総督代理と提督代理の戦いになるわね」

「どっちも最前線で武器取って戦う身分じゃない気がします!!」

伯姪からクルナの身分を聞き、返す赤毛娘の発言は至極もっとも。彼女をディスるのはやめてあげて。

全力で東に逃げる大型海賊船。加えて大きいのは、ガレー船の砲台は船首と船尾に集中しているということもある。帆船であれば、甲板なり船体に開口部を設け砲座を据えることもできるのだが、ガレー船はそもそもその位置に漕ぎ手がずらりと並んでいる。大砲を据え付けるには艦舷を上げて高い位置に上甲板を設けて配置する必要があるのだが、そうすると重心が高くなり、船の安定性が低下する。なので、大砲の数を増やすならガレー船ではなく帆船の形態にするしかない。

外海の主力は新大陸との往復を考え、乗員が少なく収容力の高い帆船が担っており、新大陸に向かわない船も商船は帆船しかない。荷物を降ろして大砲を据え付ければ即席の軍艦にするのも容易だが、白兵ではなく砲撃戦で戦うことになるだろう。とはいえ、最後は接舷しての斬り合いになるのだが。

「そろそろ失速してきたわね」

「風も弱いし、帆走するには速度が出なさそうだからチャンス!!」

漕ぎ手の体力がそろそろ限界なのだろう、つかず離れず海賊船の南側後方1㎞ほどを追走する『聖フローチェ号』。カトリナたちの乗る『聖ヨハネス号』は既に漂流し始めている海賊不在の海賊船の乗員回収と最寄りの海都国港湾都市への回航を頼んでいる。

カトリナは「大海賊討伐に参加するんだ!!」と一人騒いでいたようだが、「救った奴隷の御神子教徒を救い、友邦まで届ける方が、大公妃の仕事として優先」とカミラに断言され、涙をのんだ。その背後にいた、ジジマッチョ団も同様にである。

カトリナ主従はともかく、聖エゼル修道女騎士やジジマッチョ団は『魔力壁』で移乗できないので、接舷攻撃となる。それはやめてもらいたい。数は相手の大型海賊船が圧倒しているのだ。逆に制圧されかねない。

リリアルはいつもの通りの搦手で攻撃するので問題はない。

「先生!! そろそろ飛び込んでぶちのめしたいです!!」

「率直に過ぎる」

カトリナ並みにうずうずしている赤毛娘からの催促。だが、彼女は許可を

しない。

「ここで、生石灰球での攻撃のテストを行います」

「「「それはいい考えです!!」」」

サラセン艦隊との決戦。リリアルをはじめ、雑多な勢力であるニースや聖エゼルの艦船はおそらく後方予備艦隊預かりになると推測される。

前衛の主力艦隊の戦列が崩された場合、戦線が崩壊しないように応援に駆け付けるか、あるいは、敵艦隊が後退する際に追撃する戦力として温存されることになる。

戦闘員の数では劣るリリアルらだが、魔装の衝角や『生石灰の目潰し』を有効活用することで、追撃で大いに活躍できるのではないかと考えている。つまり、文字通り横合いからぶん殴るのである。

今日はその練習となるわけだ。

「セバス、並走するように速度を調整」

「了解……でございます」

速度を増すと、後方から並走している位置まで魔導船が前進する。あちらの甲板には相応の人数がいるようだが、距離はいまだ500mはあるだろうか。ハンドカノンなどを放ってくる様子はない。

「前に出ると、船首の大砲を放ってくる可能性が高いから、前にはでない

ようにしなさい」

「も、勿論でございます、お嬢様!!」

「あんた、魔力壁で船を覆えるほど展開できないものね」

「できねぇんだよ、普通の人間……歩人はよぉ」

因みに、歩人を窘めた伯姪も魔力壁で操舵しながら船全体を覆う魔力壁を展開することは出来ない。できるのは、彼女と黒目黒髪と癖毛くらいであり、赤毛娘も頑張れば何とかというレベル。とはいえ、赤毛娘の場合、砲弾が当たりそうなら「打ち返す」という対処方法をとる。その際、操舵輪は手放し運航となるので、惰性でそのまま進むことになる。ガックんするので要注意だ。

「皆、これを両手に持って。50mくらいの距離から投げつけて頂戴」

「50mだと、弓銃やマスケット銃の射程範囲内ですが……」

「魔装壁の足場を拡大して、盾代わりにすれば問題ないじゃない?」

「まあ、私たち全身魔装ですから!! 当たってもどうってことはありません!!」

『当たらなければどうということはない』という戦場の格言は存在するが、

『当たっても……』というのは、聞いたことがない。が、その通りである。

「距離300m。そろそろ行きましょうか」

船らしき形に見えても今だかなり小さい「大型海賊船」。50m近い船も300m離れれば手のひらサイズに見える。

「私は回り込むわね」

「じゃ、俺たちは正面から」

「あたしたちは後方から狙います!!」

伯姪ペアは北から、蒼髪ペアは東、赤毛娘ペアは西から攻撃を開始する。

「私が漕ぎ手に目をつぶるように話しかけるまでは攻撃を始めないこと。でないと、海賊以外にも影響が出てしまうわ」

「ずっと目を閉じていられるかどうか疑問です!!」

それは、好奇心旺盛な赤毛娘だけだろう。めがあぁぁ!!になっちゃうぞ!!

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

「セバス、あの船が停船したのを確認したなら、50mまで寄せなさい」

「了解です、お嬢様。お気をつけて……なーんてな」

残る歩人に背を向け、先に出たリリアル生の後を追い、彼女も海賊船へと

『魔力壁』の足場を蹴って、海上を進んでいく。

『海賊何人くらいいるんだろうな』

「そうね……二三百ってところかしら」

軍船であれば戦闘要員を十分積んでいるので、そのくらいはいるだろうが、今回の海賊船団の旗艦役ならばそこまではいないかもしれない。むしろ、『母船』として、襲撃した船の荷を纏めて乗せたり、あるいは補給物資など載せているのではないだろうか。

海賊は皆殺し、但し、『クルナ=アリ』は除く。荷物も不要不急の物は彼女の魔法袋に収めれば、空いたスペースに奴隷たちを纏めて乗せて魔導船で牽引できるだろう。

海賊船の甲板上で、周囲に向かい銃や弓を構え、放つ海賊たちの姿が見て取れる。後部の天幕のある場所には、豪奢な衣装を着た海賊らしからぬ人物。件のクルナ何某であろう。

『ま、魔銀の悪魔だ!!』

『くぅ、いくついるんだ』

『もう、サラセン教徒は辞めるから、命ばかりはお助けをぉ!!』

『てめぇ、ざけんな!!』

誰が『魔銀の悪魔』だ!!

確かに、今日は魔装の完全装備。面貌まで装備しているので、頭から足首まで、完全魔装である。靴はさすがに革製だが。

「さあ、始めましょうか」

彼女は声に魔力を乗せ、海賊船に向かい話しかける。

『Cristiani dovrebbero chiudere gli occhi, mettere le mani dietro la testa e sdraiarsi a faccia in giù finché non viene loro detto diversamente』

――― 御神子教徒は目を閉じて手を頭の後ろに組んで前に伏せよ。良いというまでそのままでいることをすすめる

海賊の中には、法国語を理解する者もいる。奴隷の中には法国語が解らないものもいる。が、それは、周りを見れば何を言ったか想像はできるので、今回も心配はない。

「放て!!」

リリアルメンバーがそれぞれ二個の『生石灰球』を海賊船の甲板に向け身体身体強化した腕で投げ入れる。が、そのままでは破裂するとは限らないので、炸裂させる一手を加える。

『『『『飛燕』』』』

魔銀の刃から魔力の刃を飛ばす技。いまではすっかり一期生冒険者組全員が習得していた一発芸。但し、赤毛娘を除く。

しかし、彼女はちょっと違う。

「雷の精霊タラニスよ我が働きかけに応え、我の欲する雷の姿に変えよ……

『 雷刃(Tonitrus) 剣(gladius) 』

PANN!!

PAPAPAPAPAPPANNNNN!!

甲板上空5mほどの高さで、『生石灰球』が炸裂。掌を広げる様に生石灰が次々と広がり、甲板の上へと降り注ぐ。

『うぎゃああ!!』

『目が、目があぁぁぁ』

『水、水もってこい!!』

慌てて海に飛び込む海賊もおり、甲板上は阿鼻叫喚の様となる。

そこに、リリアルが飛び込んで、剣をふるい海賊を次々と斬り飛ばしていく。

「そりゃ、そりゃ」

「えい、えい」

フルスイングでとげとげ君をぶちかまし、甲板から海へと海賊どもを叩きこんでいく赤毛娘。とげとげ君で顔や腹に穴をあけられ、そのまま海面に叩きこまれ、失神したり、慌てて武器を取り落としもがく海賊たち。

『おい』

「止めね」

――― 『雷燕』

水面に浮かぶ海賊たちに、魔力刃に『雷』の属性を付与する攻撃が炸裂。切裂かれたのち『雷』属性のダメージが追加され、麻痺や昏倒の効果が発生する魔力の攻撃を受け、硬直あるいは意識を失い海賊たちは水底へと沈んでいく。

海賊船の甲板では、中央を赤毛娘と赤目銀髪が、右舷の回廊を伯姪と茶目栗毛が、左舷の回廊を蒼髪ペアが海賊たちを薙ぎ払い、突き倒して海へと放り込んで進んでいく。

「これは、しばらく水面清掃を進めた方がいいわね」

『生石灰で目くらましされて海に飛び込んだりした奴もいるしな。後始末も大事だろ?』

海水で石灰を洗い流した上で、船縁からこっそりと背後を伺い乗り込まれてはたまったものではない。海面に浮かぶ海賊たちに『雷燕』を放ち、海の藻屑に変えつつ、彼女は海賊の数が集まっているところに向け『魔刃剣』を放ち、数を減らすのであった。

☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★☆★

生き残りの海賊も十余り。比較的身なりと装備の整ったものが残った。恐らくは、総督代理とその近衛といったところだろうか。

「さて、海に叩きこんじゃいますよ!!」

「いい剣を持っている。残すべき」

「うーん、斬り落とすのは副院長先生が得意だと思います!!」

鈍器で叩くと、そのまま「海ポチャ」してしまうので困るのだ。水魔馬がいれば、回収をお願いできるのだが、残念ながら今回の遠征は別行動。水の精霊は他にはいない。ピクシー? 水陸両用ではありません残念!!

『くそぉ。俺の船団が、十二隻の船団が、一時間も持たなかった……』

「手加減してんだぞぉ」

「そうそう。漕ぎ手奴隷を助けないでいいなら、十分で始末できたのよ」

『十二隻が、十分』

『クルナ=アリ』はショックを受けているようだがいまだ諦めてはいないようだ。

「大人しく投降するなら、寛大な処置を約束するわ」

「あんた、元法国人なんでしょ? 言葉、わかるわよね」

『……ああ』

生き残りの周囲を固める側近たちに武器を床に落とすように指示をすると、クルナは両手を挙げて降参とばかりにアピールをする。

「膝をついて、腕は上げたままにしなさい。ねぇ、奴隷用の足環と腕輪、

あるわよね?」

「無ければ、使っている奴、外して持ってきます!!」

「鍵開けは得意」

「だそうです!!」

赤目銀髪と茶目栗毛が捕らわれている漕ぎ手奴隷たちから腕輪、足環を外していく。それを、蒼髪ペアと赤毛娘、伯姪が受け取り、海賊たちに改めて嵌めていく。海賊と奴隷の立場が入れ替わったような感がある。

「自己紹介をしておきましょうか」

彼女は『魔銀の悪魔』呼ばわりされるのが癪に障るのか、改めてサラセン海賊たちに名を名乗ることにした。

「王国海軍総督代理アリックス・ド・リリアル侯爵です。皆さんの投降を心より歓迎するとともに、地獄の門が開かれることをお約束いたします」

「あ、なんでだよ……」

サラセン海賊に拉致され、漕ぎ手奴隷からサラセン教徒に改宗したことで、一人前の海賊になった『クルナ=アリ』からすれば、再び御神子教に改宗すれば身の安全は保たれると思っていたらしい。

「何故って、海賊の最後は縛り首にして港の入り口に吊るすのが作法ではないのかしら?」

海賊の末路など、『吊るし海賊』となり見せしめとなるか、あるいは魚の餌となるべく、海に沈められるかの二択と相場は決まっている。御神子教徒の山賊や盗賊が処刑されるのと何も変わらないと、なぜ思わないのだろうかと彼女は不思議に思うのであった。