軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

178・小隊の正体

「そ、そこに誰か居るんですか!? 助けてください!」

恐怖に怯える女の子の声。大声で何度も助けを求めていたのか、少しかすれている。

「大丈夫。すぐに出してあげるから、動けるようなら怪我をしないように身体を丸めて頭を護っていてね」

私が中の少女に声を掛けていると、突然背後からヌッと背の高い銀髪の男性が現れた。

「どいてください。私が開けます」

「……!! 誰!?」

精悍な顔つきで年齢は三十代前半かと思われるその人は、胸元に銀の装飾が付いた黒っぽいロングコートを着ている。

私はこれに似た民族衣装を子どもの頃に一度だけ見た事がある。

若き日の曾祖母を描いた肖像画だ。

自分と似た容姿で異国の衣装を身に着けた曾祖母がとても印象的だったのでよく覚えている。

銀髪の男性は私達を下がらせ、倉庫街に響くほどの大きな音をたてながらいとも簡単に素手でコンテナの側面の板を剥がしてしまった。

その豪快さと彼の様子がまったくマッチしていない。

特に力を入れている風でも無く、まるでホチキスで止めた紙を剥がしただけのような涼しい顔で作業を終えると、くるりと振り返ってどうぞとその場所を離れた。

上蓋を取る方が楽だったと思うが、側面を開けて中の少女が自力で出られるようにしたようだ。

しかしこの状況に目をパチクリさせているのは私だけ。

覆面をしているので正確にはわからないが、シンとタキは豪快すぎる彼の行動よりも彼自身を見て驚き、戸惑っている様子。

シンは私と目が合うと、なぜかパッと顔を逸らした。

一瞬目元が光って見えたけど、まさか泣いている?

(ラナ様、私の父が度々脅かせて申し訳ありません)

「え……ああ、そうだったのね。ありがとうございます、助かりました」

わたしが礼を言うとヴァイスの父は頷き、コンテナの中に居る少女の死角に移動して元のライオンの姿に戻った。

ヴァイスの姿は私の記憶から抽出したゲームの登場人物がモデルなので、親子と言っても二人はまったく似ていない。似ているのはたてがみと同じ髪の色だけである。

なのに、私は彼を知っている気がした。正確には、彼が人型のモデルとして選んだ人物。

記憶をたどっても該当する人は思い浮かばないのに、なぜか懐かしいような不思議な感じがするのだ。

でも今はそんな事を考えている暇は無い。

私は気持ちを切り替え、開いた側面から中を覗き込んだ。

すると、耳を塞ぎ、目をギュッと瞑った少女が奥で体育座りをしていた。かなり怯えていて、自分で助けを頼んだはずの私にまで警戒心を見せる。

だが警戒されて当然だ。今の私はフードと覆面で顔を隠していて、少女にはここに居る誰より怪しい人物に見えているだろう。

そこで私はフードと覆面を外し、一度月明かりで顔を照らして見せた。

「近くに犯人は居ないから安心して。もう出てきて大丈夫よ」

少女は自分と同じプラチナブロンドの髪と青い目の私を見て警戒を解いてくれたのか、フラフラしながらゆっくりコンテナから出てきた。

よろめく彼女の手を掴むと、手のひらのザラザラした感触で彼女が怪我をしているのがわかった。犯人に抵抗した時に出来たものなのか、頬にも擦り傷がある。申し訳なくて直視出来なかった。

「助けてくれてありがとう。あの……私はアーニャ。レギュという小さな漁村の娘です。その髪……あなたもどこかから攫われてきたの?」

私はフルフルと首を横に振り、タキに目配せして治癒魔法をお願いした。

「怪我をしているみたいだからちょっと見せてもらうね。こんな格好だけど、僕らは君の味方だよ」

タキはすぐに私の心を読み、アーニャに優しく語り掛けながら頬や手の傷をさり気なく癒してくれた。そして気づけばヴァイスの父とシンの姿が無い。

彼女がコンテナから出てくる前に指先の火を消したのはわかっていたが、いつの間に居なくなったのだろうか。

「私、家に帰れますか?」

「うん、もちろん帰れるよ。他に怪我をしていたり痛いところは無い?」

「大丈夫です。あの……この髪の色がエレインというお尋ね者に似ているらしくて……その人は何をして逃げているんですか?」

「え? お尋ね者って……君は攫われた理由を知らないの?」

「はい。男の人達が私をどこかに突き出せば大金が入ると盛り上がっていました。だから人違いのまま処刑されてしまうかと……すごく怖かったです」

訛りのある喋り方だ。

確かに特徴だけを見れば私と似ているかもしれないが、イントネーションの違いで人違いだとすぐに気づくはず。なのに犯人達は無関係な彼女を攫ってきた。イチかバチか上手くいけば大金が入ると思っていたのだろうが、身勝手極まりない。

私の中に犯人への怒りがふつふつと沸いてきた。

「君が間違えられたのはエレイン・ノリス公爵令嬢だよ。婚約者から無実の罪を着せられて家を追い出された悲劇の公爵令嬢……すごく有名な話だけど、本当に聞いた事ない?」

「ひえっ……私、公爵家のお嬢様と間違われたんですか? あわわ……もしやこの方が……」

小さな漁村に懸賞金の噂は届かなかったようだが、私がフレドリック殿下にされた仕打ちは知っていたらしい。少女は私の姿をまじまじと見つめていたかと思うと、突然膝をついた。

私は慌てて少女に駆け寄る。

「どうしたの? 具合が悪い? あ、そうだわお水! ほら、これを飲んで」

水筒を持ってきているのをすっかり忘れていた。私は慌てて鞄から水筒を取り出し、アーニャに差し出した。

「いえ。め、滅相も無い。お嬢様からお水を頂くなんて……」

「いいから飲んで!」

遠慮する彼女の口に無理やり水筒を付けて水を飲ませる。

喉が渇いていたのだろう、彼女は一口飲むなり今度は自分の手で水筒を持ち、ゴクッゴクッと喉を鳴らして水を飲み干してしまった。

「ハー……美味しかっ……。ああー! す、すみません、全部飲んでしまいましたっ」

アーニャは土下座する勢いで頭を下げ、空の水筒を頭の上へ持ち上げ私に差し出した。この元気があればもう大丈夫だろう。

チヨの言っていた通り、私が差し出せばただの水でも回復効果が得られる事がこれで証明された。

「いいの。あなたの為に持ってきたのだから。これで少し体が楽になったでしょう?」

「はい。ありがとうございました。……あれ? 本当に体が……」

水筒を受け取った私は覆面を付け直してフードを被り、回復したアーニャを立ち上がらせてレンガの倉庫が建ち並ぶ方へ体を向けさせた。

アーニャとやり取りをしている最中、先ほどから姿が見えなかったシンとヴァイスの父が騎士の動向を確認して戻ってきたのだ。

上を見ると二人は上空で待機していた。

騎士達は先ほどの大きな音を聞きつけて、様子を見に隊の半分がこちらへ向かっているという。

言われてみると、遠くに聞こえていた蹄の音が徐々に近づいてきていた。

「今あなたを捜しに騎士や兵士が大勢動いているの。ほら、蹄の音が近づいてくるでしょう。名前を言えば保護してくれるわ」

「あ……! 本当だ……よかったぁ……。ここです! 私はレギュ村のアーニャです!」

アーニャの声に気づいた騎士達はすぐに彼女のもとへ駆けつけた。

「お前がアーニャで間違いないか?」

「はい」

「お前を攫った犯人は俺達が捕まえた。眠らせて木箱に隠したと聞いて急いで捜しに来たのだが……よく自力で外に出る事が出来たな」

「あー、いえ。自分で出たのではなく、この方達が私を助けにきてくれて……あれ? さっきまでここに居たのに……」

アーニャが振り返っても私達はもう居ない。

その頃私達はアーニャがちゃんと保護されるのを上空から見守っていたのだ。

「夢でも見ていたのではないか? 初めからここにはお前しか居なかったぞ」

「そんなはずは……だって木箱を壊して私を出してくれて、水まで飲ませてくれたんですよ?」

「……お前達、周囲に怪しい者が居ないか捜してくれ。門番に見つからずにここへ入った者が居るとしたら、それはそれで問題だ。海から侵入したのかもしれないから念入りにな。お前はアーニャを詰め所へ連れて行け」

「は!」

「殿下、私は門の外へ出て応援を呼んで参ります」

「わかった。誰かリアムを呼んできてくれ。向こうを探す意味が無くなった」

今、下から殿下と聞こえた。それにリアムとも。

私だけではなく、シンとタキもそれに反応して目を合わせた。上空からでは誰なのかまでわからなかったが、先ほど見た小隊はウィルフレッド殿下の率いる隊だったようだ。

「あそこにフレッド様とリアム様が居たのか。流石、優秀なんだな。もう犯人は捕まえたって言ってたし、後はもう一か所を回れば事件解決だな」

「そうね。ちゃんと保護されるのを確認したし、最後の一人を助けに行きましょう」

私達が倉庫街を後にしようとしたその時、下では捜索に当たっていた騎士がある物を見つけて騒ぎになっていた。

「殿下! 壊れた木箱の近くにこんな物が落ちていました! とても大きな黒曜石のペンダントです。盗品かもしれません」

「貸せ! 見せてみろ! これは……! まさかエレイン本人まで攫われたのか? これは彼女の物だ」

私達はそんな事になっているとは露知らず、最後の被害者の救出に向かった。