軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

177・助けに来ました!

「……!? お、おまたせ」

先に外へ出てもらっていたシンとタキが、目から下を白いバンダナで隠して二頭並んだヴァイスの前で待っていた。

「ああ、来たか。何だよその荷物。重そうだな」

マントが短く、肩から斜めに下げた布製の鞄の袋部分がチラリと見えている。中身は水筒が三本。

前にチヨが水だけでも体力回復効果があると言っていたのを思い出して急遽用意したのだ。鞄はその辺にあった使用人の物をお借りした。

誰の物かはわからないが、後で元あった場所に戻せば問題は無いだろう。

「保護した女の子に飲ませようと思って水を持ってきたの。水筒を探すのに少し手間取っちゃった」

そう言いながら私の目は無意識にシン達のバンダナに注がれていたのか、気になった彼らはバンダナについて説明を始めた。

「念の為俺達も変装しておいたんだ。なるべく顔を見られない方がいいと思ってな」

「って言っても、僕らは仕事用のバンダナで顔を隠しただけなんだけどね」

タキはそう言ってバンダナを口元まで下げ、軽くウインクする。

考えてみるとシンはおじい様のウィッグで地毛を隠しているが、タキはそのままである。

「そうだわタキ、衣装部屋から持ってきた誰かのお古だけど、良ければこの帽子あなたが被らない? 私はマントのフードがあるから」

「わ、ありがとうラナさん」

私が髪を隠すのに持ってきた帽子はタキにぴったりだった。

普段宿の制服で出勤してくる彼らの私服姿は中々見られない。

ここでもあまり変わりばえのしない生成り色のシャツや茶系のパンツという簡単な服装で過ごしている為、たまに上着やベストを着ているだけで雰囲気がガラリと変わって見える。シンに至っては昼間の気品ある紳士と同一人物とは思えない変貌ぶりだ。

シンは今日のパーティーで使ったウィッグを被り、ピーコートのような形の黒い上着の中に白いシャツとグレーのベストを着て、ほぼ黒に近いダークグレーのパンツを穿いている。

タキはシンと色違いのカーキ色の上着で、中には生成り色のシャツを合わせ、こげ茶のパンツにキャスケットというこの町の少年によく見るコーディネートだ。

それにガンベルトのような太いベルトを腰に巻き、ウィルフレッド殿下に借りた剣を下げている。犯人に抵抗された時を考えて武器を携帯する事にしたのだ。

「ふふ、二人とも下町の不良少年みたいね……」

「ん? 何か言った? ラナさん」

「ううん、私も顔を隠した方がいいかなって」

独り言を聞かれて咄嗟に誤魔化したけれど、本当に私も顔を隠すべきだったかも。闇に紛れて行動するにしても、人に顔を見られるのは避けたい。

そう考えていると、タキが上着のポケットから何かを取り出した。

「じゃあこれ、僕のだけど良ければ使って。ちゃんと洗ってあるから清潔だよ」

「ありがとう、タキ。お借りするわね」

私も二人を真似て三角に折ったバンダナで顔半分を隠す。マントのフードを被り覆面で顔を隠した私が三人の中で一番怪しい風貌となってしまった。

「じゃあ行くか。オーナーはこっちだ」

シンが先にヴァイスに乗って私に手を差し伸べる。その隣でタキもヴァイスに跨った。

なぜ誰もヴァイスが二人居る事に触れないのだろう。

ヴァイスが自分の装備を自在に出せるのは知っているが、分身まで出来るとは思わなかった。

でもよく見るとシンが乗った方は私の知るヴァイスより一回り大きくて貫禄があり、顔つきも違う。

私が戸惑っていると、ヴァイスがそれに答えてくれた。

(ラナ様、そちらは私の父です。皆さんが食事をしている間に天界へ行き、応援を頼みました。私一人で何度も往復するより良いかと思いまして)

「まあ……ヴァイス、女神様の眷属をお借りするなんて恐れ多いわ」

目の前に居るのが女神を乗せていた聖獣だと知り、私は後ずさる。

人間の私が聖獣のヴァイスを従えているだけでも非常識だと思っているのに、これはまた別次元の話だ。

シンは何とも思わないのかしら? 特に何も言わないけれど、人の姿のヴァイスから説明を受けているのよね。

(ラナ様、気兼ねせずお乗りください。父は女神の許しを得てここに来ています。モタモタしていては時間内にすべてを済ませられませんよ)

私達が動ける時間は今から朝の四時まで。四時半には厨房を使う使用人が問答無用で入ってきてしまうのだ。こんな事でもたついている場合ではない。

「お目にかかるのは二度目ですね。どうぞよろしくお願い致します」

するとヴァイスの父はゆっくりと頷いた。従属契約をしていないので念話で話す事は出来ないが、気持ちは伝わってくる。

私はシンが差し出した手を取り、「では失礼します」と言ってヴァイスの父の背に跨った。

「ありがとう、シン。では行きましょう。一刻も早く攫われた女の子達を助け出さなくては。ヴァイス、姿を消すのを忘れないでね」

(心得ております)

私達は一気に上空へ飛び、真下に広がる王都を見下ろした。

上空から見ると、ガス灯の灯りや各家から漏れ出る光りは多少あるものの、全体的に暗い。

そんな中、ピカピカとイルミネーションのように光り輝いている場所がある。

「あれは妖精の光ね。あそこに被害者が?」

「ああ、オーナーが着替えている合間にサッと下見をしてきたんだが、王都に二か所と港に一か所。そのうち一つは犯人の潜伏場所らしい」

「つまり、三人のうち一人は救出されたのね。よかった……」

犯人の捕縛は騎士や兵士に任せればいい。あとは少女を二人助け出すのみ。これは思ったより早くチヨのもとへ戻れるかもしれない。

(ラナ様、港の倉庫街で少女が木箱に閉じ込められているそうです。まずはそこへ向かいましょう)

「大変! 早く助けてあげなくちゃ!」

そんな話をしている間に、私達は港の倉庫街上空に到着していた。倉庫街は夜間立ち入り禁止で、門には見張りが四人立っている。

見張りの立つ門の周辺と塀の前だけが魔道具の照明器具で照らされていてやけに明るい。だから余計にランプもガス灯も無い倉庫街の中は真っ暗に感じた。

「真っ暗だね。月も雲に隠れちゃった」

「妖精の光は周りを照らさないしな……。まあ、そこは俺が何とかする」

上空から見ると、妖精の光の玉がドーナツ状に丸く並んでグルグルと回り、少女の居場所を示しているのがわかる。門から離れた海に近い場所だ。私達はそこへ向けて移動を始めた。

するとタキが何かを見つけて指をさす。

「あ、ねえ。門の所に誰か来たよ。馬に乗ってるって事は騎士かな?」

「……あれは騎士団の制服ね。誰が率いる小隊かしら」

ランプを持った十人ほどの騎士が、門の見張りと話をして馬に乗ったまま倉庫街に入って行くのが見えた。

どうやら私達が来なくても、ここに閉じ込められている少女はすぐに助かったらしい。ならば別の被害者のもとへ移動するべきか。

「……どうする? ここはあいつらに任せて他へ行くか?」

「ちょっと待って。騎士達が被害者の居る場所とは別の方向に向かっているわ。どの建物か把握していないのかも」

上から見ているとオレンジ色のランプの明かりが二列になり、妖精が示す海側ではなく反対の方へ進んでいる。

犯人を取り押さえて場所を吐かせた訳ではないのか、それともまったく別の捜査で来ているのか、上空の私達には彼らの会話が聞こえないので何とも言えない。

「こんな時間にここへ来たって事は目星をつけて来たんだろうが……あの調子じゃ見つけるまで何時間も掛かるぞ」

「……ここで考えている余裕は無いわ。すぐに助けに行きましょう」

妖精が示す場所に下りてみると、そこは柱に屋根をかけただけの簡易的な建物だった。屋根の下にあるのは大小様々な木のコンテナ。雲が流れて月明かりに照らされると、余裕で人が入れそうなくらい大きなコンテナがいくつか確認出来た。

少女が閉じ込められているのはその一つ。高さ、幅、奥行き共に百五十センチほどはありそうな大きな箱だ。

シンがランプの代わりにと魔法で指先に火を灯す。ポッと明るくなると、全貌が明らかになった。

周りのコンテナには開封された跡が見える。

蓋に打ち付けてあった釘が曲がった状態で小箱に集められていた。

ここにあるコンテナは再利用する為に集められた物のようだ。

「全部空箱だな。これ以外は」

「酷いわ、こんな暗くて狭い所に閉じ込めるなんて……!」

「でもどうやって開けようか。丈夫な木箱を蹴破るのは無理だよ」

「バールがあれば簡単なんだけどな……どこかで調達してくるか」

すると私達の会話が聞こえたのか、コンテナの中の少女から反応があった。