軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

179・全員救出!

「ラナさん、予定より早く宿に帰れそうでよかったね」

「ええ、そうね。二人とも、私の巻き添えで屋敷に篭る事になって本当に申し訳なかったわ。何もさせてもらえなくて退屈だったでしょう?」

宿での生活は日常の細々とした事もすべて自分でこなさなければならず大変だ。でも私はそれすらも楽しく感じている。

ほんの数日離れただけだけれど、賑やかなあの空間がとても恋しい。

「謝らなくていいよ。僕は至れり尽くせりで楽をさせてもらったし、何も不満は無いから」

「ああ、俺達は休暇を貰ったつもりで優雅な暮らしを満喫させてもらった。退屈だったのはオーナーだろ? 一日に何回退屈だって言った?」

「え? 私そんなに何度も言っていたかしら?」

「言ってた。だから使用人が帰った後厨房を借りたいっていう急な頼みをあっさり許してもらえたんだろ」

「やだ、そうだったのね……。でも私の愚痴が役に立ったみたいでよかったわ。ふふ」

そんな話をしていると、眼下に被害者の居場所を知らせる妖精達の光の輪が見えた。通りには巡回中の兵士の持つランプの灯りらしきものも確認出来る。

「あ、見えたよ。ほら、あそこに光の輪がある」

「おいおい……この辺りは割と裕福な層が住んでいるはずなんだがな」

「まずは向い側の建物の上に降りて様子を見ましょう。どの部屋かチェックしなくちゃ」

被害者がどの部屋に居るかは一目瞭然だった。四階建ての建物の最上階の一室だけ、窓枠に沿って妖精が張り付いて光っていたのだ。

しかし厚手のカーテンがしっかりと閉じられていて中の様子を窺う事は出来ない。

「中の状況を知りたいわね。ヴァイス、妖精に訊ねてみてくれる?」

(承知しました)

すると窓に張り付いていた妖精がこちらへ来て、ヴァイスを通して中の状況を私達に伝えてくれた。

(ラナ様、犯人の数は三人で、あそこは老夫婦の住む部屋だそうです。攫われた少女はあの部屋に老夫婦と共に監禁されており、現在犯人達が内輪もめしていると言っています)

「内輪もめ?」

(本物のラナ様が王都に現れたと知り、老夫婦と少女を処分して運河に捨てるか、口止めして逃げるかで言い争っているそうです。どうも犯人の一人が家主の身内のようで、祖父母は見逃してほしいと必死に仲間を説得していると言っています)

「まあ、大変!」

私の心配は的中した。しかも老夫婦が潜伏場所として部屋を占拠され、命を奪われそうな局面まできていたのだ。

これは急がねばならない。

「シン、タキ。犯人の数は三人。私が人前に姿を現した事を知って、攫った少女をどうするかでもめているみたい。あそこは犯人の祖父母のお宅で、その二人の命も危ないわ」

「それはまずいな。オーナー、なるべく騒ぎにならないよう、まずは浄化して犯人の気持ちを落ち着かせよう。突入するのはそれからだ」

「そうね、そうしましょう」

私達はこれから突入する建物の上に移り、犯人の心の浄化を試みる事にした。

犯人の居る部屋の真上辺りに立つと、殺気が伝わってきて気分が悪くなる。シンとタキも同じものを感じ取ったのか不快な表情を浮かべた。

「犯人がこの下に居るのは間違いないね。黒いモヤは見えないのにすごく気持ち悪いよ……」

「タキ、ちょっとだけ我慢してね。すぐに済むわ」

そうは言ったものの、他者の命を簡単に奪えるような者の浄化にはどれくらいの力を使えばいいのだろうか。

少し迷ったが、身勝手な犯人達への怒りもあり思ったより強めに力を放出してしまった。

空気がピンと張り詰め、目に見えない何かが自分の体内を通り過ぎるような感覚にシンとタキが強い反応を示した。

「うわっ、今のがラナさんの浄化の力? 物凄い圧を感じた。それに耳がキンとして鳥肌が立ったよ」

「おい今の、魔道師や騎士ならハッキリ異変を感じるレベルだぞ。どうしたんだ?」

ダリアの代理で夜会に出た時も何人かが私の放った力に反応していたが、やはり魔力や霊力の強い人にはわかってしまうようだ。

今はあの時より力が増しているし、力をコントロール出来るようにならなくては。

「……感情を抑えられなかったの。でも浄化は成功よ。下から感じていた殺気が消えたわ」

「うん、消えたね」

「加減が利かなかったのか……。誰かが来て身動きが取れなくなる前に片付けよう。ヴァイスの親父さんは運河側の窓を見張っていてくれ。俺達は正面から行く」

地上に降りた私はヴァイスを体の中に取り込み、シンとタキの後に続いて建物の中に入った。

階段や廊下に見張りが立っているでもなく、すんなりと最上階へ上がった私達は、老夫婦の部屋のドアに耳を当てて中の様子を窺った。

中からは若い男性と女性の話し声が聞こえてくる。

そこで私はシンに目配せし、ドンドンドンと強めにドアを叩いてもらった。

するとドア越しに聞こえていた声がピタリと止んだ。

「何? うるさいわね」

ドアの向こうから不機嫌そうな若い女性の声がする。

しかしドアを開けてはもらえず、私はわざと聞き取りにくいようにボソボソと小声で喋った。これは前世で訪問セールスによくやられた手口である。

「夜分にすみません、階下の者ですが、天井から水が漏れてくるんです。お風呂の水が溢れていませんか?」

「え? お風呂が何? 今開けるから待って」

カチャリと鍵を開ける音がして、ほんの少しだけドアが開いた。

私はその隙間にサッと靴先をねじ込む。

「え……ちょ……何あんた達!?」

女性はドアの陰から現れた覆面姿の私達に驚き、咄嗟にドアを閉めようとしたが、私の靴が邪魔をして閉める事は出来ない。

そこへシンが強引にドアを押し開け中に入った。

タキは足がすくんで動けなくなった女性の腕を掴み、逃げないよう一緒に奥へ連れて行く。

玄関から続く短い廊下の先には居間があり、若い男性二人が異変を察知してナイフを構えていた。その後ろに閉じられたドアがある。そこに攫われた少女と老夫婦が居るのだろう。

「何だお前ら! 強盗か!?」

犯人の男二人はジリジリと後ろに下がり、背後のドアに手を掛けた。しかしどんなに力を入れてもドアは開かない。

「爺さんだな! おい、ドア開けろ! クソッ」

「だから縛っておけって言っただろうが! 爺さん、早く開けないとあんたの孫娘が強盗に殺されちまうぞ!」

男が悪態を吐くと、キィと音を立ててドアは開いた。

しかし奥の部屋に逃げようとした犯人達は何かに弾き返され勢いよく床に倒れ込んできた。

部屋の入口に立っていたのは背の高い銀髪の男性。つまりヴァイスの父が窓から侵入して待ち伏せしていたのだ。

作戦とは違うけれど、シンとタキは親指を立ててその行動を称賛した。私も慌ててその流れに乗り親指を立てて見せる。

シンとタキが犯人の男二人をガッチリと縄で縛り上げた後、私は奥の部屋を確認した。少女も老夫婦も多少衰弱していたが怪我は無く、私が持ってきた水を飲ませるとたちまち元気を取り戻してくれた。

犯人の一味に加わっていた女性は大泣きして祖父母に謝り続け、自首すると言って祖父に付き添われて出ていった。

少女が不安そうにその様子を見ている。このまま女性を逃がしてしまうのではないかと心配しているようだ。

そんな少女にタキが声を掛ける。

「おじいさんは逃がしたいと思っているかもしれないけど、あの人は逃げたりしないよ。信用して大丈夫。すぐに兵士を連れて戻ってくるよ」

「お前がそう言うなら間違いないな。よし、俺達は撤収するか」

「そうね。長居は禁物だわ」

私達が出ていこうとすると、終始オドオドしていた少女は声を掛けてきた。

「た……助けていただき、ありがとうございました。私はアルテミの第三王女シェリアと申します」

今のは聞き間違いだろうかと私達は目を合わせた。

アルテミは水の底に沈んで何十年も前に国は滅びたはず。それでも逃げ延びた王族の子孫は自分をアルテミの王族だと名乗っているのだろうか。

シン達の祖母は王族である事を捨ててこの国の一般の民として暮らす道を選択したけれど、皆がそうとは限らない。

着ている物は異国の旅装束のように見えるが、私の知るアルテミの民族衣装とは趣が違う。果たして彼女は本物だろうか。

控えめでどこか気品のある佇まいは普通の貴族令嬢に見える。

「アルテミの王女……様?」

「はい。父はエルカット・ロイエンタール。アルテミの現国王です。後日お礼をさせていただきたいのでお名前とご身分をお教えくださいませんか?」

外が騒がしくなってきた。自首すると言って出ていった女性が兵士や騎士を連れて戻ってきたようである。

「いいえ、お礼は結構です。私達もう行かなくては……」

「おい、もう階段を下りるのは無理だ。窓から出るぞ」

「待って。あなた方は逃げなければならないような方達なのですか?」

少女は慌てて自分の身に着けている物を確認し、耳や手に何も付けていないとわかると服の下に隠してあった物を取り出した。

「でしたらこれを持って行ってください。これを持って国に来てくださればあなた方を盛大におもてなし致します。面倒ならお金に変えても構いませんから、どうか受け取って」

「本当に結構です!」

私は拒んだが、王女を名乗る少女は私の鞄に何かを押し込んできた。すぐ返そうとしたが、私はシンに抱えられて運河側の窓から外へ飛び出していた。

窓の外にはヴァイスの父が待っていてくれて、彼の背に拾われた私達はそのまま屋敷へと帰ったのだった。