軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第77話 片田舎のおっさん、飯を食う

「とりあえず、座ってからでもいいかな」

「ああ、はい、どうぞ」

スレナから思いっきり奇異の視線を受けてしまったが、然もありなん。片田舎から出てきたおのぼり全開のおっさんがいきなり子供を連れていれば、そりゃ珍しくもあるというものだろう。

ただ、俺たちはまず飯を食いに来たのだ。話をするのは言ってみればついでである。なので、とりあえずは先に座らせてもらうことにした。

「うーん、どこから話したもんかな……」

「何か込み入った事情がある、というのはお察ししますが……」

ミュイとともに着席した後、自然と右手が顎に伸びる。

その詳細は分からないまでも、何らかののっぴきならない事情がある、というところくらいまではスレナも察してくれているようで、そこら辺は大変ありがたい。やはり一流の冒険者ともなると、その辺りの機微にも敏感でないと務まらないのだろうか。

とは言え、これから一時と言えど食卓を囲む仲でもある。簡単な紹介くらいはしておこう。

「まあ、とりあえず紹介しておくよ。ミュイだ」

「……ども」

俺の紹介を受けたミュイは、静かに首を下げるだけにとどまった。

人とまともに接することにイマイチ慣れていない様子のミュイだが、今後学院に通うようになったらこんなシーンは腐るほど湧いて出てくる。今のうちに挨拶の一つくらいは教えておいた方がいいのかもしれない。

「……スレナ・リサンデラだ。先生には過去、お世話になった」

一方のスレナは、ミュイに対してどういう態度で行けばいいのかを掴みかねている様子であった。ひとまずいつも通りの自分で行くことにしたのだろう。声は俺と話す時よりも少し厳かだ。

「そうだね……結論から言えば、俺は彼女の後見人になっていて、今は一緒に住んでいる」

「んっぶぅ!?」

「おわあっ!?」

続いた俺の説明に、スレナが口を付けた飲み物を吹き出していた。

そ、そんなにびっくりせんでも。幸いながら吹き出した飲み物の量は微量で、俺やミュイにかかることはなかったが。

「げほっ! し、失礼しました……」

「ああいや、こちらこそ驚かせてしまったようですまない」

一応謝ってはおいたけど、スレナが吹き出すような情報あったか? 俺はなかったと思う。

「ち、ちなみにそのことをシトラスは?」

「ああ、勿論伝えているよ」

次いで出てきたのは、レベリオ騎士団長の名前。

彼女はミュイとも面識があるし、その経緯もある程度知っているから、特に何事もなく話は終わったと俺は思っているんだけどな。

「ま、まあ私が口を挟む問題でもないと思いますが……おいお前」

「……な、なんだよ」

スレナがその表情と声色を、先ほどよりも厳しいものに変える。一見さんがこれを見れば思わずビビりあがってしまいそうだが、彼女はさっき飲み物をぶちまけたばっかりである。

俺は幼い時のスレナのことも知っているから、彼女のこういう姿はどこか微笑ましくすら感じられるね。

「先生に迷惑はかけるなよ」

「わ、分かってるよ……」

「ははは、お手柔らかに頼むよスレナ」

鋭い眼光から放たれた言葉は、ミュイを委縮させるには十分な効果を持っていた。

とは言っても、いきなり大人の、それも比較的強面と言えるお姉さんにスゴまれては、ミュイも必要以上にビビってしまうというもの。

ミュイはまだ幼い、手心は加えてほしいところだ。俺だって最低限の注意はするつもりだが、彼女にはまずはのびのびと過ごしてもらいたいからね。

「まあ、とりあえず飯を食おうか。すみません、腸詰の盛り合わせを」

「はーい!」

店員と思しき人に声をかけ、注文を告げる。

シャルキュトリに来たんだから、ここの売りは勿論腸詰だ。つい最近まで使っていた宿の近くにある酒場でも腸詰は食っていたが、さて専門店の味は如何程か。じっくりと味わわせてもらうとしよう。

「スレナは最近どうだい?」

料理が運ばれてくるまでの間、若干の手持無沙汰を感じた俺は、スレナに近況を尋ねる。

「それなりにやらせてもらっています。最近は比較的首都近辺でのモンスター狩りが多いですね。季節柄仕方がないのですが」

彼女は気勢よく腸詰に齧り付き、舌を水で潤してから、言葉を発した。

「それはなにより。季節柄、というのは?」

ふと気になったので、そこも聞いてみる。

モンスターの分布というか、特性というのは大雑把であり、また一方で複雑だ。大小様々な生物が折り重なって野生の生活圏というものは形成されている。

ビデン村でも季節によって出てきやすい野生の動物なんかは結構いたりする。バルトレーン近辺のそういった事情に俺はとんと無知だから、俺も知識としてそこら辺はいずれ補強したいと考えていた。

いやまあ、別に大手を振ってモンスターを狩りに行きたいとかそういう話ではなくてね。剣に生きる者として、やっぱりそういうところは多少気になっちゃうのである。

「先生はご存知ありませんか? 間もなくスフェンドヤードバニア使節団の来訪がありますので」

「ほう?」

てっきりモンスターの習性の話なのかな、と思っていたが、どうやらそうではないらしい。スレナが意外そうな表情で言葉を紡いでいた。

しかし、スフェンドヤードバニアか。俺も詳しくはないが、ちょっと前のあれやそれやもあってあまり良い印象を持っていない。

いや、あくまでやらかしたのはスフェン教の教会騎士団であって、スフェンドヤードバニアという国ではない、ということを頭では理解しているのだが。

「友好のため、年に一度こういう機会があるんですよ。それで、私たち冒険者は治安向上のために東奔西走ってわけです」

「なるほどねえ」

腸詰を噛み切りながら、スレナが零す。

いかに冒険者ギルドが国を跨いだ中立組織とはいえ、やはり国の一角で商売をやっている以上、そういうしがらみからは逃れられない。国のために働け、ではなく、国家の治安維持のために冒険者ギルドに正式に依頼を出している、ということだろう。

「そうなると、騎士団も動くかな?」

「でしょうね。先生の立ち位置がどう収まるのかはシトラス次第でしょうが」

片田舎から出てきたおっさんがお偉いさんと謁見ってのは、出来れば避けたいところだ。俺はのんびりと剣を教えながら日々を過ごしたいのである。

しかし、特別指南役とかいう大層な肩書を貰ってしまっている以上、きっとそうは問屋が卸さないのだろうなあ。あーやだやだ。俺、正装とか碌に持ってないんですけど。

「腸詰盛り合わせお待たせしましたー」

つらつらと雑談に花を咲かせていると、頼んでいた腸詰が届く。

うーん、いいね。大皿に盛りつけられたいくつかの種類の腸詰は、焼かれたりボイルされていたりと様々である。これはこれで中々食欲をそそるな。

「いただきますっと。ミュイも食べなよ」

「……う、うん」

まだ少し緊張している様子のミュイに声をかけながら、早速ボイルされた腸詰を一口。

柔らかい肉を噛み切ると、じゅわりと肉汁が溢れ出してくる。いいね、やはり肉はこうでなくては。

ミュイも遠慮がちにではあるが、フォークで腸詰を刺してもぐもぐと食べていた。うむうむ、よく食べてよく育つといいぞ。

「そうそう。ミュイだけど、魔術師学院に通うことになってね」

「ほう? 魔術師の卵、ですか」

俺の言葉に、スレナのミュイを見る視線が少し変わる。具体的に言えば、クソガキから見込みのあるクソガキに変わった感じ。いやこれあんま変わってねえな。スレナのその攻撃的な視線はいったい何なんだ。

「魔術師学院は、生え抜きたちが更に競い合う場所だ。……厳しいぞ」

「うっ……わ、分かってるよ……」

「まあまあ、あまり怖がらせないでくれよ」

確かに魔術師学院は、騎士団とはまた趣の違うエリートたちの集いの場だ。才能で全てが決まる世界とはいえ、他者との競争は必至。

でもスレナよ、年端もいかぬ少女に要らぬプレッシャーをかけ過ぎではなかろうか。おじさん、君の当たりの強さがちょっと怖いよ。

「書類上とはいえ先生の直系になるのですから、このくらいは熟してくれませんと」

「君たちは本当に俺を何だと思ってるんだい……?」

スレナといいアリューシアといい、俺への期待値が高すぎるんだが。何だよ俺の直系って。

「まあ、オッサンが強えのは知ってるよ……」

「オッサン、だと……?」

「ひっ」

「まあまあまあまあ」

スレナに凄まれたミュイの肩がびくりと跳ねる。

だからその圧をやめろ。別にいいだろ呼び方くらい。

俺はミュイやスレナと適当に雑談しながら楽しく飯を食べたいだけなんだぞ。どうしてこんな圧のある空間になってしまったんだ。

「スレナ、その辺にしておいてくれると助かるんだけど」

「……はい。申し訳ありません、つい」

何がついなの? おじさん困惑。

なんだか和やかに飯を食う雰囲気ではなくなってしまったので、ちょっと慌てて軌道修正を図る。

誰だって人を突っつきながら飯を食うより、仲良く飯を食いたいもんだ。それはミュイもスレナもそうだと思いたい。

「ミュイもあまり気にしないようにね」

「……うん」

もそもそと腸詰を咥えながら反応を返すミュイ。

折角の美味い飯なのに、ミュイはちゃんと味を感じてくれているだろうか。そんな気持ちばかり湧いてきてしまう。

「……すみません、些か当たりが強すぎたようです。お詫びと言ってはなんですが、ここのお代は私が」

「ん? いやいや、そこまでは悪いよ」

年下に奢られるほど貧弱な収入をしているつもりはないので、その申し出は断っておく。何よりミュイの手前、それはちょっと格好がつかないのである。

「そうですか……。その、すまなかったな。それほど先生は偉大な方なのだ」

「……ん。それは何となく分かってる、つもり……」

「言い過ぎだよ。俺はそこら辺にいる男と何ら変わりないさ」

偉大って。スレナの中で俺はどこまで大きくなっているんだ。ミュイも乗るんじゃありません。

俺だって慕ってくれている分には悪い気はしないが、それでもこういう扱いは未だに慣れない。アリューシアやヘンブリッツからは常日頃そういう扱いは受けているが、どうにも気を揉んでしまうね。

まあいいや。少なくともスレナとミュイが険悪な空気を続けないことが、今この場では何より大事である。

ミュイもなんだかんだで少し落ち着いたようだし、このまま腸詰を楽しむことにしよう。