軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第31話 片田舎のおっさん、固辞する

行きと同様の復路。

アザラミアの森を出たところで待機させていた馬車を使い、道中で一泊。そしてその翌日、俺たちはバルトレーンの城壁が見えるところまで歩を進めていた。

「リサンデラさん、ガーデナントさん、本当にありがとうございました!」

「いいっていいって。それが俺たちの役目でもあったわけだから」

城壁が見えたところで、もう何度目かも分からないポルタからの礼を受け取る。

彼は丁度野営をしている時に目を覚まし、ことの顛末についてニドリーやサリカッツから説明を受けた後、こうやって俺やスレナ相手に何度も何度も頭を下げていた。

一日経った今では、何とか歩けるくらいには回復している。

いやあ、後を引く怪我がなくて何よりだ。もしかしたらあったのかもしれないが、そこはポーションの力も大きかったのかもしれない。

剣士としては勿論まだ発展途上だろう。だが彼の真っ直ぐな視線と態度は、そのまま剣と向き合う性格ともとれる。

そういった意味では、彼は良い剣士になるだろうな、という予感はあった。そこに如何程の才能が眠っているのかはまた別問題として。

「先ずはゆっくり療養して怪我を治すようにね」

「はい! 無理をしてもいいことはありませんから」

「いい心掛けだ。しっかり休むと良い」

うむ、こういう素直なところも高ポイント。

大体ポルタの言う通り、無理を押してもいいことってほとんどないからな。しっかり万全のコンディションを整えて更なる躍進へと身を進めて欲しい。

冒険者ってのは結構血気盛んな連中も多い。そりゃ皆一攫千金を狙ってるわけだから、我先にと危険のど真ん中にダイブするような奴らだ。

逆に言えば、そういう気概がなければ冒険者として稼ぐのには向いていないとも言える。

欲と自信と危険。

この折り合いをちゃんとつけ続けたものが生き残り、そして成長していくのだ。死んでしまったら何もかも無くなってしまうからね。

「着いたぞ、バルトレーンだ。報告のためこのまま冒険者ギルドまで直行する。先生もそれでよろしいですか?」

「ああ、大丈夫だよ」

ニドリーやサリカッツに代わり、帰りの馬車の御者を務めているスレナから声がかかる。

これは彼女自身が言い出したことだ。

本来であればブラックランクの冒険者に馬車を扱わせるなど、彼らからしたらとんでもないことだろうが、こういう気遣いも出来るのがスレナという冒険者である。

今でこそ勝気な様子がよく見受けられるが、元々優しい性格をしているはずだからな。

ついつい保護者の視点に立ってしまう。いや昔はそうだったんだけど。

「……先生、何か?」

「ああいや、何でもない」

いかんいかん、ついついスレナの方をじっと見てしまった。

しかし立派になったものだな。幼少期に少し面倒を見ただけと言われればそこまでだが、何だか俺も温かな気持ちになる。

いつもの停留所に馬車を停め、徒歩で冒険者ギルドへ。

ポルタにはサリカッツが肩を貸している。早く休ませてやりたいところだが、まずはギルドに報告をしなきゃいけないってのはつらいところだな。ポルタ君にはもう少し頑張ってもらわねば。

「ギルドマスターを頼む」

「は、はい。畏まりました」

ギルドの扉を潜り、カウンターの前へ。代表してスレナが話を通す。

受付嬢もポルタの様子を見て、ただ事ではない、くらいには感じているようだ。それでも取り乱したりしない辺りは流石だな。

「お待たせしました。……何か、ありましたかな」

しばらくしてやってきたのは、白髪の目立つギルドマスター、ニダスとお供のメイゲン。彼らもポルタたちの様子を一目見ただけで何らかを察した様子。

初対面の時から思っていたが、ニダスには胆力と言うか、そういう類のものがしっかりと存在しているように思う。それは多分、年の功だけでは説明出来ない部分もあるだろう。

「研修自体は無事に終えた。ただ、その後アザラミアの森で 特別討伐指定個体(ネームド) 、ゼノ・グレイブルと遭遇。それを撃破したので報告にな」

「なんと……!」

冒険者ギルドのロビーがざわつく。

そう言えば、特別討伐指定個体という存在自体は知っていたが、それがどれくらいの脅威なのかってのは終ぞ知らないままだったな。まあ俺には縁のない話だったから別に深く聞く機会もなかったんだけど。

「物証はちゃんと持ち帰ってきたぞ」

「……ふむ。どうやら本当のようですな……」

ゴトリ、と、カウンターにゼノ・グレイブルの体毛や爪を置いていくスレナ。

いつの間にか野次馬っぽい他の冒険者も遠巻きにそれを見つめていた。

「これはリサンデラさんが単独で?」

「いや、先せ……ガーデナント氏と協力して、だな。私は最後にとどめを刺しただけだが」

メイゲンからの問いに、スレナが答える。

さりげなく話を盛るのを止めろ。

「なるほど……。ガーデナントさん、ありがとうございました」

「い、いえいえ。そんな頭を下げられるほどでは……」

ニダスが俺の方へ身体ごと視線を向けて、深々と頭を下げている。

止めて欲しい。いや討伐したってのは事実だが、頑張ったのはほとんどスレナである。俺はちょこまか逃げ回っていたのが大半だし、効果的なダメージはほとんど与えられなかった。何ともむず痒い。

「君たちも災難だったね。だが、よく生きて帰ってきてくれた」

合わせて、俺の後ろに居る冒険者三人にも言葉を投げかける。

ニダスはギルドマスターということだから、この冒険者ギルドのトップなのだろう。そんな大物が高々ブロンズランクの冒険者を気に掛けるというのは、普通ならばあまり考えられないことのように思う。

その辺りにも、このニダスという人物の好さが表れているようにも感じた。

「ではすぐに回収班を編成し、向かわせましょうか」

「ああ。本来なら私が残るべきだったが……新人とガーデナント氏も居たのでな、帰還を優先した」

「悪くない判断でしょうな。場所だけお伝え頂ければ後はこちらで」

ニダスとスレナが会話を重ねる。

ほーん、ゼノ・グレイブルとやらの死体は回収するのか。まあスレナが素材がどうこう言っていたし、余すところなく有効活用するのだろう。

「特別討伐指定個体の一体が倒されたとなれば、大々的に喧伝しておかなければなりませんなあ」

「確かに。その手配も急がせましょう」

どこか気分がよさそうに、ニダスが呟く。

喧伝て。特別討伐指定個体ってのはそこまでの大物なのだろうか。

「あの、つかぬ事をお伺いしたいのですが……」

「なんですかな、ガーデナントさん」

ちょっとここら辺で特別討伐指定個体ってやつのことを詳しく聞いておこう。何も分からんまま戦って、何も分からんまま勝ってしまったからな。

「特別討伐指定個体、というのは私も耳にしたことはありますが……何分無知なもので、その詳細を把握しておらず……」

「はははは、左様でございますか」

俺の言葉を受け取ったニダスは、どこか愉快そうに笑い声をあげる。

恥ずかしいという気持ちもないではない。そんなことも知らんかったんかい、と突っ込まれれば何も言い返せないからだ。

ただ、聞くは一時の恥、聞かぬは一生の恥って言うしな。今の状況がそれに当て嵌まるのかは知らんけど。

「メイゲン、説明を」

「はっ」

おっと、どうやら語り手を交代するらしい。

しかし俺みたいな人間が冒険者ギルドのトップとこんなに長々と話し込んでいていいのだろうか。変なところで気になってきたぞ。

「 特別討伐指定個体(ネームド) とは、我々冒険者ギルドが中心となり、主に特異個体を指す名称として用いているものです。現在レベリス王国内で存在が確認されている特別討伐指定個体は十四体。そのうちの一体がゼノ・グレイブルとなります」

「十四体、ですか……」

体感だけど十四は多い数とは思えない。

そのうちの一体をスレナが仕留めたわけだ。そりゃ凄い。

「無論、討伐成功や新種の発見などでその数は前後しますが……。基本的に、特別討伐指定個体に関わる依頼はプラチナムランク以上の冒険者でなければ受諾出来ません。それ程の脅威を持っているものだと認識して頂ければ」

「なるほど……ありがとうございます」

メイゲンが説明を終え、一拍の沈黙が場を支配する。

プラチナムランク以上、かあ。そう言えば今はビデン村に居るランドリドが確かプラチナム……あーいや、正確に言えば元だったか。

それほどの脅威を鎧袖一触で仕留められるスレナはやはり別格なのだろう。

「――時に、ガーデナントさん」

「はい、何でしょう?」

メイゲンに代わり今度はニダスが、真っ直ぐに俺を見つめて声を発する。

その瞳には確かな信頼と、そして情熱が窺えた。

「冒険者に、興味はありませんかな?」

「いえ結構です」

秒でお断りだよそんなの。

俺は何時だってしがないおっさんなの!