軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第30話 片田舎のおっさん、勝利を収める

「スレナッ!」

動きを止めざるを得なかった俺の視界に入ってきたのは、今回の研修に同行したブラックランクの最上位冒険者。

彼女はどこから登ったのか、ゼノ・グレイブルの遥か頭上から襲い掛かり、標的の両眼へ二刃を突き刺していた。

ずるり、と。

彼女が刺した双剣が何らかの干渉を行ったのか、手に持つロングソードの感触が変わる。どうやら引っこ抜けそうだ、ありがたい。

「グ……グルァ……ガッ……!」

「……しぶといね……!」

口腔から喉を貫かれ、更には両目に剣を刺し込まれてもなお、ゼノ・グレイブルは息絶えない。

ならばこの剣を引き抜き、とどめを刺してやるのが最善というものだ。

「でやああっ!」

しかし俺が剣を引っこ抜くより先に、スレナが更に動きを見せた。

両の手に持った幅広のブロードソード。その切っ先をゼノ・グレイブルの眼球に刺したまま身を回転させ、遠心力を利用して真横に掻っ捌いたのである。

肉、骨、様々なモノを切り裂く振動が俺の手にも伝わってくる。

なんという力と技術。流石ブラックランクは格が違う。仮に俺が同じシチュエーションで剣を刺したとしても、あそこまで器用に力を伝えるのは多分不可能だ。

スレナの強さを改めて痛感する。やっぱり俺要らなかったのでは。

「……ふぅ」

その衝撃で抜け落ちたロングソードを手に、思わず腰を下ろした。

眼球の奥深くに剣を突き立てられ、そこから真横に切り裂かれたのだ。如何に 特別討伐指定個体(ネームド) と言えど、生物である以上死は免れないだろう。

「先生が時間を稼いでくれましたので、容易に上を取れました。ありがとうございます」

「いやいや、礼には及ばないよ。俺じゃ倒しきれなかったからね」

スレナが双剣を鞘に納めながら礼を言ってくる。

正直礼を言いたいのはこっちの方だけどね。剣をぶっ刺すまではよかったものの、そこから引っこ抜けなかったからマジで死を覚悟した。

「……ん?」

さて、俺も剣を鞘に戻そうかと思ったところ。

手に感じる重みが妙に軽く、またバランスが悪いことに気付く。

「……あぁー……」

折れとる。ぽっきりと。

俺のロングソードが半ばから、綺麗に折れていた。

同時に納得もあった。刃がゼノ・グレイブルの中に残ったまま折れたから、感触が変わって抜けるようになったのだろう。

「す、すみません先生! 恐らく私が巻き込んだものと……!」

「いや、謝る必要はないよ。スレナがとった行動は最善だ」

多分スレナのブロードソードに巻き込まれて俺の剣が負けたんだろうな。

俺の持つロングソードは質が悪いとまでは言わないが、特別な銘も何もない平凡な剣だ。一方、スレナの得物は見るからに業物である。そしてあのパワーで接触したとなれば、折れても何ら不思議ではない。

「俺の剣のことは構わない。それよりポルタは?」

顔面がぐっちゃぐちゃになって動かなくなったゼノ・グレイブルから、視線を洞窟の方へと向ける。

そこには驚愕の表情でこちらを見ているニドリーとサリカッツ。そしてその奥で洞窟の壁に身を預けているポルタの姿が見えた。

「一命は取り留めました。後は戻って安静にしていればいずれ回復するかと」

「それはよかった。何よりだね」

冒険者である以上、リスクは常に付き纏う。

だから、冒険者にとって最良の結果というのは、生きて帰ることだ。少なくとも俺はそうだと思っている。俺は冒険者じゃないけどさ。

命と名誉のトレードオフなんて誰も喜びやしない。未曽有の危機、未踏の大地、そんなところから生きて帰ることこそが最重要なのだ。

そういう意味ではこの三人は災難だったと言えるし、同時に幸運だったとも言える。

「何にせよ、助かった、か。ありがとうスレナ」

いやあ、スレナが居てよかったよ本当に。

俺一人じゃ勝てたか分からないし、俺が負けていたらきっと彼ら三人の命も散っていた。明るい未来を持つ若者三人の命だ。守れただけでも大金星である。

「いえ、とんでもないことです。それよりも先生の剣が……」

「それはいいって。この剣はここが墓場だった。そういうことさ」

普段は勝気な表情をしゅんと窄ませ、スレナが言いにくそうに零す。

スレナも気にしてるなあ。別にいいのに。

思い入れがないと言えば嘘にはなるが、特別なものでもないからね。

「ガ、ガーデナントさん! リサンデラさん!」

脅威は去ったとみて良いだろう。その判断を同じく下したらしいニドリーがこちらに駆け出しながら声をあげる。

サリカッツ君はポルタを背負うような動きをしていた。まあこの場所に放置しておくわけにはいかないからね。

「ニドリー。君たちが無事で何よりだよ」

「い、いえ! あ、あの、ありがとう、ございました……!」

「ははは、どういたしまして」

未だ震えが止まらないらしいニドリーが、その声を震わせながらたどたどしく礼を述べていた。

別にお礼が欲しくて守っていたわけじゃないが、悪い気はしないものだ。

ま、頑張ったのは俺じゃなくてスレナだけどね。

しかしあまり彼らの緊張を持続させるのもよくない。精神的な疲労もあるだろう、早くバルトレーンに戻りたいところだな。

「さて、じゃあ戻ろうか。……スレナ?」

アザラミアの森から抜けようと声を掛けたところ、スレナはゼノ・グレイブルの遺骸を何やら探っている様子。

「特別討伐指定個体ですので、討伐の証拠を持って帰らねばなりません。体毛と……この爪辺りでいいでしょう」

「なるほどね」

言われてみればその通りで、わざわざ冒険者ギルドが指定している対象である。口頭の証言のみで討伐完了と判断出来ないというのは尤もだ。

「ふっ!」

短い気合と同時、スレナはその得物をゼノ・グレイブルの爪の付け根に向かって振り下ろす。

硬質の音が響いた後、指と思われる部分の根元から切断された爪が大地に零れ落ちた。

「……かなり硬質ですね。良い素材にもなりそうです」

「ふむ、そういうものか」

話に聞いたことくらいしかないが、冒険者の中には討伐したモンスターの素材を用いて自身の武器を拵える者も居るらしい。

俺はそういう生活とはほぼ無縁だったから普通の鉱石から出来た剣を使っている。ただその剣はさっきの戦闘でぽっきり逝っちゃったわけですけど。

うーん、懐に剣がないのは剣士としてどうにも落ち着かない。

バルトレーンに戻ったら新調しないとな。以前アリューシアとお邪魔したあの鍛冶屋にでも行ってみるか。

「ゼノ・グレイブルの爪で先生の剣を作ってもいいかもしれませんね」

「いやいや、それはスレナのものだろう。遠慮しておくよ」

彼女の申し出を申し訳ないが却下しておく。

俺が倒したわけでもないからな。それに何かとんでもないブツが出来そうなのでここは遠慮しておこう。俺は普通の剣でいいんだよ普通の剣で。

大体爪から剣ってどう作るんだ。槍とかなら分かるけども。

「そうですか……。では、戻りましょうか。先生、バルトレーンに着いたら特別討伐指定個体の報告もありますので、同伴願えますか」

「ああ、それは構わないよ」

どっちにしろ新人チームの研修が終わったことも報告しなきゃならないだろうし、まあそれくらいなら大した時間も取られないだろう。

「ふふ、先生の凱旋ですね。私も誇らしい」

「よせよせ。倒したのはスレナだろう」

たまたま剣をぶっ刺せたからそれなりのダメージは与えられたものの、決定打は間違いなくスレナだ。そう考えると、やっぱりポルタを助けるのが俺で、スレナがゼノ・グレイブルと戦った方がよりスムーズだった気がしてきた。

いやまあ、結果倒せたからいいんだけど。

死者が出なくて何よりだ。下手したら俺も死んでたからな。

「よし、それじゃ帰ろうか。バルトレーンに」

「はい!」

こうして、一波乱どころか大波乱を巻き起こした新人冒険者の実地研修が幕を下ろした。