軽量なろうリーダー

作品タイトル不明

第14話 片田舎のおっさん、散策する

「今日はこれくらいにしておこうか。皆、お疲れ様」

「お疲れ様でした!!」

鍛錬の終了を告げれば、騎士たちからは元気のよい声。

俺もそうだが騎士の皆も汗だくだ。これはさっさと宿に帰って一風呂浴びた方がいいなと考えながら、修練場を後にする。

あれから俺はレベリオ騎士団の特別指南役として、ほぼ毎日修練場に顔を出していた。

本来であれば月に何度かというスケジュールだったのだが、あのおやじ殿が俺をビデン村から追い出してしまったから、他に行くところもなかったのである。

それに分かりやすい喜色を示したのがアリューシア。

その次にクルニ。

そしてその次が意外や意外、副団長のヘンブリッツ君であった。

「ベリル殿! お疲れ様です!」

「あ、ああ。ヘンブリッツ君もお疲れ様。毎日精が出るね」

修練場から出てすぐ。俺は後ろから追ってきたヘンブリッツに呼び止められていた。

彼の手にはまだ使われていないタオルがある。どうやら俺用らしい。

あの模擬戦を経てから、どうにも彼は俺を目標の一つとして定めたらしく、こうして鍛錬中鍛錬後問わず俺に付いてくるようになった。

お前それ副団長としてどうなの、と思う所もなくはなかったが、アリューシアもアリューシアで結構自由だしなあ。

というかここに通うようになって分かったが、レベリオ騎士団は普段の巡回や定例会などはあれど、基本的に当番外の人間は割かし暇をしていたりする。

無論、暇を貪っているだけでは騎士の面目もないからこうやって鍛錬にも励んでいるのだが、逆を言えば何か大きいイベントがない限り、騎士の生活というのは基本的に鍛錬と紐付けられている。

「ベリル殿という大きな目標も出来ましたから。毎日が充実しております」

「……そうか、それは何より」

頂戴したタオルで顔を拭きながら、彼の言葉に返す。

「しかし中々ベリル殿のように動けません。鍛錬が足りませんな」

「ははは、俺でも出来るんだ、いずれ出来るようになるよ」

いやあ、何かやたらと懐かれてしまったな。

別段困ったりはしないのだが、ここまでの反応を貰うのは正直想定外だったので未だに慣れない。そもそも、騎士団の指南役になっちゃったこと自体、まだ納得し切っていないのだ。

「先生! 副団長! お疲れ様っす!」

「やあクルニ。……君もお疲れ様」

ヘンブリッツ君を相手に取り留めのない会話をしていると、そこにもう一人。騎士団の一員であり俺の元弟子でもあるクルニが顔を覗かせた。

クルニも分かりやすく汗だくだ。

プレートアーマーを着込んでいない、修練用の服装は大層地味なものであったがしかし、汗のせいでぴったりと肌に吸着した服に思わず目を逸らす。

小柄だが健康的な、女性らしい部分が強調されている。これはマズいですよ。

「先生はもう首都での生活には慣れたっすか?」

そんな俺の気持ちを知ってか知らずか、グイグイ攻めてくるクルニ。

やめろ、距離を詰めてくるんじゃない。目のやり場に困る。

「まあ慣れたと言えば慣れたけど。あまりこの近辺以外は出歩かないからねえ」

微妙に目を逸らしながら答える。

言った通り、基本的にこの騎士団庁舎と宿との往復なので、慣れはしたものの地理の把握は近場以外ほとんど出来ていない。

まあそれで特に苦労もないし、ほぼ毎日が鍛錬の日々なので、観光に割く時間も理由もそこまでなかったとも言う。

「それは勿体ない。バルトレーンには観光名所もあります故」

俺の呟きをヘンブリッツが拾う。

うーむ、言われてみればそうかもしれん。

レベリス王国の首都バルトレーンと言えば、国きっての大都市としても有名だ。五つの区に分かれたエリアにはそれぞれ特色があり、地方や他国からの観光客も多いと聞く。

「なら、私がご案内するっす!」

ふんす、と気合を入れた様子のクルニ。

いや、ただ街中を観光するためだけに気合もクソもないと思うのだが、まあここはクルニの良さが出たと言っておこう。何にでもひたむきな彼女は、たかが観光案内にもひたむきなのだ。

「はは、それじゃあお願いしようかな。ただし、着替えた後でね」

「そうっすね! もう汗だくっす!」

まだ宿に戻ってひと眠りするには些か日が高い。

バルトレーンに腰を落ち着けるまで、何だかんだでアリューシアと行動を共にしていたことが多かったため、クルニとは鍛錬以外でほとんど関わりがなかった。

「クルニ、ベリル殿に失礼のないように」

去り際、ヘンブリッツの言葉が耳に入る。

その言葉を受けた本人は「はいっすー!」と元気よく答えながら、更衣室の影へと消えていった。

さて、俺も一旦着替えるかな。

「先生! お待たせっす!」

「いやいや、大して待ってないよ」

やはり男の俺と女のクルニでは、俺の方が着替えるのが早い。

若干の手持無沙汰のまま庁舎の前で待っていると、動きやすい服装に着替えたクルニが駆け足で寄ってきている姿を捉えた。

今日はクルニと街を散策した後、入ったことのない飯屋にでも立ち寄ってみようかなといったところである。折角の首都バルトレーンなのだ、俺も人並みに観光したってバチは当たらんだろう。

「そう言えば先生は、バルトレーンには結構来られるんすか?」

「いや、大昔に何度か来ただけだね。最近はまったくだよ」

言う通り、最後の記憶は随分と昔のものだ。

地元のビデン村に道場があったもんだから、わざわざ馬車で半日かけて首都に足を運ぶ理由もなかったのである。

流石にレベリス王宮くらいは分かるし見目も変わっていないが、それ以外はほとんど記憶にないと言っていい。

ただ、今はもう首都に仮住まいを持つ身となった。

アリューシアから聞いた特別指南役の雇用についても、悪くない金額は頂ける予定になっている。少しくらいは時間と金を使ってみてもいいだろうな。

「じゃあ、西区を中心に回ってみるっす!」

「エスコートは任せるよ。楽しみだね」

都市内を巡回している乗合馬車で、西区を目指す。

歳をとると、こういう何気ない散策でも気晴らしになっていいな。一人で静かに楽しむのも乙なものだが、賑やかな相方が居るとそれはそれで好いものだ。

「西区は主に商業地区になってるっす。色んなお店があるんすよ」

彼女の言葉に相槌を打ちながら、景観に視線を預ける。

うん、好い街だと思う。

レベリス王国の首都バルトレーンは、騎士団庁舎や冒険者ギルドのある中央区を中心に、東西南北で区分けされている。

クルニ曰く西区は商業が盛んなようで、一般的な食料品店や飲食店から雑貨屋、鍛冶屋、魔装具店まで様々な店が入り乱れているらしい。

「南区は農業地域なんで、あんまし見るものはないかもっす。北区にはレベリス王宮があって、東区が主に住宅区っすね。私も東区に住んでるっす」

「なるほど。観光客が多いのはやっぱり西区かい?」

「んー。西もっすけど、一番多いのは北区っすかね。やっぱり王宮は人気っす」

馬車を降りてから西区を練り歩いていると、クルニが色々と説明をしてくれた。

そりゃまあ、言われてみれば王宮なんて国一番の目玉だろうしな。一般の観光客が中に入れるとまでは思えないが、一目見れるだけでも十分ということか。

街並みを眺めるだけで様々な店や人。この街で構築されている活気が目に飛び込んでくる。普段は通らない道を歩きながら、あっちこっちに視線を泳がせるのも中々新鮮なものだ。

なんだかいい歳こいたおのぼりさんみたいだな。

ただ、クルニには失礼かもしれないが、アリューシアやスレナと言った有名人と違ってクルニは極普通の一般騎士である。まだまだ名実ともに発展途上な彼女にわざわざ視線を投げる者も居ない。

そして俺は紛うことなき一般おじさん。

うむ、視線を気にせず歩けるって素敵。

「あ、ベリル先生だ」

「……んん?」

様々な人とすれ違い、時にクルニの注釈を交えて観光に洒落込んでいた矢先。

抑揚のない声が、ふと俺の耳に届いた。

気のせいでなければ、今俺の名を呼ばれたような……?

立ち止まって声の方向に目を向ければ、そこには西区からの帰りであろうローブ姿の女性。艶のある黒髪を肩口まで切り揃え、胡乱とも言えるぼんやりとした視線で俺の顔を覗き見ている。

「ん。やっぱり。久しぶり」

「先生、どしたっすか? 知り合いすか?」

立ち止まった俺の横から、ひょこんと顔を出すクルニ。

黒髪の女性はそんなクルニを気にも留めず、ただじっと俺の顔を見つめていた。

えーっと。

誰?